◇マジカル★まじかる 第四章「南の国の魔女」編

第五話 そして二人は…


 珊璞との対決に勝ったところまでは良かったが、あかねは、魔法力を使い果たして、いつものように、沈んでしまった。
 もう、立っている気力すら、残されては居ない。
 
 この機を、可崘が逃すわけは無い。

「確かに、珊璞との勝負には勝ったが…。まだ、ワシとの勝負が待っておるわ!」
 そう言うと、可崘は、己の杖をあかねの方に突き出した。
「まさかっ!婆さんっ!」
 乱馬の怒号が響き渡った。

「ふふふ、悪いが、そういうことじゃ。婿殿。いずれにしても、おまえもあかねも、返さんっ!あかねには死んでもらう!」
 そう言うと、魔力を杖に集中させた。そして、叫んだ。
「このまま、我が炎に骨まで焼き尽くされて、散れっ!」
 深紅の炎が、あかね目掛けて飛んだ。

「あかねーっ!」
 乱馬の声が深遠の闇に響き渡る。

 万事休す。あかねは深紅の炎に包まれていく。

「ふふふ…。気の毒じゃが、我が一族にたてついた代償じゃ!」
 
 ゴオゴオと勢い良く燃える炎。
 その照り返しで、婆さんの頬も、赤く色づいていた。
 勢いが衰えないその炎の中に、微かに動いた蒼い影。
「な?何じゃ?」
 婆さんの瞳に、戸惑いが浮かび上がる。
 その影はだんだんに大きく膨れ上がる。そして、あかねを取り巻いて燃えていた炎を、その影が青い色へと変化させ始めた。

「あれは…。」
 ハッとして、婆さんは、己の後ろに浮かんでいる、鳥かご檻を見返した。その檻には、朔で力を削がれた乱馬が、己の婚約者が焼き尽くされるところを、力なく見ている筈だった。
 が、乱馬は檻に手をやりながら、笑っていた。何かをしてやった…そう含んだ笑いだった。

「な、何っ!」
 再び視線を、燃え盛る炎の方へと移した婆さんの瞳は、大きく見開いた。
「あれは、青竜っ!」
 婆さんはうなり声を発していた。

「へっへっへ…。俺の召還獣、飛竜ヒュウマだ。」
 乱馬は勝ち誇った瞳を、可崘へと投げた。
 彼の視線の先には、ヒュウマがあかねを襲った赤い炎を、蒼い炎に変えている様子が映し出されていた。もちろん、あかねは焼かれること無く、無事だった。
 飛竜の頭に横たわっている。

「乱馬殿の召還獣じゃと?な…。何故じゃ、召還獣を出せた?」
 わなわなと震えながら、可崘は乱馬を見返す。
「おぬしの魔力は、朔に乗じて、完全に封じた筈…。」
 信じられないという表情で、可崘は乱馬を見つめた。

「何故って?それは…。俺の魔力が戻ったからだ!」
 そう言うと、乱馬はバキンと鉄格子を引き破った。
 彼の言葉を合図に、ヒュウマが、オオンと一声、空へ向けて吼た。真っ直ぐに乱馬の元へと寄って来る。
 と、乱馬はヒュウマの頭上へと、トンと飛び移り、あかねをその腕に抱えた。
「あかね…。良かった、無事だ。」
 ホッとした表情を浮かべながら、あかねを見た。


「魔力が戻っただと?バカなっ!」
 婆さんは、飛竜ヒュウマを見上げながら、怒鳴った。
「まだ、朔の夜は明けていない。しかも、ワシがおまえの魔力は全部、日が昇るまできっちりと封じたのにかっ?」
 合点がいかない表情を、乱馬に手向けた。
 まだ、深遠な闇が辺りを包んでいた。夜明けまでに時間がある証拠だ。

「ああ…。朔の夜はまだ終わっちゃいねー。でも、俺の魔力は戻った…。あかねのおかげでなっ!」
 乱馬はあかねを抱えあげると、そのまま、ヒュウマの頭に乗った。

「行かせぬっ!行かせぬぞっ!」
 可崘が、咄嗟に杖を手にしたとき、乱馬は怒鳴った。

「やめときなっ!婆さんが攻撃するというのなら、俺は容赦なく、珊璞を殺すぜ。」
 と、地面に横たわったまま、目を閉じている、珊璞へと瞳を移した。珊璞は、飛竜ヒュウマの足元に転がっている。彼がその気になれば、踏み潰せる場所だった。

「フンっ!珊璞を殺せば、東の国と南の国は全面戦争になるぞよっ!何たって、おぬしは東の大魔王の息子じゃからな。」
 可崘はまだ、毒づいた。

「戦争ぉ?それな無いだろうぜ…。」
 乱馬は吐き捨てた。
「へへっ、俺は…親父から勘当を食らったからな…。今の俺には、東の国の王位継承権は無えっ!」
 乱馬は笑った。

「何じゃと?」
 婆さんが信じられないという表情を手向けた。

「ああ。何なら、調べてみると良いぜ・・・。俺は東の国を追われた身だ。ただの一魔法使いでしか無え…。だから、おまえの孫娘を殺そうが、東の国とは関わりの無いこと。戦争にはなんねえさ…。それに…。」
 乱馬ははっしと可崘を見た。
「しかし、国王の名代で、誕生パーティーに出席したではないか?」
「まあな…。でも、あれは、昨日のことだ。一日限りの名代ってことで、あのパンダ親父は、すり抜けるだろうぜ。…それより、孫娘を殺されて、困るのは婆さん、おまえの方じゃねえのか? 珊璞以外に、女王位継承者は育ってねーんだろ?こいつの母親とか・・・本来なら、間に居そうなものなのによ…。居ねえってことは…。良いのか?このまま、彼女を踏み潰しても…。」
 
 ピンと糸を張り詰めたように、シンとなった。
 珊璞はまだ魔力が戻らないらしく、ヒュウマの足元で、微動だにしない。
 
「……。」
 可崘婆さんも、黙ってしまった。
 乱馬が東の国を追われたなどという話は初耳だった。その事自体がハッタリかもしれぬが、案外的を射ているかもしれない。そう、思ったのだ。
 玄馬はとぼけた顔をしているが、それ相応の実力を持った東の国の大魔王であった。
(あの玄馬大魔王のことじゃ。息子を旅立たせるのに、大芝居打ちおったか…。多分、ヤツも、この大魔界の異変に気づいておろうからのう…。)

「どうする?このまま、俺たちを見逃すか?それとも…。」
 乱馬がヒュウマの上から、再度、話しかけた。

「わかった…。今回は諦めよう。孫娘・珊璞の命までとられるわけにはいかぬからな…。」
 可崘は、魔力を解除すると、その攻撃の矛先を納めた。
 魔力の重圧で、わなないていた、床も壁も天井も、その闘気が一瞬にして、緩んだ。
「今回は負けを認めよう。どうやったかは知らぬが、まさか、おぬしに魔力が戻ろうとはのう…。」
 可崘はそう言い終わると、持っていた杖で地面を付いた。
 と、空間が再び、開けた。
 空が真っ二つに裂けるように、横へと開いたのだった。天上には、星の瞬き。今にもここに落ちてくるのではないかと思うほどの、南国の星空であった。

「さあ、ここから去るが良い。ワシの気が変わらぬうちに。」
 可崘婆さんは、乱馬を睨みつけながら言った。

「そうさせてもらうぜ…。ヒュウマッ、飛翔(フライ!)」
 乱馬の命令に従い、ヒュウマは長い尾をしならせながら、夜空へと飛び上がった。ゆっくりと城の上空を旋回すると、そのまま、西に向けて飛び立った。
 これ以上の長居は、己にも、あかねにも不都合だと判断したのだ。開放されたのなら、さっさと飛び去るに限る。

 ヒュウマは飛び上がると、迷う事無く、西の方向へと頭を向けた。

 その、姿を見送りながら、可崘は、ハアアッとため息を吐き出した。
「無念…。最良の婿を迎える、絶好のチャンスを逃してしまったか…。このワシとあろう者が…」
 だが、そんな自戒を吐き出した婆さんを知ってか知らずか…目の前に突っ伏していた珊璞が、のっそりと頭を上げた。
「乱馬…本当に善き男…。」
 と吐露した。魔力も戻ったようで、何事も無かったかのように、パンパンと戦闘服に付いたホコリを両手で叩き払いながら、起き上がった。
「珊璞?」
 婆さんは珊璞の顔を見てハッとした。彼女の瞳は、じっと、乱馬が飛び去った方向を見つめている。頬が真っ赤に高潮していた。
 可崘はハッとして、孫娘を見つめ返した。
「珊璞…おまえ…まさか…。」
 その言葉に答えるように、コクンと珊璞は頭を縦に振った。
「乱馬、必ず、手に入れるある。どんな手を使ってでも…。」
 珊璞は、乱馬が飛び去った方向を仰ぎ見た。その瞳は南国の太陽よりも、ギラギラと輝き渡っていた。
「最初に契るのは…この私ある。違うあるか?曾婆ちゃん?」
「ああ…そうじゃな。乱馬殿に最初に子種を与えて貰うのは…珊璞、おまえじゃ。」
 その強い信念の言葉に、可崘は、ふっと微笑みながら頷いていた。

☆  ☆  ☆

 さて…一方、城から飛び立った、乱馬は、空の上。

 ヒュウマの背中の平らなところを選んで、じっと、座ったまま、あかねを抱きしめていた。
 まだ、完全に魔力が戻った訳ではなかった。ヒュウマを駆使して、あかねを救い出したまでは良かったが、流されるままに、南の空を高く飛んでいた。

「ふう…。たく。いつもいつも…おめえは…。あれほど、力を全部使い果たすなって言ってあるのに…。」
 少し、苦笑いしながら、あかねを覗き込んだ。
 あかねの瞳は閉じられたまま、気持ちよさげに、眠っている。
「殺されかけたっつーのによ…。危機感も何もあったもんじゃねーな…。おまえは!」
 溜息を吐き出すと、今度は、微笑がこみ上げてくる。
 ケイル婆さんに貰った、ブラッドストーンのピアスは、あかねの右耳にしっかりと装着されている。右の耳たぶにそっと触れた。
「たく…。おめーにかかれば、ブラッドストーンも、ただの石ころだな…。まだこいつが力を発揮させるには、今のあかねじゃあ時期尚早…ってことか…。」
 乱馬は呟いた。
 ケイル婆さんに貰った石は、かなりの魔力を秘めている。但し、持つ者の能力に左右されるとも言われている。誰彼もがこの石の力を使えるわけではないのだ。
 ピアスとして装着しているのに、あかねは、魔力を使い果たして、己が腕の中で眠っている。ブラッドストーンに溜められたあかねの魔力は、持ち主の危機にも関わらず、開放されずに、石の中に留まっているようで、鈍く赤い光を放っていた。

「ある程度完成形に近い俺と違って…まだ、魔女としては、ひよっこだもんな、おまえは…。石がまだ、持ち主と認めた訳じゃないんだな…。」
 眠り続ける、柔らかな頬を、人差し指でツンと突っついた。
 
「でも…。今回は、そんなひよっこなおまえと、俺に装着されたこの石の力に助けられたようなものだぜ…。」
 左耳に装着したブラッドストーンに、そっと手を触れた。

 そうだった。目覚めた時、左の耳たぶが、微かに熱かったことから、何らかの魔力が、そこに留まっていることを知った…。真っ直ぐで無垢な瑞々しい魔力は、明らかに乱馬自身の物ではなかった。他の誰かが分けてくれた魔力。
 そして、その魔力の波動が、徐々に、このブラッドストーンの中で増幅され、乱馬の魔力と融合したのだ。だから、可崘婆さんの仕掛けた魔法で、眠らされていたのに、途中で目覚めることもできた。
 その後、あかねが珊璞と闘っている時に、その魔力の波動が、思ったよりも増幅されていたことに気がついた。戦いを見守る中、握り締めた掌に溢れ出した波動の光。
 乱馬はその魔力の波動を核に、あかねが戦いを繰り広げていた間中、眠らされていた魔力を少しずつ揺り起こしていった。その結果、可崘の魔法があかねを襲った刹那、ヒュウマを召喚し、何とか助け出せたのだった。

「危なかったぜ…。ブラッドストーンに魔力が微量でも留まっていなけりゃ…今頃、俺たちは…。」
 じっと、あかねを見つめながら、微笑んだ。
「今、はっきりわかったぜ…。俺の中に留まった魔力は、誰の物だったのか…。あかね…おまえが分けてくれた魔力だったんだ!」
 抱きとめた身体から伝わってくる、肌の温もり。そこから感じる、眠ったあかねの体内に眠る魔力が、シンクロして、乱馬の体内に伝わってきた。柔らかで暖かい真っ直ぐ魔力。乱馬を揺り起こした魔力。それと、まさに同じ感触があった。

「間違いねえ…。シンクロしたんだ…。おまえから俺に…。」
 
 トクン…と、乱馬の心音が一つ高鳴った。
 と、それに反応するかのように、閉じられていたあかねの瞳が、ゆっくりと開いた。

「ら…乱馬?」
 己を上から見下ろす、柔らかい視線に気がつき、ハッとして見上げた。

「目覚めたか?…ったく…。あれほど、全力使い果たすなって言ってたのに…おめーは!」
 
「珊璞は?それから、南の城は?」
 倒れる前の闘いに揺り戻されたあかねが、乱馬の腕からすり抜けて、辺りを見回した。
 ゴオッと傍で風が鳴った。
「きゃっ!」
「わたっ!暴れるな!空の上だぞ!」
 慌てて、乱馬があかねの腕を引っ張って、止めた。
 分厚い胸板が、あかねの頬を受け止める。
「大丈夫…!悪夢は終わった…。」
 腕に抱きとめながら、乱馬が言った。

 太陽が、遥か後ろ側から昇り始めていた。雲海の中から、にょっきりと顔を出した光が、さああっと、見上げた乱馬の背後から照らしつけていた。

「あの後、あたし、気を失っちゃったけど…乱馬が助けてくれたの?」

「いや…俺というより、その…。」
 どう説明したものか、迷ったのである。
「ま、良いじゃねーか。おまえも俺も無事だったんだから…。」
 と、視線を反らせた。
「ちょっと、何?それ…。はっきりさせてよ。あんたに助けて貰ったとあっちゃあ…。」
「俺が助けたら…何だ?ご褒美に口づけでもくれるってーのか?」
「ば…バカッ!」
 あかねは顔を真っ赤に染めて、乱馬を睨んでいた。また、何を言い出すのかと、怒った顔で。
「でも…。嬉しかったぜ…俺は。」
 乱馬はにっこりと微笑みかけた。
「な、何が?」
「俺が、あいつらの魔の手に捕まってたのを…命がけで助けに来てくれたんだもんなー、あかねちゃん。」
「だ…だって、あのまま、放っておくわけに、いかなかったでしょー!」
 あかねは、わざと視線を外し、そっぽを向きながら、答えた。真っ直ぐに見下ろしてくる、乱馬の瞳が、眩しかったのだ。

「あかねが助けに来てくれなかったら…今頃、俺、珊璞と無理やり結婚させられてたかもしんねーもんなー。…それはそれで、ちょっと、惜しい気もするけど…。」
 ちらっとあかねを見ながら、乱馬は心にも無い事を言ってみた。勿論、惜しいなどとは思っていない。

「なっ!」
 乱馬の言動に、あかねは少し、顔をしかめた。
「じゃあ、何?助けに行かない方が良かったかしら?あのまま、南の国の時期女王様と結婚して居た方がよかったかしらねえ?」
 反射的に、視線を反らせて、口を尖らせていた。
「何、真顔になってんだよ!冗談に決まってるだろ?」
「冗談って…あんたねー!」
 あかねの変化を目の当たりに、乱馬は、クククと笑い始めた。 
「ははは、あかねっ、ヤキモチ、妬いてんだー!」
 とからかい口調で吐き出した。
「だっ!誰が、ヤキモチなんか!」
 怒ったような、戸惑ったような表情を手向けてきたあかねに、即答した。
「いーや、これは、明らかにヤキモチだ!」
「違うーっ!」
 あかねが再び、怒った表情を乱馬に手向けると、ぎゅうっと抱きしめられた。
「でも、嬉しかった…。俺のために、珊璞と死闘を繰り広げてくれて…。」
 そう言いながら、圧し掛かってきた。
「ちょっと、乱馬っ!乱馬ったらっ!」
 仰向けに倒れながら、あかねが叫んだ。不安定な、竜の背中の上だ。暴れるわけにもいかない。
「こんなところで、ふざけないでよっ!乱馬ったら!」
 焦りながら、乱馬に声をかけると、それ以上の事は、何も起こらなかった…というより、ガクンと乱馬の頭があかねの胸に止まったまま、動かなくなった。
「乱馬?」
 そっと覗き込むと、乱馬は目を閉じていた。
「ごめん…。本当は…まだ、朔は明けちゃいねーんだ…。俺の朔は、これから数時間、日が昇っている間が本当のピークなんだ…。悪い…。今度こそ、力使い果たしちまった…。ヒュウマを飛ばせる魔力だけはピアスを通じて巡らせてあっから…このまま、おめーの膝枕で休ませてくれ…。本当の朔が明けるまで…。」
 それだけ告げると、そのまま、ふっと気を失ってしまった。

「乱馬っ!こらっ!乱馬ったら!」
 慌てて、声をかけたが、そのまま、乱馬は淡い寝息をたて始めた。
「人に、力を使い果たすな…って言っておいて…あんたこそ…。思いっきり、力使い果たしてるじゃないのぉ!」
 沈み込んだ乱馬に、あかねは深い溜息を吐き出した。
 自分を助けるために、相当、無理したことだけは、乱馬の様子からみて、明らかだろう。

「もう…。しょうがないわねー!」
 あかねはヒュウマに話しかけた。
「あんた…。ご主人様が眠っても、ちゃんと飛び続けられるの?」
 その問いかけに、オウンと一声、ヒュウマは吼えた。
「ま、言っても乱馬の召還獣だもんね…。信用するわ。このまま、できるだけ、静かに西へ向けて飛んで行って。そのうち、こいつも目覚めると思うから…。」
 その命に、また、オウンと一声啼いた。
「まっ、良い…っか…。朔の日くらい…。あたしの膝、貸してあげるわ。」
 あかねは、そっと、乱馬の頭を、膝へと導いた。それから、羽織っていた、自分のマントを、乱馬の肩へと掛けかけた。
「今日だけだからね…。良いわね!今日だけだからね!」
 寝息をたてている乱馬に聞こえよう筈もないが、そう繰り返すと、そっと、おさげに触れた。

 安心しきって、無防備に眠る乱馬の寝顔。誰にも見せたくない、自分だけが独占したい…。

 そう、思い巡らせたところで、ブンブンと頭を横に振った。

「な、何?今の!…たく!しっかりなさい!あかねっ!このままじゃ、こいつの思う壺よ!靡かない!絶対に、靡いちゃダメなのっ!
 ましてや、ヤキモチなんて、妬いてない!絶対に、妬かないんだからーっ!」

 雲海を昇り切った朝日を背に、ぐっと、想いを飲み込んだ。

 遥か向こうに、連なる青垣。
 静かに、ヒュウマは空を飛び続けていた。西の国へ向けて…。



 完




 はい、この章はこれにて、終了であります。
 西の国編…へ続く筈です。(まだ、プロットの微塵もありませんけど…。)
 次は、多分…右京登場です。これも波乱になるだろうなあ…。

(c)Copyright 2000-2009 Ichinose Keiko All rights reserved.
全ての画像、文献の無断転出転載は禁止いたします。