この第六話と次の第七話はちょっと内容的にどきついですので、閲覧にはご注意を。
そちら方面の描写が苦手な方は読み飛ばしてください。


第六話 島の夜語り

一、

「碧さん、結局戻って来なかったわねえ…。」
 夕食時になっても、碧は戻って来なかった。
「気になって、さっき、部屋へ行ってみたんやけど…。ノックしても音沙汰なしやったわ。」
 桃代が答えた。
「その代わり、あの、ガキは戻ってきたけどな、」
 と、乱馬が傍らを見た。
 そこには、凛華がちょこんと座っていた。
「もう大丈夫なの?凛華ちゃん。」
 隣に座っていたあかねが、声をかけた。
「はい。大丈夫です!凛華、たくさん寝たらすっかり元気になっちゃた!」
 と張りの有る声で答えが返って来る。
「おいおい、昼と晩が逆になった…なんてことねーだろうなあ?この、不良ガキンチョ…。」
 と乱馬が言えば、
「あんたさあ!もっとマシな言葉使いなさいよ!」
 とあかねが受け答える。

「碧様にはわたくしが、後で食事を部屋まで届けますから、皆様は、先に召し上がってください。今夜の料理は、次郎太様にお手伝いいただきました、新鮮な魚の活け作りでございますよ。」
 と、立浪がずらっと並べられた料理をさして言った。
「新鮮な海の幸の漁師盛りだあっ!ほれっ!たらふく食ってくれっ!」
 立浪の横で次郎太が威勢良く言った。

「すっごーい!」
 あかねが歓声をあげれば、桃代がため息を吐きながら言う。
「お造りのてんこ盛りやんかあ!」
「お造りって何?」
 桃代の言葉に疑問を持った、凛華が突っ込めば、
「刺身の上方語、関西方面の言葉よ。」
 と鈴音婆さんがにっこりと説明する。
 この場に居ない人のことは、すっかり忘れて、賑やかな夕食の始まりだった。
 給仕に当たるメイドが一人欠けるも、次郎太が加わった事で、影響は全くなかったようだ。
 
「こりこりして美味しいーっ!」
 娘たちは歓声をあげて喜んでいる。
「夏場じゃなかったら、カニやクエがたんと獲れるんだがなあ…。夏場は生憎、シーズンじゃねえから。」
「なら、冬場に来たら、幻の魚、クエとか食べられるの?」
「ああ、十月以降ならな。ま、今はスズキとか穴子が旨いぜ。」
 漁師らしいアドバイスなども入る。
「お酒が弾むわあ…。あ、未成年の君たちは酒はダメよ!」
 と橙子が笑う。

 新鮮な魚を堪能したその後は、ゆっくりとした団欒。
 時間が経過すると共に、だんだん、慣れてきた。
 夕食が終わっても、まだ、眠るには時間がある。それぞれ、部屋に帰っても何もすることはない。一同、食堂でもある一階のラウンジに集って、四方山話へと高じはじめた。
 ここに集うのは、眠っているという碧以外のメンバー。
 大学生の千秋と桃代、OLの橙子に小学生の凛華。そして、次郎太と蒼太に乱馬とあかねの八名だ。
 外は昼間から崩れたまんまの雨。すっかり、天気はぐずついてしまった。その上、まだ、不安定らしく、時折、稲光が窓から差してくる。
 あまり、小気味の良い雰囲気ではない。
 場末のリゾート地。館内もシンと静まり返る。
 このような場を盛り上げる、夏の定番と言えば、怪談だろう。
 誰彼となく、恐い話へと話題が転じた。
 さすがに、居た堪れなくなったのか、小学生の凛華が挫折してメイドを伴って、先に部屋に戻った以外は、皆、どっしりと腰を据えて話に興じた。

「何か、こういう場所だと、雰囲気があるわねえ…。話にも迫力ってのが、出てくるわあ…。」
 千秋が少しびびりながら言った。あかねも、こういう話は好きではあるが、決して得意ではない。が、桃代や橙子はこの手の話をするのが好きらしく、己の経験やら友人からの又聞き、或いは創作など交えて、面白おかしく、順繰りに聞かせてくれる。それが、また、上手いのだ。
 橙子は関東風味、桃代は関西風味。それぞれの言語形態に会った語り口で、様々、語ってくれる。他のメンバーはもっぱら、聞き手に回っていた。
 あかねは、この二人の口から話される、怪奇現象や不思議現象の話に、いちいち反応して、びくついている。それを、横から支えようと、蒼太が出張ってくるのを、乱馬は押さえようと躍起になっている。蒼太が居なければ、あかねに対して嫌がらせの一つも面白がってやる彼であるが、今宵は冗談すら出す余裕がないのだ。
 あかねの攻防を意識した時間が、ゆっくりと進んでいく。

「そういえば、この辺りも有名な伝説があったわねえ…。」
 と、徐に、鈴音婆さんが切り出した。隣の次郎太に、確認するように目配せする。
「え?何か、伝説があるんですか?」
 あかねの目が輝いた。
「あるにはあるねえ…。」
 次郎太がウンウンと頷いた。
「どんな伝説です?」
 あかねがわくわくした目つきで、次郎太に話をせがんだ。
「この辺り、若狭の怪奇譚といえば、八百比丘尼(やおびくに)が有名だな。」
「八百比丘尼?」
「あ、私、知ってるわ。八百年生きた尼さんの話でしょ?」
 と千秋が言った。
「ああ、その通り、八百比丘尼と書いて「やおびくに」と読む事が多いな。異説もあって「はっぴゃくびくに」と読ませることもある。で、比丘尼とは尼僧のことだ。君が言うように八百年生きた尼さんの話だよ。」
「八百年も生きた?神様じゃあるめえし…。」
 乱馬がふつっと言葉を区切った。
「あら、結構、この八百比丘尼の話は全国津々浦々、伝えられているのよ。私、この手の話、好きだから、結構、知ってるの。夏休みの宿題レポートのテーマにでもしようかなって…。」
 と千秋が言った。
「宿題のレポートねえ…。もしかして、千秋さん、文学部なん?」
 桃代が尋ねた。
「ええ。史学科よ。で、民俗学は外せない分野でねえ…。そっちの授業の夏休みの宿題が、伝説を調べる…ってのがあるの。」
「で?その八百比丘尼ってのは、どんな奴なんだ?」
 乱馬が尋ねる。
「人魚の肉を口にしたばっかりに、死ぬ事が出来なくなった若い娘だよ。」
 次郎太が答えた。
「人魚だってえ?」
「あら、人魚の存在の是非はともかくとして、人魚の肉は不老不死の妙薬って、昔から相場が決まってるのよ。人魚の肉を食べた者は、歳をとらず、己から死ぬ事はできないってね…。」
「へえ…。人魚の肉は若返りの妙薬か…。」
 乱馬の言葉に、千秋が苦笑いしながら、言った。
「別に、若返りの妙薬って訳じゃないわよ。人魚の肉を食べた時点の年齢で老化が止まるというか…。」
「なら、婆さんが人魚の肉を食ったら、婆さんのまんま、死なずに歳を重ねていくってか?」
「そ、そういうことになるかしら…。」
 乱馬と千秋の問答に、あかねが横から突っついた。
「たく…。何横から水差してるのよ。黙って訊きなさいよ!」
 と乱馬を嗜める。
「でも、気になるじゃねーか。」
「気になるって言ったって、伝説でしょう?もう、いちいち、そうやって突っ込み入れるんじゃないの!話が進まないじゃないの!」
「わーったよ!黙ってるよ!」
「じゃ、話すよ?良いかい?」
 次郎太が苦笑いしながら、続けた。

「昔、奈良時代くらいのことかなあ、この辺りの豪族の娘が人魚の肉を過って食べたそうだ。己から食べたのか、人に食べさせれられたのか、それはわからないが、とにかく、人魚の肉を食べた。で、その娘は人魚の肉を食らって以来、歳をとらなくなったそうだ。」
 次郎太がポツポツと話し始めた。
「周りの皆は当然のように、月日と共に歳をとって老いていくが、娘はいつまでたっても、若いまま。美しく張りの有る肌はいつまでも衰えない。
 だが、己が知る人々は、次々に年老いて死んでいく。父や母も、幼馴染みも、恋人も、皆、死んで行く。いつしか、娘は一人取り残された。が、人魚の肉のせいで、自分で死ぬ事もできない。己を殺そうとしても、傷一つつかずに生き返る。
 娘の傍に生きる村人たちは、口々に、あの娘は歳をとらない、化け物だと、疎み始めた。
 で、その娘は化け物と言われるのが耐えられず、尼僧に身をやつし、浜を出て、放浪の旅に出た。どうやったら、死ねるのか、その方法を探るために、歩き回ったのさ。
 奈良時代、平安時代、そして源平合戦と、時代の中を流浪した。戦乱や飢饉が今以上に人を苦しめた時代だ。当然、人の命は今よりももっと儚(はかな)い。戦乱の中も歩き、人の世の無常を知るに至った。
 で、人魚の肉を食らって、八百年も過ぎた頃、娘はこの生れ故郷の地に再び戻ってきた。当然、娘を知る者は誰一人と居ない。
 娘の生家も荒れ果て、世の無常を感じた娘は、洞穴に篭って、入定(にゅうじょう)してしまったそうだ。めでたしめでたし…。って、ちっとも目出度くはないか。」
 次郎太が苦笑した。
「入定って?」
 乱馬が問いかけた。
「即身仏となることよ。日本史辺りで習わなかった?」
 千秋が横から説明する。
「どうだった?あかね。」
「あたしに訊かないの!確か、平家物語が書かれた時代だから、鎌倉時代辺りの中世辺りかしら。世の無常を嘆き、人民のために自己犠牲の上に立って、自ら穴に篭り寝食を絶って、そのまま仏になった僧侶が居たそうだけど、そのことじゃないの?鈴を鳴らして、その音がしなくなったら入滅した証拠だとして、掘り起こして、ミイラにして祀ったんじゃなかったっけ…。」
 あかねが答えた。
「そう、そのとおり。即身仏のミイラは、結構、あちこちに残されているわ。」
 千秋が答えた。
「うへ…。僧侶のミイラか…。あんまり想像したくねーな…。気味悪っ!」
 そう言った乱馬に、あかねは冷たく言い放つ。
「そんなこと言ったらバチが当たるわよ!…でも、即身仏になる僧侶の話は良く耳にするけれど、尼僧もそんなことをしたんですか?」
 あかねが問い返す。
「さあね…。尼さんのミイラもどこやらに残っていると聞きかじった事があるけれど、即身仏になってミイラ化したものかは疑わしかったんじゃなかったかなあ…。まあ、真意の程はともかく、八百比丘尼の伝説は、海洋民族の常世感に基づくものとも言われているわ。」
 と千秋が言った。
 はああ?と言わんばかりの顔を、乱馬とあかねが手向ける。
「つまりね、八百比丘尼の伝説は、海岸線を沿うように、日本各地に点在しているそうよ。不老不死の元となったのが人魚の肉という辺りが、海と切り離せない伝説というのを暗示しているわ。それに、八百比丘尼伝説の一番有名なのは、この福井県若狭地方を舞台にしたものというのも、面白いわね。
 で、八百比丘尼伝説は飛び火するうちに、いろいろ、尾ひれ背びれがついて、いろんな形で話が展開しているのよ。
 例えば、八百比丘尼は人間の生気を食らう吸血鬼みたいな妖怪だという伝説もあれば、最期は即身仏になるため入定したんじゃなくって、人肉を吐き出して、浦島太郎みたいに一気に歳をとって、亡くなったとかいう伝説もあるみたいね。」
「へええ…。いろんなバリエーションができてるって訳か…。」
「桃太郎の話だって、瓜子姫の話だって、地方地方でいろいろバリエーションがあるのよ。八百比丘尼の話もそれと同じよ。」
「そうなのか?」
 と、また、あかねに問いかける。
「あたしが知るわけないでしょっ!そんな難しい専門的な話…。」

「小難しい話はさておき、比丘尼伝説のバリエーションは、この流島にも、存在するんだよ、お嬢さんたち。」
 と次郎太が突然、話題を振って来た。
「この流島にちなんだ伝説…ですか?」
 千秋を始め、一同が、驚いたように次郎太を見返した。
「ああ、月浦や日浦辺りじゃあ、まことしやかに囁かれている比丘尼伝説、いや、一部は実話らしいんだが…。」
 次郎太はそれだけを言うと、じらすように黙り込んだ。
「やっぱ、やめとこう…。あんまり、気持ちの良い話じゃないしな…。変にお嬢さんたちを恐がらせる事にでもなったら…。このホテルの従業員の皆様にも申し訳ないし。」
 と、話を打ち切ろうとした。だが、ここまで振られて、はいそうですか、と簡単に引き下がれるものではない。ここで話を終わらせれば、咽喉元に魚の骨でも引っかかったような不快感が残るだろう。
「そんなあ…。そこまでネタを振っておいて、打ち止めですかあ?次郎太さん!」
 千秋が真っ先に異議申し立てをした。
「このまま打ちどめられたら、うちら皆、何やすっきりできひんで、おっちゃん!」
 桃代もすぐさま同調した。
「そうねえ…。この際、話すのが本筋よねえ…。次郎太さん。」
 煙草をくゆらせながら、橙子も言った。
「次郎太さん、是非、お聞かせくださいな。」
 と婆さんまで乗り気だ。
「いやあ…、知りませんぜ?今夜、寝られなくなっちまっても…。」
 と意味深な前置きを、次郎太はした。
「おじさん、俺も訊きたいな…。」
 蒼太も身を乗り出してきた。
 あかねは既に、聴く体制になっている。ワクワクとドキドキが混在するような顔つきになっていた。怪奇特集のテレビ番組を観る姿勢と同じになっている。

「ま、そこまで言うのなら…話しても良いけどよう…。ホントに良いんだな?後で訊かなきゃよかったなんてこと…。」
 と、しつこいまでも、一同へと問い質した。
「わかったよ、話してやろう。その代わり、ここの関係者にはこんな話を次郎太がした…だなんて、絶対にしないでくれよ!それが、この話をする条件だ。」
 次郎太の条件を、皆は受け入れた。そして、話が始まる。

 皆、頭をそろえて、次郎太の話を聴く態勢になっていた。

「この島の名前は流島(ながれじま)。何で、こんな名前がついているが、わかるかね?」
 一同、首を横に振る。
「実は、神隠しの伝説が、あるんだよ。いろいろ事情があって、ここへ来た娘が、次々に居なくなる…。そんな神隠し伝説があるんだ。」

 神隠し。つまり、人がぷっつりと消息を絶つことだ。
 警察や情報機関が発達していなかった昔には、誘拐犯罪など全て「神隠し」という言葉で一くくりにされていた。中には慰み者にされたり、人買の手に渡り奴隷として荘園や豪族に売られたりした者も多々あったと考えられる。
 森鴎外の小説で有名になった安寿と厨子王の昔話、「山椒太夫」の荘園は、若狭と程遠くない京都府の北端、由良川河口辺りに比定されている。

 次郎太はゆっくりと語り始めた。


二、

「この館が建つ絶海のこの岬には、昔、社(やしろ)がポツンと建っていたそうだ。
 寺なのか、神社なのか、詳しいことはわからないが、ここには海に関する何かが祀られていたそうだ。
 だが、社といっても、立派な建物ではなく、雨風を凌げる程度の小さな小屋だったそうだ。
 何の変哲もない、ただの、社。それを、私欲のために、改造した者が居たんだよ。遊郭…にな。」

「遊郭だあ?」

「表向きは寺として建てたそうだ。だが、その実体は、女たちを囲う楼閣。

 そいつを建てたのは、この辺りの首領様。家柄も羽振りも良く、悪名高い山椒太夫のように、たくさんの荘園を持つ地方豪族だったそうだ。
 人身売買が当たり前のように行われていた中世という時代。そろそろ武士が貴族にとってかわった時代の話。
 首領様がここに寺を建てた頃は、仏教的倫理観からか、巷(ちまた)では女を囲って姦淫する行為はだんだんに敬遠されるようになっていたそうだ。自由恋愛を謳った古代は遠くなりかかっていた。
 だが、男の欲望は尽き果てない。
 首領様は、この流島に女を囲ってハーレムを作ることを思いついたんだ。
 寺を建て、買った女を得度させると称し、尼僧に身をやつさせ、ここへ送りこむ。そして、自分は、寺へ参詣すると偽り、舟に乗ってこの島に漕ぎ出してくる。そうすれば、誰もとがめない。体の良い言い訳になる。そう考えたのだ。
 首領様は手当たり次第、近郊から良い女を買い集め、尼僧にして、ここへ送り込んだ。
 当然、寺は表向きで、実際は首領様に買われた女たちの囲い地獄。
 この島の近辺の海は流れが速い。だから、女の身の上で舟を漕ぎ出して逃げることも敵わない。
 首領様が島から出ている時は、常に強固な見張りを置いて、彼女たちの動静を見張っていた。
 泣く泣く、娘たちは 首領様とその近習たちの慰み者になっていたそうだ。表向きは極楽浄土を願う首領様の聖空間、だがその実は首領様の秘密の楽園だったわけだ。

 閉鎖された空間は、得てして「魔」を生じるものだ。
 治国では穏やかで優しいと評判の首領様だったが、ここへ足を踏み入れると、鬼畜に変わる。この島に来ると、本来持つ、鬼の心が爆発したのだろうさ。
 …首領様が渡って来られると、寺はまさに阿鼻叫喚と化した。
 
 尼僧の格好をさせた美女たちを、好き勝手に姦淫する。ある者は縛られ蝋を垂らされたり、ある者は犬や猿といった獣と無理矢理、交わらされたり…。一晩に数人の男の相手をさせられたり…。
 血を見るのが好きな性癖の男も世の中には多々存在するらしいよな…。首領様の性癖は、まさに、そいつだったそうだ。
 可愛そうに、安息は無かったばかりか、ここに連れて来られた娘の殆どが、首領様の毒牙にかかって、交わり殺されたそうだ…。
 首領様が帰っていくと、島には棺が幾つも並んだ。そして、悶死んだ娘たちの亡骸は、葬られ供養されることもなく、早々に洞窟へと投げ入れられた。
 また、首領様が居なくなると、生き残った娘たちは、看守たちによって手かせ足かせされ鎖に繋がれた。そして、四六時中見張られ、自害する術もなかったそうだ。
 当然、看守たちにも慰み者にされたろう…。」

 次郎太の話に、聞き耳を立てながら、ゴクリと娘たちは唾を飲み込む。
 乱馬も嫌な話だと、内心、気分を荒げた。

「ここへ連れて来られた女たちが流した涙は、半端じゃない。見果てぬ故郷を海の彼方に思いながら、何十人もの若い命がもてあそばれ、消えていった。

 が、そんな首領様に、天罰がくだらない訳が無い。
 
 ある日のこと、首領様がいつものように、女たちを蹂躙して、領国へ帰ろうと船に乗ろうとしたとき、一人の娘が流されて波打ち際に打ち上げられて気を失っているのを見つけた。観ると、ここに連れて来たどの娘よりも、肌が透き通り、髪も長く、美しい容姿をしていたそうだ。
 一目で娘を気に入った首領様は、領国へ帰るのも忘れたくらい執着したのだ。
 看守に命じ、用事を済ませ、次に己がここへ来るまでは、決して手をつけるな、と命じられるほどの気に入りようだった。首領様に逆らうと、どんな罰が待ち受けているかわからないから、看守たちは言いつけを守り、気を失っていた娘を程よく介抱してやったそうな。
 娘は看守たちの介抱の結果、一命を取りとめ、人心地もついた。が、如何せん、流れ着く前の記憶が全く無いという。今で言うところの記憶喪失だな。
 だが、その妖艶な美しさは、他の娘たちを圧倒していたという。
 光り輝く娘を抱きに、首領様は数日も経たぬうちに、いそいそと舟を漕いでやってきた。
 娘は首領様に抱かれる事を、必死で拒んだが、所詮、女腕では男には敵わない。あっという間に押し倒されて、寝屋の中に連れ込まれた。
 だが、異変が起こったんだよ。
 悶絶したのは娘ではなく、娘と交わった首領様だった。
 この娘、魔性の者だったそうだ。
 常は一発で女を絶倫へと導いた首領様が、逆に、娘に翻弄されたんだよ。何度交わっても、娘は絶倫を迎えない。こなくそっと首領様は意地になられたのが悪かったのだろうよ。
 あろう事か、娘の腹上で悶絶し、そのまま息を引き取られてしまったんだ。
 実はこの娘、物の怪で、首領様の生気を交わる事で全て奪っていったそうだ。
 勿論、首領様の家来たちは、主人を殺されたのだから、この娘を殺そうと、刀を持って集ってきた。だが、娘は妖艶な気を発し、男たちの闘争心ごと、心を奪ってしまったんだ。
 娘に襲い掛かった男たちは、全て、彼女の気に当てられて、正気を失った。ある者は倒れ、ある者は平伏し、ある者は従順になった。
 やがて、娘は、その日まで阿鼻叫喚地獄から生き残っていた比丘尼たち数人と口付けて、己の気を分け与えた。一種の吸血鬼的行為かな。娘に口を吸われた比丘尼たちは、男たちにつけられた傷も癒え、みるみる元気になり、妖艶さを増したそうだ。

 やがて、娘は、比丘尼たちに、大人しくなった男たちと契るよう命じた。
 比丘尼たちは娘に命じられるままに、男たちと順に身体をあわせた。すると、どうだろう。結ばれた先から、男たちが、干からびたミイラのように、カラカラになっていくではないか。
 男は誰も、苦痛の悲鳴はあげなかった。交わった男たちは、恍惚の表情を浮かべて、嬉しそうに比丘尼の身体に腰を沈めたまま、朽ち果てていく。異様な光景だったそうだ。
 比丘尼たちは男たちと交わって、生気を吸い上げる。そう、既に、比丘尼たちも人間ではなくなっていた。
 男は気を抜かれ、逆に女たちは、肌も艶が出て、美しく萌え上がる。
 食らいつくされた男は、やがて、崩れ落ち、醜い躯と化す。死体は長い歳月の間に白骨化して、この島の底に、首領様が連れて来てここで果てた娘ともども、眠っているそうだ。

 全ての男を狩りつくした後、娘は残った六人の比丘尼を連れて、舟に乗り、再び海の沖合いへと帰って行った…。

 …とまあ、こんな昔話だ。」

 次郎太は話し終えると、ふううっと息を吐いた。
 まるで、見て来たように、よどむことなく、一気に話し終える。

「結局、その娘は一体、何者だったんだ?」
 乱馬が沈黙を最初に破った。

「一説には、諸国行脚していた八百比丘尼の成れの果てだとも言われている。つまり、人魚の血肉を食った八百比丘尼が、娘たちの悲惨な境遇に同情して助けに来た…因果応報…そんな話になるんだろうかなあ。」
 と、次郎太が説明した。
「実際、この岬の下にある、断崖の洞窟には、古い人骨がたくさん積み重なっているそうだよ。首領様に絶倫させられて果てた娘たちのものか、八百比丘尼に襲われた男たちかは釈然とはしないらしいが…。

 で、肝心な話はこっからだ。この話にはまだ、続きがあるんだよ。」
 と次郎太が続けた。

「こんな嫌な話に続きがあるのかよ…。」
 ぼそっと乱馬が吐き出した。
「いいから、黙って!」
 あかねが乱馬の袖を引っ張った。


三、

「ここからは、明治時代以降の話だ。俺も地元の漁師仲間たちに、酒の肴で聞いた話だから、釈然としない部分はあると思うが…。勘弁してくれよな…。」
 一同は、再び、次郎太の話に、耳を傾けた。

「今から百年ほど前ってことだから、二十世紀の初めか十九世紀の終わり、明治時代の後半ごろのことだそうだ。
 事の発端は、東京に住まうある華族の一人が、この島にやってきて、別荘を建てたことに始まるそうだ。このホテルの土台ともなった古い洋館の御殿が建てられた。
 こんな、孤島だから、洋館を建てるのには、結構、時間と金を浪費したらしいが、そんな贅沢で揺るぐような財力でもなかったそうだ。
 オーナーがどれほど金持ちだったかは、今のこの建物を見ても想像はつくと思う。
 で、ここに別荘を建てた華族がまた、ぶっ飛んだ華族だったそうで、ここに妻ではなく、妾を囲って住まわせていたそうだ。ま、体よく言うと、妾のために建てた別荘ってことになるのかな…。

 その妾、名前をお七(おしち)と言ったそうだ。大人しい古風の女で、主人は大そう気にいっていたらしい。どこぞの遊郭で囲われていたのを請け出してきて、この館に住まわせていたらしい。
 もっとも、東京には本妻が居る。この本妻というのが、これまた、気が強い激しい気性の貴婦人だったらしい。ま、良くある、金持ちのヒステリックな女…かね。生まれも育ちも良かったものだから、気位も相当高かったそうだ。
 いくら、浮気や妾が男の甲斐性だと声高に言える時代とはいえ、男は後ろめたさを感じていたのだろう。無論、本際には内緒にして、時折ここを訪れて、不倫を楽しんでいたそうだが、何かの拍子にそれが本妻にばれてしまったらしい。
 無論、本妻は逆鱗した。
 本妻は、主人がこの館に居ないときに、自分付きの侍従を連れて、乗り込んできたんだそうだ。
 まあ、東京からおっかない本妻がやってきたんだ。
 どんな状況になったかは、想像するだけでも身の毛が弥立つだろう?
 船で出入する以外、交通手段がない絶海の島。
 閉ざされた空間であることは間違いない。
 本妻対妾戦争というのは、後の世の話。まだ、封建時代の名残があり、しかも、女の出自にも序列があるような時代だ。乗り込んできた本妻と、鉢合わせた妾。肝心な主人はその場には居ない。
 となると、本妻が妾虐めを始めることは、想像に難くない。
 本妻からすれば、妾は良人の愛情を奪った憎き「婢女(はしため)」。人格がどうだのとか、主人がどう思おうとか…そういったことは後回し。本妻は己の怒りの感情を激しく妾のお七にぶつけて、突っ走ってしまった。
 そりゃあ、本妻の妾虐めかなり、あくどいものだったらしい。
 殺しても飽き足りぬと思った本妻がとった行動は、ただは一つ。お七を責め抜き廃人にする事。それも、尋常の方法じゃあ、気が収まらない。
 目には目を歯には歯をってわけで、連れて来た自分付きの若い衆に命じて、妾を強姦させたそうだ。
 それも、一人にではなく、数人で妾を襲わせた。で、本妻はすぐ傍らで、妾のお七が犯されていくその姿態を楽しそうに見学していたそうだ。
 夜が来るたびに、夜通しお七は、男たちの慰み者にされた。本来、気弱な性質だったのか、それとも、争いを好まない女性だったのか。いつか旦那様がここへ来て救い出してくれると信じていたのか、お七は抗う事なく、本妻の手向けた拷問のような姦淫に耐え忍んだのだそうだ。
 一方で、耐える姿は、返って人間の行動を増長させてしまうことがある。本妻はますますお七を憎んで、さらに男を差し向けた。ピーク時には、総勢、十数人の男が群がって、お七を貪ったらしい。それも、いずれも、鍛え抜かれた身体をしたものばかり。不特定多数の男と関係させられるのは、一人の男に蹂躙されるよりも辛いものだ。女の人権なんか無視だもんな…。
 夜な夜な引きずり出されて、望まぬ性交を強いられるのだ。どんなに我慢強い人間でも、数日で精神に異常をきたすだろうさ。
 本妻が押しかけて六日目の明け方、お七は男と交わった後の朦朧とした意識の中、夢を見たそうだ。
『我にそなたの身体を預けよ。さすれば、その阿鼻叫喚地獄から救い出してやる…。』
 とどこからともなく、女の声が響いて来たそうだ。
『どうじゃ?わらわにそなたの美しき姿態を全て預けよ!』
 声は極限状態に置かれた、お七へ巧みに誘いかける。
 もう、こんな望まぬ事は終わりにしたかった。その一心で、お七はその声に向かって、「どうぞ、好きにしてください。」と囁いたそうな。
『ならば、今宵、その証に、おまえに我が宝珠を与える。それを飲んで、わらわに身体を差し出せ。わらわがそなたに代わって、男どもを薙ぎ倒し、本妻をも打ち砕いてやろう…。』と返事があったそうだ。
 お七は半信半疑で夜になるのを待った。と、男たちが館に乗り込んでくる前に、天井から玉がコロコロと転げてきたそうだ。赤黒く見るからにおどろおどろしい小さな玉。
『さあ、それを飲め!』
 とまた、声がした。
 今宵も男たちが来る。本妻も見学に来る…。
 そう思うと、心がキシキシと痛む。遂に、逃れたい一心で、声の導きのまま、その玉を口中へ放り込んだそうだ。
 そして、お七はそのまま、意識を失った。

 気付くと、男たちの視線の最中に居た。既に、着ていた着物は剥ぎ取られ、一糸もまとわない格好だった。
 また、饗宴の夜が始まる。
 だが、目覚めたのは今までのお七ではなかった。昨夜までのお七なら、男に組み伏せられて、自分から決して誘ったりはしなかった。なのに、この夜のお七は、自分から男たちを誘惑していったんだ。怪しげな誘惑振りに、男たちも本妻も驚いた。
「遂にこの女は堕ちたよな…。下衆女の本性を現しやった。」
 本妻が嘲るように言ったそうだ。
 だが、お七は、そんな本妻の侮蔑の言葉など、耳に入らぬ様子で、艶かしい身体を使って、集って来た男たちに媚びた。これもそれも、飲み込んだ玉の成せる業だったようで、本能の導きのまま、お七は男を誘惑し続けた。
 嫌がる女を犯すのも一興だが、転じて積極的になった女を犯すのも、悪くはない。何、厭うことがあろうか。
 蜘蛛の糸におびき寄せられる虫たちのように、男たちは我先に、お七の身体に群がった。
 昨夜までの、むせび泣きつつ耐えるような、性行為とは違い、積極性を帯びたお七の身体は円熟しきった遊女のように、男たちを歓喜へと誘う。
 しかし、それは、世にもおぞましき光景の始まりであった。
 お七に腰を埋めた男は、一人、また、一人、絶倫の雄叫びと共に、崩れ落ちるように果てたのだ。明らか、異様な光景だった。そう、昔、この浜に建てられた寺で、比丘尼たちが男たちの身体から生気を奪ったのと、寸分、違わない方法で、お七は男たちからほとばしる生気を吸い上げていたのだ。
 恐怖のあまり居た堪れなくなって、本妻が逃げようとしたが、身体が金縛りにあったように、動かない。
 お七は、ゆっくりと、本妻へと向き直り、言ったそうだ。
「遠慮はいりませぬ。せいぜい、私が男たちを蹂躙し餌とするところそ、余すことなく、そこから眺めてくださいませ。この者たちを吸い終えたら、次はあなたが償いを受ける番でございますよ。ねえ…。」
 そう告げると、お七の身体群がる男たちを、片っ端らから、生気を丸ごと吸い上げていく。その度に、男たちは、バタバタと床に倒れ、そのまま、皮膚がさああっと砂塵となって舞い上がり、骨だけの身体になる。シャレコウベが一つ、また、一つ、胴体からもげて、床へ転がっていく。
 本妻はヒステリックな性質そのままに、
「許して!お願い、わらわを許して!」
 と懇願し続けたが、切れてしまったお七に聴く耳など元々持っていなかったようだ。
 八割がた、男たちが倒れ灰燼と化したころ、
「貴女様も、わたくしと同じような身体にしてあげましょう。そうでなくては、面白くないわ。」
 と、くるりと身体をめぐらして、どこから持ち込んだのか、黒い玉を本妻にも飲ませたのだ。
 最初は抵抗していた本妻だったが、咽喉からアゴにかけての咽喉元を、ぐいっと引っ張られ、息苦しくなって口を開けた瞬間に、すうっと玉を飲みこんでしまった。
 いや、本妻だけではなく、彼女が連れていた女中たちにも、容赦なく、お七は玉を与えたそうだ。
 やがて、本妻の身体にも他の女たちにも、異変が起こった。
 激しく痙攣をくり返し、遂に、彼女たちは化け物へと転じたのだそうな。
 まだ、残っていた男たちを床へ引き入れると、そのまま、激しく乱れ始めた。
 辺りは女と男の酒池肉林。
 やがて、迎える夜明け。
 お七は本妻たち女性を舟に乗せると、そのまま、沖合いへ船出して、二度と岬はには戻らなかったそうだ。
 どこへ彷徨い出たのか、極楽浄土を目指したのか。
 彼女たちが去った館は、ひっそりと、いつか忘れ去られ、荒れ果てていったのだと言う。」

 ほおおっと一同からもれるため息。

「本当に、そんな事件がこの館の前身で起こったの?」
 千秋が一番に口を開いた。
「まるで見て来たような話し振りやったな。おっちゃん。」
 桃代も感心した。
「だよな…。誰がそんな話を伝えたってんだ?秘密の館に近い別荘だったんだろ?ここって。」
 乱馬が疑問点を糾弾する。

「ははは、猟師町には、その饗宴の場に居て、命からがら難を逃れたって漁師も居たそうで、その男が大酒を食らうと、決まって周りに話して聞かせたそうだ。」
「命からがら逃げた男だって?」
「ああ。本妻が連れて行った男の中には、猟師町で声をかけた連中も居たらしくてな…。勿論、そいつ以外の男は行方知れずになって、後で大掛かりな捜索がなされたらしいが、この館の地下で皆、骨になっていたそうだ。」
「ほ、骨に…か。」
 一同、背中に冷たいものが走ったようだ。次郎太の話に暫し、言葉が出なかった。

「もっとも、今と違って、DNA鑑定なんてできなかった時代だから、適当に骨を集めてってことになったんだろうが…。猟師町でも何人か戻って来なかった奴が実際に居たそうだ。
 あ、一つ付け加えると、その夜は、物凄い嵐が吹き荒れていたそうだ。今夜みたいに雨風が激しく、シケで舟が転覆して、この岬に流れ着いて亡くなったんじゃないか…って別説もあるみたいだが…。
 また、お七にとりついたのは、この地に伝わる、八百比丘尼だと言う奴も居たなあ…。
 もっとも、この手の色事に関わって命を落とすなんてことは、名誉な話ではないから、遺族たちがそんな話をでっち上げたって言う者もいたようだが…。
 俺が話したのは、この話を伝えた漁師から伝わって耳に入ったものだから、ある程度、創作はあるぜ。」
 にっと次郎太が笑った。
「まあ、臨場感を出したってことで、勘弁してくれ。」
 と次郎太が言った。

「蒼太くんはどう?今の話、聞いたことある?」
 橙子が興味を持ったのか、神妙に話に耳を傾けていた、地元の少年に声をかけた。
「昔話なら、あんたも、聞いたことくらいあるんじゃないの?」
 と千秋も向き直る。

「お七さんっていう薄倖の女性がここで酷い仕打ちを受けたって簡単な話は聞いた事がことはあるけど…。そんな、淫行があったとまでは…。今始めて知ったよ。」
 と、多感な少年が顔を真っ赤にしながら、答えた。
「あったりめーだろ?こんな刺激の強い話、ガキには普通しねえだろう。」
 乱馬がぼそっと吐き出した。
「そうよね…。この話も、凛華ちゃんが居たらできなかったでしょうし…。」
 あかねも同調していた。

「このお七夜岬に繋がる話って言えば、もう一つあったぞ、おっちゃん。そっちも話してやったらどうだ?」
 と蒼太が次郎太を見た。
「あの話か…。」
 次郎太はすぐさま答えた。

「お、おい。まだ、へんてこな伝説があるのかよう。この島って。」
 乱馬が声をかけると、鈴音婆さんが堰を切ったように言った。

「ああ、あるにはあるが…。ちょっとなあ…。」
 と、次郎太は口を濁す。また、何かをためらっているようだ。
 そればかりか、余計な事を言うんじゃないと言わんばかりに、蒼太を睨み返す。

「また、途中で止めるやなんて、気になるやんか。話したりい、おっちゃん。」
 桃代がせがんだ。
「是非、聴かせて欲しいわ。次郎太さん。」
 と珍しく、鈴音婆さんまで、熱心に割り込んできた。

「もっと、後味が悪くなるかもしれないっすよ。」
 次郎太が困惑気味に言った。
「現に、お七の話で、結構、ガタがきてんじゃないですかねえ?お嬢さん方。」
 と再確認するように問い質す。

「まだ、平気よ、序の口よ、ねえ。皆。」
 橙子が回りを見ながら声をかけた。
「そうよね…。このままだと、かえって眠れないかも…。」
 千秋もコクンと頷く。

「本当に、大丈夫ですかい?お嬢さん方…。」
 確認するように、次郎太が皆を見回す。
 コクンと頷く頭たち。

「わかりました。俺の独壇場となってしまった感もあるけど…まあ、良いさな。話しましょうか…。
 但し、比丘尼の話やら、お七の話よりは、時代が現代に近いから、もっと現実的な話になります。だから、気味悪がらないで聞いてくださいよ。お嬢様方。」
 と次郎太は念を押した。







一之瀬的戯言
 八百比丘尼。このプロットを私が使って、一本、乱あで書いた投稿作品「八百比丘尼」があります。読み方も「はっぴゃくびくに」「やおびくに」数説あるようです。が、八は日本人にとっては「末広がりの聖数」でもあり、「八百万(やおよろず)」という表現に代表されるように「たくさん」を表す言葉でもありましたので、私は「やおびくに」と読む方が好きです。
 るーみっく世界には「人魚シリーズ」が八百比丘尼伝説を利用した作品があります。また、手塚治虫作品の「火の鳥」には、八百比丘尼となった戦国女将の短編があります(火の鳥・異形編)。私はこの手塚作品から「八百比丘尼」を知りました…。
 で、この項で述べているように、主に日本海側、若狭地方に伝わっているのが、「八百比丘尼伝説」の本流と思われます。
 なお、八百比丘尼のバリエーションの「お七夜岬怪談」は、この話を書くにあたって、私が勝手に妄想を広げた話であります。
 かなりキツイ表現になっておりますが、ご勘弁を。この話を抜かすと話の展開が骨抜きになりますので…。

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