◇水鏡   二


五、

 その様子はご飯のときも変わらなかった。
 一同、囲炉裏端の大きな部屋で、集って夕食をいただく。
 海からは遠いので、流石に海産物は無かったが、川魚や山菜の珍味、野菜など。なかなか風情に富んだ田舎の御馳走だった。
「草太はあかねさんが気に入っちゃったみたいね。」
 母親はそう問いかける。子供というのは本当に無邪気なものだった。
 あかねの右隣に陣取って、草太はご機嫌だった。
 あかねの左隣には許婚の乱馬。彼は、さっきの突然の抱擁が嘘だったようにシンとしていて、黙ったままご飯を食(は)んでいた。一見、思わぬ邪魔者に機嫌を損ねているようにも見えたのだが。
 あかねは、草太の相手をしながらも、乱馬の気配が気になって仕様がなかった。いつもの悪態を垂れるでもなく、ただ黙々と箸を動かし続ける乱馬。
 なんだか左隣に壁ができたみたいに、二人とも無関心を装っているかのようだった。さっきの抱擁は乱馬の悪ふざけだろう。乱馬の憤然とした無機質な態度に、正直あかねは少しホッとしていた。
(それにしても…。)
 乱馬があんなふうに自分に迫ってきたのは初めてだった。
 もし、あのときなびきがタイミング良く現れていなかったら、彼はどうしたのだろうか…。あのまま悪ふざけを演じつづけたのか、それとも…。
(あたし、どうかしてる。何か乱馬に期待でもしているみたい…。)
 あかねは箸を置いて少し深い溜息を吐いた。
「おねえちゃん、どうしたの?」
 その様子に、草太は不思議そうに顔を覗いた。
「ううん。なんでもないわよ。あ…。草太くん。ゴボウと人参食べていないじゃない?」
「だって、嫌いなんだもん…。」
「打目よ。好き嫌いちしゃあ、強くなれないわよ…。」
 そう言ってあかねは笑った。

 席を立ち際、乱馬がこそっとあかねに白い紙を差し出した。さり気なく、誰にも悟られないように。
 あかねははっとしたが、すぐさまそれを浴衣の裾へとそっと押し込んだ。
(なんだろう…。)
 部屋へ帰ってからそっと取り出して読んで見る。
 『話しがある…皆が寝静まったら玄関へ来い。』
 殴り書きだが、確かに見慣れた乱馬の字体だった。
(相変わらず下手な字…。)
 あかねはくすっと笑ってはみたものの、何故か漠然とした不安に包まれた。
 皆が寝静まったら…そこの部分が引っかかるのだった。
(なんだろう。)
 何か聞かれたら不味い話しでもあるのだろうか。乱馬らしくない…あかねはふっとそんな風に思った。
 
 こういう旅先では、なかなかみんなは寝つかれないもの。あかねは姉たち二人と乱馬の母のどかと同室だった。男部屋と女部屋。それぞれ四人で泊まりこんでいた。
 蒲団をかぶりながら、無駄話に嵩じる。あかねもそうしていたが、長旅からか何時の間にか眠り込んでしまっていた。気がついたのは夜半も更けた時間帯。
 そのまま朝まで眠り込んでしまったような気がしたが、辺りはまだ暗闇に包まれていた。
 あかねは乱馬との約束を思い出して、そっと蒲団から抜け出た。
(寝込んじゃったからなあ…乱馬、もう待ってないだろうなあ…。)
 あかねはトイレに立ったついでに、そっと玄関先へと足を向けた。
 薄い蛍光灯の白んだ灯かりがひとつだけ…。足元を照らすように寂しく揺れていた。
(流石にこんな夜中になったんじゃあ、乱馬もいないか…。)
 あかねはホッと息を吐き出して、部屋へ帰ろうと思った。傍らの置き時計は2時を指している。いくらなんでも起き出すには早過ぎる。それに、何処となく冷気が流れてきて肌寒い。まだ真冬とまではいかないが、夜は深々と冷え始める季節。あかねがくるりと背を向けた途端だった。
 逞しい腕がたおやかに音も無く伸びてきて、あかねをそっと包み込んだ。
(え?…)
 気配は無かった。全く、気がつかなかった。
 乱馬くらいの武道の達人には気配を消すことなど造作もなかったかもしれないが、あかねとて女だてらに一角の武道家。普段の乱馬の気は十分に察知できる能力は持ち合わせている。
 なのに、読み取れなかった。突然現れたその腕に捕まったのだ。
 あかねの頬元でおさげ髪が揺れた。
「遅かったな…。」
 乱馬はどのくらい待ったのか。身体がひんやりと冷たい。
「ちょっと乱馬…。なんのつもり?」
 あかねは乱馬の腕の中でもがいた。有無もなく乱馬の厚い胸板に顔を押し付けられていたからだ。
「わかってるくせに…。」 
 乱馬はあかねの髪の毛をふんわりと掴みながらくすっと笑った。
「悪い冗談なら辞めてよね…。」
 乱馬の抱擁から抜け出そうとあらがいながらあかねが言葉をぶつけた。
「冗談なんかじゃねえって言ったら?」
 あかねのは瞬時に凍りついた。力でねじ伏せられたら、到底叶うものではない。
「バカッ!何考えてるのよ!ことの次第によっちゃあ、人を呼ぶために大声出すわよっ!」
 あかねが胸の中で反論するのを聞くと、乱馬はフイッと腕をあかねから放した。
「ばーか。冗談に決まってんだろ。」
 と、わざとらしく笑って見せた。
 あかねはホッと胸を撫で下ろすと、いつものように悪態を乱馬に解き放つ。
「もうっ!乱馬のバカっ!」
 乱馬はそんなあかねを笑いながら見詰める。
(良かった。普通の乱馬だ。)
 あかねも乱馬を見詰め返して笑った。
「なあ、折角だから、ちょっと表を散歩しねえか?」
 乱馬はさり気なく誘ってきた。
「散歩って…。こんな夜中に?」
「ああ、なんか目が冴えちまってさあ…。夜風にあたってみるのも風情かなあって・・だめか?」
 あかねの警戒心はすっかり弛んでいた。目の前の乱馬は普段と変わりがなかったし、あかねも目が冴えてしまったので、少しくらい散歩もいいかと思ったからだ。
「いいわよ。別に…。」
 と二つ返事をしてしまった。
「じゃあ、決まり…。」
 
 二人は玄関に並べてある雪駄を履いて、玄関の引戸を開けて外へ出た。


六、

 満月が近いのか、夜半の月が頭上から真白に二人を照らし出していた。
 月がある分だけ、空の星は陰を潜めていた。それでも、都会に比べたらきらきらと瞬きするように輝いていた。
 山端にかかる木々は黒くさざめき立ち、辺りはシンと静まり返っていた。
 乱馬は先導するように、あかねより一歩先を歩く。
「ねえ、何処へ行くの?」
 あかねが不審がると
「昼間見た、淵の方へ行ってみようかなあって思っただけだよ。」
 乱馬はあかねをチラッと振り返って答えた。
「淵?こんな時間に?」
 あかねは思わず訊き返していた。太陽がある時間ならともかくも、こんな夜中に。
「いやさあ…夕方あれだけ綺麗だったんだ。夜中はどんなかなって思ったから。」
 乱馬は構わずどんどん先に行く。
「ちょっと、大丈夫?みんな心配しないかなあ…。」
「平気だろ。親父たちだってぐっすり眠ってたし。夜明けまでには帰ればいいさ。」
 乱馬は澄まして答える。
「それとも、なんだ、おまえ夜道が怖いのか?」
 乱馬は悪戯っぽく微笑む。
「怖くはないわよ…いいわ、連れて行って。」
 あかねはちょっとムキになって乱馬を見返しながら答えた。
 
 周りの木々は昼間よりも高く聳え立つように見えて、正直言って心もとない。
 足元も暗くて良く見えないのだった。あかねの歩みがのろくなったとき、乱馬はそっと肩に手を置いてきた。
「しっかり歩けよ…おめえはただでさえ鈍臭せえんだからな。」
「うっさいわね…。」
 一歩一歩踏みしめるように、あかねは歩み続けた。
 乱馬に対するさっきの警戒心もすっかり弛んでいた。
 暗がりの中では乱馬の気配だけで、彼の表情までは窺い知ることができなかった。乱馬はいつもと違った不気味な微笑みをあかねに向けながら歩いていたのであるが…。乱馬の目の光の中に潜む魔物をあかねは感じ取ることができなかった。

イメージイラスト〜魔物乱馬の不気味な微笑み(?)

 月明かりに照らし出されてた鏡ヶ淵は静かに水を称え、そこに横たわっていた。気温が急激に下がってきているのだろうか。もやがかった煙が微かに水面から涌きあがる。
 淵に着いたとき、あかねはそのどす黒い水面に何故か恐怖めいたものを感じた。
 昼間は感じなかった霊気のようなものをふと汲み取ったのだ。
 思わずあかねは身震いした。
 そんなあかねを傍らで見詰めていた乱馬は、また腕をあかねに伸ばしてきた。そしてあかねの首筋に手をそっと触れる。
「乱馬?」
 あかねはその手先の冷たさにぞっとした。まるで生気のない無機質な冷たさだった。
 乱馬は構わずあかねの身体に手をかけてくる。
 あかねは金縛りにでもあったように身動きできずにその場に凍りつく。
 乱馬は虚ろげにあかねを見詰めると、耳元に口を近づけてきた。
「あかねが、あかねの全てが欲しい…。」
「ちょっとまたっ!悪ふざけは止してよ、乱馬。」
 あかねは焦った。
「悪ふざけなんかじゃない…俺は本気だ。」
 乱馬はゆっくりと右手をあかねの肩に掛けてきた。そして真っ直ぐにあかねの瞳を覗き込む。あかねは乱馬の呪縛に捕らえられたように息を飲み込んだ。
 やがて乱馬の左手はあかねの腰へと下がってきた。そして、ますます力を込めてあかねを絡め取ろうと身を乗り出してくる。
「いやっ!」
 あかねは思わず後ろに飛び退いた。近寄る乱馬を思いきり突き飛ばしたのだ。
 乱馬は勢い込んで淵の水の中に足を踏み込んだ。
 ばしゃっ!
 勢い良く水が乱馬の身体に降りかかる。しかし…。そう、乱馬はあろうことか「変身」を遂げなかった。
 水を被ると「女の子」に変身する体質を持っているにも関らずにである。
 乱馬はゆらりと水から出るとあかねの方をじっと見た。あかねは背中に虫唾が走ってゆくのを感じ取った。一歩、二歩と後ろにたじろぐ。
「逃げることないだろ…。」
 乱馬はちろっと出した舌先を右手で拭いながら向き直る。
「あんた、やっぱり乱馬じゃないっ!」
 あかねは思わず叫んでいた。
「何言い出すんだよ。俺は乱馬だぜ。」
「乱馬は…乱馬は、水を浴びると女の子に変身する筈よ…。なのにあんたは変身しないじゃないっ!」
 乱馬の表情に羅刹が浮きあがってくるような気がした。
「それに乱馬は…乱馬はこんなこと、絶対しないっ!」
 そう叫ぶとその場を逃げ出した。
 …あれは乱馬じゃない…。乱馬の顔をした魔物よ!…
 あかねの心で叫びながら逃げる。ここは逃げ遂せなければ乱馬の形をした魔物に何をされるかわからない。あかねの武道家の血がざわめき立ちながら警鐘を鳴らし始める。いつ乱馬と摩り替わったのだろうか…。考える余裕はなかった。
 どのくらい走ったろうか、あかねは恐る恐る振りかえった。
「!!」
 勢い良く走って逃げてきたつもりなのに、まだ鏡ヶ淵の端にいる。それどころかすぐ後ろで乱馬が不気味な笑みを浮かべながらこちらを伺っているではないか。
「逃げたって無駄だ…。おまえはどの道、俺から逃れることはできないぜ…。」
 くくくと笑いながら乱馬が近寄ってくる。そして、あかねの手を捕まえた。そして、身体を離すまじとぴったりとくっつけてくる。
 まるで蜘蛛の巣に掛かった蝶のように、あかねがあがいてもその呪縛から逃れることは叶わなかった。力の差は歴然だった。乱馬は二の腕でしっかりとあかねを絡め取った。
 舌なめずりをしながら乱馬はあかねを見据える。その凍りついたような目の光にあかねは際限ない恐怖を覚えた。
「捕まえたぜ…あかね。もう、離さねえ…。このまま永遠に俺と淵の底で一緒だ…。」
 あかねは恐怖のあまり、声を出すことも忘れていた。力を振り絞って手を振り解こうとあがいたが、しっかりと乱馬に掴まれていて、逃げ出すどころか身動きそのものを封じられてしまった。
「怖くなんかねえよ…。おまえだって、この乱馬という男に惚れているんだろ?永遠に一緒にいられるんだ。感謝して欲しいな…。」
 乱馬の姿をしたそいつは少しずつ場所を移動させながら、淵の方へとあかねを引っぱりはじめていた。このまま、水の中へと引き摺り込むつもりだろう。あかねは抵抗するように、力をこめて踏ん張った。
「まだ、抵抗する気かい?往生際の悪い子だなあ…。」 
 乱馬の姿をしたそいつは楽しげに笑う。
「久しぶりの獲物を逃す程、俺はドジじゃあないんでな。」
 魔物があかねをカッと見詰めると、あかねの動きがぴたりと止まった。身体中を何かに縛られたように、身動きひとつ取れなくなった。
 乱馬の姿をした魔物は、構わずあかねに覆い被さってきた。
 あかねの口を右手でおさえながらそいつはごくんと唾を飲んだ。そして首筋をもう一方の手の人差指でなぞった。
 つーっと、そいつのなぞったところからうっすらと血が滲み出る。
「久しぶりの上物だよ…おまえは…あかね。」
 …ダメ…この得たいの知れない魔物にやられるっ!…
 あかねはぎゅっと目を瞑った。
『乱馬ぁっ!!』
 苦しい息の下から、あかねは、乱馬の名前を呼んだ。

『あかね…あかね…。』
 耳元で本物の乱馬の声が響いたような気がした。空耳だったのか。
 その時、空気の流れが大きく変わるのをあかねは身体に感じ取っていた。

「さあ、行こう…水の底に。」
 乱馬の姿をしたそいつがあかねを抱えたまま、そう耳元で囁いた。

 ごごごごごご…

 淵が慟哭とともに、銀色に水面を揺らし始めた。


七、

 乱馬の姿をした魔物は、あかねを逃さないように両手で抱きかかえると、静かに銀色に輝く淵の上へと滑るように足を進めた。彼が人間でないのは一目瞭然だった。水面の上を音も無く素足で歩くのだ。
 抵抗しようともがくあかねの努力は虚しく、力では叶わず、ただ、彼の成すがままに一緒に淵の中央へと引き摺られてきた。
「震えているの?大丈夫。何も怖がることはないんだ。この下で先に沈んだおまえの大切な男、乱馬の元へとちゃんと送り届けてやるからね。ただ、その前に、おまえの精気を俺に分けてもらうよ。」
 あかねの目を見詰めながら妖しく囁きかける乱馬の姿をした魔物。
「い、いや…。」
 あかねの口から漏れる抗いの言葉。必死で離れようと試みるが魔物の腕と足はしっかりとあかねの五体に絡みつき、身動きだにできない。
 魔物はあかねの浴衣の襟元を少したくし上げると、不敵な笑みを浮かべた。あかねの白い首筋が顕わになる。さっき、指で傷付けたところを魔物の舌が這い出した。
「やめてっ!」
 あかねは叫んだが、魔物は構わずに続ける。
「大丈夫…すぐに楽にしてやるよ…。」
 魔物は囁いて、あかねの首筋にそっと口を当てた。
「あ…。」
 あかねは小さな悲鳴を上げた。食らいつかれたところから、自分の何かが吸い出されてゆくのがわかった。力がだんだん抜けてゆくのを感じた。魔物の口からあかねの清らかな精気が少しずつ吸いあげられる。
 魔物は時々口を離しては、鬱燐となるあかねの表情を愉しげに覗き見る。
 吸われる度に、あかねはだんだん「いい気持ち」に苛まれてゆく己を感じずには居られなかった。このままこうしていれば、水底に沈んだ愛しい乱馬と一つになれる…そんな想いが心に広がるのを感じ始めていた。
「いい表情だよ。あかね。それにおまえの溢れる精気は素晴らしい…。穢れを知らぬ清らかな身体なんだな。この男、乱馬はおまえに心底惚れているのがわかるよ。犯しがたいほど純情な想いに満ち溢れている。おまえもまた、そんな彼を想い慕っているんだな。…清らかな精気…ふふっ、最高の御馳走だよ…。」
 魔物の口から称賛の言葉が漏れる。
「あ…ああ…。」
 魔物に精気を吸い出される度に、あかねは気持ちが乱馬に傾いてゆくのを感じていた。魔物はあかねの表情が恍惚になってゆくのを嬉しそうに眺めた。あかねの身体から抵抗が抜け落ちていった。なすがままに、魔物に身を任せてくる。
「いい子だ。やっと想いを全てこの男に預ける気になったんだな…。最後の精気はおまえのその濡れた唇から直接吸い出してやるよ…。おまえの愛した男のこの口で…。」
 魔物は満足げにあかねを抱きなおすと、唇をそっと近づけた。
 と、その時だった。ヒュンっと小石が飛んできて、魔物の頬を掠めて落ちた。そして、それから降り注ぐ石礫(いしつぶて)の雨。
 
「だ、誰だっ!俺様の邪魔をする奴はっ!」
 
 一瞬の隙が魔物に芽生えた。ほんの一瞬だが、あかねの身体を締め付けていた力が弛んだのだ。
 あかねは我に返った。
 その期を逃すわけはなかった。
 あかねも武道家の血を引く少女。薄れる意識の下からかろうじて這いあがった。そして、必死で離脱を試みたのだ。
 
「おねえちゃんっ!水の下にある、光る玉を取るんだっ!早くっ!!」
 
 草太の声だった。
 どうして彼がここに来たのか…。あかねは考える暇(いとま)もなく、その声に従った。

 バシャンッ!!
 
「おのれ、逃すかっ!!」
 魔物は擦り落ちたあかねの着物を掴もうとしたが、再び飛び来る石礫の飛来に掴み損ねた。
 魔物は石礫を喝して水面に落す。そして飛来してくる方向を見据えた。
 そこには草太とその母が、毅然と佇んでいて、魔物を見据えている。
「おねえちゃんをこれ以上傷付けてたまるものかっ!」
 草太の身体から霊気が燃えあがる。後ろには七尾のシッポが見え隠れする。
「己、この森に住む妖弧の親子だったか。」
 「草太を助けてくれた恩人に報いるは我が一族の条理。みすみすおまえに獲物を取らせる訳にはいかぬっ!」
 その後ろには母親がやはり美しい七尾を揺らめかせながら立ちすくむ。
「ええいっ!我に逆らうとはいい度胸をしておるな…だったら容赦はせぬっ!」
 乱馬のなりのまま、魔物は凄い勢いで狐親子に襲いかかっていった。



つづく



(c)Copyright 2000-2011 Ichinose Keiko All rights reserved.
全ての画像、文献の無断転出転載は禁止いたします。