三、
二匹の美しいメスが、互いをけん制しあいながらにらみ合う、穏やかな午後の海の底。
どっちが俺との生殖権があるかを決める闘いへと臨む。
生き物の生殖を懸けた熱い闘いって奴だ。
さて、オスの俺。
黙って好みのメス、あかねが傷つけられようとしているのを見ているようなボンクラじゃねえ。
シャンプーの率いるアマゾネスたちは、いつの間にか、俺たちを囲うように、うようよと海中を漂っていた。
ざっと勘定したところ百匹はくだらねえだろう。
俺があかねを選らんでも、シャンプーを選んでも、多分こいつらはあかねへと襲い掛かる筈だ。奴らの触手の下の刺胞がそう物語っている。
林立したイソギンチャクのメスの群れ。あんまり美しい光景じゃねえな。
俺は自分の刺胞を、気取られないようにシャンプーへ向けた。オスの刺胞はメスよりも立派だ。こいつを大ボスのシャンプーへ返事と同時に突き立てる。
この場を逃れる方法は、多分それしかない。この群れのヘッドでもあるシャンプーを一撃で倒し、群れの統制をなくして蹴散らかすしかな。
メスに手をかけるのは、本当は御免蒙りたいんだが、そうも言ってられねえだろう。この場合はよう。
今の俺にとっては、あかねを守ることの方が大切だった。
「じゃあ、改めて乱馬の選ぶメスの名前を訊くね。」
シャンプーは余裕でゆらゆらと触手を揺らめかせていた。もしあかねを選んだら容赦はしない、そう言いたげだった。
へっ!俺がおまえを選んでも、容赦なく群れをたきつけてあかねを痛めつけるつもりなんだろう?
「じゃあ、行くぜ。俺が選ぶのは…。」
声を張り上げた時だった。
「ほーっほっほっほっほっほ。」
漂う海上から、張り裂けんばかりの甲高い笑い声が響き渡る。
ん?この笑い声。
……聞き覚えがあるぜ。
「誰か?」
シャンプーがきっと見据えた先に、また新たなメスが一匹。
「乱馬様が選ぶのは、わたくしでございますわ。」
そう言いながら、これまた見事な真っ黒い触手をうごめかしながら上からすうっと降り立ってきた。
「げ、小太刀。」
俺は思わず叫んでいた。
黒色ベースの肌の中に、妖しくラメのように光る紅い文様。確かに、見覚えがある。
「まあ、愛しの乱馬さま。わたくしのことを覚えていて下さったのですね。わたくし、それだけで大感激でございますわ。」
そう、俺は忘れてしまいたくってしょうがねえんだ。てめえみてえな危険なメス。
ぞわぞわと触手から体中へ虫唾(むしず)が走った。
こいつは小太刀。俺が生まれ育った海底からそう遠くない場所を縄張りにしている「九能イソギンチャク」らたいう一族の娘だ。
こいつ、めちゃくちゃ性格が悪くって、いつも女王様気取り。
んで、刺胞に仕込んであるこいつの「毒」ってーのが、相当で、傍に立っただけでもびんびんと肌にきやがるんだ。
餌を狩る時だって容赦はねえ。じわっと猛毒を相手に吸わせて、麻痺したら、しゃぶりつくように足やヒレから喰らうんだぜ。
生きたまま、なぶるように足から溶かしていくんだ。どうせなら一気に刺胞で突き立てて餌を昇天させてやった方が親切ってもんだろ?なのにこいつはじわじわと獲物を痛めつけながら喰らうんだ。
断末魔の叫びを聞きながら喰らうのが最上のご馳走の食べ方だなんて笑いながら言いやがる。根性も腐ってやがる。
何を血迷ったのか、このメス。色気付いてきたら、執拗に俺にアタックをかけてきやがった。「わたくしの乱馬様」だなんて言いやがってよう。いつだったか、餌に浴びせる毒水を俺に吐き出して、痺れかけたところを無理やり生殖しようと襲い掛かってきやがったんだぜ。
何とか命からがらに俺は毒を振り切って逃げたんだけどよう。
たく、やってられっか!
俺が生まれた在所を飛び出して旅立ったのも、こいつの近くには暮らせねーって、めちゃくちゃ真剣に思ったことも一つの理由に挙げられるんだ。勿論、広い海原の世界を見てみたいって思ったことが、放浪の一番の理由ではあるんだがな。
「わたくしは乱馬様を追いかけて、海の中を何十里とやってまいりましたのよ。さあ、乱馬様。そんな下賎なメスはやめにして、わたくしと、いざ、愛し合いましょう。昔のように。」
たく、何、寝ぼけてやがる。そんな言い草されたら、昔、てめえと何かあったみたいじゃねえか!
う…。その言葉を聞いて、あかねがぎろりとこっちを見やがった。
何だあ?その非難めいた顔つきは。
こっちを一瞥したら、思いっきり「ふん!」と首を横へ向けやがった。可愛くねえぞ、その態度っ!
「何言うか。乱馬は私の婿殿ね。…。このメスを先にやっつけるね、おまえたち。」
シャンプーはアマゾネスたちを焚きつた。
「ほーほっほっほっほっほ。雑魚が何匹立ちはだかろうと、わたくしはびくともしませんことよ。そうれっ!!」
うわった…。小太刀め。刺胞を翳して、思いっきり体内から毒を吐き出しやがった。
小太刀へと襲い掛かったアマゾネス目掛けて、黒い霧のような液体が染み渡る。
幸い、海流の方向がこちらへは向かっていなかったので、あかねも俺も、その毒水の禍からは逃れらた。だが、まともに喰らってしまったアマゾネスたちは、案の定、ヒクヒクとなって、海中を漂って行く。
「姑息な手を使うね。」
シャンプーはきっと小太刀を見据えた。こいつは一瞬、その毒から身を交わしたようだ。なかなか強えや。
「わたくしの乱馬さまを惑わせた罰ですわ。」
やっぱ、危ねーメスだぜ。小太刀って奴はよう。
「勿論、お二人とも、無事ではまいりませんことよ。わたくしの乱馬様を惑わした代償は高いんですの。身体の芯の隋まで罰を受けていただきますわ。」
小太刀は己の身体全体が毒みてえなメスだ。「猛毒の小太刀」なんて通称もあるくれえだからな。これはやべえぞ。第一、あかねは動けねーんだから。小太刀の毒にやられたら、致命傷になりかねねえ。
よっし。
心を決めた俺は、すうっと胃腔へ向かって息を吸い入れた。そして、一気に吐き出す。
どぴゅーっ!
その反動で俺はその場から一目散に逃げた。
「わりい、俺、おまえたちの誰とも生殖しようなんて思ってねーんだ。またなーっ!!」
「あ、待つねっ!」
「乱馬様あーっ!お待ちになってえっ!!」
シャンプーも小太刀も俺に向かって追いすがってくる。
しめたっ!このままこっから一旦、遠く離れて行けば。
あかねの傍からとにかく、奴らを引き離すんだ。
そう。あかねから二人を引き離しにかかるのが一番だ。逃げて逃げて逃げ遂せて、それで、またあかねの元へ戻れば良い。
短絡的な作戦だろうが、とにかく、あかねをこんなチンケな戦いに巻き込むわけにはいかねえ。
あかねの恨めしそうな視線は遠ざかりながらも俺を突き刺してきたが、俺は構わず逃げた。この場は逃げ。それ一手。
幸いもうすぐ日没だ。陽が暮れてしまえば、闇に乗じて逃げ遂せる。
さっき小太刀が蹴散らかした、アマゾネスたちも、ふっと正気に戻ったのか、シャンプーが離れるのを見つけると、大慌てでこっちへと一緒に動いてくるのが見えた。
たく、活きがいい、うざってえ連中だぜ。
とにかく俺は逃げ惑ったさ。右往左往、あまりあかねから遠くへ離れないように。
小太刀もシャンプーも尽くしつこかった。
そんなにオスに飢えてたのか?それとも、俺との生殖を強く望んだのか?
日没が迫る頃、俺はとあるイソギンチャクの群生地へと紛れ込んだ。ここいらは岩場で、そこここに同じようなイソギンチャクが張り付いてゆらゆらと触手を伸ばしている。
「ごめんようっ!」
俺は彼らのすれすれを、ひょひょいのひょいっと泳ぎながら逃げ惑う。そろそろ陽の光も朽ちてきたようで、だんだん辺りが暗くなる。イソギンチャクの群れの中に一緒に過ごすクマノミたちが何事かと背びれをうごかすのを、器用に避けながら進んでゆく。
しめたっ!あの岩陰でやり過ごそう。
俺はイソギンチャクの親子が仲良く触手を広げている岩の後ろ側に飛び込んだ。そして、触手をすぼめて俺の身体の色と同じ茶けた岩肌に同化する。息を潜め、気配も消した。
「乱馬ーっ!!」
「乱馬様ーっ!!」
奴らの怒号はだんだんと遠ざかってゆく。
しめしめ、やっとまけたぜ。
俺は小一時間、念のためそこへ身を潜めた。それから辺りをうかがって、彼女たちの気配が完全に消えたのを確認すると、その岩場を抜け出した。
途中、何匹かのメスにナンパされたが、勿論、素気無くお断り。
俺ってそんなに生殖してみたい男なんだろうか。
おっと。んなことをやってる場合じゃねえ。
まだ、俺たちは繁殖期の真っ只中。また、どっかのオスがあかねに求愛しに紛れこんでくるかもしれねえ。それに、動けないあかねを一人にもしておけねえ。
どうやって俺があかねのところへ帰ったかって?
ふふ、俺たち動物の「帰巣本能」を舐めちゃいけねえぜ。何日間でも彼女の傍に根を下ろしたからな。だいたいわかるんだ。
俺は海底が良く見えるくれえのところをすいすいと泳ぎながら彼女の方へと泳いでいった。
と、途中でのことだ。
何かモゾモゾと海底を動き回ってる不気味な影を見つけた。
俺の野性の勘が「何か嫌な物」の気配を嗅ぎ付けた。
身の危険を感じた俺は、咄嗟に岩陰へと隠れた。
シャリシャリ、ゴリゴリ。
そいつらは、岩肌を舐めるように動き回りながら進んでいる。
大きな星型の手を伸ばし、蠢き回るそいつら。その周りには、おびただしい「生き物の残骸」。
あちこちで轟く悲鳴と叫び声。
「オニヒトデ!」
一瞬でわかったさ。
ここいらのイソギンチャクたちは根を下ろして長いんだろう。すぐさま逃げることができずに、オニヒトデの大群に襲われているのが遠巻きに見えた。俺の居るところからは結構距離があったので、まあ平気だろう。
奴らはそこいらじゅうに生え添えているイソギンチャクや珊瑚たちを容赦なくもしゃもしゃと食い尽くしてやがる。
その勢いはかなり凄い。俺だってこんなオニヒトデの大群におめにかかったことはねえや。
どっから紛れ込んできやがったんだろう。
おっとこうしちゃいられねえ。
あかねが根を下ろしているところから、ここまではそんなに距離がねえんだ。奴ら海流の流れに沿って、あかねの居る方向へと足を向けながら食べつくしてやがる。
あかねの居るもっと先には、別のイソギンチャクの大きな楽園があるんだが、奴らきっとそこを目指しているに違いねえ。
となると、あかねの居るところをあいつらは、通る!
あかねは動けねえ。隠れようにも隠れられねえんだ。
あいつは綺麗なイソギンチャクだ。ただでさえ目立つ。それをこの貪欲なオニヒトデたちが見逃すわけがあるまい?
俺はオニヒトデの群れからそっと離れると、一目散にあかねの待つ方へと取って返した。
とにかく、あかねの奴を何としてでも引き剥がして逃げるしかあるめえ。
息せき切ってあかねのところへたどり着く頃は、月明かりが海面へと差しかけてきていた。まだ、オニヒトデたちの影も形もねえが、夜明けごろにはここまで突き進んでくるだろう。
四、
あかねは一人、波間に揺れていた。
近くまで辿り着くと、俺はそっとあかねの様子を伺ってみた。
月の明かりがきらきらと彼女の肢体を美しく照らし出す。やっぱ、かわいいよな。
寂しげにあかねは触手を上に伸ばして、物思いに沈んでいるようだった。
「よお。待ったか。」
おれはにっと笑うと、開口一番、そう声をかけた。
あかねの身体がぱっと明るくなったように思ったのは月明かりのせいだろうか。
でも、あかねは俺の姿を認めると、いつものようにツンと横を向きやがった。
「帰って来なくってもいいのに…。」
ぼそぼそっと声が聞こえた。
嘘付けっ!だったら何できらっと涙水、身体から流してるんだよ。
「たく…。素直じゃねーな。」
俺はたっとあかねの傍に降り立った。
ここを離れるまでは、もっと後ろの方に陣取っていたんだが、これみよがしに隣に降り立った。
ゆらゆらとあかねの触手が俺の近くで揺れた。あかねは抵抗することなく、俺に方へとじっと視線を流した。
俺はその時、悟っちまったんだ。
あかねの奴、薄い期待を抱きつつ、俺の帰りを待ってくれてたんだってな。綺麗な身体が月明かりに洗われて、ますます光り輝いてた。
おっと、こうしちゃいられねーんだっけ!
うかうかしてたら、オニヒトデの群れが来ちまう。
思いっきり触手を伸ばして、あかねを抱いてやりたい気持ちをぐっと堪えて、俺はあかねに言った。
「おめえ、動けねえんだろ?」
一応確かめたってわけだ。
こくんとあかねの身体が揺れた。
やっぱりな。このボートの金具がおまえの身体を固定しちまってるんだな。
俺はぐいっと金具を引っ張り始めた。
「乱馬、何してるの?」
いきなり金具に喰らい付いたんで、あかねが不思議そうに俺を見た。
「いいか、あかね。この先にオニヒトデの群が居るんだ。夜明け前には奴らはここを通るだろう。」
あかねの頬が一瞬強張った。オニヒトデが通る。それだけでも恐怖だったろう。
「そんな顔すんな。絶対俺が助けてやる。」
俺は話しかける暇も惜しんで、あかねに絡んでいる金具を取ろうと懸命に触手を動かし始めた。
俺たちみたいな軟かい触手だって、結構力が強いんだぜ。
全身の力をみなぎらせて、絡み付いている金具を外そうと懸命になった。
どのくらい時間が経ったろうか。俺の奮闘のおかげで、少しずつだが金具はあかねの身体から外れ始めている。
あとちょっとで金具が外れる。
希望が見え始めたときだった。
微かに海水に漂い始める隠微な気配。ぞわぞわと大挙して何かがゆっくりとこちらへ近づく音。
奴らが来る!
俺は懸命に触手を動かし続けて作業する。
奴らの動きは予想よりも大分早い。
背後で何かが蠢く気配を俺だけではなくあかねも感じ取っていた。
「乱馬、もういい。あんただけでも遠くへ逃げて。」
あかねが凛と言い放った。
「気弱なことは言うなっ!俺は絶対助けるって言ったら助けるんだっ!」
触手の先から体液がにじみ始める。俺は痛みなど感じる暇もなく、金具と格闘していた。
ぞわぞわと微かだが音も流れ始めて来た。
畜生!ここまで来て諦めるもんか!!
「乱馬。もういい。あんたまで食べられちゃうっ!!」
あかねの触手が俺をここから引き離そうと動いた。
「バカッ!俺は命なんて惜しくはねえっ!あかねっ、俺は決めてんだ。おまえと添い遂げるってな。だから命懸けたってかまわねえっ!黙って見てろっ!」
俺の熱い気にあかねは黙った。
とにかく、もうちょっとだ。絶対外す。
俺は懸命に動いた。
そして、奴らの姿が見え始めたとき、金具がごぼっと砂地から抜けた。
「しめたっ!」
俺はあかねの身体をがっと抱え込んだ。
「ありがとう。」
「礼は後だ。このまま逃げるぞっ!!」
俺はあかねを触手で絡めると、身体にせったり負った。
ガザガザと不気味な音をたてて近づいて来たオニヒトデが、一斉に俺たち目掛けて飛び掛ってきやがる。
俺たちは奴らに見つかったってわけだ。
あれだけ珊瑚とイソギンチャクを食い尽くしてもなお、奴らの食欲は旺盛だった。我先にと俺たち目掛けて襲ってきやがる。
けっ!つかまってたまるかっ!
あかねを抱えての逃避行だ。
俺は必死で泳いだね。触手をフルに動かして、一目散に。
だが、オニヒトデの一匹が、俺の頭上から飛び掛ってきた。
真っ黒な影が通り過ぎる。
捕まったか、と腹をくくったときだった。
奴が大きく蠢いた。
「うぎゃーっ!!」
奴の悲鳴がすぐ傍でした。
見上げるとあかねが刺胞が奴の身体を見事に貫いていた。
食うか食われるか。その瀬戸際で、あかねは覆い被さったオニヒトデに刺胞の一撃を浴びせかけたのだ。
見事なカウンターパンチ。
「ナイスっ!あかねっ!」
俺は色めきだったね。そして続けざまに叫んだ。
「行くぞっ!振り落とされないようにしっかりつかまっとけよっ!」
「うんっ!!」
オニヒトデの奴らは、あかねの刺胞に二の足を踏んだのだろう。少しだけ隙ができたのを、俺は見逃さなかった。
「でやーっ!!」
俺もあかねも刺胞を突き上げながら突進していった。
絶対に逃げ切ってあかねと円満な家庭を作るんだっ!
二匹のイソギンチャクが絡み合うように海中を猛スピードで泳ぐ場面。想像するだけで痛快だろ?
俺たちは逃げた。
逃げて逃げて逃げまくった。
あかねはずっと俺の背中に触手を伸ばしてしがみついていた。
その重さが適度に嬉しかった。こいつと運命共同体だって、逃げながら自然に笑みがこぼれた。
どのくらい海中を逃げ惑っただろうか。
ふと気がつけば、朝日がきらきらと海中へ差し込んでくる。
目の前には俺たちが身を下ろすのに丁度良い岩礁。餌になる小魚たちもいっぱい泳いでいる。
他に縄張りにしていそうなイソギンチャクが居ないのを確認すると、俺はそっとあかねをそこへ下ろした。
あかねはにっこりと俺の方を向いて微笑んでくれた。
やっと、心からの笑顔、俺に見せてくれたなあ。
勿論俺も、最高の笑顔をかえしてやったさ。
あん?イソギンチャクに顔なんぞあるのかって?
まあ、細けえことはいいじゃねーか。
それから俺は触手をいっぱいに広げて、あかねの身体をゆっくりと抱擁していった。
あかねは何戸惑うことなく、しっかりと俺の傍に足盤を下ろした。俺たちが一つになった瞬間だった。
あれから何年の年月が流れただろう。
俺たちが足盤を下ろした時は、真っ黒な岩肌ばかりだったこの岩礁も、今ではすっかり色とりどりのイソギンチャクたちで埋まっていた。勿論、俺とあかねの子孫たちだ。
後で気がついたことなんだが、この辺りは「ホラガイ」の繁殖地でもあったのだ。ホラガイって言えば、オニヒトデの天敵だからな。だから、俺たちは二度とオニヒトデたちには襲われることはなかった。
俺たち二人はどんな嵐の中でも決して離れることなく、しっかりとこの岩礁の上に立っている。
そう、ここは俺たちの楽園(エデン)。
俺は立ち続ける。
きっと今も、そしてこの先もずっと。あかねと一緒に。
完
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