◆PINK ROSE


 挙式前の控え室。
 そわそわどきどき落ちつかない。
 今日から始まる新しい私と乱馬の世界…。期待と不安が入り混じる。

 彼のプロポーズを受けてからどのくらいたったろう…。
 十六の時に出会ってから今日まで四年近くの月日が流れた。不器用を絵に描いたような二人…。
 高校を出てから、二年近くもほったらかされて…。
「きっとおまえの元へ帰ってくるから…待ってろ。」って言ったきり二年も戻ってこなかった薄情者。
 私の為に生死を賭けて闘ってくれる頼もしい人…。でも、いつだって心配ばかりかける人…。
 あなたを待つ間にまたのびた髪…。
「髪の毛なんで伸ばしてんだ・・?出会った頃と同じじゃねえかっ!」
 って、久しぶりに会ったとき笑った。
「バカ…。そんなに伸びちゃうくらい、私を一人にしていたのは誰よっ!私ずっと待ってたんだからね…。」
 そう叫んで、あなたの一回り大きくなった胸に顔をうずめて泣いた私。
 戸惑いながらも、私の伸びた髪を触りながらそっと呟いた言葉。
「ごめん…。ずっと待っててくれたのか…。おまえは誰にも渡さねえ…これからは、未来永劫離さないで愛し続けてやるから俺の傍に居ろ…ずっと…。」
 命令口調のプロポーズなんて…乱馬らしい。
 戻って来てからのあなたは怖いくらい私に対して優しくて。だからかえってまた何処かへふと居なくなってしまうのではないかって不安で…。
 それは今も同じ。
 
 大きな鏡の向こうに写る、花嫁衣装の私。不安げな表情を浮かべてる。
 さっき支度を手伝ってくれたかすみおねえちゃんが
「大丈夫よ…笑顔でいなさい。」
って微笑んでくれた。挙式前後の花嫁は得も云われぬ不安に捕らわれることが良くあるのだという。
「マリッジブルーって云うのよ。大丈夫、私もそうだったけど、ちゃんと乱馬くんが傍に居てくれるから、ね?」 
 そう言って笑ったお姉ちゃん。
 乱馬だから不安なんじゃない…。東風先生と訳が違うのよ。あいつ、相変わらずモテるし、優柔不断なところは今でもそう変わってない。挙式を決めてからも、シャンプーや小太刀、うっちゃんに追い回されて…。完全な男に戻ったから、九能先輩に言い寄られることはなくなったみたいだけど。
 また、乱入者がいっぱいで、高校生の頃みたいに祝言がメチャクチャにならないかしら。余計なことばかりが巡ってしまう。これもマリッジブルーなの?

 鏡の向こうの夢のような姿にそぐわないような大きな溜息を吐いたとき、そっとノックの音がして乱馬がふいっと入って来た。
 ドアが開くと、燕尾服の乱馬。
「・・・馬子にも衣装か?」
なんてこと言ってきた。
「あんただって似たようなものじゃないっ!」 
 そう切り出してヘソを曲げたら返って来る言葉。 
「可愛くねえな…その言い草っ!」
「なによっ!どうせ私は可愛くないわよっ!」
って言い返えしたら、
「やっとあかねらしくなったなっ!」
と言って笑った。
 バカっ!人の気も知らないで。旋毛を曲げかけたら、無言でピンクの薔薇をそっと差し出した。
 乱馬の顔、ほのかに赤らんで、はに噛むようにじっと見詰める。
 えって見返したら、バツが悪そうにそっと囁く。
「ピンクの薔薇の花言葉って知ってるか?」
「薔薇の花言葉は色によっても、蕾みか咲いてるかによってもちがうからね。…赤い薔薇なら情熱ってところなんだけどな…」
「やっぱりあかねも女の子だなあ…。」
 乱馬がしみじみと言った。
「で、乱馬は知ってるの?ピンクの薔薇の花言葉。」
 興味深げに乱馬が手にした薔薇を眺めると
「愛の誓い。」
 ぶっきらぼうにそう言って顔を染める乱馬。
「それって…」
 私が目を見開いて訊き返そうすると
「これ以上、俺に言わせるなっ!ばーかっ」
 そう言って乱馬は私に薔薇を差し出すと、慌てて背を向け、出ていった。

 ずっと塞いでいた心が一気に開かれたような気がした。
 私の手には乱馬がくれた一輪の見事なピンクの薔薇。

 …ホントに不器用なんだから…

 くすっと笑って私はほのかに香る薔薇の花にそっと接吻をした。


一之瀬的戯言
花言葉
ピンクの薔薇はこの他にもいろいろ花言葉があるようです。(あまりいい意味じゃないのもあります)
挙式前の緊張感は経験者じゃないとちょっとわからないかも…。
旦那さまが控え室に来ると、やっぱり嬉しいものですね。(懐かしい…

私自身は神式で挙式しましたが、中学から通っていた学校がプロテスタント系だった関係か、友人は結構、チャペルで挙式していました。
それをイメージしつつ、描いてみました。


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