空から舞い降りてくる雪を眺めておまえは呟く。
…きれいね。…と。
そっと差し出した手に、その白き氷の宝石を受けとめる。
手のぬくもりで、やがてそれは溶け出して水の滴りとなって果てる。
…儚いね。…
おまえはほっと息を吐きながら寂しげに微笑む。
…ねえ、乱馬は雪と雨とどっちが好き?…
急にこちらを振り向くと、そんなことを訊いてきた。
…雪の方がいい。…
俺は気のない素振りで答える。
…そうよね。雨ならすぐさま女の子に変身しちゃうもんね。
雪の方がまだいいよね。…
納得したように彼女は小さく頷く。
…あたしも、男のままでいてくれた方がいい…
微かにそんな声が聴こえたような気がした。
そう、変身体質を引きずる俺にとって「水」は厄介な物。容赦なく変身を促す。
女に変身しちまうと、おまえの頼りない肩を抱けないじゃねえか。
ううん、男のままでもそうやいそれとその柔らかい肌に触れることはできないけれど…。
おまえを守ってやりたいから…。だから…。
このまま男でいたいんだ!
俺はそんな言の葉を心で紡ぎながら、そっとおまえを見詰める。
落ちては果てる儚い結晶を、おまえは飽くことなく仰ぎ続ける。
その横顔が切なくなるほど、きれいで、可愛くて、愛しくて…。
消えては無に帰してゆく淡雪も降り頻れば積もり始める。
白い綿毛を屋根や木々、土に積み上げてゆく。
春はまだ遠い夢物語。
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