◆あかね風邪をひく
一、
冬の朝は寝床から這い出るのがちょっと辛い。
古びた木造の家屋ならなおさらだ。しんしんと冷気が降りてくる。
頭上の目覚まし時計を手探りで止めながら、あかねはふーっと息を吐いた。
いつもなら、布団からすぐにでも跳ね起きて、着替えを済ましロードワークへと朝の光の中に駆け込んで行くのだが、今日は身体を起こす気になれなかった。
「風邪、ひいちゃったかな…」
熱や咳といった具体的な症状はなかったのだが、何となく身体がだるい。微かだが咽喉の奥がいがらっぽくって、唾を飲み込むと少し痛んだ。
「今日は朝稽古、辞めよう!」
あかねはそう決心すると、頭から蒲団を被った。
うつらうつら。
浅い眠りに身を任せていると、いきなり枕元で声がした。
「おいっ、あかねっ!いつまで寝てんだよ。こいつ、朝稽古サボりやがったな!」
居候の乱馬である。
「うーん…。」
あかねが眠りから呼び戻されたのと、掛け蒲団を引っ剥がされたのは同時であった。
「な、なにすんのよーっ。」
あかねは、平手打ちを一発、乱馬に食らわせた。
「いってー!折角、人が親切におこしに来てやったのに、何だよっ。」
乱馬は打たれた頬を押さえながら言った。
「バカっ!レディーの部屋に入って来て、いきなり蒲団を剥ぐなんて、何様のつもりよっ。」
「誰がレディーだ。笑わせんな!寸胴女。」
「なんですってぇー?」
断っておくが、この二人の口喧嘩はここ天道家のありふれた日常風景だ。喧嘩するほど仲がいい…そんな二人だった。
「二人とも、早くしないと朝ご飯食べる時間なくなっちゃうわよ。」
開け放たれたあかねの部屋の扉の向こうで、制服姿のなびきが無表情で言った。
「いっけない〜もうこんな時間っ!乱馬さっさと出てってよね!」
あかねは勢い良くベットから起き上がると大急ぎで身支度を整えた。
階下に降りると既に朝食が食卓に並んでいた。
「あら、あかねちゃん、今日は朝稽古しなかったの?」
エプロン姿のかすみが茶碗にご飯をつぎながら訊いた。
「目覚し掛けそびれて寝坊しちゃった。」
あかねは体調不良を長姉に心配させまいと、そう答えてペロッと舌を出した。
「たくー。俺がサボタージュした日にゃ、頭から水ぶっ掛けて起こすくせによー。」
隣で乱馬がぶうたれる。
「あんたの場合、それくらいしなきゃ起きないじゃない。」
茶碗を受け取りながらあかねが口を尖らせる。
「あんたたち、ホントに好きねえ。でも、さっさと食べないと遅刻するわよ。」
なびきの老婆心。
これも、いつもの朝の風景。
違うといえば、あかねに殆ど食欲がなかったこと。
「おい、、早く食っちわねえと遅刻すっぞ!」
なかなか箸が進まないあかねを見かねて、隣から乱馬が口を挟む。
「ゴメン、今朝、稽古サボっちゃったから、あんまりお腹すいてないの。ご馳走さま。」
あかねは箸を置いた。
「柄になく、ダイエットでもおっぱじめたか?寸胴女がなにやっても無駄だと思うけどな…。」
それには答えず、あかねは立ちあがりザマに乱馬の暴言に肘鉄を一つ食らわせてやった。
食事の後、身支度をそこそこに鞄を持って、あかねと乱馬はいつものように、学校に向かって慌しく天道家を駆け出した。
別に申し合わせた訳ではないが、この二人はいつも一緒に登校している。
「あのさ〜。」
風を切りながら乱馬が話し掛けてきた。
「おめえも、助っ人、頼まれたんだろ?バスケ部の。」
「うん、今日の午後ね。乱馬も出るの?」
「まあな。」
「ふうん…。女子の方?」
「あほっ、男子に決まってるだろ。昼飯、一週間分で折り合いつけたんだ。」
このあたりがいかにも乱馬らしい。
「おめえさあ〜。」
何かを言い掛けて乱馬は言葉を止めた。
「なあに?」
じっとあかねの顔を覗き込んだ乱馬は
「まあ、いいや。」
そう言って塀の上にひょいと乗ってしまった。
「なによ〜気持ち悪いわね…。」
暫らく無言だった乱馬は、
「無理すんなよ。」
そう塀の上から言葉を投げかけた。でも、ちょうど傍らを通り過ぎて行った軽自動車の轟音であかねの耳元には届かなかった。
二、
定時すれすれに、校門を駆け抜け、二人は教室に入った。
二年F組。
同じ学年の同じクラス。席まで隣同士。腐れ縁とでも言うのかもしれない。
授業中、いつになくあかねはぼんやりとしていた。
案外、熱が出始めていたのかもしれない。
今日は、土曜日。
勿論、普段は半ドンだが、今日は午後にバスケットボール部の対外試合がある。
あかねは決まった部活に所属していた訳ではないが、抜群の運動神経の持ち主を周りが放っておく訳がない。いろんな運動部から助っ人を頼まれるのだ。
また、お人好しの彼女は頼まれるとイヤとは言えない性分だった。
(今日一日頑張れば、明日は日曜日。お休みだからなんとかなるわね。)
あかねは黒板を見つめながらそう自分に言い聞かせていた。
今日の試合も、前からの約束事だったから、無下に断わる訳にはいかない。
あかねも隣では、やはり試合に借り出されることが多い、並外れた運動神経の持ち主、早乙女乱馬が堂々と机に突っ伏して惰眠を貪っていた。
冬の日溜りの中で気持ち良さそうに寝息をたてている。
いつもなら授業中、ヤバそうになると、横からあかねが突付いて叩き起こしてやるのだが、今日は起こさなかった。 いや、ぼんやりしていて起こせなかったと言った方がしっくりくるかもしれない。
「こら、早乙女っ、次の問題解いてみろっ!」
手馴れたもので、数学の教師がチョークを乱馬の頭に命中させて怒鳴った。
「いてっ。」
小さな声を上げて乱馬は起き上がった。
チラッと横目であかねを伺うと、彼女は一向にお構いなしでぼんやり頬杖をついていた。
「早く、前へ出て来いっ早乙女乱馬っ!」
先生の檄が大きくなる。
しぶしぶ乱馬は檀上に上がった。が、当然、すらすら解けたものではない。
先生に散々イヤミとお小言と追加の宿題まで戴いてしまった乱馬だった。
「まったくー、ひでぇ目に合ったぜ!…くおら、あかね。何でちゃんと起こすか、ノート見せてくれるかしてくんなかったんだよ。」
終業後、乱馬はあかねに苦情を言った。
「帰ったら、数学の宿題、一緒にやるか、ノート写させてくれよなっ!」
数学教師にこってりイヤミを言われ他人の倍宿題を貰ってしまった乱馬はぶつくさ呟いている。
「授業中、寝ちゃうあんたがいけないんでしょっ!人のせいにしないでよね。」
「いつもは起こして、ノート見せてくれるじゃねえか。」
「あんたねえ、あたしをあてにしてるの?」
「いいだろー、あてにしたって…それくらい。…許婚なんだから。」
語尾は少し小さくなったが乱馬はぶつぶつ言っていた。
「あてにされても迷惑よっ。」
あかねは言い捨てた。
「ちぇっ、少しくらい頼らせてくれたっていいだろ?いつも心配かけるクセに…たく、可愛くネエな。」
乱馬は不機嫌そうにそう言葉にすると、何処かへ行ってしまった。
大方、昼ご飯を調達しに購買部にでも行ったのだろう。
あかねは昼ご飯も食べる気がしなかった。
今日はかすみお姉ちゃんお手製の弁当は持参していなかった。それに、わざわざ購買部に足を運ぶ気にもなれなかったのだ。
半ドンの土曜日の教室はがらんとして誰もいなくなっていた。
何をするわけでもなく、ぼんやりと机に座っていると、トンと目の前で音がした。
顔を上げると親友のゆかと購買部の紙袋があった。
「はい、あかね。」
ゆかが口を開いた。かすかに笑っている。
「何?これ。」
置かれた紙袋を訝しげにあかねが問い返すと、
「お昼ご飯の差し入れだって。」
「えっ?」
「さっき、購買部で会った早乙女君から預かったのよ。」
くくくっとゆかが意味深に笑っている。
「乱馬が?どうして。」
ことの仔細が飲み込めないあかねはゆかに訊き返す。
「さあ、知らないけど、あかねの分だから渡してくれって。」
「……。」
「バスケ部の試合に出るんでしょ?あかね。ちゃんとお昼を食べないと動けないぞって言っとけって。いいな、あかねは。あんな優しい許婚がいて。」
ゆかがまたくくっと笑った。
「ベ、別に…あたしと乱馬は…。」
あかねは紅潮してゆく自分がわかった。
「じゃあね、私も後で応援に行くから、しっかり食べて、試合頑張りなさいよね。」
ゆかはウインクしながらそう言うと、教室から出ていった。
あかねの手元には購買部の袋がしっかりと残されていた。
袋 を開けると、あんまん二つに暖かいウーロン茶の缶。
「乱馬ったら…。」
体調の悪いあかねには手頃な食事だったかもしれない。
缶のあかねは暖かさであかねは心の中まで満たされて行くのを感じていた
三、
バスケトボール部の試合は体育館の中で行われることになっていた。
男子部、女子部、それぞれ隣り合わせのコートで同じ青竜学園が相手だった。
乱馬から差し入れられた昼食を摂った後、あかねは軽くウォーミングアップをしていた。
でも、なんとなく身体に切れがない。
あかねは体調不良を周りに悟られないように、いつもと同じ様に、いやそれ以上に元気に振舞っていた。
周りもあかねの不調など知る由もなかったから、多大な期待を彼女に抱いていたようだ。
いつのまにか体育館は彼女のファンの男子生徒で埋め尽くされていた。
先に、男子部の試合が隣のコートで始まったのか、一斉に体育館が湧き上がった。
振り向いたあかねの視線の先には、躍動する乱馬の姿が映し出される。
流れるようにしなやかで均整のとれた彼の身体は、否応なしに人目を惹きつける。あかねも一瞬、彼の勇姿に目 を奪われてしまっほどだ。
彼に渡ったボールは面白いようにゴールを目指して飛んでゆく。
ピーッ。
笛が鳴って、今度は女子部の試合も始まった。
試合が始まっても、あかねはいつもの調子が出なかった。
思った以上に身体の不調は深刻だったと言っておこう。
動きが鈍く、切れもない。
何よりスタミナが不足しているのか、すぐに息が上がってしまう。
最悪だった。
それでも、責任感の強いあかねは手を抜くことを知らない。持てるだけの体力で、コートの中を駆けずり回っていた。
いつのまにやってきたのか、九能が声を張り上げて応援していた。
「天道あかね〜ボクがついているぞ〜」
と言いながら竹刀を振り回している。
迷惑以外の何物でもない、そんな九能の応援が気にならないほど、あかねは絶不調だった。
そう、あかねは息苦しさと闘いながら身体を動かし続けた。
立ち止まったら最後、そのままコートの中に倒れ伏してしまうのではないかという不安から逃れるために、必死でコートを駆けていたのだ。
九能をはじめとする熱狂的なあかねファンの男子たちはもとより、女子たちも一所懸命にあかねたちを応援していた。
あかねと共にプレイしているバスケ部員たちも、コートの外から応援しているギャラリーたちも、いつもの元気なあかねと何も変わらないように映っていただろう…ただ、一人の例外を除いては。
女子より早く試合が始まった男子たちは、ハーフタイムに入ると、横の女子たちの試合を眺めて休憩を取っていた。
乱馬も、もう一人の許婚の久遠寺右京から手渡されたタオルで汗を拭いながら、女子コートのあかねを目で追っていた。
「あいつ、やっぱり…。」
乱馬だけがあかねの変調に気付いていた。
いつもなら、試合が終わればさっさと引き上げることにしていた乱馬だが、この日は違っていた。
当然の如く、男子部の試合は乱馬が活躍した風林館高校の圧勝だった。
いつの間に加わったのかシャンプーまで応援席に駆けつけていた。
黄色い声を上げながら、右京とシャンプーは乱馬に近寄って来る。
「ごめん、今日は一緒に帰れねぇんだ。先に帰っててくれ。」
珍しく、きっぱりと二人に断りを入れた。
訝しがる右京とシャンプーだったが、いつもと違う気迫を乱馬に感じとり、しぶしぶと承知して大人しく先に引き上げた。
隣の女子部の試合は、あかねの不調からか接戦となっていた。
あかねが本調子なら楽に通っている筈のパスがなかなか通らない。また、あかねにボールが渡っても、シュートミスが目についた。
見た目には普段と変わらなかったあかねだが、乱馬から見れば、正視できないほど乱れていたのだった。
抜きつ、抜かれつの展開に、ギャラリーたちは興奮し、互いの応援にも熱が入る。
乱馬は人垣の遥か後方の片隅で、腕組しながら黙ってあかねを見つめていた。
手にしたボールを振り上げて、あかねはゴール目掛けて無心に腕を突き上げた。
ゴトリ…。
ボールは回転しながらゆっくりとゴールの中に吸い込まれていった。
ピーッ。
そこでホイッスルが鳴った。
かろうじて風林館高校が勝ったのだ。
あかねを取巻くギャラリーたちは一斉にトキの声を上げて勝利を祝った。
体力を使い果たしたあかねには、声援ははるか遠くの夢物語のように遠い世界の端から聞こえてきた。
肩で息をし、汗は滴り落ち、ふらふらの状態だったのだ。
最後の力を振り絞って、その場に立っていたのだった。
四、
「ねえ、打ち上げ、行くでしょ?」
試合後、更衣室でキャプテンがあかねに言った。
不調だったとはいえ今日の試合の功労者に誘いがかけられるのは当然だろう。
「ううん、今日はパスするわ。ありがとう。」
荒い息の下であかねは簡単に断りの言葉を述べた。
試合後、冷えた身体はますます悪化の一途を辿っていたのだ。打ち上げどころではなかった。
「どうしたの?あかね。顔色悪いわね。」
心配そうに同じクラスのバスケ部員が尋ねてくれた。
「昨日、ちょっと夜更かししちゃって寝不足なの。」
とっさに口から出任せを言った。
「…大丈夫。少し、休んでから帰るわ。遅くなるから気にしないで打ち上げ先に行ってちょうだい。ここの戸締りは私がしておくから。」
どこまで行っても、あかねはお人好しで、そして勝気であった。
「そう?じゃあ、お願いね。」
部員達もそれ以上は何も言わず、先に部室を後にした。
ふうっ
重い身体を持ち上げながら、あかねは深い溜息を吐く。
予想以上に症状が進んだのか、身体は完全に火照りきっていた。頭もぼんやりしていて、耳鳴りまでしている。
「早く帰って横になろう…。」
あかねは通学鞄を持つと、ゆっくりと部室の外へ出た。
夕方までにはまだ少し間があったが、風がビュンとあかねのほおを撫で上げる。
部室に鍵をかけ、職員室へ返し、昇降口まで一人で来た。体力の限界はとっくに超えている。
靴を履き替えたところで、ふと傍らに人の気配を感じた。
熱っぽい身体を起こして振り向くと、一人の少年が腕組みしたまま黙ってこちらを見ている…。
「乱馬…。」
待っていてくれたのだろうか…
淡い安心感が自分を包んでいくのを感じたが、あかねはそこでまた無け無しの気力を振り絞るのだった。
…乱馬に自分の弱みを見せたくない…
いつもの勝気さがむくむくと頭をもたげてきた。できるだけ背筋を伸ばし、何でもない風を演じる…本当は立っているのがやっとの疲れ切った身体なのに…。
あかねは黙って校舎を出た。
乱馬も後に続いて校舎を出る。
弱い冬の日差しの中、一定の距離を保ちながら二人のカップルは家路に就いた。
前を行くあかねは、険しい乱馬の気を背中に受けていた。
熱っぽい身体を引きずりながら、あかねは乱馬の気が険しい訳をぼんやりと考えていた。
まだ昼間の数学の授業のことを根に持っているのだろうか…それとも、さっきの無様な試合を怒っているのだろうか…。
ブーーーーンッ!
ふいに後ろから唸り音を上げながらワゴン車が近寄ってきて、勢い込んで二人を追い抜かそうとした。
あかねは、足元が風圧ですくわれてふらついた。
「あぶねぇっ。」
地面に倒れ込みそうになったとき、あかねはふわっと自分の身体が浮くのを感じた。そして、乱馬のほうへ引き寄せられた。
乱馬はとっさにあかねを両手で支えたのだ。
はっと我に返って、あかねが身体を動かして乱馬から離れようとしたとき、乱馬はいきなり腕を掴んで引き戻した。
「やっぱり!」
目の前で乱馬が怒ったように声を荒らげた。
あかねが視線を乱馬の顔に移したとき、一回り大きな手が無造作に額に当てられた。
「いつからだ?」
「えっ?」
「いつから、おかしくなったんだ?」
「……」
乱馬の気迫にあかねは臆してすぐには返答できなかった。
少し間を置いて
「大丈夫よ…平気…。」
自分に言い聞かせるように返答すると、もっと怒鳴られた。
「バカやろうっ。強がるのも大概にしろっ。平気なわけねえだろっ。こんなにオデコが熱いじゃねえかっ。こんな身体引きずって無理しやがってっ!」
乱馬は捲くし立てる。
今まで精一杯、強がっていたあかねは、乱馬の怒鳴り声に張り詰めていた気が一気に緩んだ。そして、そのまま足元が崩れ去り、乱馬の方へ身体ごと倒れ込んだ。
「おっと。」
慌てて、乱馬は倒れ込んできたあかねを抱きとめる。
乱馬の広い胸の中に吸い込まれてゆく。
二人の時が少しだけ静止した。
「お、おいっ、あかねっ!」
突然倒れ込んできたあかねに乱馬は一瞬焦った。
「大丈夫…ちょっと眠いだけだから…。」
薄れてゆく意識の中で、あかねはそっと呟いた。
疲れ果てて、精魂尽き果てていたのだ。そのまま眠りの淵へと落ちていった。…そう、何よりも心からの安堵感が乱馬の鼓動とともに深い眠りへとあかねを誘い込んだのだろう。
「こんなになるまで無理しやがって…ホントにしょうがねぇ奴だな…。」
そのまま、胸の中で眠り込んだ許婚に苦笑しながら乱馬はあかねをそのまま軽々と抱え上げた。
その後、あかねはどうやって家まで帰り着いたのか、記憶はなかった。
乱馬の広い胸の中で揺られながら夢見心地で帰って来たのだろう。
気がつくと、一晩明けていて、自分のベットの上だった。
「もう、あの日は家中大騒ぎだったんだから。」
そう言って、なびきに散々からかわれた。
「あとでちゃんと乱馬くんにお礼を言っときなさいよ。」
とにやにやしながらなびきはあかねに言ってのけた。
あかねの風邪のせいで乱馬はその晩、大変な目に合ってしまったのだが、それはまた次の機会に…
くれぐれも、風邪にはご用心!
完
一之瀬的戯言
こちらはネット上に掲載した、私、一之瀬の乱あ処女作になります。
「らんま一期一会」立ち上げ当初(2000年2月)から隠しページに載せていた短編。栄えある掲載第一作目。
私の本当の乱あ処女作は別にあり、実はこの後に続く話(早春の夜想曲)の元作がそれに当たります。
そもそも私が二次創作にはまったのは、「らんま一期一会」を立ち上げる約一年前頃から、暇にあかしてしこしこ書き出した乱あ小説にあります。それまで、二次創作とは無縁の普通の世界に生きていました。
最初はパソコンに慣れるため、キーボードが早く打てるようになるように、近所の友人とメールでやりとりしながら、お遊びで乱あと別の作品が合体した同人的作文を楽しんでいたのです。
当時の私は、今よりもっと素人丸出しで、かな文字打ちしかできなかったのをかなローマ字打ちへと変更するため苦労に苦労をかさねて入力しておりました。キー操作も何もあったものではなく、一つの作品を書くのに、時間をかなり浪費させていたものです。
何作も作って打つうちに、確実にキーボード操作だけは早くなったような気がします。似非ブラインドタッチ(笑
多分、この年齢の主婦レベルでは、かなり早打ちが出来る方に育ったと思います。キーボードを見ないでも、ある程度打てるようになりましたし…。
これもそれも、二次創作のおかげだなんて、口が裂けても人には言えませんけれども…。
尚、そのとき友人と組んだプロットは「格闘オーケストラシリーズ」として別に展開中。
友人とごそごそ創作するうちに、私は「乱馬とあかねを描いた作文遊び」にはまってしまったのでした…。
今やネット上、質はともかく、数だけはたくさんある乱あ専門の書き手になってしまったのであります。
初期作文なのでまだ技巧的にも稚拙な部分を多々露呈している作品です。
乱あ二次小説、数だけはある一之瀬も、こんな作品から始まったのだ、ということでどうぞ。
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