◆鎖骨談義


「男性の魅力ってどこに感じる?」
 ファッション雑誌を読んでいたなびきが唐突に言った。
「そうね…。力強い筋肉だとか、幅広い背中だとか。私はちょっと変わってておとぼけがある人がいいなって思うわね…。」
 かすみがのほほんと答えた。
「お姉ちゃん、それって自分の好みになってるわよ…。」
 なびきが言った。
「男性の魅力といえばやっぱり強いことかしら。精神的にも肉体的にも強い人がいいわね。」
 のどかがお茶をすすりながら答えた。
「なびきちゃんは?」
 かすみの問いかけになびきはあっさりと言った。
「そりゃあ、一にも二にも財力よね。これがないと問題にならないわよ…。」
 流石に金銭欲に長けた次女の口にしそうなことだ。
「それって魅力なのかね?」
 玄馬が横から割り込んでくる。
「耳が痛いね、早乙女くん。」
 早雲も輪に加わる。

「あかねはどう?」
 なびきが振ってきた。
「さあ…。どこかな…。」
「例えばさあ、あかねは乱馬くんの何処に魅力を感じるわけ?」
 なびきが好奇心丸出しの目であかねを捕らえる。
「ら…乱馬なんて、魅力の欠片も…。」
 そう言いかけてあかえんは止めた。目の前にのどかがにこやかに笑っていたからだ。流石に乱馬の悪態を母親の前でずけずけ言えるほどあかねはデリカシーがないわけではなかった。
「あかねちゃんから見て、乱馬はどうなの?おばさま聴いてみたいわ…。」
 ときた。
「え…。あ…あの…。」
 案の定あかねは言葉に詰まってしまった。のどかが居てはソウ軽々しく答えられないだろう。
「あかねから見れば、頭の先から足の先まで、全部が魅力的なんじゃないの?乱馬くんって運動神経は良いし、身体だって素敵よね。ま、ちょっと自意識過剰なのが気になるけど…。」
 なびきがそう言ったのを受けてあかねは言い放った。
「だったら、なびきお姉ちゃんが乱馬の許婚になったら?」
「バカなこと言わないでよね。あたしの第一条件は「財力」なんだから。乱馬くん、それはゼロよ。ゼロっ!」
 なびきはゼロを強調して言った。
「なびきちゃん…。あんまりあからさまに言ったら乱馬くんが気の毒よ。そりゃあ彼は財力ないし、金銭感覚も長けてるとは思わないし、他には何もないほど武道一筋だけど…。」
「お姉ちゃん、それってフォローになってないって…。それに…。」
 なびきはあかねをチラッと見据えた。
「乱馬くんだって、今更許婚交代させられたら迷惑だろうし…。ね?おばさま…。」
「そうね、あの子、あかねちゃんにゾッコンみたいだものね…。」
 
 縁側の向こうでは乱馬が木の人形を相手に、打ち込みを続けていた。
 激しく打ちこまれる拳の突き。確かに身体は精悍で魅力に溢れてる。

「ホントに乱馬くんっていい身体してるわよね…。だから、女に変身しても引き締まったボディーでいられるんでしょうけど…。」
 なびきが乱馬の動きを目で追いながら言った。
「そうそう…男の人の魅力って「鎖骨」にあるかもしれないわね…。」
 のどかが突然言い出した。
「そうですね…、おばさま。私もそう思いますわ…。鎖骨が美しい人ってなんだかとってもセクシーですもの…。」
 かすみものほほんと同調する。
「そう言えば、東風先生もきれいな鎖骨してたわよね…。」
 なびきがポツンと言った。
「そうか?じゃあ、わしや早乙女くんも魅力的かもしれないな…。」
「中年男の鎖骨もなかなかですぞい…。」
 がははははと早雲と玄馬が笑った。二人とも道着を着込んでいる関係で、鎖骨ががっしりと見えている。
「鎖骨なら、九能先輩だって剣道で鍛えてるからきれいかもね…。」
 あかねが言った。
「確かにね…。あれで、喋らなかったら、阿呆が露見しないでいいんだけどね…。財力だってあるし…。」
 となびきが言った。
「武道で鍛えている人間は、得てして鎖骨がきれいじゃからのう…。ほれ、良牙くんやムースだってそうじゃろ?」
 玄馬が言った。
「鍛えている分、骨も太いし、周りの筋肉がしまってるから…。」

 そうなびきが言ったとき、乱馬が木の棒を叩き割った。どさっと地面に倒れる丸太棒。
 彼は昂ぶっていた気を納めて、一息つくと、汗を拭いに茶の間の縁側へと歩み寄る。
 全員の目が一斉に乱馬の胸元へ注がれる。

「な、何だよ…。」
 己に注がれる視線を受けて、乱馬は一瞬立ち止まる。
 鎖骨に汗がたまってきらめいていた。
 
 確かにセクシーだ…。あかねはそんなことを思った自分に思わず赤面して俯いた。
「あかね…。何想像して照れてるのよ…。」
 なびきがすかさずに言った。
「べ、別に照れてなんかないわよ…。」
「お…。乱馬の鎖骨に魅了されたかのう?」
 玄馬が笑った。
 あかねは反論もできずにただ、黙って俯いているだけだった。

「どら早乙女くん、わしらも鎖骨を鍛えるとしようかね…。」
「そうだね…。まだまだ錆付かせるわけにもいかんからのう…。ははは…。」
 早雲と玄馬は席を立った。
「あたしもさっさと宿題仕上げなきゃ…。」
 なびきが立ち上がった。
「夕飯のお買い物と下準備にかかりましょうか?おばさま…。」
 お茶盆を持ってかすみとのどかも退散していった。

「何だ?」
 後に残ったのは、赤面したままのあかねと怪訝な顔をしている乱馬…。
「あかね…。そこのタオル取ってくれよ…。おい、あかね?」
 乱馬は外からあかねに唸った。
「え?あ…。何って?」
「だから・・タオル取ってくれって…。」
 あかねははっとしてうろたえた。言われるままに畳の上にたたんであった。タオルを取ると、乱馬に差し出さず、彼の身体から滴る汗を拭っていた。そう、無意識に。
「こ、こらっ!あかねっ!いいよ…。自分でやっから…。」
 焦ったのは乱馬。あかねの差し出すタオルはやけにくすぐったい。思わず身体をよじった。と…。
「え?あ…。きゃっ!」
 急に乱馬に動かれて、縁側の端からバランスを崩したあかねが倒れそうになった。

 落ちたと思った瞬間、あかねは目の前に乱馬の鎖骨があるのを見て取った。逞しくてきれいな鎖骨。
「たく…。あぶねえじゃねーか…。バカ…。」
見上げると乱馬が苦笑しているのが目に入った。しっかりと乱馬が受け止めてくれていた。
「ごめんね…。」
 ふっと感じた乱馬の汗に身体がビクッと反応する。

「あーあ…。見せ付けてくれちゃって…。ホントに仲がいいんだから…。」
 雑誌を取りにきたなびきが背後から声をかけた。
 ただでさえ純情な二人。ぎしっと身体がうなり声をあげた。
 乱馬はあかねをお嬢様抱きしたまま、その場にずっと固まってしまった。あかねもそのまま動けずに乱馬の腕の中…。
「ごゆっくり…。邪魔者は退散するわ…。」

 赤い夕日が二人を包み込む。
 乱馬の顔も、あかねの顔も、全部真っ赤に染めながら…。
 

イラスト…エロさま
これ見て妄想へ入った人。
なんて乱×あ文章書いてるんだろ…。
あかねちゃんが羨ましい(なんで?
怒んないでね…エロさん(汗


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