サイレントムーン
第一話 幻の湖



一、

 あかねは独り歩いていた。

 ここは、都会の喧騒から離れた、深遠なる森の中。
 昼日中だというのに、辺りは薄暗い。 太陽光は山林の底まで届かないからだ。木々が両脇から覆いかぶさり、鬱蒼とした森が続いていた。
 眼下に広がる土塊(つちくれ)は、湿気をたっぷり含んでテカっている。ところどころ剥き出す石には、コケがぎっしりと生えていた。石や岩だけではない。枯れて横たわる木々にも苔は根を張って、深い緑色を浮き立たせている。
 あかねが辿っている道も、岩石が剥き出しになっていたり、枯れ落葉が堆積していたりしていて、かなりの悪路だった。頻繁に人の往来など無いのだろう。かろうじて獣道として成立している感じだった。
 山に慣れていないあかねは、滑って転ばないように細心の注意を払わねばならない。
 滴り落ちてくる汗を、手で拭った。空気はひんやりしているのに、身体は火照って熱い。羽織っているパーカーを脱ぎたい衝動にかられるが、肌を剥き出すのはためらわれた。草木は生い茂っているし、秋とはいえ、まだ虫たちは蠢いている。どんな傷を腕につけてしまうか、わからないから、出来るだけ肌は覆っておく方が良かった。

 ハアハアと少し荒い息を吐き出しながら、先を急ぐ。

 バサバサと鳥たちが羽音を発てて、飛び去って行くのが聞こえた。あかねの傍ではない。少し後方から聞こえた。と、あかねの表情が曇った。

(もう、追いついてきちゃったのね!あいつ!)

 あいつ…。そう、それは、あかねの許婚の乱馬だ。
 父親と姉たちにはめられる形で、許婚にされた、同じ年の男子。
 彼も、あかねと同じ、無差別格闘流の使い手。とはいえ、天道流と早乙女流の違いがある。天道道場を基盤に置いているあかねの流派、天道流とは違い、早乙女流には道場は無い。野山を駆ける野性的な一流派であった。
 幼い頃から父親の玄馬と放浪していた彼には、こんな山の修行など、何の変哲も無いのだ。
 天道家に身を寄せるようになっても、定期的に父親の玄馬と山に修行に行っていた。故に、山道を爆走することなど、お茶の子さいさいだ。足元が悪かろうが、平気でザクザクと駆け抜けてくる。
 あかねとの距離がグングンと縮まっている。

(急がなきゃ!)

 あかねは、再び、走り始めた。ヒタヒタと水気を含んだ音が足元で響く。
 この辺りに身を隠し、忍んで息を潜めた方が得策なのではないかと、脳裏をそんな考えが巡り始めた。
 身を隠してやり過ごすか、それとも、先を急ぐか。二者択一。どちらを取るか、考えながら駆け抜ける。
(このままじゃ、確実に捕まっちゃうわ!)
 乱馬が差し迫って来る気配を感じ取り、だんだん、焦り始める。

 あかねと乱馬は、父親たちの命で、修行を兼ねた鬼ごっこを繰り広げていた。
 鬼は、乱馬だ。そして、彼から逃げているのが、あかねであった。
 ルールは簡単。時間内にあかねを捕まえれば乱馬の勝ち。反対に、捕まえられなければあかねの勝ち。
 あかねが先にこの山道に入った。そして、それを追いかけて、十分後、乱馬が山道へと入った。乱馬の追尾をかわし、乱馬が山に入って二十分間捕まらずに駆け抜けることが、勝利の絶対条件。その間、走り続けるも良し、身を潜めて隠れるのも良し。
 何故、こんな山中に入り、こんなゲームまがいの修行をすることになったかは、ただただ、父親たちの愛の鞭…だった。最近、二人の空気が不穏になっているのを、危惧した父親たちが、無理やり二人を秋山修行に連行したことに端を発している。

 最近の乱馬は至極、機嫌が悪かった。

 現在、二人は、十八歳。つまり、高校三年生。そして、秋…という、これまた複雑な節目の時期を迎えていた。
 高校三年生の秋…つまり、人生の大きな分岐点に立つ時節であった。
 大方が進学という進路を取る、風林館高校。決して賢こどころが揃っている訳ではなく、中の中程度の普通高校だが、猫も杓子も大学へ…という現代。殆どの同級生たちは、大学や専門学校、専修学校への進学へ、面舵を切る。理系、文系、体育系、芸術系、医療系、福祉系…それぞれ多岐にわたってはいるが、友人たちは、こぞって、進学目標に向けて、勉学に勤しみ初めていた。
 あかねも、同級生たちに倣(なら)って、進学へ舵を切った。将来、天道道場を継ぐために必要な学問を学ぼうと思い立った。スポーツ科学系。予備校へ通ってはいなかったが、参考書や問題集をコツコツと解き始めていた。
 あかねの受験勉強が本格化を迎えたのと、乱馬の機嫌がすこぶる悪くなり始めたのと、時節がぴったりと一致する。機嫌の悪さに比例して、何かを考え込んでいることが多くなっていた。
 恐らく、将来のことを、彼なりに真剣に考えているのだろう。
 乱馬が機嫌悪くなると、あかねもまた、心中穏やか…という訳にはいかなくなった。
 つかず離れず…という、絶妙な距離を保っていた二人。…言い換えれば、優柔不断な関係を、だらだらと続けていたのだった。つまり、劇的な進歩はなく、互いの気持ちを知りながら、歩み寄れず、時だけが過ぎていく状態を維持していたのだ。
 呪泉洞の闘い直後の祝言未遂事案。あの後、一時は歩み寄りを見せて、そのまま、くっついてしまうのか…と、周りの家族や友人たちは思ったのである。が…結局、祝言が壊れて流れてしまうと、元の鞘。喧嘩ップルへと立ち戻ってしまったのである。いや、立ち戻ってしまったというより、二人の関係は、あの頃よりも、一歩も二歩も、後退してしまったかもしれない。
 いい雰囲気を醸(かも)し出すどころか、二人寄らば言い合いの喧嘩ップル。端から観察すれば、他愛のない痴話喧嘩の類ではあったが、前よりも、言い合いの度合い、それから、言葉はきつくなっていた。特にこの夏以降は顕著に。
 ここ最近は、乱馬の方が、あかねよりも、言葉遣いも乱雑になっていた。横柄…とは違った、荒んだ雰囲気を際立たせていた。そう、一言で言えば、「不機嫌」そのものだったのである。
 十八歳にもなれば、そろそろ思春期も終わって落ち着いてくるだろうに。乱馬の場合、もっと複雑になっていた。
 乱馬の態度がきつくなったのを受けるように、あかねも、これまた、へそを曲げる事が多くなった。勝気な性分は、乱馬の上を行く天道家の三女。それも、健在だった。
 これでは、カップルに、ロマンスの欠片一つ、生まれよう筈もなく。
 それどころか、二学期に入り、すっかり、険悪モードになってしまったのであった。

 つい先ごろまでは、乱馬は無差別格闘のプロ世界へと突き進むことだけを決めている…そんな感じであった。昨今の格闘ブームに乗りかかるように、数多の体育系の大学から推薦入学の引き合いが来ていたが、当人はそれに甘んじるつもりも無い様子であった。
 二学期に入ると、乱馬の入学を所望してくる学校が、名を連ねた。無差別格闘技の夏季大会の圧倒的強さが世間の目を引いたからだ。
 当人もこれには、困惑していたが、その数の多さに、あかねが、『推薦入学も考えてみたら…。』と軽く言葉を投げたら、『ほっとけ!』と一喝された。その言い方があんまりに乱暴だったので、案の定大喧嘩の発展してしまったのである。
『あんたの将来のことを心配して言ってあげているのに!』
『俺の将来じゃなくて、てめーの将来のこと考えろ!バカ!』
『あたしは大方決めたわよ!それに向かって努力はしているつもりよ。でも、あんたは、全然何も考えていないじゃない!』
 つい、直情的に言葉が漏れ出てしまった。
『うるせー!大学行ったからって。格闘家としての道が拓ける訳じゃねーだろが!強い者が上にのし上がっていく世界なんだ!おめーだって、弱っちいとはいえ。無差別格闘に身を置いてんだ。わからねーわけじゃあるめー!』
 「弱っちい」という形容に、プツンと切れてしまった、あかね。
『大学進学を一つの選択肢として考えてみたらって、言っただけよ!あたしは。』
『だから、それが、余計だっつーんだ!自分のことは自分で考えらあ!』
 激しい言葉の応酬が続き、乱馬はフイッとあかねの前から身を翻して、消えた。
 あかねからしてみれば、「逃げた」ように見えた。

 あれから半月。乱馬とは、ほとんどしゃべらない状態が、続いていた。
 学校はもちろんのこと、家でもだ。
 天道家にも、二人の喧嘩のせいで、トゲトゲとした空気が流れていた。
 かすみやなびき、それから、のどかといった女性陣は、『この二人の喧嘩は犬も食わない』的にとらえていて、二人がどれだけ険悪モードに突入していようと、またか…といわんばかり「無視」を決め込んでいた。 
「あえて、何事も起こっていない…というふりをして接する…」に徹していた。つまり、扱い方に長けていたのである。
 が、父親たちの男性陣は、女性陣のように「どっしりと構えていられる」ほど冷静にはなれなかった。 せっかくいい雰囲気を出し始めた二人が、大喧嘩をしているこの状況。このまま放っておけば、元の木阿弥、反目しあっていた最初の頃へと戻ってしまうのではないかという、不安を抱いたのである。
 故に、「修行に連れて行って、再び仲良くなるように仕向けよう作戦」なるものを企てたのである。その結果が、秋山修行。
 有無も言わさず、連れ出された。しかも、乱馬と一緒に。
 心の片隅に、山の中で修行すれば、少しは乱馬と氷解できるかもしれない。そんな甘い見通しがあかねにあったことも事実だ。そろそろ、ツン慳貪(けんどん)とした状況を打開すべきなのかとも思ったが、己から折れる術は持ち合わせていない。恐らく、乱馬も同じであろう。
 とにかく、似た者同士なのである。乱馬もあかねも。それは、重々承知していた。
 とはいえ、当たり前のことであるが、父親たちの目論見どおり、急速に仲直り出きる筈もない。あかねも乱馬も己から折れる性分ではないからだ。
 乱馬は始終、自分の父の玄馬に、「女連れで修行なんかできるか!」と文句を言っていたし、「あんただって半分女の変態じゃない!」とあかねの反撃的な口攻撃も緩まなかった。
 不穏な空気だけが、二人に流れていて、山の澄んだ空気も濁りそうだった。身体を動かせば、それでも何とかなるのではないか…そう思った父親たちが、この「かくれんぼ兼鬼ごっこ」修行を提案したのであった。
 あかねにも、恐らく乱馬にも、迷惑千万な提案であった。


(とにかく、急がなきゃ。このまま、つかまって、たまるもんですか!)
 あかねは、転ぶリスクを飲み込んだ上で、スピードを上げた。
 と、何かが膝下にまとわりついた気がした。紐か何かを引っかけたような違和感。
「と…ととと…。」
 足元がぐらついて、転びかけたのを、傍に生えていた木に手をついて、かろうじて難を逃れた。その気が無ければ、すっ転んでいたかもしれない。
 何につまずいたのかと、足元を見ると、少し赤みを帯びたつる草が右の膝下に絡みついていた。
 そいつを引きはがそうと、つるを掴み力を入れる。ブチッと草を引きちぎったと同時に、チッと右手首のすぐ下辺りに痛みが走った。どうやら、草を引きちぎった反動で、草のトゲが突き刺さったようだった。
「痛っ!」
 見ると、少し血が、したたり落ちている。が、ここは、山の中。追いかけっこの真っ最中。
「後で、戻って消毒したらいいわよね。先を急がなきゃ。」
 背後からは乱馬の気配が近づいてくる。ちょっとの時間ロスは、重大な失態になりかねない。
 気を取りなおして、再び駆け出そうとしたとき、突然、ヒョオッっと、風が正面から吹き抜けて来る。

 ゴォォォ…。

 思わず、足を踏ん張りつつ、両手を目の前に翳し、瞳を閉じる。息をもつかせない勢いの風が、真正面から吹き抜けて行く。数秒間という時間が長く感じられた。その間、殆ど息ができなかった。
 風音が止んだと同時に、顔を上げると、道が二股に分かれていることに気付いた。
 一つは、歩くのにやっとの細い道。一つは、それより少し太い道。 
(あれ?道が分かれているなんて、聞いてないけど…。)
 修行ポイントとして、この山をよく知っている乱馬の父、早乙女玄馬は、この先は一本道で、迷う心配はないと言い切っていた。なのに、分岐しているのは、どうしたことか。
(どっちが地図の道なんだろう…。)
 分岐点に立って、首をかしげながら、懐から貰った地図を取り出して見る。ちゃんとした印刷の地図だ。恐らく、国土地理院発行の物を基盤にしてある地図だろう。
 もちろん、目的地まで、二股に別れてはいない。
 と、瞳に、地図の書かれた年度が目に入った。二十年近く悠に経って居る。つまり、古い。
(これ以降に新しい道がついちゃったのかしらね…。)
 苦笑いを浮かべつつも、どうしようかと、しばし考えた。
 太い方の道を行くのが理に適っている…そう判断した。細い方の道より太い道の方が、往来が多いと思ったからだ。
(この地図に載っているのは多分、太い方の道よね。)
 そう思ったあかねは、太い道を選んで、先を急ぐことにした。道は山肌を縫うように、真っすぐに続いていた。

(さっきまで辿って来た道よりは歩きやすいわ。小石も少ないし。これならば、スピードを上げられる。)
 ひたすら前へ前へと駆けた。
 しばらく行くと、靄(もや)が出てきた。山中である。ある程度、霧や靄が立つのは仕方がない。
 それでも、道が隠れてしまうほどの深さではない。そのまま、気にも留めず、先を急ぐと、少し緩やかな傾斜が眼下に広がっていることに気付いた。
 さっきまで生い茂るように迫っていた高木の木々は、すっかりと、なりを潜めている。いや、そればかりではない。辺りの土塊(つちくれ)は、かなり水を含んでいるようだった。テカテカと、所々天上から降り注ぐ太陽を受けて光っている。つい、先ごろまで、水が漬いていたようにも思える。木が生い茂っていない上、苔がびっしりと足元に生えている。
 どうやら、低い谷の底のような場所に出てしまったようだ。湿度がこの底に溜まって抜けようがない。そんな感じだった。 
 この、湿気溜まりの谷底のせいで、靄がかかっているのだろう。
 富士山系に連なるこの山中では、そこかしこから、湧き水が染み出していて、思わぬ水源にぶるつかることもある。湧いては消えていく、そんな水源も多いだろう。従って、地図に無き池も存在していても、不思議はない。少々、水気を含んだ道のせいで靴が汚れるのは仕方がないとして、足跡がくっきりと浮き上がるのは、少々困りものだと思った。

 進んで行くと、だんだんに、靄(もや)が濃くなってきた。

(二股に分かれていたところまで、戻った方がいいのかなあ…。)
 少し不安にかられた。
 が、このまま戻ると、迫って来る乱馬と鉢合わせになる可能性も高い。
 負けるのは嫌だ。引き返すという選択は出来ないと思った。
 ふと、ズボンのポケットからズトップウオッチを取り出して見た。あかねの勝ちまであと十分だ。十分間、彼の追撃をかわせば、この勝負、あかねの勝ちとなる。勝って乱馬を見返してやりたい気持ちが、グングンと強くなって行く。
(この靄(もや)利用して隠れる…っていう選択肢もあるわね。)
 冷静になって、考える。この靄。天が味方しているのかもしれないと思った。
 山には隠れるところがたくさんあるようで、実は、そうでもない。あまり道から外れてしまうと、遭難しかねない。それは、父親たちに口を酸っぱくなるまで言い含められていた。特に玄馬はうるさかった。せいぜい道を外れても数十メートルだよ、と、言い含められていた。
 追っ手は、乱馬だ。あかねの気配が絶えたことを察すると、辺りをくまなく探し始めるに決まっている。が、この靄を利用して、どこかに身を隠せば、タイムアウトでゲーム―セットに持ち込めるかもしれない。
(このまま、気を垂れ流して先を急ぐより、ダメ元で隠れてみるのも一考よね。よーし!)
 「隠れる」という結論に達したあかねは、辺りをキョロキョロと見回した。身をひそめられそうな場所を探し始めたのだ。
 と、靄の少し先に、見え隠れする大きな岩を見つけた。その足元には、上手い具合に、人が潜めそうな割れ目がある。ゆっくり、足元を確かめながら、その岩の方向へと進む。
 と、少しばかり、高低差がある崖が、あかねと岩の間に、横たわっているのが、わかった。靄の中、飛び降りるのは危険だ。

(どうにかして、あそこまで降りられないかしら…。)
 思案を巡らせ始めた。



二、

 どうしたものかと、迷ったあかね。

 恐る恐る、段差のある辺りから、そっと、低い姿勢で身を乗り出して、下を覗き込んだ。
 足元は、足場が悪そうであった。草が生い茂っているし、石もゴロゴロ落ちている様子が上から見えた。柔らかな土なら、トンと軽く着地できるだろうが、この殺伐した感じだと、足をくじきかねない。
 ならば、崖下まで降りて行く、道はないだろうか。そう思って、辺りを見渡した。
 と、階段のように、石段がその岩に向かって設えてあるのが、少し先に見えた。
 見間違いかと思ったが、そうでもなさげだった。しめた、と思って、道へ取って返し、石段のある辺りまで駆けていく。
 辿りついてみると、小さな石段があった。石段というには、あまりに不ぞろいだが、ここを下りて行けば、岩のところまで行ける。そう判断した。
 靄に包まれて、辺りは白んでいるが、足元が全く見えない訳ではない。あかねは、石段へと、恐る恐る足を乗せた。水分がついて、滑りやすくなっている。転べば、尻もちをつくのは必定。及び腰になりながら、ゆっくりと、でも、確実に下へと降りて行った。
 
 日本には古来から山岳信仰というものがある。山王権現(さんのうごんげん)や大山津見神(おおやまつみのかみ)への信仰などがそれにあてはまる。大自然そのものが八百万(やおよろず)の神々として崇められる対象でもあった。ここは、不死の山とあがめられてきた、富士山にも近い。大岩も磐座(いわくら)として信仰の対象にもなることもある。
 恐らく、この岩も、その類なのかもしれない。
 特に注連縄が張ってあるとか、土器(かわらけ)が散らばっているとか、そういう痕跡はなかったが、どことなく、存在感がある大岩だった。
 順調に降りて行ったのだが、最後の最後で壁にぶち当たった。石段状の段々が、途中でふっつりと途切れていたのである。
 あと、高さにして、一メートル半ほど。つまり、己の身長より少し低いくらいの高さだった。足場さえ良ければ、容易に飛び降りられる高さだ。だが、着地点はゴロゴロした石ころだらけだった。これでは、着地に失敗する確率が高い。飛び降りるのは危険だ。
 どうしようと、思案していると、それが目に入ったてきた。
 つる草。
 崖の側面から根を張っていた、つる草だった。それも、根が太い。あかねくらいの体重ならなら、軽々と支えてくれそうな感じだった。
 そろそろ、乱馬は追いついてくるだろう。彼が到達する前に、岩に隠れなければ、万事休す。
 うだうだ、迷っている暇は無い。
 つる草は、あかねを誘惑するように、目の前で揺れて誘っている。
「一か八か。女は度胸よ。」
 そう思ったあかねは、えいっと、つる草へと手を伸ばした。
 つる草に掴みかかり、そのまま、それを中継して、下へ飛び降りよう。そう思って、手に取った。
 と、ブワッと何か衝撃波のような波動がつる草を伝ってきたような気がした。あかねに触れられて、一瞬、ズルッとつる草全体が戦慄いたような。
「え?」
 と、いきなり、ツルがいくつか伸びて来て、あかねの胴に巻きついたのだった。

 ザザザッ!
 草と草が擦れた音がしたと思った瞬間、俄かに、上空へと引っ張られた。
 腰から絡んだつる草に、宙づりにされて、空に浮いたのである。足はもちろん、地面から離れていた。
 ズルズルと音がして、あかねの胴から伸びたつる草が、腕や足へと、縦横に絡みついてくる。まるで、意志を持ったかのように、つる草があかねの身体を絡めとって行く。
「え?何、これ!」
 あれよあれよという間に、つる草に絡みとられて、身動きが取れなくなってしまった。

「あんた、あたしをどうするつもりなの?」
 思わずそんな言葉を、つる草に向けて、発していた。

 ドクン!

 と、あかねの問いかけに答えるように、つる草が脈動した。
 グッと、巻きついたつる草の束縛が強くなったように感じた。そればかりではない。あかねが掴んだ緑色のつる草が、妖艶な赤みを帯びた色に変色し始める。つる草だと思っていたものが、自然物ではなく、電線ケーブルの形状をした人造物のような物質へと変化していくではないか。じわりじわり、緑が赤褐色へと変色していく。
「放してよ!放しなさいよ!」
 そう叫びながら、身体をよじった。が、状況は何も変わらない。足掻けば足掻くほど、つるはあかねの身体へときつく巻きついてくる。キチキチと小さな乾いた音が、つるからしなって聞こえた。
 と、あかねは、つる草がある方向へと、誘っていこうとしていることに気づいた。ズルズルと一定の方向へと、蠢いていることに気が付いたのだ。あまり、いい眺めではなかった。
 いったい、どこへ誘うつもりなのか。つるの動く先を見据えて、ギョッとした。あかねが身を隠そうとした、岩の割れ目へと動いている。
 よく見ると、そこには、人間が一人すっぽりと入ろうかという穴が開いていた。つる草はそこからも幾本か伸びていて、こへ、じわじわと引きずりこもうとしているのが、ありありとわかった。

『ふふふ…捕まえた!』
 と、穴の中から、女性の声がした。
 エコーがかった不思議な声だった。
『おいで…。この中に…。』

 何か、得体の知れない、恐怖が俄かに沸き上がって来た。普通の娘なら、ここで気を失ってしまったのかもしれないが、グッと、その恐怖心を心の奥底に封じ込める。
 己は、武道家の端くれ。このまま飲まれては、天道道場跡取り娘の名が廃(すた)る。
「嫌よ!あんたの、いいようにされて、たまるもんですか!」 
 グッと思い切り丹田に気合を入れて、そこへ、闘気を集め始めた。最近になって、あかねは、気弾の修行を始めていた。乱馬や良牙のような激しい気弾は扱えないにしても、つるを引きちぎることぐらいは、できるかもしれない。その可能性に賭けたのである。
「行くわよっ!」
 あかねは丹田へ貯めた気を、つるが絡まりついた右手に集中させて、解き放とうとした。
 だが、あいにく、それよりも一瞬早く、つるが躍動した。

 バシッ!

 何か異様な力、電極のような衝撃波が、つるの表面から発せられたのである。
 それは、一瞬の出来事だった。あかねが貯めた気を奪ったばかりか、身体から力がこそげ落ちるのを、俄かに感じ取った。

『無駄だよ。この蔓は、人の発する気が好物だからね。諦めて、大人しく、こちらにおいで…。』
 女の声が響き渡った。

「いやああああ!」
 次の瞬間、声を限りに叫んでいた。

 あかねの叫び声が、山の中に、轟き渡る。

 力を失ったあかねは、だらりと、手足を枝垂れた。「抵抗」という言葉は、今、つるに放たれた衝撃波で、削げ落ちてしまった。いや、抵抗したくても、力が湧いて来なかったのである。拳を握りしめることすらできない。
 薄らいでいく意識。
 無抵抗になったあかねを、ゆっくりと、岩の割れ目へと引きずりこんで行く得体の知れない蔓状の物体。
(こいつ…一体何?何の目的であたしを引きずりこむの?)
 大岩がギチチと音を発てるのを、薄れ行く意識の下で聞いた。光を失っていく瞳に、割れ目が大きく開いていく様が見えた。まるであかねを、食らおうと、割れ目がぽっかりと大口を開く。その口辺り。細々(こまごま)とした、光の粒が見えた。それは岩肌ではなく、明らかに人の手で造られたもの。そう、機械的部品の塊。生物や岩石物ではない。

『乱馬…助けて…。』
 薄れ行く意識の下で、許婚の名を呼んだ。



三、

 ザワザワと頭上で木々の枝葉が大きく揺れた。
 大きな影が、真っすぐにこちらへ落下してくる気配を感じた。
 肩を掴まれ、グイッと大きく背中側に引き戻された。岩の割れ目から少し身体が遠のくのが、感覚的にわかった。
 再び、空へと舞い上がる肢体。だが、今度は釣り上げられたのではなく、抱きかかえられていた。逞しい腕、盛り上がった筋肉。衣服の上からあかねを守るように抱えこみ、ドオンと反対側の手で気を破裂させる。その反動で、難なく着地したようだった。
 こんな芸当を難なくこなして見せる奴は、ただ一人、彼しかいない。
 あかねの頬に、おさげ髪が当たって止まった。

 そいつは、無事に着地して見せると、ふうっと一つ、大きな溜息を吐き出した。
 一瞬、柔らかな気が流れ込んで来た…と思ったが、すぐに、その気が荒々しくなった。

「たく…。何やってんだよ!こんなところで。」
 低い声が耳元で響き渡る。
 抱きとめたあかねを、睨みつけてくる険しい瞳。
 その声に、飛びかけた意識が、すぐさま、浮き上がった。が、咄嗟に、今しがた自分の身に起きた異変のことは、思考から抜け落ちていた。
 言い返そうと身構えた時、すぐ上でそいつは怒鳴った。
「あれほど、道を大きく反れるなって、親父たちに言い含められてたんじゃねーのかよ!」
 と、そいつは強く言い放って来た。乱馬だった。
「あのねー、あたしは、ルートから五メートルも離れて居ないわよ。」
 と、抱きとめられた腕の中から、強い口調で言い返す。
「五メートルだあ?何寝ぼけてやがる!」
 すぐに、怒声が飛んできた。
「寝ぼけてなんかいないわよ!」
「百メートル以上離れてるぜ!」
「百メートル?そんなはずないわ!」
「離れてる!」
「離れて無いわ!」
「じゃあ聴くが、あそこから降りてツタを伝って降りようとしていたのかよ?」
 そう言いながら、乱馬は、斜面の上を見上げる。一緒に顔を上げたあかねは、えっと表情を変えた。
 ほんの数メートル、地図上の道から外れて、石段を降りてこの岩へと辿ったと思っていたのに。すぐ頭上に、切り立った崖が見えて、驚いたのだった。上が見えない。多分、数十メートルは軽くある。
「嘘…。」
 思わず、声を飲んだあかね。あんなに高いところから下った覚えはない。
「おまえなあ…。あそこからつる草を使って、降りようとして、しくじったんだろ?いくらなんでも無茶しすぎだぜ!」
 決めつけるように、飛んでくる乱馬の怒声。
「違うわ。」
「違わねーだろ!その手や寸胴に絡みついたつる草が、動かぬ証拠じゃねーか!」
 乱馬があかねの右手と、それから胴回りをビシッと右手で指しながら言い切った。
 その言葉に、ハッとして、右手を見た。と、絡まりついていた赤褐色の人造物は姿を消し、再び、緑のつる草へと戻っていた。右手だけではない、胴回りに巻きついているのも、つる草だった。
「つる草?つる草に…戻ってる?」
 あかねの瞳は見開いた。今しがたまで己を縛っていた、人造物は、つる草に戻っているではないか。
「何、寝ぼけてやがる!」
 あかねが不可思議な言葉を吐きだしたので、乱馬は、少しイラッとした声をたぎらせた。
「そいつを手繰って、下に降りようとして、宙づりになったんだろ?」
 怒った口調で責め立てられる。

『つる草だと思っていたのが、不可思議な人造物で、女の人の声が響いて来て、岩の割れ目へと引きずり込まれかけた…。』だの、言える雰囲気ではなかった。そんなことを口にしようものなら、『何訳の分かんねえこと言ってんだ!』ともっとブチ切れられるのは目に見えている。

(荒い言葉を吐きつけられても、ここは黙っている方がいいのかもしれない…。あれは、幻だったのかもしれないし…。)
 そう、思ってグッと言葉を喉の奥に飲み込んだ時、乱馬が動いた。

「俺が近くに居たから良かったものの…。おめーの悲鳴が聞こえたから、ここまで駆けて来たんだ。あのままだと、つる草が切れて、あの岩に打ち付けられてたかもしれねーんだぞ!わかってんのか!こらっ!」
 激しく罵りながら、あかねの身体をグッと抱きしめた。
「乱馬?」
 ギュッと二の腕に力が籠るのを感じ取った。
 この不器用男は、あかねの無事に心から安堵したようだ。
「たく…無茶も大概にしやがれ!バカっ!」
 まだ言い足りないのだろう。そんな言葉が乱馬の口から溢れ出てくる。口が悪いが、心底、心配してくれているのが、ありありとわかった。
「ありがとう、乱馬…。助けてくれて。」
 次の瞬間、ささくれだった心は緩んだ。素直に口を吐いて流れ出た感謝の言葉。
「お…おう。その代わり、この勝負は、俺の勝ちだからな。」
 照れ隠しか、そんな明後日の方向を向いた文言が口から流れてくる。思わずクスッとあかねは笑った。こんなところでも、勝ちを強調する彼が可笑しかった。いや、乱馬らしいと思ったのだ。
「いいわよ…。助けてくれたし。あんたの勝ちで…。」
「じゃ…とっとと、戻ろうぜ。親父たちが余計な詮索するのも、嫌だからな。」
「余計な詮索って?」
「だあ!あまり深く追求すんな!ほれ、とっとと歩け。」
 そう、促されて、二の足を動かそうとして、ツンと痛みが走った。
「痛っ!」
 右足首あたりに、激痛が走ったのである。
「もしかして、足、くじいたのか?」
「うん…。そうみたい。でも、大丈夫、歩けるわ。」
 乱馬は、乗っかれと言わんばかりに背中を差し出した。
「ほれ、乗っかれ!」
「え?」
「いーから、負ぶされよ。足、くじいたんだろ?」
「でも…。」
「大丈夫。どんだけ重くても、おめーひとりくらい背負っていけらあ!」
「あんたさー、もうちょっと気の利いた口の利き方できないの?あたしがおデブさんだとでも言いたいの?」
 少し頬を膨らませたあかね。
「いーから、人の好意は素直に受けろ!」
 半ば強制的に、背中へと誘(いざな)われた。

 ここは山の中。二人きりの空間。遠慮する方が返って、はばかられる。それに、強がってはいたものの、かなりの痛みを足に感じていた。痺れるように、ジンジンする。

「ありがと…。」
 あかねは、乱馬の広い背中へと身を預けた。
 あかねを背中に負ぶさったまま、つる草を掴み、上に上がるのは少し危険だ。そう判断した乱馬は、斜面の下を歩いて戻ることを選んだのだった。この山は、幼き頃から、良く父親と修行で駆け、慣れている。大体の地形は頭の中に入っているようだった。
「にしても、かなり縦走路から外れたなあ。」
 と吐きだした。
「あんたが言うほど、外れたつもりは無いんだけど…。」
 背中からあかねが、吐きだした。
「かなり外れてんだよ。まー、いーや。この下にも獣道はついてるから。」
 そう言いながら、進んでいくと、乱馬が言うように、細い獣道に当たった。
「あんた、さすがに、この山のこと、良く知っているのね。」
「そりゃあ、当たり前だ。親父と幼いころから幾度も入った山だからな。」
「そっか、だから、全速力で駆けてこられる訳かぁ。」
 ふうっと、あかねは息を吐きだした。
「俺が気配を感じ取れたからよかったものの…。もう少し離れて居たら、慣れていても、無事に助けられたかどうかはわからねーぞ。」
と、ムスッとした口調で答え返して来た乱馬だった。。
「ねえ…乱馬。あんた、やっぱりあたしの位置、わかっていたの?」
「ああ…だいたいな。おまえ、気を垂れ流して走っていたし…。」
「悪かったわね…。垂れ流しっぱなしで走ってて。」
 今度はあかねがムスッとする番だった。
「まあ、結果往来だ。おめーが気を垂れ流してたから、位置を掴めて、何とかなったんだし…。それにしても、この辺り、池のあった痕跡があるの…初めて知ったぜ。」
 と言いだした。
「池の有った痕跡?」
「ああ…。ほれ…高木が全然ねーだろ?それに、足元もじゅるじゅるだ。湧き水も染み出してる。もしかすると、雪解けん時や梅雨の時期は、池…というか、水溜りになる場所なのかもしれねーな。」
「この山の獣道もつぶさに知っているあんたでも、知らないことはあるの?」
「あるさ。ここは、樹海にも近いところだから、あんまり外れるなって、親父にも言われているしよー。上の方は毎度足を踏み入れるが、下の方に足を踏み入れたのは、結構、久しぶりだからな。」
「ふーん…。」
「下の方は禁足地(きんそくち)らしいから、あんまり行くなって言われてたしよー。」
「禁足地?」
 耳慣れない言葉に、思わずきびすを返して、問い質していた。
「入っちゃなんねー土地なんだそうだ。」
「何で?」
「ま、山の神様に絡んでのことだと思うぜ。宇宙湖(うつのうみ)たらいう彷徨える湖が出ることがあって、そこに足を踏み入れたら最後、戻って来られねーとかいう言い伝えみてーなもんが、昔から語り継がれているんだとよ。」
「うつのうみ?変な名前の湖ね。ウツにでもなるのかしら…。」
「そっちのウツじゃねーよ。宇宙の湖って書いて、(うつのうみ)って読むそうなんだ。」
「宇宙?空の?」
「ああ…。」
「何で、そんな名前なんだろ…。」
「さーね。そんなこと、俺が知る訳もねーだろ?」
「富士山のふもとって、水が豊富だかしな。地下水脈が滾々と流れてるとも言われてるし…。」
「じゃあ、あの池も、そんな一つなのかしら?」
 あかねが背中から促した先の木立から、小さな池が、姿を現した。
「あれが、宇宙湖だったりして…。」
「違うよ。あれは、昔からあった池だ。」
 乱馬はそう言って笑った。
「なんていう名前の池なの?」
「さあね。俺や親父は、心臓池と呼んでる。」
「心臓池?変な名前ね。」
「上の道へ戻って、池の全景を見たら納得すると思うぜ。」
 そう言いながら、進む獣道は傾斜に差し掛かっていた。乱馬はあかねを背負ったまま、ゆっくりと登って行く。
「この辺りまで来たら見えるだろ?見てみろよ。」
 そう言って、池の方向を促した。

「あ…。」

 乱馬に言われて、池の全景を見た、あかねの瞳が見開かれて行く。

「なるほど、ハートの形をしているのね!」
「そー。ハートの形をしてっから、心臓池だ。」

 少しイビツだが、その池は、ハートの形をしていたのだ。空の色と森の色が混ざり合い、澄んだ青色をしている。

「どうせなら、ハート池と呼んだ方がロマンがあっていいのに…。」
「言っとくが、心臓池って名付けたのは、親父だからな。俺じゃねーぞ。」
「夕日に染まったら、紅くなるのかなあ…。」
 そう言いながら、背中で嬉しそうに笑うあかね。
「夕方まで居たら、親父たちに何て言われるかわかんねーぞ。」
「そーね。そーだよね。でも機会があれば、真っ赤に染まったハートの湖面…見てみたいね、二人で。」
「だな…もうちょっと、大人になったら…ゆっくり来ようか。」
「約束よ。」
「ああ…。約束だ。」
 二人、湖を下に見下ろして、そんな言葉を交わし合った。
 穏やかな幸せが、それぞれの心に満ちてくるような気がした。
 ハート型の池と、美しい青い水面と。

 暫く進むと、背負ったあかねが眠ってしまったようで、スース―と吐息がこぼれてきた。

「たく…俺に背負わせておいて…お気楽な奴だなあ。」
 ふうっと肩の力を抜いて、立ち止まる。
 今は、背中に浸透してくる、あかねのぬくもりが、愛おしく思えた。眼下にはハートの形をした湖が二人を見送る。

「いつか…また、来ようぜ。二人で…一緒に…。」
 心の中で、吐き出しながら、乱馬は、父親たちが待つポイントへと向かって、ゆっくりと歩み始めた。





 第一話でこのボリューム…。書きなおすこと数回。かかった日数、二日。これで何とかスタートできたから、後は粛々と書き進めるだけ…。と言いながら、完成直前の今も、いじくってる状況です。おためしに入れていた初稿とかなり変わりました。(初稿・2017.09.22)
 なんとか、散らばった伏線も回収できて、納得いくような形で終われるめどがったったので、公開させていただきます。
 ピクシブには「前編」「中編」「後編」の三部構成でアップしていく予定です。
 で、書くにあたって、色々下調べしていると、つる草の中に、「ヘクソカズラ」という情けのない名前がついた和草を見つけたました。アカネ科ヘクソカズラ…別名「サオトメハナ」。ヘクソカズラは千切るとちょっとそういう匂いがつくからそう命名されたとか。で、たわわにつける、花が田植えの時期に乙女たちがかぶる傘に似ているから、そう命名されたとか…。
 アカネ科のサオトメハナ…なんか、乱あ的だと、嬉しくなった私でありましたとさ。
 千切る(契る)と臭い腐れ縁か(やめいっ!)

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