バカップル 万歳!!


 やっと寒さも峠が越えて、穏やかな春への装いに変わる街。
 通り過ぎる人々の服装も足取りも軽やかな午後。

 私はここへ設置されて半年程のプリクラ機械。
 連続して何枚かの写真が撮れるタイプ。浮き沈み激しい、ゲーム機械の中の一つ。私も何度か生まれ代わってきた。その間、何人、人々の顔を撮ったのだろうか。
 上得意様はやっぱり今を時めく女子高生たち。青春を謳歌している彼女たちはいつも賑やかで楽しそうにドヤドヤとやってきては、きゃぴきゃぴとかしましく写真を撮ってゆく。
 年端の行かない幼児も、お母さんにねだって撮って行くし、勿論小学生の少女たちも。
 だいたい八割方は女の子たち。男の一人とか男同士っていうのはあんまりない。そういう光景はこちらからも願い下げかも。
 女子高生たちに次いで多いのは「カップル」。これも様々で、中高生たちのように、軽い乗りで撮ってゆくカップルも居れば、アツアツムードで、いい加減にしろと突っ込みたくなるようなポーズを平気で撮って行く若者たちもいる。そんなこと親に知られたら嘆かれるわよ、なんて思うのは余計なお節介なのかもしれないけれど。
 熟年の妖しげなカップルも来る。もしかして「不倫?」と意味深な流し目を投げかけながらも、私はシャッターを切り続ける。
 ずっとこの片隅に立っていても、いろいろな人々が入ってくるから飽きない。

 今日も、ほら来た。
 向こうから来るのは、楽しそうなカップル。
 商店街のゲームセンターの片隅に佇む、私を軽く指差して頷く。
 思ったとおり、彼らは私の方へと歩み寄る。

 少女と少年。
 私が見たところ高校生のペアだわね。どこかあどけなさが残る。手と手だって繋いでいない。
 見かけたことがない顔。
 初めてのお客さんはどうしてもじろじろと詮索してしまう。私の悪いくせ。でも、これが楽しみなんだもの。
 女の子の方はショートヘヤー。ちょっと春らしく桜色のワンピースでおしゃれしている。胸元が少しだけ開いて、イミテーションだろうけど、パールのネックレスとイヤリングが良く似合っている。清楚な感じのお嬢さんだ。
 男の子の方は、ちょっと変わった井手達。チャイナ服なんか着ている。髪の毛も長髪でおさげが揺れている。いい体格しているから、もしかすると武道か何かをやっているのかもしれない。男性もいろいろ撮って来たから私にはわかる。鍛え抜かれた骨格が服の下に隠れているってことが。

 この子たちは果たして恋人同士か、それとも…。

「なあ、これが、その「プリクラ」って奴か?」
 中へ入るなり、興味津々私のほうをじろりと一瞥。もしかして、プリクラ自体が始めてなのかしら?この少年。
「そうよ。」
 少女はそう言いながら、ハンドバックからお財布を取り出す。
「乱馬、初めてだよね?」
 と笑っている。確かに、この手の少年は、プリクラになんて縁がないだろうと私も一人頷く。いいわね、彼女に連れて来てもらったのね。
「おめえは何度か撮ったことあるのかよ?」
 なんて聴いている。
「あるわよ。ゆかやさゆりたちとこの前も一緒に撮ったわ。」
「おめえ、まさか、こんな所によく来るなんてこと。」
 ここはゲーセンだものね。ちょっとしかめっ面した彼氏。大丈夫よ、この子見たの、今日が初めてだもの、と私は笑いかける。
「まさか、ここの機械じゃないわよ。でもね、中学生の頃なんかは、卒業間近になると、撮りに行っては写真を交換なんかしたわねえ。」
「ふうん…。無駄なことを。」
「何よその、無駄なことって。プリクラを寄せ書き用のアルバムに貼って交換するのよ。卒業記念にね。小中学生の女の子の間じゃ、常識よ。」
 じろっと一瞥。
「なるほどね。」
「ま、いいわ。この機械って何枚か違うポーズが撮れるのよ。ま、一度試してみなさいって。楽しいわよ。」
 少女は小銭を取り出すと、投函して見せた。

『いらっしゃいませ。お金が入れ終わりましたら、確認を押して次の画面に行ってください。』

 私は通り一遍等の音声案内をしてみせる。プログラミングされたお決まりの文句。

「うわっ!!機械が喋ってやがる!!」
 少年は声を張り上げた。
「ち、ちょっと、そんな恥かしい大声上げないでよ!びっくりするじゃないっ!」
 少女は驚いたよう。私も驚いたんだから。
「だってよう…。へえ、精巧にできてるんだな。」
「ほら、そろそろ一枚目のシャッターが切れるわよ。」
「おーっ!これがカメラレンズかあ…!!」
 思いっきり身を乗り出してきた。

「ちょっと、何興奮してるのよーっ!!」

 パシャリ!
 はい、一枚目。



「あーん、もう、あんたのせいでポーズ取ってる暇なかったじゃないのぅっ!!」
 怒る少女とは裏腹に、この少年はちゃっかりとピースしていた。反射神経がいいのね。
「いいじゃんかよう!別におめえなんか、ポーズ取ったって、へちゃむくれの顔しかしてねえーし。すましてみたところで、良くなる訳じゃねーし!」
 何とまあ、口の悪い少年だろう。これじゃ彼女怒っちゃうぞ!
 そう思って、レンズを見開いたら、案の定。

「バカーッ!!」

 物凄い肘鉄が上から振り下ろされていった。

 パシャリッ!
 はい、二枚目はその決定的な瞬間。




彼女が思い切り彼に肘を食らわせている写真。でも、シャッター音が耳に入った途端、彼女、目線が少しこちらへ向いていたわ。うふふ。楽しくなってきたわ。
 
「いってー!こんにゃろー!いきなり何しやがるっ!!」
 這いずりあがった彼が睨んでる。頭を抑えながら涙目。
 結構きっちりと頭部を打ち下ろしたものね。この少女もなかなかやるわね。
「何よっ!あんたが悪いんでしょう?」
「寸胴女が何を言うっ!!」

 あららら…。喧嘩おっぱじめちゃったわ。
 いろんなお客さま相手にしてきたけれど、ここまでヒートしたカップルってのは初めてよ。
 この子たちったら、カメラレンズが向けられていること、すっかり忘れちゃってるんじゃないかしら。

 パシャリッ!
 三枚目のシャッター音。きっと耳に入ってないわね。



 こっちまでわくわくしてるわ。
 この手のカップルって必要以上にベタベタしまくって、こっちがこっぱずかしくなるようなショットで撮って悦に入るのが普通なんだけれど。
 幼いというか、本当に仲がいいというか。きっと自然体でつきあってるんでしょうね。
 こののりは、夫婦喧嘩ね。

「誰が寸胴よっ!女男ーっ!」
「何だよ、その女男っつーのは!」
「文字通りよっ!この変態っ!」
「あんだとお?やるか?」
 腕まくりまでしちゃって。

 あらまあ、とうとうとっつかみ合いになっちゃった。

「くおらっ!ほっぺたつかむなっ!」
「るさいっ!そっちこそ、謝んなさいなっ!」

 きょう日、小学生だってそんなど派手な喧嘩、やんないわよ。お二人さん。

 パシャッ!
 シャッター音と共に、いつもより大きな声でアナウンス。大サービス。
『次がラストっ!!』
 その声に驚いてこっちを向く二人。





 そらそら、最後の一枚くらい決めなさいよ。
 機械らしくないお節介。

「やだ、もう最後なの?」
 焦る少女に少年が言った。
「あかねっ!ほれ、何でも良いから、笑えっ!笑ったらおめえ、可愛いんだからよっ!」

 おっ、やっと本音が零れたかしらん?

「乱馬?」
 少女が見上げる。
「ほら、カメラはあっちだっ!!行くぞっ!」

 サン、ニッ、イチッ!

「はいっ!チーズッ!」

 
 
 最高の笑顔っ!
 やっぱりこの二人も「バカップル」。楽しそうな二人。

 ラストはHAPPY!





作画  瑞穂さま
文 一之瀬けいこ
(2003.3.4)



お絵描き掲示板のログから作文させていただきました。
プリクラ機械視点のようですが、実は一之瀬視点であることは内緒

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