何処かで鶯が鳴いた。
ほーふけ…けきょ
何だか心許ない鳴き方だった。
「ねえ、なんだかあの子、下手ねえ…。」
隣に座っていたあかねがタオルを俺に差し出しながらくすっと笑った。
ほーふきょ…
「ほんとだ。まるで誰かさんみたいに不器用な鳴き方してる。」
俺は渡されたタオルで汗を拭い、笑いながら耳を澄ます。
ほーほーふきょきょ…
ほとほと不器用な若い鶯なのだろう。
いくらやっても、上手くならない。
「あのね、水を注すようで悪いんだけど、鶯って雄が鳴くんだよ。雌は鳴かないの。」
あかねはしたり顔で、俺に言った。
「鶯はね、雄がああやって求愛するの。だから、あの子は男の子。私じゃないよ。どっちかと言ったら乱馬だよ。」
強調しながらあかねが言う。
…そうだったのか。じゃあ、まんまあの鶯は俺ってわけ?俺だって器用じゃあないもんなあ。確かに、あかねに恋の一つも上手に語ってやれないし…。 きっとあの鶯も、一所懸命、恋を囀ろうとしてるんだな。
俺はなんだか自分があの鶯になったような気分になった。
「あの子の恋、叶うといいね。」
そんな俺の心の内を知ってか知らずかあかねが微笑んだ。
…いつか、ちゃんと耳元で愛の言葉を語ってやるよ。
まだ時期尚早。照れ臭くて語れない。今の俺には…。
ふわっと風が傍を通り抜けてゆく。
あかねの髪をなびかせながら。
ほーほけきょ
一声きれいに囀って、鶯は何処かへ飛んでいった。
季節はいつしか春に移ろう。
傍には愛しいあかね。
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