◇マジカル★まじかる 第四章「南の国の魔女」編
第四話 乱馬を賭して
目の前から可崘婆さんと乱馬が消えた。
いや、正確に言うと、珊璞とあかねから見えないだけで、可崘と乱馬には、二人の様子が手に取るように見えた。
「のう…、婿殿。」
可崘はすぐ近くで睨み合う、珊璞とあかねの姿を見つめながら、乱馬に話しかけた。
「俺は、おめえらの国の婿になった覚えはねー。婿呼ばわりすんな!」
バシッと乱馬が答えた。
「ほっほっほ、言葉尻などどうでも良いわ。では、乱馬王子よ。ここで、改めて、ワシと取引せんか?」
「取引だあ?」
乱馬の瞳が険しくなった。
「ああ、取引じゃ。おまえ、あの娘を死なせたくないのじゃろう?」
可崘はじっと乱馬を見据えながら言った。
「何が言いたい?」
乱馬は睨みながら、可崘に問いかけた。どうせ、ろくでもない提案をしようとしているのだろう。
「ふっふっふ。悪い事は言わない。珊璞と先に子を作れ。」
「なっ!何を、いきなり!」
乱馬の顔が強張った。
「何、後先を逆にするだけで良かろう?珊璞と先に契って、子種を与えてくれれば、無罪放免してやろうと言うのじゃ。優秀な子種さえ分け与えてもらえれば、ワシらはおまえには、執着はしない。」
「けっ!添い遂げもしないのに、子種なんてやれるかっ!」
当然ながら、乱馬は吐き棄てた。
「ほっほっほ、別に添い遂げて貰ってもよいがな…。」
「ますます、お断りでいっ!」
「ワシら南の魔女国の王族は、次の世代に良い子孫を残すために、世界中から選りすぐった魔力の持ち主に子種を授けて貰うのが掟。しかも、童貞の男子から受けねばならぬ。」
「なっ、何、ふざけたことを!」
「ふざけてなどはおらぬわ。おぬし、まだ、女を知らぬのであろう?」
「バッ、馬鹿言うなっ!このっ!」
顔が真っ赤になった。
「ふふふ、そうれ、そのウブさが何よりの証拠。あのあかねとかいう娘、おまえさんの許婚ということじゃったが…。まだ、契ってはおらぬのだろう?
だったら、悪い事は言わん。先に珊璞と契れ。そして、種付けさえすれば、あかねの元に帰って、後は所帯を持とうが、どうしようが、ワシらは一向にかまわぬわ。」
どうあっても、珊璞と乱馬を契らせたいようだった。
「いけ、しゃあしゃあと、何て事言い出すんだよ!この婆さんはっ!ダメだ!ダメだっ!お断りだっ!
俺は、あかねっきゃ、要らねーんだっ!他の誰とも交わる気はねえっ!っつーのっ!」
シッシッとばかり、手を払いのけながら、婆さんに答えた。
「ならば、仕方あるまいな。このまま、あかねには死んで貰うだけじゃ。」
と、婆さんは瞳を、二人の少女の方へと巡らせた。
「あかねは死なねえ…。」
乱馬の瞳の輝きが強くなった。
「いや、死ぬぞ。珊璞との魔法力の差は歴然としておるわいっ!」
婆さんが吐き棄てた。
「確かに…魔法力はそうかもしれねえ…。だが、あいつは、そう簡単にはくたばらないぜ…。」
「ほう、たいした自信じゃな。」
可崘は乱馬を見下ろしながら言った。
「ああ…。俺が見初めた許婚だからな。」
じっと、曇りの無い真摯な瞳があかねを捉えた。
心配が全く無い訳ではないが、乱馬はあかねの眠れる魔力を信頼していた。ひよっこであるが、東の国の一番の魔女を名乗れるほどの底知れぬ魔力が、あかねの中には備わっている…そう信じていた。でなければ、東の大魔王玄馬の直々の卜占であかねを嫁にしろという託宣が出てくる訳がない。
(いい加減なようで、親父の占いは確実だからな…。)
乱馬はあかねをじっと見つめた。
この空間から、何を言っても、一切あかねには聞こえないだろう。勿論、あかねから、乱馬と可崘の様子は全く見えな。声も聞こえない。
自分に魔力さえ戻れば、こんなふざけた戦いなど、スッパリと止めさせられるのに。
今の、乱馬には、魔力が殆んど湧いてこなかった。情けないほど、無力だった。
可崘婆さんもそれがわかっているのだ。
だからこそ、余裕で、乱馬を見下していた。
(あかね!自ら切り開けっ!おまえの魔力なら、その歪んだ魔世界を破れる筈だ。おまえの真っ直ぐな穢れを知らねえ、魔力なら…。)
想いを、ぐっと、喉に、押し込んだ。
一方、乱馬の向こう側で、あかねは、珊璞を相手に、怒りに燃え上がっていた。
冷静さの微塵も無い。これまた、彼女らしい状況だった。
あかねの目の前には、珊璞が対峙していた。夕べのパーティーの時よりも、露出度が高い、真紅の甲冑を身につけていた。脚も腕も露わではあったが、膝や脛、それから肘や手の甲といった急所部分には、ちゃんと防具を当てている。
そして、何より印象的なのは、長い棒状の先に丸い人頭くらいの球体を乗せた、魔法具を右手に持っていることだ。これ単体でも十充分に凶器的武器になるだろう。そいつを地面に付き立て、不敵に笑いかけてくる。
「辞めるなら、今、あるね。言っておくが、手加減はしないね。死にたくなければ、乱馬、私に譲るよろし!」
甲高い声が響き渡る。
「辞めるもんですか!乱馬をあんたなんかに、絶対、絶対に渡すもんですかっ!」
互いの気焔は、空間の中で激しく燃えはじめる。
暗い黒色の空間の中。珊璞は赤色に、あかねは紺色に、互いの気焔が身体の回りで燃えている。
「じゃ、遠慮なく行くねっ!」
先制攻撃は珊璞だった。
球体が付いた長い棒を振り下ろすと、ざあっと灰燼が舞った。そして、いきなり、鳥の羽が十本ほど、あかね目掛けて飛んできた。
「防御壁!(バリアー!)」
咄嗟にあかねは、魔法で防御壁を築いた。透明の丸い盾があかねの目前に現れ、弓的のようにパシパシと音をたてながら、鳥の羽がその壁に突き刺さった。
「まだまだ、これからある!」
珊璞は続けざまに、棒を再び、振り下ろした。今度はさっきより、大きく振り下ろす。
と、再び、灰燼が巻き上がり、今度はさっきの二倍ほどの勢いで、羽が飛び出してくる。
「防御壁っ!(バリアーッ!)」
さっきよりも激しい羽の勢いに、あかねの魔法も強くなる。
バキバキバキッと、さっきよりも激しい音がして、あかねの前で羽が止まった。
「これならどうね?」
珊璞は軽く笑うと、今度は、棒を自分の前で、×を描くように、十字に振って見せた。
と、灰燼が赤く燃え上がり、炎の羽が、あかね目掛けて飛び出してきた。
「防水壁っ!(ウオーターーバリアーッ!)」
咄嗟に、あかねは水系のバリアーでそいつを防ぐ。
シュンシュンと水に弾けて、羽が落ちる。水を含んだ羽は、ジュウッとおとをたてて、あかねの前に落ちた。
互いに一歩も引く様子は無い。
「今度はあたしが行くわよっ!」
あかねが気焔を吐きあげた。そして、手に、魔法の杖を持つと、
「爆裂火炎っ!(ファイヤーボンブ)」
と炎系の魔法を珊璞へと浴びせかけた。
「ふふふ、バカな娘じゃ。火炎系の技を使うとは…。」
可崘婆さんが、にんまりと笑った。
「はああ…やっぱり、あかねの奴、南の国の魔法の属性のこと、すーっかり、忘れてやがんなっ!」
乱馬も一緒に溜息を吐き出した。
「ふふふ、私に火炎系の魔法が通じるとでも思ってるね?あかね。」
珊璞は得たりという顔を見せて、あかねが放った火炎を、そのまま、己の杖の中へと導きこむ。
珊璞はあかねの放った魔法を、そのまま、己のエネルギー源へと変えてしまった。
プスプスと珊璞の杖先についている球体が、真っ赤に燃えながら、あかねの魔法をそのまま飲み込んだ。
「え?炎系の魔法が効かない?」
あかねはあせった。
「おまえ、マヌケね。素敵なプレゼント、ありがとうある。」
珊璞はにっと笑った。
「ふふふ、わが召還獣、朱雀が喜んでいるある。」
珊璞は杖の先端についている、丸い球体を撫でながら、言った。
まだ、炎が微かに残っていて、真っ赤に球体が燃えていたが、珊璞は火傷一つだにしない。
(そっか…。南の国の魔女って、火炎系が得意な一族だったけ。)
珊璞の様子を見ながら、あかねはぎゅううっと手を握り締めた。失敗を悔いたのだ。
(南の王族は傀儡魔法が得意って言うけど、他にも火の属性の特徴的な召還獣を使うって習ったっけ…。)
あかねは、必死になって、魔法学校で習ったことを、脳裏に描いて思い出し始めた。
東の青竜、南の朱雀、西の白虎、そして北の玄武。王族はほぼ、それぞれの国に属する聖獣を召還獣の筆頭として使いこなす。
それに従って、魔法には属性があった。東は水、南は火、西は土、北は風の属性魔法が得意であった。敵を攻撃するための攻撃系魔法、身を守るための防御系魔法、人を操る傀儡系魔法、現状復帰を促す回復系魔法…様々な用途の魔法も、それぞれの国の属性によって、同じ結果を促す魔法でも、それぞれちょっとずつ違うのである。
が、何故だか、あかねは…炎系の魔法が得意だったのである。水属性の魔女のクセにである。ここに、難点があった。
魔法学校の授業では、己の国、東の特徴から習う。
あかねの故郷、東の国の属性は水。東の王族である乱馬の属性も、勿論、水で、彼の召還獣はヒュウマという青竜種の飛竜であった。どんな系統の魔法も、それなり使いこなすだろうが、恐らく、乱馬も水系の魔法が一番得意な筈である。
一方、南の国の属性は火だ。そして、王族は朱雀や迦楼羅といった炎系の召還獣を操る。
一見、水は炎に勝ると思われがちだが、王族が相手だと、なかなか思うように水系魔法は効かない。王族以外の召還獣なら、水属性で闘うと、十中八九は勝てよう。だが、魔力が高い王族相手が扱う朱雀辺りとやりあうとなると、随分、様子が変わってくる。
だから、王族のような魔法力が高い魔法使いと戦うとき、東の国の得意とする水系魔法で下手に闘うと、鎮火するどころか、火種を大きくしてしまう可能性が高い。そう、火に油を注ぐ結果になりかねないのだ。油火が水で消せないのと同じように、水で消せない炎があるのだ。
乱馬くらいの底知れぬ魔法力を持っていれば、珊璞の召還獣にも十分対抗できようが、己のような中途半端な魔力では、下手に、水系の魔法で攻撃すれば、炎以上に良い餌を与えてしまうことになるだろう。
水系魔法で戦うべきか否か…。それとも、炎系魔法で戦うべきか…。はたまた、他の属性の魔法で戦うのか…。あかねは躊躇って思考が止まってしまった。
あかねが考え込む様子を見ながら、乱馬はふううっと溜息を一つ、吐き出した。
「たく…。一応、冷静になったようだな…。闇雲に水系魔法や炎系魔法を浴びせかけようという短絡的な考えは、とりあえず、止めたか…。」
「ふふふ。じゃからと言って、勝算はあるまい。」
乱馬の横で、可崘が毒づいた。
「さあな…勝負はやってみなくちゃ、わからねーぜ…。」
乱馬はそうひと言吐き出すと、そのまま黙り込んだ。
(でも、あかねのことだ。わかった上で、水系魔法で攻撃するかもしれねー。)
乱馬なりに、危惧し始めていた。
あかねくらいの魔法力では、水系魔法を全開すれば、勝つどころか、負けに近づくだろう。
(この国の魔法の特徴を教えておけばよかったぜ…。)
今更ながら、準備の甘さが悔やまれた。
(畜生、今の俺は見守るしかねえのか…。)
ぎゅっと拳を握り締める。
と、乱馬の拳が鈍く光った。
(え?)
乱馬はハッとして、その拳をじっと見た。
(何だこれは…。)
微かに感じた、己の体内の異変。慌てて、乱馬は、その痕跡を可崘から隠した。
(こいつは…。地獄の中で見つけた、一筋の光になるぜ…。多分…。)
ゆっくりと、息を吸い込みながら、その光を、再び体内へと戻した。
「ほれ、そろそろ戦いの終焉だぞ。今のうちなら、まだ、リタイアを認めてやるが…。どうする?乱馬殿。」
婆さんの声が傍らで響いた。
「リタイアはしねえ…。んなことしたって、あかねが納得する訳が、ねーからな。」
と吐き捨てた。
「ならば、可愛そうだが、あかねは死ぬ…。おまえの目の前で…。」
婆さんはにっと笑った。
「さて、そろそろ、本気でいくあるか。召還獣、朱雀ポポロン前へっ!」
珊璞が叫ぶと、炎の羽をまとった赤い鳥が現れた。
(あれが朱雀。)
あかねは、はっしと睨みながら、唱えた。
「召喚っ!一角獣アリス!」
あかねも、己の召還獣を招き入れた。この先は召還獣を通じた闘いになる。
青白い炎を上げながら、あかねの召還獣である一角獣が現れた。
「見るからに、弱そうな、召還獣あるな。」
珊璞が笑った。
「し、失礼しちゃうわねっ!」
ムッとした表情をあかねは手向けた。
「弱いかどうか、試してみなさいよっ!」
あかねが先制攻撃を仕掛けた。
「バカッ!熱くなったら、珊璞の思う壺だぜ!」
乱馬は怒鳴ったが、あかねには聞こえない。
アリスは、オオオンと雄叫びを上げると、ぐわっと朱雀を見据えた。
「超爆裂火炎(ファイヤーボンブレストッ!)」
あかねは、爆裂魔法を浴びせかけた。
「ポポロン、あんなの食ってやるあるっ!」
珊璞の言いつけを忠実に守った朱雀は、口を大きく開き、ゴオオオッとアリスの放った火炎を飲み込んだ。
「ふふふ、火炎はポポロンの大好物ね。朱雀は炎が大好きあるよ。おまえ、…本当に、マヌケな魔女あるな。さっき、炎系は効かないって体験したのに…まだ、やるか?乱馬の嫁になるなんて、百年早いある!」
「ま…マヌケですってえ?」
あかねはまた、カチンときた。
「ああ、マヌケ魔女ある。東のマヌケ魔女あかね。」
珊璞はあかねを煽った。
「馬鹿にしないでよっ!」
あかねの気焔がますます激しく燃え盛る。
「ふふふ。あかねに立ち上がる、怒りの気焔も食い尽くしてやれ!ポポロン!」
珊璞は、ポポロンに命じると、再び、大口を開いて、あかねの怒りの気ごと、吸い込み始めた。
「勝負あったな…。これで、あの娘、召還獣の一角獣と共に、灰燼と化すわ。」
可崘婆さんが笑った。
「……。」
乱馬は険しい顔で、あかねを見た。己の声が聞こえないならば、ここで見守るしかない。じっと、あかねと珊璞の対決に見入っていた。
「一か八か…水系魔法、使ってあげるわっ!あんまり得意じゃないけど!」
あかねがわなないた。
「アリスッ、放水!(ウォーターポンプ!)」
アリスは、角から、朱雀目掛けて、一気に水を浴びせかけた。
バチャバチャと音がして、ポポロン目掛けて大量の水が飛び散った。
「ふふ、水系の魔法も、通用しないあるねっ!」
珊璞は笑った。そして、朱雀は空へ解き放つと、クワーッと大きな口を開いて、片っ端からあかねの一角獣がぶち込んだ、水を炎へと変化させた。
「やっぱり、水系は効かない…か。」
あかねは、何を思ったか、息を思い切り深く吸い込んだ。そして、大きく吐き出す。
『もっと頭冷やして、物事の本質ってーのを見極める能力を養った方が良いぜ。頭に血が昇ったら、まず目を閉じて呼吸を整えてみるとかさー。』
脳内で乱馬の声が響いた。
(そうね、もっと冷静にならなきゃ。あたしには、まだ、攻撃する術があるはずよ…。考えて、あかね。炎も水も駄目なら、あたしにできる魔法は…。)
じっと目を閉じて考えた。
「ふふふ、諦めたか?あかね。ポポロン、そろそろ決着の時ね…あかね殺すある!女傑族最大奥義、朱雀の舞を見せてやるね!」
珊璞は朱雀の背中にタンと乗った。そして、そのまま、背中へまたがって、高く、高く舞い上がった。
朱雀は上空を旋回し始めた。
「これまである!あかねっ!」
器用に鳥の背中で、クルクルと杖を回し始めた。すると、ポポロンは、身体にまっとった炎を、激しく朱色に燃えたぎらせ始めた。
「朱雀、ポポロンのクチバシに突き刺され、召還獣共々、焼き尽くされるが良いね!東のマヌケ魔女、あかねっ!」
杖を前に思いっ切り振り下ろしたのを合図に、ポポロンはあかね目掛けて急降下する。射程距離に捕えて、そのまま、炎をあかねに吐き散らした。
「一か八か!」
くわっと目を見開いた。
あかねの脳内に、何か閃きが走ったようだ。
「アリスっ!あたしのイメージをとらえてっ!」
あかねは、魔法の杖を額にぐっと押し当て、何かを念じた。
「いい?アリスっ!今、あたしが思い描いているイメージにしたがって、力を思いっ切り、解放なさいっ!」
あかねの声と共に、アリスが一声、空に向けて戦慄いた。と、背中の羽を迦楼羅目掛けて激しく一度、羽ばたかせた。
キラキラと光り輝きながら、アリスの羽から、衝撃破がポポロン目掛けて舞い上がった。刹那。
「幻想魔法攻撃炸裂破!(マジカルイリュージョン★アタック★ボンブー!)」
あかねは、己の魔法を、渾身から朱雀目掛けて、吐き出していた。
瞬きできないくらいの閃光があかねの杖先から発した。そして、そこから波状のように駆け出した光の輪。
「なっ!何?」
衝撃は朱雀にだけではない。その背中に乗っていた珊璞をも吹き飛ばす勢いで、アリスと共に、あかねの魔法が駆け上がって行った。
ゴオオオオッ!
衝撃音と共に、珊璞のすぐ後ろ側で、亜空間が開いた。あかねの魔法によって、空間に裂け目が出来たのである。それほど、激しい魔力をあかねは、瞬時に開放したのであった。
グエエエエエッ!
朱雀は、炎と共にあかねの魔法によって開かれた亞空間へと飲み込まれて行く。
「きゃあああああっ!」
朱雀の背中から、珊璞はそのまま振り落とされて、地面へと激突した。ドスンと鈍い音がして、珊璞は空間へと投げ出され、地へ落ちた。
「勝負あったわね!珊璞!」
あかねは杖を珊璞へと差し出し、勝どきを上げた。
珊璞の口から、参ったというひと言を発せられることもなかった。彼女はあかねの攻撃に自ら落ち、意識を失ってしまったのだった。
と同時に、ガラガラとあかねと珊璞が立っていた空間が崩壊した。周りから壁が消え、再び、乱馬と可崘婆さんの目の前に立っていた。
どうやら、さっきまであかねが居たのは、珊璞が自ら築いた戦闘用の空間だったようだ。
恐らく、珊璞が作り出していた亜空間だったのだろう。
囚われた乱馬と可崘婆さんが居る空間へと、なだれこんだ。
「勝負あったな。あかねの勝ちだ。」
乱馬は可崘へと、得意げに顔を手向けた。
「ううむ…。」
可崘婆さんは、唸りながら、あかねを睨みつけていた。
「勝ったわ…。さあ、乱馬を…返して貰うわ…。」
そう言いながら、あかねは膝を付いた。どうやら、いつもの如く、己の魔力をすっからかんに使い果たしてしまったようだった。彼女が扱っていた召還獣アリスも、いつの間にか消えていた。
ハアハアと肩で息をしながら、床に杖をつ付き垂れて崩れ落ちた。あかねの意識は既に混濁してしまっていた。
「ふふ、ふぉっふぉっふぉっふぉ。バカな娘じゃ。魔法力を微塵も残さず使い切るとは…。」
可崘婆さんの瞳が、怪しく揺らめいた。
つづく
可崘婆さん…あかねに仕掛けるつもりでありますな?
さて、どうする?どうなる?
次回この章の最終話!
(c)Copyright 2000-2009 Ichinose Keiko All
rights reserved.
全ての画像、文献の無断転出転載は禁止いたします。