第六部 漂泊編

第二十七話 阿多の兄弟



一、


 瀬戸内の波が穏やかに船の航行を進めている。
 甲板越しに受ける潮風は思ったよりも心地良い。波飛沫が上がるたびに、少しずつ、愛しい君へと近づいているような心地良い揺れだ。
 茜郎女はぼんやりと、青く浮かぶ島々を見ていた。
 もうそろそろ、常陸国を出てひと月以上にも渡ろうか。
 海路を西へ来たのは始めての経験だったので、当初は船の揺れにも悩まされ続けた。気分も相当悪くなったし、甲板へ横たわり、ただ、じっと己の体調と戦い続けた。乗り物など、馬くらいしか揺られたことがないあかねにはかなりきつい旅であった。

「さすがの男勝り娘も形無しだなあ…。」

 もし、父がこの場に居たなら、そんな言葉を吐きつけていたに違いない。
 三日が過ぎ、一週間、十日も過ぎる頃には、身体も慣れてしまったようだ。あれだけ、気分が悪かったのが嘘のように馴染んでいた。
 一緒に常陸の国を出てきた良牙も、最初の頃は、甲板で嘔吐を繰り返していたが、彼もようやく慣れた様子だ。
 この船には良牙が共に乗ってくれている。常陸の国で、あかねの父、早雲と約束した如く、ずっとあかねの傍へ侍り、道行を共にし、守ってくれていたのだ。
 勿論、あかねの西行きに関しては、姉のなびきが常陸の国の責任者でもあった九能家に手を回してくれていた。あかねの立場は一応、巫女、もしくは采女の候補だった。皇祖母尊かその近郊の皇族女性の近くへ仕える立場になる予定である。
 できるだけ乱馬の近くに置いてもらえるように、大海人皇子の近郊に五行博士として仕える、東風の妻として降嫁していた長姉の霞郎女に書状も持っていた。その辺り、すぐ上の姉の靡郎女は抜かりなく用意してくれていたのである。
 ある程度、宮中で仕えたら、乱馬と夫婦になって縁を結ぶ。誰もが疑って止まなかったことだ。

 船団は常陸の国から出て、途中、不死の山を望み、紀伊水道から難波津へと入った。その間、少しずつ、各地方から船団へと船が加わり、最初は三艘ほどだった船団が、難波に到着する頃には十数隻になっていた。各地方から集められた兵士や巫女候補、雑兵や雑仕女たちが合流していく。
 難波津で何人かが乗り降りしたが、ここからは都の飛鳥へ一旦集められた、織物や米、日持ちのする農作物などもたくさん積み込まれた。

「茜郎女殿は、お元気な方だなあ…。もう慣れたのか?」
 なかなか船酔いが収まらない、良牙があかねを見て力なく笑った。
「良牙様は船が苦手のご様子ですね。」
 あかねは笑顔を手向ける。
「船がこんなにもきつい乗り物だとは思いもよらなかったですからね…。ああ、気分が悪い。」
 良牙は真っ青な顔をあかねに手向けた。これでは、どっちが守られているかわからない。そんな風であった。


 船は難波津を再び出発し、明石海峡を越え、西へとひた走る。

 
「ここいらの海も大海人皇子様の舎人、ほら、何と言ったかな…。早乙女乱馬様とかいう武人が、邇磨の海賊を抑えてくださって後は、本当に通りやすくなり申したわ。」
 難波津から船の進行を指揮する船長がそんなことを言っていた。
「早乙女乱馬…。」
 その名前を聞いて、良牙がはっとする。
「何でも、邇磨の海賊を相撲勝負で薙ぎ倒したと言う豪傑だそうでな…。邇磨の海賊と言えば、この辺りの海を暴れ回っていた恐ろしい輩だったのに、その頭目、玄馬をすっかり虜にしてしまった益荒男だと評判だ!」
「けっ!あの野郎がそんな英雄になっちまったのかよう!くそう、俺もあの時、一緒に旅立っておけば、よかったな。」
 良牙が歯軋りして悔しがる。
「おめえさん、その乱馬様とかいう武人を知ってるのかい?」
「知るも知らぬも…。同族でいっ!一緒に子供の頃から常陸の国の野や山を走りまわっていたさ。」
 と良牙がふんぞり返った。
「ふうん…。でも、乱馬様は船酔いなどせぬと伺っただぞ!」
「う…。うっせえやいっ!俺は船が苦手なんでいっ!人には得手、不得手があらあっ!!」
 そんな会話を聴きながら、あかねなりに、乱馬へと想いを馳せていた。
「今回はできるだけ長雨になる前に、安芸か伊予辺りまで到達したいからな…。邇磨には立ち寄らぬぞ。」
 そうだ。季節はそろそろ梅雨になる。
 雨が続くと海も荒れる。ある程度それは仕方のないことであった。だから、梅雨の長雨が本格化する前に、少しでも西へ航行しておきたい。そう思うのも当然なことだろう。

 本格的に暑くなる前には、乱馬の居る筑紫の国へ到着できる。
 少なくとも、あかねも良牙もそう思っていた。

「あの船は?」
 あかねは、西から航行してくる船団を見つけて、興味深げに聞いてきた。はためく帆に黒や赤で記された珍しい三角や丸の幾何学模様が見えたからである。

「ああ、あれは、火の国辺りから来た船でしょう。」
 船長は気さくに応じた。
「火の国?」
 あかねの目が丸く輝いて聞き返してきた。好奇心旺盛な目だ。
「球磨国や日向国のことですよ。」

 球磨国は現在の熊本県辺りをさす。一方で、日向国といえば宮崎県をあらわす言葉と思われがちだが、七〇二年以前は、現在の鹿児島県でもある薩摩国と大隈国も含んで、こう呼んでいた。つまり、古代、日向国とは九州南部をさしていたのだ。
 七〇一年に制定された「大宝律令」によって、日向国は、薩摩、大隈、日向の三つに分かれたのである。この三つの国分けにも大和朝廷の九州南部支配への思惑が絡んでいたらしい。
 また、「クマ」も「朝廷に従わない蛮族」という意味合いが込められた言葉だったらしい。九州の「熊襲」然り、南紀の「熊野」然りである。

「クマやヒムカ?」
 聞き慣れぬ国名に、良牙とあかね、二人とも顔を見合わせた。
「筑紫の国よりもずっと南方に火の山が噴出している南方の国です。その一族の船があのような帆を使うんですよ。」
「へえ…。」
「でもよう…。そんな南国の船が何でこんな瀬戸内なんかを走ってるんだ?」
 良牙が辟易した船酔いの顔を手向けながら、問い返した。
「大方、朝貢へでも行くのでしょう…。」
「朝貢って…。今の朝廷は筑紫の国にその中枢が殆ど移動しちまってるんじゃあねえのかよう。」
「何も物を運ぶだけが朝貢じゃありませんよ。この船だって元々は駿河国で作られたものですぜ…。空船を走らせて、あなた方のような兵士などの人々の往来を助けているんでしょうよ…。此度の百済遠征の事で邇磨辺りの船などは出ずっぱりだと言いますからなあ…。」
「ほお…。空の船をねえ…。」

 すぐ先を悠々と反対方向へ通っていく個性的な船団。

「あれらは、邇磨辺りへ向かうようですな。」
 船長が言った。
「邇磨…。」
 乱馬の活躍した地名にはっとしてあかねが口ごもる。
「ええ…。丁度、鬼門の方向になりますかねえ…。女木島をはじめとした塩飽諸島がありますから。あの船はそっちへ向かって走っていくようですなあ…。邇磨の海賊、玄馬様のところにでも用事があるのかもしれませんな…。」
「邇磨の海賊のところに南海の船かあ…。」
 良牙もあかねも、じっと甲板から、変わった船の様子を眺めながら見送った。


 すれ違った船の上から、そんなあかねたちの船団を鋭く見送るいくつかの目があった。

「珊璞よ。」
「何あるか?おばば様。」
「あの船団の中に、標的となる女が乗っておる。」
 そう言ってにっと笑った。
「どの船に乗ってるね…。」
「ふふふ…。まあ、それは任せておけ。すぐにも判明するだろうよ。」
「で、いつ実行するね…。」
「次に雨が吹き付ける夜が良かろう。そうさな…。空の流れを読むに、明後日くらいになろうかのう…。」
「そんなに待って、あの船団を見失わないあるか?」
「それは大丈夫じゃ。今度雨になったら、連中もかなりの日数、足止めを喰らうことは確かじゃ。そうさなあ…。このままだと燧灘(ひうちなだ)を抜けた辺りの島で足止めになろうて…。」
「本当あるか?」
「ふふふ…。長年この倭国へ忍んで居たワシの目には狂いはないぞ。そこら辺の五行博士の天候占いよりも当たる筈だ。」
「信頼してるね…。それより、乱馬の許婚、夫婦の契りを約束した娘、茜郎女というのは本当なのか?」
 珊璞の目が厳しく光った。
「ああ。間違いはないぞ。最初にあやつと対峙した時は、そうれ、何と申したか、常陸の国の九能氏の御曹司との嫁取り勝負じゃったからな…。」
「ふうん…。乱馬にはそんな良き女が居たのか。」
 少し不機嫌な面で珊璞は応じた。
「ああ…。じゃから、おまえの誘惑にも無関心じゃったのじゃ。ふぉっふぉっふぉ。今時、純情な青年ではないか。」

「私は気に食わないね…。」

 珊璞の顔が曇った。
 自身でいくら真剣に惹きつけようと、女の色香を出して頑張ったが、彼は見向きもしなかった。それどころか、一度、手痛い目にも合わされている。
 その根源に、他の女が居るとなると、面白くないのも当然であろう。

「ふん。純情だから良いのじゃよ…。それを逆手に利用してやれば良いこと。……どんな手を使ってでも、彼との間に子を成したいのであろう?珊璞は。」
 その問い掛けに珊璞の顔が大きく頷いた。
「まあ、ワシに任せておけ。くくく…。」



 こそこそと話す彼女たちに、水夫が声をかけてきた。少し小太りの男だった。

「そろそろ邇磨に着くぞ!」
「おお、そうか…。それは良かった。」
「婆さん、本当に邇磨で下ろしてよいのか?そちらの娘御も…。」
「ああ、ここで充分じゃ。楽な旅であったわ。これで、暫くゆっくりと、故郷の吉備(きび)で羽を伸ばせるというものじゃよ…。」
 そう言いながらこそっと水夫に袖の下を握らせる。勿論、言っているのは口から出任せだ。この二人の故郷は唐。吉備の国のわけがない。
「こ、これは…。」
 水夫の瞳が輝き始める。
「何、筑紫の国の大和人に取り入って、しこたま儲けさせてもらったからのう…。それに、駄賃を払わぬというのも具合が悪かろう?このくらいが妥当かと思ってな。」
 そう言いながらにっと笑った。
「純金製…。しかも唐製の装飾品かあ…。へへへ…。ありがたく頂戴しとくわ。婆さん。」
 水夫は刺青の入った顔を二人へと手向けた。
「また、縁があったら会おう…。」
 上機嫌で船着場へ付くと、可崘と珊璞を先に下ろした。
 二人はトンっと地面に降り立つと、お辞儀をしてそこから立ち去った。

「なあ、穂織(ほおり)。」
 後ろから男の声がした。
「何だ?穂照(ほでり)兄者。」
 穂照と呼ばれた男はふと視線を上にした。
 共に、頑強な体つきに、日に焼けた肌。そして、顔や腕に南方独特の赤と黒の刺青をしていた。
「今の女たち…。」
 船から下りていく二人連れを見ながら、男たちは話し始める。
「ああ、娜の大津で乗せた女たちか?結構あの若い方の女、美しかったな…。」
 にっと穂照は笑った。
「いや…。そういうことじゃなくって。…少しおかしいとは思わなかったか?兄者は。」
「何がだ?」
「故郷が吉備だと言う割には、そっちの言葉じゃなかったろう?」
「そうかあ?」
「ああ、あの娘の物の言い方などは、帰化人のそれに近かったではないか。」
「あれねえ…。吉備辺りに住む渡来人の子女のようなことを婆さんが言ってたろうが。」
「まあな…。だが、娘より婆さんのほうが言葉は巧みだったな…。普通、若い方が、言葉を覚えるのも早いのに、不思議だぜ。」
「よく観察してるなあ。穂織は。」
 感心したように、穂照は弟を見た。
「観察ついでにもう一つ。確か船は初めてだとも言っていたが…。」
「ああ、言っていたな。」
「その割には船酔いを殆どしなかったな…。あの二人は。」
 穂織は、事細やかに分析してみせる。珊璞と可崘のことが引っかかったようだ。
「確かに…。船酔いなぞ、微塵もしていなかったな…。初めてなら、もっと、激しく嘔吐しそうなもんだが…。」
「とんだ食わせ物かもしれぬぞ、あいつら。」
「疑り深いなあ。穂織は。奴ら、もう降りちまったし、それに、ほら、こんな宝物を気前良く駄賃だと言って置いていったんだからよう。いいじゃないか!結果往来で。」
「たく、兄者は気楽だなあ。」
「たまには、こういう美味しい仕事もしなくっちゃなあ…。さて、俺たちも上がろうぜ。邇磨の玄馬殿とかいう男のところへ行かなくっちゃな。お頭がそろそろ痺れ切らしちまうぜ。」
 と穂照は穂織を促した。
「何で俺たちが、こうやって邇磨まで足を運んだか、忘れるところだったぜ。っと。」
 穂織が笑った。
「あの大層、大和嫌いだった玄馬殿が、大和寄りへ転換した理由をきちんと聞かなければならない、とお頭直々の言だもんな。」

「準備は整ったか?ぼやぼやするな!早く、来い!穂照っ!穂織っ!」
 甲板からお頭の声がする。

「うへっ!言ってる傍からお頭が呼んでらあ。」
「とっとと行こうぜ、兄者。」
 穂照と穂織は、そそくさと船を降りた。



二、

「久しぶりじゃのう…。岩麻呂よ。」
 可崘婆さんはにっと笑って、邇磨の片隅にある、洞穴へと足を踏み入れた。そう、三月末に乱馬とやりあったあの洞窟だった。今もそこは健在であった。

「婆さんよう…。何の用で俺をこんなところまで呼び出しやがった。たく…。今日は、日向から客人が来たってんで、邇磨の里中、大騒ぎになってるっていうのによう!」
 岩麻呂はあからさまに不機嫌だった。
 ご馳走を食べそびれてしまうではないかと、小さな声で言い放った。この男にとっては、今や食べることと飲むことが最大の関心事になっている様子である。

「まあ、そう言うな…。またおまえさんの手を借りようと思ってな…。」
 可崘婆さんはにっと笑った。

「じ、冗談じゃねえっ!貴様らに関わって後、俺様にはいいことなんて、これっぽっちもねえんだ!いや、そればかりか、沐絲の奴のせいで、玄馬様の信用は失墜してしまった。今、この邇磨の次の長の座は直人に持っていかれそうなんだぞ!」
 真っ赤になって怒鳴り散らした。
 乱馬との勝負のことを思い出すと、悔しさが滲み出てくるのだろう。

「ふふふ…欲求不満が相当溜まっていると見受けるな。おぬし。」
「大きなお世話だ!女だって誰も見向きもしなくなっちまったんだから!」
「ならば、極上の女をおまえにやろうか?」
 可崘の目が妖しく光った。
「女?極上の?」
 岩麻呂の視線がふっと珊璞の方を向いて止った。

「あの娘か?」

 可崘は笑いながら首を振った。

「いや、あの娘ではない。が、同等良い女じゃ。」

「何処に居る?」
 根から助平なのだろう。岩麻呂はきょろきょろと辺りを見回した。
「今、ここにはおらぬよ…。これからおまえさんに手引きしてもらってさらって来ようと思っておるのじゃ。」
 可崘の目がまた妖しく光った。
「ちぇっ!んなことだと思ったぜ。結局は俺をアゴでこき使うために、そんな口から出任せを言ってるだけだろうさ…。」
 そう言うと岩麻呂はゴロンと身を地面へと投げ出した。
「ふっふっふ…。極上の女というのはなあ…。あの乱馬の妹背になる女でもあるんじゃぞ。」

 その言葉を聞いて、岩麻呂の大きな鼻がピクンと動いた。

「乱馬の妹背だあ?そんな者が居たのか…。あいつ。」
 目を可崘の方へ手向けながら岩麻呂が面倒くさそうに言った。
「正確には、まだ妹背ではない…。約を交わしたという女じゃ。その上、皇祖母尊の巫女候補でもある。」
「皇祖母尊の巫女?額田王とかいう美人のようなか…。」
 興味が出たのだろう、岩麻呂はひょっこりと身体を起した。
「そのくらい美しい姫だそうじゃ…。どうだ?ワシらも彼女には用があるでな…。これからさらいに行こうと思っておる。」
「唐国の道士の貴様らが、そんな女に何の用だ?」
「まあ、ちょっとな…。その用が終わったらその女、おまえにくれてやろうと言うのだ。悪い話ではなかろう?」
「その女をか?…。本当か…?」
 疑り深い瞳を、岩麻呂は婆さんに投げかけた。
「でも、女を貰ってもよう…。玄馬様が許してくれるかどうか…。玄馬様は早乙女乱馬を気に入っておられるからのう…。乱馬の妹背を寝取ったと知られれば、俺の首が危なくなるじゃねえか。」
 と独り言のように、ぶつぶつと吐き出す。
「ふふふ、何も正妻に迎えろと言ってはおらぬわ。この辺りは島が多かろう。どこかの島へ隠しておけば、永遠におまえの物に出来るのではあるまいかのう…。」
「島に隠す…?」
「おうさ。島に隠して囲ってしまうのじゃ。そして、人目を忍んで船を漕ぎ出してそこへ通えば、玄馬様にもばれぬじゃろう?」
「なるほどな…。」
 少しずつ、岩麻呂は婆さんの口に心が傾きはじめた。
「でも、そんな島あるか?俺たち邇磨の男はどんな小島にも目は光らせて異常があったら知らせるんだぜ?」
「例えば、普段は人が近寄らぬ「斎島」などはどうかのう…。あそこなら、容易に人は近づかんぞ。」
「斎島ねえ…。確かに、不用意に近づかないな…。」
「そこだと、祭祀をする建物もあろうが…。」
「ふむ…。確かに斎島には祭祀のための建物くらいはあるな…。そこへ女を囲ってしまって、俺がこっそりと邇磨を抜けて通えば良いのか。」
「ああ、島へ通うのは難がなかろう?その島にその娘を幽閉してしまえば、睦み放題だぞえ?悪い話ではなかろう?」
「睦み放題か…。」
 にやっと岩麻呂が笑った。話に積極的に乗ってきたらしい。何より乱馬と妹背の約を交わした女と言うのに、興味が湧いたようだった。己を負かした男の女を横取りする。それが叶えば、憎い奴に仕返しもなるだろう。
 乱馬が愛した女をこの手に抱いてみたい。
 欲情が燃え上がるのに時間は要らなかった。

「よっし、その話、騙されたと思って乗ってやろう…。」

「決まりじゃな…。」
 にんまりと可崘が笑った。





 一方、岩麻呂が可崘と対峙していた頃、邇磨に降り立ったもう日向の国の男たちが、玄馬のへと対峙していた。



「久しぶりじゃのう…。玄馬よ。」
 にっと大男が笑った。
「おうさ…。わざわざここまで、おまえが船を操って出てくるとはのう…。狗留須猛(くるすたける)。」
 玄馬が対した、彼の名は狗留須猛。そう、麻底良布山で乱馬と対峙した、あの大男である。彼の後ろには、水夫たちが控えて座っていた。その中に、穂照、穂織兄弟の姿もあった。
 どうやら、玄馬と狗留須猛は旧知の、それも親しい間柄のようだった。
 どちらも、見劣りしない巨漢である。がっしりした体格に鋭い視線。一筋縄ではいかない武人だということがわかる。
 玄馬は嬉しそうに、猛を己の居城へと招き入れた。


「猛よ、何しにここ、邇磨までやって来た?」
 玄馬は眼光をたぎらせながら、あらためて猛を見た。
 彼らの前には、幾許かの酒と肴が並べてあった。酒を酌み交わせるほどに、この二人の親交の深さが窺い知れた。
「何しに来たのかはわかっておるのではないのか?玄馬よ。」
 にっと笑いながら、酒の入った高坏を持って、猛が答えた。
「玄馬、おまえ…。大和朝廷側へ傾いたそうだな。」
 そう切り出した。
「日向辺りにまで、その風潮は伝わってきてるぞ。玄馬よ。」
 ずいっと身を迫り出すように猛は話を続ける。
「大和嫌いの貴様が、何の心境の変化かと思ってな…。わざわざ、確かめに来てやったのよ。」
 真摯な瞳が玄馬を威嚇するように見詰めた。
「大和嫌いは今も変わってはおらぬわ!」
 玄馬は吐きつけるように言った。
「ならば、何故大和へ就いた?大和を喜ばせた後に裏切ろうとでもいう魂胆かよ?玄馬よ。」
 猛がぎょろっと視線を流した。
「馬鹿!そんなまどろっこしいこともせぬわ!これでも、俺は武人だからな。」
「ふふふ。そうだろうなあ。おまえは卑怯なことが出来る性格ではないからな。ならば、何故、大和側へ就いた?聞くところに寄ると、大和の武人にしこたまやられたとかいう噂も小耳に挟んだが。」

「まあ、やられたと言えばやられたかもしれぬな…。」
 玄馬は杯を飲み干しながら言った。

「邇磨の玄馬も落ちぶれたものだのう…。」
 猛が杯を手に、声を挟んだ。
 それを聞いて、玄馬の傍に侍っていた、吉備津直人が身を迫り出しかけた。
 待てと言わんばかりに、玄馬は直人を制した。そして、そのまま、じっと猛を見返し、強く切り出した。
「おまえは、何か誤解をしているようじゃのう…。」
 ゆっくりと話し始めた。
「ワシは大和朝廷へ折れたのではないわ。」
「ほお…。大和朝廷へ従属したたわけではないとでも言いたいのか。」
 猛がわざと馬鹿にしたように言葉を吐きつけた。暗に、玄馬をたきつけようとしている様子が伺われる。
「だから、ワシは何も大和朝廷と手を組んだのではないわ。ワシは、とある武人に従属を誓っただけじゃ。」
 玄馬はゆっくりと吐き出した。
「ほう…。面妖な。大和朝廷へではなく、大和の一介の武人に忠誠を誓ったと言うのか、玄馬殿は。」
「ああ、そうじゃ。」
 玄馬はこくりと頭を垂れた。
「惚れ抜かれた骨のある武人が大和に居たとでも。直接対峙されたのか?玄馬殿は。」
「おや、ワシ自らがやりあったわけではないがな…。この直人も、こやつ同等に猛々しい邇磨一と謳われた奴も、彼には敵わなかった。」
 玄馬は傍の直人に目を移した。
「そんなに強かったのか?そいつは…。」
 真摯な目で、問いかけた猛に、直人は黙って頷いた。

「へっ!邇磨の武人も落ちぶれたのう…。たかだか大和の武人にやられてへつらうとは。」
 どこからともなく、声が飛んだ。どうやら、穂照(ほでり)が放った言葉のようだった。
「兄者!失礼だよ。」
 穂織(ほおり)が、慌てて兄の暴言をたしなめようとする。
 お頭の猛が横から、二人を睨み据えた。黙っておれと言わんばかりにだ。
 二人はお頭の逆鱗に触れては敵わぬと、首をひゅっと引っ込めたきり、黙ってしまった。

 狗留須は玄馬へと再び視線を手向けた。

「では、一つ聴こう。忠誠を誓ったその武人が、もし大和朝廷と事を構えれば、おまえはどうするのだ?」
「勿論、ワシらはその武人へと就く。」
「なるほど…。大和朝廷そのものへ服従したわけではないというのだな?ならば…我ら日向と邇磨が争う理由は無い…ということだな?」
 猛はにっと笑った。
「おいおい、日向は大和と事を構えるつもりか?」
 玄馬が猛を見返した。
「まあな。近いうち、一戦やらかすことになるかもしれぬ。」
 猛はそう言葉を濁した。
「我ら日向の猛者は邇磨の腰抜けとは違う。機会があれば、大和朝廷を攻める。それだけのことよ。」
 
 傍らの直人はじっと刀を握り締めながらその言葉を聞いていた。腰抜けと言われて、ぐっときたのだろう。

「ほお…。大和側へ折れた邇磨にも、猛々しい武人は居られるか。」
 猛が直人をにらみ返した。厳しい、光の瞳で、彼を見据える。

「なあに…。若い武人は礼を知らんでな。こら、直人、刀を納めろ。」
 玄馬はそう言いながらぐっと直人を抑えた。ここで狗留須猛を刺激することは得策ではない。それくらいは玄馬も理解していた。

「で…。玄馬よ。おまえを従属させた男、何と言う名前なのだ?」
 猛は興味津々な瞳を手向けて問い質してきた。
「早乙女造乱馬(さおとめのみやつこらんま)殿だ。」
 玄馬は静かに答えた。
「早乙女造乱馬…。はて…どこかで耳にしたような…。」
 その名を反芻して、猛が考え込んだ。脳裏深くに刻み込んだ記憶を掘り起こそうとしたのだ。
 と、ポンと手を打った。
「そうか…。麻底良布(まてらめ)山…、あの山の神を鎮めた男。確か、あいつがそんな名前だったな。」
 その名を耳にしたことを、はっきりと思い出したのだ。

「こりゃ、驚いた。猛殿は、乱馬殿を知っておるのか?」
 玄馬が目を丸くして、問いかけた。
「ああ、一度、筑紫国の朝倉で遭遇した。大和の武人どもの不埒な宮作りに遭遇してな…。」
 猛は、乱馬とやりあったことの仔細を、玄馬に語ってやった。
「確かに奴なら玄馬殿を屈服させる力があっても不思議ではないな。並々ならぬ、武人だったわ。」
 猛は愉快そうに笑った。
「へえ…。筑紫国で、早々と顔を突き合わせたか。」
 玄馬も楽しげにそれに答えた。

「いずれにしても、玄馬殿たち邇磨の部族は、大和朝廷に従属したわけではないのだな…。」
 声を落として猛が言った。
「ああ、我々は乱馬殿に従うまでよ。彼が大和へ従属しろと命じるならそれに従うし、造反するならばそれに連座する。」
「と言うことは、おまえたちを日向国側に引き入れたくば、まずはその、早乙女乱馬という武人をこちらへ向ければ良いということか。」
 猛はにっと笑った。
「そういうことになるな。…猛殿は大和朝廷の転覆を狙われておるのか?」
 玄馬は眉をひそめて問いかける。
「いや、まだ、そうはっきりとは言えぬわ。まだワシも決めた訳ではないがな…。我ら、日向国の情勢もいろいろと複雑なのだよ。玄馬殿。」

「ちぇっ!お頭は慎重すぎるぜ。大和朝廷など、一ひねりに潰してやれば良いのに!」
 ぼそっと穂照の口から、また出た。
「兄者、黙って!」
 場の空気が重くなったことを受けて、穂織が焦って、兄をけん制した。

「良いな…日向の馬鹿連中は…。後先のことなんか、何も考えないで良いんだから。」
 直人がその言葉に反発した。

「何だと?さっきからてめえ…。」

「やめろっ!穂照。」
 止めに入った、猛が穂照を制した。
「直人もそれ以上は物を申すな!」
 玄馬も苦笑いしながら制した。
 互いに血の気の多い若者をなだめあう。

「今しばらく様子を見ようとは思っている…。だが、奴ら、大和朝廷の人間がこれ以上、筑紫国や日向国の周辺で無法なことを続けるなら、反旗を翻すかもしれん。日向の民が百済救済の犠牲になるのはまっぴら御免だからな。」
 恐らく、猛のこの言葉は、大和朝廷へ従属を誓わされた者たちの多くの本音であろう。世の中がそれだけ流動的になってきている証拠であった。

「まあ、難しい話はここまでにして…。せっかく、邇磨まで足を運んでくれたのだ。せめて、今宵だけでも、旧交をあたためて、美酒を楽しもうではないか…。猛殿よ。」
 玄馬はそう言うと拍手を打った。それを合図に、邇磨の女たちがぞろぞろと邇磨の産物を持って現われる。
「大したものはないが…。これからはゆうるりと足を延ばして行かれるが良い。」
「相変わらず気が効く男だ。ありがたく、ご馳走になるとするか。」
 
 二人の巨漢の男たちは、そう言うと、大らかに笑いあった。



三、

 その次の日から、雨が瀬戸内の海を滴らせた。

 梅雨末期の長雨であった。
 思ったよりも雨は激しく降り注ぎ、海を行く者たちは、それぞれの思いを秘めて、湊へと船を着岸し、時化の通り過ぎるのを待つことになった。
 球磨の男たちは邇磨の近郊に、あかねや良牙たちの船は邇磨の対岸、多度津付近に居た。瀬戸内を挟んで本州と四国の対岸になる。この海の間にはたくさんの小島が点在する。

 この日、いや、正確には雨が降り出す前、こっそりと夜陰に紛れて沖へ漕ぎ出す船が一艘あった。漕ぎ手は岩麻呂と彼の配下の者が数名であった。いずれ劣らぬ、邇磨の里の嫌われ者だ。元々、岩麻呂側についていて、事あるごとに吉備津直人と対立していた荒くれ者たちであった。
 可崘の要請に応じて、日向国の狗留須猛が尋ねてきた夜に、宴を抜けて集結したのである。皆、それぞれ、直人に対し腹の中に一物を持っている連中ばかりであった。
 彼らの根底には、一様に、乱馬という男の出現で、掌を返したように大和朝廷側へと就いてしまった玄馬への不平不満も溜まっていたかもしれない。皆、乱馬の妹背であるという曰くつきの大和朝廷の巫女をさらいに行くという行為に興味を示した。
「おもしれえっ!あの乱馬の愛した女を手に入れられるなら、俺も行くぜ。」
「俺もだ。大和朝廷へ仕えようとしている巫女なら、極上の女なんだろう?」
「捕まえたら抱かせてくれよ!」
 乱馬が聞いたら怒りで卒倒しそうなことを口々にしながら、邇磨の里をこっそりと抜け出して来たのだった。
 どうせ今夜は狗留須猛たちを饗するのに、邇磨は宴に酔いしれる。そんな中、密かに抜け出ても、誰も何も咎めはしまい。可崘の計略はまんまとはまった。
 邇磨の里からは死角になる浜辺から、こっそりと小舟で沖合いに漕ぎ出た。まだ雨には間があるので、波は比較的小さい。だから、小舟でもそんなに揺れることはなかった。
 月明かりをと自分たちの船乗りとしての感を頼りに、岩麻呂たちは、邇磨の海岸からそう離れていない小島へと向かって漕いだ。
 三十分も漕いで行くと、小さな島へと到着する。それから浜辺へ上がると、岩麻呂は一同をその島の裏側へと導いた。丁度、邇磨の里からは裏側になっていて見えない位置だ。
 海岸沿いを半時間も歩くと、船影が岩から覗いた。

「こ、これは…。」
 可崘も珊璞も暫し言葉を失った。
 予め準備していた船。小舟ではなく、本格的な軍船としても通用しそうな頑強な造りの船がそこにあったからだ。

「ほお…。なかなか良さげな船ではないか。良く手配できたのう、岩麻呂よ。」
 可崘は目を細めながら言った。
「俺様を誰だと思ってる?こんなこともあろうかと、前からここへと隠しておいたんだ。俺様の船としてな。」
 
 どうやって調達したのかはわからなかったが、予め岩麻呂はこの船を個人で隠し持っていたようだった。
 勿論、岩麻呂の腹心はそれを知っていて、時々、人目を盗んで、ここまで小舟を漕ぎ出し、手入れを怠らなかったのだろう。いつでも漕ぎ出せそうだった。

「さて、雨にならぬうちに、塩飽(しわく)の荒海を越えなきゃならねえからな。」
 岩麻呂はそう言うと、そこに居た連中に船に乗るように促した。
 おうっと声がして、男たちは我先にと船に乗り込んだ。

「婆さん…。その女の居場所はわかっているのだろうな。」
 じろっと岩麻呂が見ながら言った。

「ああ、ワシの情報網には抜かりがないわ。密かに倭人に紛れ込んだ、唐の間者たちが、逐一知らせてくれているでな。今、朝廷の船団は、対岸の多度津に入港しておる筈じゃ。今宵はそこで休息を取っておろう。」
「そこを狙えば良いというのだな。」
「然り。」
 可崘はにっと笑った。

「で、その女、さらってどうするのだ?」
 岩麻呂が言った。
「何、こちらの姦計に利用させてもらうのじゃ。ふふふ、この珊璞と入れ替わって貰う。」
「入れ替わるだと?それは面妖な。その娘と巫女は似ているとでもいうのか?」
 岩麻呂の目が妖しく光った。
「いや、似ておらぬ。」
「なら、どうやってその娘が巫女と入れ替わる?」
「我々を舐めるではないぞ。唐国の道士の秘術で入れ替わるさ…。」
「そんなことが出来るのか?」
「まあ、見ておれ…。入れ替わった後、用済みになった女は貴様らにくれてやる。後は好きなようにすれば良い。」
「ああ、そうさせてもらうさ。何しろ、邇磨の掟を犯して、勝手に海を渡るのだからな。それ相応の報酬は欲しいというものだ。」
「勿論、女をまんまと拉致できれば、報酬は渡してやる。心配はするな。」
 可崘はふふふと笑って見せた。
「そうだな。まずは女をさらわないとな…。そのためには海を越えないと…。」
「そういうことだ。」

 男たちに合図を送ると、船はゆっくりと沖へ向かって進み始めた。
 今の世の中とは違って、船の操舵は人力と風に頼るしかない。力いっぱい男たちは目的地へ向かって漕ぎ出した。月明かりと、仄かに見える対岸の焚き火を頼りに、暗い海を渡っていく。かなり危険な行動であったが、その辺りはこの海を又にかけて暴れまわる海賊たちばかり。手馴れたものだった。
 夜がまだ闇に包まれている間に、多度津の近くまで辿りついた。
 勿論、真っ向から多度津の湊へ入るわけにはいかない。黒い軍船は、闇に紛れるように、多度津からそう遠くない島影へと着岸した。

「ここら辺りで、また夜になるのを待つとしよう…。今夜に備えて、皆休んでおけ。」
 
 そう言うと、岩麻呂も休みに入った。


「お婆様、本当に大丈夫あるか?」
 珊璞は心配げに可崘を見上げた。
「大丈夫じゃ。心配は要らぬ。この秘水を使えば、姿形はもとより、容姿までそっくりに真似ることが出来る。おまえはあかねと入れ替わったら、そのまま記憶と言葉を失った振りをすれば良い。後は、筑紫国へ渡ってから、じわじわと乱馬殿へとその存在を知らしめれば、向こう側から餌に喰らいついてくるわ。」
「そう上手く事が運ぶあるかね。」
「何、おまえの傍にはいつもワシがついておる。ワシが大きなしくじりをしたことがあるか?」
 可崘はにっとわらった。

「そうあるね…。お婆様はいつでも完璧ある。」
 不安を打ち消すように、珊璞が頷いた。

「とにかく、おまえの最終目的は乱馬と契ること。そして、優秀な子孫を次の世代に残すことじゃ。」
「そうある…。我が一族の女の最大の使命。優秀な男と交わり子供を産み育てること。」
「そうじゃ。決して何があろうと、迷うことなかれ。迷えば尻尾を出すことになろう。心を鬼にして迷いを捨てるのじゃ。」
「心を鬼に…。」
「そうじゃ…。さて、ワシらも夜に供えて仮眠を取っておくかのう…。」
 可崘婆さんは皺くちゃな顔をさらによじれさせて、船倉へと横になった。

「もう、後戻りはできないね…。珊璞、しっかりするね。良き血統を受けた強い子を産むために…。」
 珊璞は寝入ってしまった可崘婆さんを見詰めながら、そう吐き出していた。



第二十八話 海の巫女島 へつづく


穂織と穂照
 火遠理と火照から取り命名しました。つまり、記紀神話の海幸彦(火照・兄)、山幸彦(火遠理・弟)を元にしております。
 らんまの原作に於いて、海千拳、山千拳というのがありますが(28巻参照)これも、海幸山幸神話からの線引きかもしれません。もっとも、こっちは「海千山千」という「海に千年、山に千年生きた蛇は竜になる」という事から転じて「長くその世界に居てずるがしこくなった」という言葉の方が大きく引っ掛けてあるとは思いますが…。(泥棒拳ですし、敵役が竜という名前ですし…。)
 それはさておき、海幸山幸兄弟の神話は、九州南部が発祥といわれております。
 ついでに言及しますと、海幸彦は鹿児島県の西南部の氏族「阿多氏」の先祖とされています(『古事記』)。ですから、阿多氏の地元でもある鹿児島県西海岸辺りの土地をイメージした種族として、この二人の兄弟を描けたら…と希望だけは持っているのですが…。
 海幸山幸の伝承は、鹿児島県の他に、宮崎県にも存在しています。
 鹿児島、宮崎、どちらを取るかかなり頭を悩ませたのですが、とりあえず、この作品では「阿多氏」として描いていくつもりです。

(C)2007 Ichinose Keiko