蒐(あかね)・・・創作ノート


 この作品は、昔、文章修業し始めた頃にしこしこ書こうと足掻いていたオリジナルの作品プロットから引っ張ってきました。
 とある盗賊が斎宮に一目惚れしたことから起こる騒動記をテーマにしていた歴史物的小説です。

 中世期の説話にはとあるパターンがありまして・・それをシコシコ調べまわって、説話文学(文芸)の一つ、「説経節」で卒論を書いていた当時から斎宮には興味がありました。
 「犬夜叉」の世界観にも通じる所が有るのですが、説話は主人公が英雄譚的な性質を帯びている話が多く、そして其の背後には必ずといって良いほど「巫女(ふじょ)」としての女性の姿があるのです。例えば「一寸法師」や「わらしべ長者」など。このような作品の影には「巫女」として描かれた「姫」の存在が介在しています。
 姫という言葉も、置き換えれば「日女」そして「霊女」となります。これに対する男性は「彦」(「日子」「霊子」)ともなるわけです。

 平安期移行、中世に至るの「説話文学」は概ね「神仏習合」的な世界観を基盤に持つ事が多く、主人公はまず「申し子」として生を受けます。「申し子」つまり、神や仏にねだって子を授かるのです。それから神仏への裏切り行為があり、主人公は、結果、異形となったり放浪へと押し出されたりして流浪漂泊を余儀なくされるのです。
 そして、お約束の如く、彼を助ける女性があらわれます。多くは「乙姫」として描かれます。命を賭して主人公を助ける強い女性も少なくありません。
 何故乙姫が巫女に通じるのか。簡単に言えば彼女たちは主人公を助けるために、なりふり構わずに援助奉仕するのです。身を投げ出してまで助けようとする女性、それも殆どが身をやつし、それでも操を守ろうとするのです。殆どが清き乙女として描かれます。 説話文学では「乙姫」たちを「巫女」として捕らえていることが多いです。巫女であるからこそ発揮できる能力もあるようです。
 中世において「巫女(みこ)」とは「歩き巫女(みこ)」に代表されるようにまた、流浪の民の典型でもあったそうです。
 説話の大元、記紀神話にもこの類型はしっかり根を下ろしています。
 大国主命にしても倭健尊にしても、後ろには巫女的女性の存在があります。

 ざっと見回したとき、「らんま1/2」も説話文学の類型をとっていることに気がつきます。
 まず乱馬は親たちのせいで「放浪」しはじめます。定着することのない旅へと出ています。
 それから「異形」へ。そう、呪泉郷で溺れて女に変身してしまう・・・。これは「異形」の典型でもあります。
 そして、彼を支える「巫女」。それは「あかね」です。また、多くの説話がそうであるように、あかねは「乙姫」です。乙姫とは元々は「弟(おと)の姫」、そう末っ子の姫を指す言葉です。あかねは天道家の末娘です。彼女は健気に乱馬を助けてゆきます。
 そして多くの場合、放浪の末に彼らは勝利を手にします。そして永遠に契ります。「聖婚」するのです。
 放浪して勝利を手にした彼らは神仏として祀られる。これが、中世の語り説話の一つの典型です。そう、神として祀られる人たちは「異形」として生を受け(神仏の下誕)、放浪を余儀なくされ(神仏になるための修業)、その背後に巫女が介在し(聖婚の相手としての巫女の存在)、再び力を取り戻す。そして祀られる。
 いわばこれが神仏習合的背景からたくさん描かれた「本地垂迹譚」の典型として説話文学に脈打っています。
 そういう下地があるので私は「あかねは乱馬の巫女」だと勝手に結論つけています。
 お気づきかもれませんが、「犬夜叉」はまさに、その典型です。
 「乙姫」に重要な役割が振られるのは、古来の日本は長子相続ではなく、末弟相続であった名残だと捉える説もあります。古代の天皇家も、記紀神話を見渡していただくとわかるように、皇位は長子相続ではなく、末弟相続の様相が強かったようです。それが長子相続へと変化したのは「大化の改新」以降、天智、天武朝あたりからです。壬申の乱の背景にはこうした「長子相続」と「末弟相続」の軋轢に主因があるという見方もあるのです。(どなたの説か忘れました・・・汗)
 天智と天武は同母兄弟で、天智は弟に帝位を譲るのが惜しく、長子、大友皇子へと譲ると言い残して世を去りました。これが様々な貴族間の勢力抗争と相まって「壬申の乱」へと進みました。
 「斎宮」の制度が天武朝に再び整備し直されたのも、偶然ではないのかもしれません。実子、草壁皇子のライバルだった大津皇子を葬り去るための天武の后、鵜野皇女(持統天皇)の陰謀説もあるのですが・・・(大津の同母姉の大来皇女が復帰第一号の斎宮となっております。)
 
 こういった「説話」の元になる、本地垂迹譚は、やはり記紀神話に原点があるのですが、長くなるのでこの辺で置きます。
 いつかこの時代の乱あパラレルも描いてみたいと思っております。(現在「不知火」として展開途中です)

 また、一応、平安朝を背景に書き出したものの・・・とある方からご指摘いただいたのですが、平安朝時代は「異母兄妹間婚姻」はありえなかったかもしれません・・・(調べ尽くしてないんです、すいません・・・)
 この作品、元は「奈良時代前後」を意識して描き出したため、基本設定でひょっとしたら物凄い間違いしでかしているかもしれませんので・・・(汗
 あくまで「平安朝的パラレル」ということでご勘弁くださいませ。
 あかねを正当性のある「斎宮」として描きたかったので皇女にしたかったので取った選択です。斎宮の資格がある「王女」でも良かったのですが・・・。(ああ、やっぱり詰めが甘くて無責任・・・)

 平安時代を基底にしたパラレル作品も、また機会があれば描きたいと思っております。


 最後になりましたが、いつもの私の我がままに付き合いつつ、素晴らしいイメージ画を描いてくださった、相棒、半官半民さまに厚く御礼申し上げます。

 長丁場作品、おつきあいありがとうございました・・・。


 一之瀬けいこ

2002年5月3日 一之瀬けいこ
2005年4月改定





(c) Ichinose Keiko