第三話 月光水晶


一、

 一度ではあるが、夕食の席を共にして、ここに集った女性たちは、それぞれ、仲良く打ち解けられたようだ。が、どうしても数人ごとの小グループが形勢されてしまう。それはそれで仕方がないことであった。
 女子大生は歳が近いということで、三人、意気投合してしまったようだ。別に固まってどうこう、という意識などはなかったのだろうが、自然と、三人の塊ができていた。そこへ、一番年上のOL、立花橙子がくっついて、まずは一グループ。
 そしてもう一つは、そこには属さない四人だ。乱馬とあかねは、元々が一緒の参加だから、これまた、分けようがない。ここへ、一緒にボート船に乗ってきた婆さんと三人。もう一人、小学生のオコチャマ、凛華は、いずれにも属さないで、雰囲気に応じて自由気ままに誰かにくっついている、という感じだった。もっとも、つまらなさそうか、というとそうでもなかった。周りも、一人だけ歳が離れていて幼いということで、それなり気を使って、話し掛けたり様子を見たりしていたから、完全に浮いた存在ではなかった。

「まずは、この上からご案内しましょうか?」

 紫苑を先頭に、ぞろぞろと女性たちがつき従う。ちょっとした大名行列だ。
 一階のラウンジから上がる階段。
 木造で、体重をかけると若干、ギシッという音がする場所もある。

「大丈夫かあ?いっぺんにこの人数が上に上がって…。結構年代もんみたいだぜ。」
 と乱馬が声をかける。
「あったりまえでしょう!ちゃんと改修してあるわよ。」
 あかねが乱馬を突っついた。
「わっかんねーぞ!おめえみたいな、重量級の奴が乗っかったら、ドッカンだなんて、シャレになんねーことも起こり得るかも…。」
 両手を胸の前に突き上げてリアクションをしながら、乱馬が言った。
「バカッ!」
 あかねは、再び、オカンムリだ。

「古い材料をそのまま使ってはいますが、それは表面だけで、ちゃんと補強してありますから、大丈夫ですよ。間違っても底が抜けるなんてことはありませんよ。」
 にっこりと紫苑が微笑む。乱馬とあかねの会話が耳に入ったようだ。
 その脇を、小学生の凛華が、トットットットと軽い音をたてて、一気に駆け上がる。

「わああっ!すっごーい!」
 ややあって、凛華の感嘆の声が上から一足先に響いてきた。

 凛華を追いかけるように、大人たちが階段に足をかけて、上っていく。
「この上にはちょっと趣向を凝らした部屋を作ってあるんです。」
 一緒に遅れて上りながら、紫苑が嬉しそうに言った。

 途中、真正面の踊り場から上へ、九十度角度がついて階段が続く。それを上りきって、他の女性たちも、思い思いの声を上げた。

「すっごーい!」
「わああっ!」
「こりゃ、確かにすげー!」

 そこには別世界が広がっていた。
 青っぽい光源に染められたライトに、色とりどりのステンドグラスが映し出される。決して明るすぎない光加減がかえって厳かな雰囲気を演出していた。
 良く目を凝らすと、正面には祭壇らしきものも設えてある。

「でも、何だか礼拝堂みてえな部屋だな。」
 と乱馬がぼそっと吐き出した。

「そのとおりです。礼拝堂をイメージして作ってあるんですよ。」
 と紫苑がにこっと微笑んだ。
「ホテルに礼拝堂かあ?何か変な新興宗教の勧誘とかするつもりじゃねーだろうな。」
 ジロッと乱馬が紫苑を見た。
「もう!思ったことを口にしすぎよ!あんたはっ!ホテルにこんな施設があるなら、用途は決まってるじゃないのっ!」
 思わず、あかねの語気がまたきつくなった。
「あん?ホテルに礼拝堂なんか必要なのかよ?」
「きっと、結婚式場用に造ったんでしょうね。」
 鈴音婆さんが、笑いながら乱馬へ返した。

「結婚式場だあ?」
 思いがけない言葉に、乱馬が大きな声を張り上げた。が、当人はまだ理解していないらしい。何でそんなものがホテルに必要なのか、理解に苦しんでいる。

「そうねえ!このホテルで挙式をしたいって思うカップルが現れたって不思議じゃないわねえ。ビジネスマン御用達の素泊まりホテルならともかく、シティーホテルには、結婚式場と披露宴会場は必要不可欠じゃない。ねえ、紫苑さん。」
 碧が横から口を挟んだ。
「ええ。おっしゃるとおり、ここは結婚式場用にと考えて作りました。ほら、荘厳な雰囲気があって、純白のウエディングドレスには似合う感じがするでしょう?」
 紫苑がそれに答えた。
「あっ、そっか。祝言ってホテルでも挙げられるんだっけ。」
 乱馬がポンと手を叩く。
「あんた、まさか、祝言って道場でやるものだって思い込んでないでしょうねえ…。」
 あかねの瞳が冷たく乱馬をさした。
「思うか、んなの!道場で祝言する方が、特別だっつーの!第一、一般家庭に道場なんかねーだろ!」
「わかってんなら、良いけど…。」

「祝言って、かなりレトロな言い方するのねえ。あんたたち、まだ若いのに。」
 くすっと傍で碧が笑った。
「家で挙式を挙げるのが、昔はそれが当たり前だったけれど、今は田舎でもしなくなったわよ。」
 鈴音婆さんも笑った。
「でも、祭壇はあるけど、椅子や机はないわねえ…。どこかにしまってあるのかしら?」
 千秋が目を輝かせて紫苑に尋ねる。

「それは、その時の人数によって、用具室から運び入れるようになっています。倉庫がこの扉の向こう側にあって、そこに椅子や机が普段は格納してあるんです。一応、教会形式ですが、お望みとあらば、どんな宗教にでも、式場としてご用意できます。勿論、神式や仏式にもね。」
 そう言いながら、紫苑はそれらしい扉を指差した。
「今はまだ、用具も揃いきっていませんし、あの部屋は公開できませんが…。」
 そう言いながら紫苑は部屋の中央に、一同を誘った。
「花嫁と花婿はこの中央に設えるバージンロードを通って、あの祭壇の前まで歩いていき、神父さんや牧師さんを証人としてに、神に永遠の愛を誓約するんですよ。」
 カソリックでは神父、プロテスタントでは牧師がそれぞれ、結婚式を請け負うのだ。いずれの宗派が使っても良いように、敢えて、十字架は置いていないのだという。カソリックでは十字架が信仰の対象だが、プロテスタントは偶像崇拝を嫌うので、殆どの場合、十字架も用いないのが慣例となっている。

「あたし、こんな素敵なところなら、ここで結婚式を挙げても良いわ。」

「是非、お相手が見つかったら、当ホテルをご予約ください。大歓迎いたしますよ。」
 と紫苑が笑った。

「そうやなあ…。結婚する前に、まずは相手やわ。」
 桃代が腕を組んだ。

「さっきから気にかかってるんですけれど…。」
 鈴音婆さんが紫苑に声をかけた。
「何か?」
 紫苑は婆さんの方へと振り返る。

「あれ…。あの玉は水晶玉ですの?水晶玉だとすると、あんなに大きなもの、相当なお値段のものだと思うんですけど。」
 祭壇の上方を指差して、婆さんは言った。
 その指先に、一同が視線を集めた。
 祭壇のずっと上方にそれはあった。大きさ的に見て、ソフトボールよりも少し大きめくらいの水晶玉だ。両側をエンジェルのレリーフに守られるようにして、装飾品のように壁にはめ込まれていた。まるで、こちらを見下ろすように。

「お目が高いんですねえ…。確かに、あれは確かに、水晶玉です。それも、純度の高い透明な天然クリスタルで造った研磨玉です。」
 紫苑が言った。
「何であんなところに仰々しく、水晶玉が飾ってあるんだ?」

「それは…。百聞は一見にしかずですね…。」
 そう言いながら、紫苑が部屋の脇に行き、そこにあるスイッチを押した。
 ガクンと音がして、何かのスイッチが入ったのがわかる。
 何事が始まるのかと、一同が期待しながら見ていると、天井がゴゴゴッと音をたてて、両脇に開き始めた。ついでに、証明も暗めに落とした。

「え?」
「何、なに、なに?」
「天井が開いてるわ…。」

 部屋を覆っていた天井が、ぱっと開いて、空が見えた。
「生憎、今夜は雲が多いようですから…。でも、月の光は微かですがありますね。」
 紫苑はそう言いながら笑った。

「見て見て!水晶玉が光ってる!」
 目を輝かせながら、凛華が水晶玉を指差した。

「わあっ!」
「これはこれは…。」
 一同が感嘆の声を上げた。
 そう、水晶玉が、雲の向こう側から微かに光る月光を受けて、妖しく輝き始める。
 キラキラとまではいかないが、ぼんやりと玉の輪郭が闇に浮かんだ。
「どうなってんだ?」
 目を凝らして、一同は水晶玉を見詰めた。

「この水晶玉は「ムーンライトクリスタル」と呼ばれていて、月光を受けると、こうやって美しく光るんですよ。」
 と紫苑が微笑みながら説明してくれた。
「この館に古くから置かれていた水晶玉だそうです。」
「この館に置かれていた?」
 あかねが興味津々、尋ねた。
「ええ。恐らく前の家主の元に伝わっていた秘宝だと思うんですが…。改修した時に倉庫に大切にしまい込まれていたのを見つけたんです。せっかくですから、こうやって、飾ってみたんですよ。桐の箱に長らく眠らせておくのも、なんだか勿体無いと思って…。」
「盗られねえか?こんなところに無用心に晒しておいて…。」
 乱馬が言った。
「それは大丈夫ですよ。一応、セキュリティーはつけていますし、ここは絶海の
孤島ですからねえ…。人目を忍んで持ち去る事なんか、不可能に近いでしょう。」
 紫苑は笑った。
「なかなか、ロマンチックねえ。」
「水晶玉そのものには魔を払ったり、パワーを増大させてくれる力があると信じられているけれど…。これは、また、素晴らしいわね。」
 婆さんがため息交じりで呟いた。
 碧が携帯電話の電源を入れ、撮影しようとした。
「あ、撮影はご遠慮くださいませんか?」
 慌てて立浪が止めた。
「あら?どうして?」
 碧が問い返した。
「一応、秘伝の家宝としてここへ置いてありますから、あまり、撮影をされるのは、当方としても…。」
 と立浪が口を濁らせた。
「秘宝と呼ばれるものは、いろいろ因縁なども憑依していることがありますからね…。心霊写真など写されたら、結婚式場としては価値が下がりますから。」
 紫苑も付け加えた。
「それで、わざわざ、ああやって、高いところに鎮座させていらっしゃいますの?」
 鈴音婆さんが尋ねた。
「え、ええ、まあ、そういうことです。あの高さだと、狙ってカメラを構えない限りは写りませんからね。」
 紫苑が言った。
「そういうことなら、写真撮影は諦めますわ。」
 碧が大人しく携帯をしまい込んだ。
「そうして、いただけると、ありがたいです。」
 紫苑がペコンと頭を下げた。

「今日は雲っていますから、雲間の朧月で残念ですね。満月も近いですし…。月齢も満月ならもっと、美しく輝くんですが…。」
 紫苑は少し残念そうだった。

「どうです?皆さん。今宵はこのお部屋を開放しておきますから、ムーンライトクリスタルが光る様子を、観察なさるなんていうのは。」
 紫苑の横から、執事の立浪氏が声をかけた。
「そうねえ…。それも良いかもねえ。何でも明日の晩辺りから、天気が崩れるとか、天気予報で言ってたような気がするし…。」
 橙子が言った。
「ええ?天気が崩れるのぉ?」
 橙子の言葉を受けて、千秋が口を尖らせた。
「週間予報じゃあ、何でも、前線があるって話だったわよう。結構、荒れるかもね。」
「だったら、今夜中に見ておかないと、あとで後悔するかもねえ。紫苑さん。」
 女子大生トリオがすがるような瞳で紫苑にねだった。

「そうですね…。なら、今夜はこの天井を開け放っておきましょうか。せっかくのムーンライトクリスタル。あのゾッとするような美しい光を、見ないのも残念ですからねえ…。わかりました。その代わり、僕も同席させていただきますが、よろしいですか?」
「大歓迎よ!」
「わあ、紫苑さんと一緒なら、願ってもないわ!」
「では、後片付けと明日の準備が終わりましたら、僕も同席させていただきます。」
 そう言いながら、紫苑は下がっていった。

「こうしちゃいられないわ!」
「ここで夜明かしするかもしれないし。」
「準備、準備!」
 特に女子大生たちは、色めきたった。紫苑が同席するというので、それなり、各人気合が入っているようだ。

「おめーはどうする?」
 乱馬はあかねを見た。が、問いかけるまでもなく。あかねの瞳がうるうると輝いている。
(こりゃ、見ねーと寝そうもねえか…。)
 はああっと乱馬は思い切り脱力した。あかねの性格からして、好奇心そそられるものを、無視する手立てはなかろう。
『徹夜してでも、あたしは見ます!見てやりますとも!』
 とでも言いたげだった。

「ホホホホ。若い人たちはよろしいわね。」
 鈴音婆さんが、コロコロと笑った。
「あれ?婆さんは?来ないのか?」
 乱馬は意外そうに婆さんに問いかけた。
「ええ、こう歳をとるとね、夜は早く休まないと、明日に差し障るわ。生憎、ここにはお医者様もいらっしゃらないようだし…。健康管理は自分でしっかりとやらなくちゃね。」
「ってことは、参加しねーのかよ?」
「ま、縁がなかったって思えば、それはそれで。空想して楽しんでいるのが華だっていう言葉もありますから。」
 くるりと背を向けた。
 歳をとると、かくもマイペースになるのか、と乱馬は少し驚いた。
「もっと、私は職業柄、この手の水晶玉は見飽きるほどこの目で見てきているから…。だから、今更見なくても、だいたいの想像はつくものなのよ。」
 と意味深な言葉を投げかける。
「はあ?」
 乱馬はキョトンと婆さんを見返したが、それ以上の言葉は返って来なかった。




二、

 結局、乱馬もあかねに付き合って、礼拝堂にどっかと座り込んで陣取った。
 まだ、改装したての建物なので、床も汚れては居ない。どころか、絨毯の上に座って、かえって、床を汚しはしないかと思うくらいだ。
 一応、ここで寝込んでしまった場合のことも考えて、執事の立浪が敷物と毛布を幾つか持ってきてくれた。また、お腹をすかせては…というので、大きなビニールシートを広げた上に、ちゃぶ台のような背の低いテーブルを置いて、そこに、飲み物やお菓子を並べてくれた。
 しかも、各人、部屋に用意されていた「浴衣」を着ている。立浪によると、これはサービスだそうで、温泉宿の寝間着浴衣と違って、お祭にでも出て行けそうな本格的な浴衣に袖を通せた。勿論、着つけ不用の簡易帯浴衣だ。
 それでも、あかねが着込む時は、ひと悶着あった。不器用娘は健在で、乱馬の幇助がなければ、まともに着られていなかったかもしれない。

「たく、おめーの不器用も、ここまできたら、人間国宝ものだな…。人間国宝に不器用部門があったら、真っ先に候補にあがっていたろうぜ。」
「うるさいわねえ!ちょっと、手間取ってただけでしょうが!」
「ちょっと?あれがちょっとなのかあ?」
 ちらりとあかねを見据える。
 簡易帯がどうやっても胴回りにしっくりこない。裾は肌蹴る、帯はヨレヨレ。これでは、人前に出られない。業を煮やした乱馬が、溜まらず、助けの手を差し伸べたのである。

「ほれ、おまえは何もしなくて良いから、じっとしてろ!」

 そう言いながら、絡まった帯を器用にあかねの胴体に巻いていったのだ。
(こいつ…。胸、結構、出て来たな…。腰周りは思ったよりも細えや…。でも、尻は健康そのものだな…。)
 決して口には出せないが、あかねに着付けをしながら、そんな不埒な事を考えて手が止まりそうになる。
 ブンブンブン、と頭を横に振り、邪(よこしま)な考えを脳内から追い出すのに、着付けよりももっと苦労したのであった。
 浴衣の上からではあったが、あかねのプロポーションが手に取るようにわかる。出会った頃よりも、ぐっと、身体が艶かしく成長している。今は、下半身にあるはずの物がないが、あったら、間違いなく、硬くなって突っ立っていたろう。
 何より、あかねの身体からは、良い香が漂ってくるような気がした。
 ゴクンと、生唾を飲み込む。
「どうしたの?手が止まってるじゃない!」
 あかねの声がした。
「あ、ああ。何でもねーよ。どこらへんにへこ帯をつけようか、迷ってるだけでい!」
 今は男の姿ではなく、女の身体に変身していることを、ありがたく思った。
「けっ!結構似合ってんじゃねーか。馬子にも衣装だな!」
 と出来上がった傍からあかねを眺める。
「何、自分の着付けに自画自賛してんのよ!変態!」
「あんだと?俺が着せてやったから、ちゃんと着れたんだろうがよう!たく、着物ってのはずん胴には良く似合うぜ!」
「な、何ですってえ?」
「ほれ、行くぜ。早く行かねーと、皆待ってるぞ。あのドン臭い娘っ子は浴衣着るのに手間取ってるのか…だなんて思わせたかねーだろ?」
「ホント、一言、多いんだから!」


 礼拝堂は、ちょっとしたちょっとした、浴衣パーティー会場だった。
 それぞれ、浴衣を着込んで、夕涼みがてら、出て来たような、そんな感じだ。
 ただ、土の上ではなく、ふかふかの絨毯の上であるのが残念な気がする。

「すっごーい。楽しいっ!」
 一同の中で、一番、元気が良かったのは、最年少の凛華かもしれない。
 とっくに眠っていても良さそうな時間帯だが、興奮しきった少女は、目がランランに輝いていた。
「ガキは良いよなあ…。悩みごとなんて、全然、ねーんだろうなあ…。」
 ふうっとついたため息に
「何、思わせぶりっ子してるのよ。それじゃあ、まるで、あんたが何かに悩んでいるみたいじゃない。」
 とあかねが受けた。
「おめーなあ…。俺のこの状況を知らないわけじゃねーだろうが…。たく、これだから鈍い女は…。」
「誰が鈍いですって?ええ?誰が…。」

「君たちは仲が良いんだねえ。」
 と、いがみ合う二人の背後で声がした。振り返ると、紫苑が立って笑っている。
「あ、紫苑さん…。」
 ばつが悪そうに、あかねが語気を緩めた。
「たく、男の前だと、カワイ子ぶりっ子しやがって!」
 そんなあかねに向かって乱馬が吐き出す。
 ジロリとキツイ瞳を乱馬へと投げかけたが、紫苑の視線があったので、すんでで止めた。
「本当に、親友同士って感じだね。二人揃って申し込んでくれたのも、わかるような気がするよ。でも、できるだけ穏便に、お手柔らかにね。」
「あ、はい。気をつけます。」
 紫苑は、笑いながら、その場を去る。

「紫苑さんって、きれいなんだあ…。」
 ポウッとあかねの頬が染まったのを、乱馬は見逃さない。
「おまえ…。あんなのが良いのかよ。」
 と吐き出すように言う。
「あんたよりはマシよ。」
「どういう意味でい。」
「まんまよ、まんま!ホント、あんたも、紫苑さんを見習って、少しは思慮深くなりなさいな。あまりに、ガキっぽすぎるわよ!」
「ほっとけ!」

「ねえねえ、本当に仲が良いのねえ…。あんたたちさあ。」
 碧が飲みのもが入ったグラスを片手に、話しかけてきた。

「そう見えます?」
 あかねが、碧に訊き返した。
「ええ。こうやって、何でも話して、本音で喧嘩しあえる同性の友人って、なかなか持てないものよ。」
「そうよねえ…。女同士だと、こう、異性に対する駆け引きみたいなのも入ってくることがあるし…。」
「難しいところやろうな…。せやけど、あんたら、そんなこと微塵もなく、ここへ来た時から、そうやって、楽しそうに口喧嘩しとるし。」
 気がつけば、女子大生トリオが囲んでいた。
「友人同士というよりは、恋人同士…なのかしらねえ。心情的には。どお?」
 お酒の入ったグラスを片手に、橙子が話しかける。
 その言葉に、ぎくっと、あかねと乱馬の肩が上がった。身体が微妙に反応したのだ。
「あら、否定しないのぉ?」
 からかうように、橙子が茶化す。
「否定も何も、女同士じゃあ、何も有り得ませんから…。ね、ねえ、乱子ちゃん。」
 焦り気味にあかねが吐き出す。
「そ、そうですわよ!ほっほっほっほ、こーんな、がさつな女、もし、私が男だったとしても、お断りですわ!」
 わざわざ、女言葉を使って見せる。
「あやしいなあ…。お二人さん。」
「高校生とか中学生っていう年頃は、同性同士にも、ほら、恋愛感情を持つことがあるじゃない。」
「そうやね…。同人的なボーイズラブを許容し始めるのも、この年代が下限やもんねえ…。そこから広がる危険な官能世界!なかなか、おもろいやん!」

「そ、そんなんじゃないです!あたしたち!」
「頼むから、そういう、邪な目で俺たちを見ねーでくれよ!」
 あかねも乱馬も焦りながら、真っ赤になって否定に走る。

「なーんちゃって。面白いわあ…。純朴な青少年をからかうのは。」
 橙子がゲラゲラと笑い始めた。
「ダメですよう!橙子お姉さま!免疫のない女高生をからかっちゃあ!」
 くすくすと大学生トリオも笑った。
 そう。二人して、態よく、からかわれたのである。
 二人とも、唖然と開いた口が、閉じられなかった。

「青少年をからかうのは、このくらいにして、ほら、雲が切れてきたわよ。」
 と、千秋が天井を見上げた。
 真っ暗な空は、確かに、立ち込めていた雲が切れ始め、星がチカチカと瞬き始めている。日付もそろそろ変わる頃だろう。
「わあ、やっぱ、東京なんかより、ずっと星の数が多いわあ!」
「海へ向かって迫り出してるし、こっちの方向には街の煌々とした灯りも無いからなあ…。」
 奇妙な連帯感が、一同の上に生まれつつあった。
 まだ、月の有る辺りは雲が覆っている。が、そろそろ顔を出すだろう。
 今か、今かと、その時を待ち詫びる。


三、

 月が雲間から顔を出した刹那、水晶玉が妖しく光り輝き始めた。
 蒼白な光。

「わああ!」
「きれい!」
「すっごーい!」
 少女たちの感嘆が、部屋中を駆け巡った。
 確かに、美しかった。
 月明かりを真正面に受け、水晶玉が独りでに光り出す。暗い礼拝堂を幻想的な蒼い光が仄かに光る。
 一同が、その美しさに心を奪われていたのに、一人だけ、それに同調できない人間が居た。

(なっ…。何っ?)
 乱馬だけは、その光の美しさに共感できなかったのだ。
 美しいはずの水晶玉の球面に、ぽっかりと浮かぶ不気味な影。
 最初は見間違いかと思った。
 そう、水晶玉の中に、「嫌な気配」を感じたのだ。言葉には尽くせないような、不気味な魔が、そこに潜んでいるような感覚。背中がぞくっとした。
 視線を逸らそうとしたが、出来なかった。何か、魔の吸引力が、そこへ引きつけているような嫌な感じがしたのだ。
 透明な水晶玉の中から鈍く輝く蒼い光。そいつに誘導されるように、見たくはないのに無理矢理ひきつけられる視線。じっと、凝視すると、そこに浮かび上がってきたのは、人の瞼。それも、一双ではなく、一つだけだ。半開きになったまま虚ろげに明後日を向いている。長いまつ毛に遮られて、そいつの視線がどこへ向いているかはわからない。かえって、それが、余計に不気味さをかもし出していた。

(な、何だ?あの目は…。人間の瞳か?)

 ギョッとした。戦慄が瞬時、乱馬を襲っていた。
 見てはならぬものを見てしまった…。そんな後悔の念が怒涛の如く押し寄せる。
 動機が高まり始めた。

「どうです、きれいでしょう?」
 背後で紫苑の声が響いた。それは、吹き飛びかけた意識を、現実世界へ呼び戻してくれる誘引となった。

「え、ええ…きれいですわ。」
 と、冷たい汗を背中に流しながら、表情も変えずに、咄嗟に取り繕っていた。
 何故だろう。強い警戒心が、紫苑に対して、瞬時に芽生えていた。本能が「上手く誤魔化せ!」と乱馬に命令したのだ。今、己が水晶玉に感じた心情を、彼の元に明かしてはならない。そう、思ったのだ。
 心臓は激しく動機を打ち始めた。ドクンドクンと、血液を体中に押し流しているのがわかる。グラッとその場へ前のめりに倒れ込みそうになるのを必死で堪える。
「ご気分でも害されました?」
 紫苑が心配そうに覗き込む。
「い、いいえ、別に…。」
「あ、いや、大丈夫です。本当に、水晶玉の美しさに心身を奪われて、我を失っただけですわ。おほほほのほ。」
 そう言い訳するのが、精一杯だった。
「なら、良いんです。」
 紫苑は、すっと乱馬の脇から立ち上がった。ふううっと、大きなため息が乱馬の口から漏れた。

 恐る恐る、再び顔を上げて、水晶玉を見た。何がそこに映っていたのか、確かめるためだった。
 だが一転、そこには、不気味な瞼はなく、ただ、月の光を受けて、蒼黒く美しく光っているだけであった。

(見間違いだったのかな…。)
 まばたきを何度か意識的に行って、もう一度見たが、やはり、普通の水晶玉だった。

 平常心を取り戻し辺りを見渡すと、あかねはもちろんの事、他の女性たちが、見惚れたようにじっと動かない。言葉も無く、あの水晶玉に完全に魅入られている。そんな感じに見えた。他の誰も、自分と同じ「瞼」を見た者は居ないようだった。
 彼女たちは、一様に、水晶玉と月光の成せる技に見惚れている。
 「きれい…。」と、乱馬もわざと、彼女たちに同調して、呆けて見惚れているように見せかけながら、回りを観察した。
 水晶玉の様子も、紫苑の様子も、特に不審な点は見当たらなかった。
 静かな神秘的な空間が、そこに開けている。そして、初めて目にする女性たちが、その美しき玉の光に、魅入られてじっと見惚れている。ただ、それだけのことだ。
 物の数分もしないうちに、再び月は、分厚い雲間に隠れてしまった。出し惜しみをしているように、すうっと水晶玉から光が消えた。

「いかがでしたか?なかなか幻想的な美しさを持っているでしょう?」
 紫苑が電灯のスイッチを入れながら、一同に話し掛けた。

「ええ、素晴らしかったわ!」
「不思議な水晶玉ですね。」
「目の保養にはなったわよ。」
「また、明日の晩も見られると良いな…。」
 口々に、賞賛する。

「これ、この水晶玉をキーホルダーか何かに模して作って、お土産用に売ったらええんちゃう?」
 関西人らしく、桃代が提案する。
「そうよねえ…。絶海の岬の先端に来た記念に、月光水晶とか銘打ってば、あたしも欲しいかも…。」
 碧も同調する。
 逞しきは商売根性。
「なるほど…。一考に値しますね。考えておきますよ。」
 と紫苑が笑った。
「さて、今宵はこの辺りでお開きにいたしましょう。明日の朝ご飯は、八時過ぎに下で支度していますから。今夜はゆっくりとお休みください。」


 水晶玉鑑賞会はここでお開きとなった。天井は元通りに閉じられ、月の光も届かぬただの室内になった。水晶玉は何事もなかったように、ちんまりと壁に鎮座している。
「ふわああ…。あたし今朝は早かったから、もう眠いわ。」
 そう言いながら、千秋が大きな欠伸をした。
「そうねえ…。もう、日付変わっちゃってるものねえ…。」
 ウンウンと碧も同調する。
「飲み明かすのは、最終夜で良いわねえ…。今日のところは大人しく寝ましょうかね。」
 橙子もグラスを置いて立ち上がる。

 それぞれ、すぐに、部屋へと引き上げた。勿論、乱馬もあかねもだ。

 部屋に帰ると、先にシャワーを浴びた。身体を洗い流しながら、いろいろと考える。
(あの水晶玉に映っていたものは、見間違いだったのか?…俺しか見えてなかったようだが…。)
 考えれば考えるほど、わからなかった。

 部屋に帰ってから、あかねに、
「なあ、あの水晶玉の中に、何か変なものが見えなかったか?」
 と尋ねてみた。
「別に何にも。光ってる以外は特に何も見えなかったわよ。」
 と返答がきた。
「あんたには、何か見えたの?」
 と、逆に尋ねられた。
「ああ、ちょっとな…。変な物が見えたような気がしたんだよ。」
「何よそれ…。変なものって。」
「さあな…。俺にもよくはわからなかった。」
「あんた、今朝、早かったから夢か幻でも見たんじゃないの?」
 と一笑に付された。
「ああ、そうかもな。半分眠りかけてたし…。」
 と誤魔化した。半開きの瞳がそこに映っていたと、あかねに言ってみたところでどうしようもあるまい。そんな事を言えば、怖がりの彼女を怖がらせるせるだけだ。そう判断した。
 だから、その話は、そこで終わらせたのだ。
「シャワー浴びてくらあ。」
 そう言うと、タオルを首にかけ、バスルームへと入って行った。


「気に食わねえ…。よくわからねーが、気に食わねえ…。」
 そう呟きながら、蛇口をひねる。
 紫苑と立浪が写真に撮るのを嫌がったのは、もしかすると、何か理由があるのではないかと、ふと、脳裏を過ぎった。もしかすると、写真に撮られるのが嫌な理由が明確に存在しているのかもしれない。
「考えすぎかな…。」
 湯煙の向こう側の鏡に映るのは、鍛え抜かれた男の身体。やっぱり男の身体の方が落ち着く。今日一日、女の姿で居たから余計、そう思える。体中の筋肉が男の身体に喜んでいるような気がした。
 ふうっと大きくため息を一つ吐き出すと、また、蛇口をひねる。今度はシャワーから、冷たい水が滴り落ちる。再び、縮む体。平らな胸は膨らみ、角ばった腰も丸みを帯びる。視界もぐんと低くなる。
「ま、仕方ねーな…。気が乗らねーが、男のままここでウロウロするわけにもいかねーか。」
 鏡の向こう側に映った、女体の自分を眺めて、再び、大きなため息を吐き出した。そして、そのまま、バスルームから出た。

「あんたねえ!女のたしなみっつうのはないの!」
 ドアを開くと、あかねが、真っ先に怒鳴った。
「何だよ…。女の姿してるのに、文句あっか?」
 ぶすっと不機嫌そうに乱馬は言い放った。
「だから!風呂から上がる時、下着くらい着けてこいって言ってるの!」
「ちゃんと、タオル巻いてるだろうが。」
「腰にタオル巻いてるだけで偉そうに、上半身裸で部屋中を徘徊されたら、こっちがこっ恥ずかしいっつってるの!」
「あん?あかねちゃん、もしかして、俺様のむちむちボディーを見て、嫉妬してるかあ?おめえは、ぺったんこ胸とスットン胴回りだもんなあ…。」
「バカッ!何を言い出すのよ!ああ、もう良いわ!今度はあたしが風呂に入るから、覗かないでよ!」
 バタンと思いっきりバスルームのドアを閉めて、向こう側へ消えた。

「ふう…。こっちだって、最大限気を遣ってやってんだ!」
 そう、吐き出しながら、ゴロンとベッドに横たわる。
 シャワーの音が扉の向こう側でしている。あかねが身体を洗って居る頃だ。少し想像して、顔を赤らめる。
 このまま、バスルームへ押し入って、男に戻り、そのままあかねを抱き締めたいという、仄かな欲望が、もくもくっと顔をもたげてくる。身体は女性化しているが、心まで女に成り下がったわけではない。思考そのものは、男のそれだ。
「な、何考えてんだ?俺…。」
 ブンブンと頭を横に振りながら、邪な想像をやめようと努力した。
 再び、今日、この館に来てからの「違和感」について、考えを巡らせ始める。そちらへ意識を集中させることで、意識をあかねから逸らそうと思ったのだ。そうでもしないと、あかねが風呂から上がって来たとき、とても、平常心を保てないと思ったのだ。平常心を保てなくなれば終わりだ。際限なく、男の欲望が湧き立ち、女のあかねを襲ってしまうやもしれない。あかねと二人、男と女の河を渡ってしまうには、まだ、己の覚悟も足らない。それは、自分自身が一番わかっていることであった。

(やっぱ、何かあるって、思っておいた方が良いだろうな…。こいつは、ただのご招待旅行じゃねえ…。で、あの水晶玉が、関与してるな…多分…。でも、そうなると、あいつらの狙いは何だ?)
 野性の本能が、さっきの水晶玉の一件から、警戒心を煽りたてている。何か、とんでもない陰謀が、後ろ側で蠢いているのではないかとさえ思えてくる。
(いずれにしろ、警戒しておいて落ち度はねえ。何もなければ、それはそれで良かったってことで…。いいっか…。)
 そう思ったところで、生あくびが出た。深夜一時前。普段なら、とっくに夢の最中に居る時間だ。同じ蒲団にあかねが入ってくることなど、すっかり忘却の彼方だった。
 そのまま、目を閉じると、引き込まれるように眠りの淵に落ちる。
 軽く寝息をたて始めた頃、あかねがバスルームから出て来た。こちらはこちらで、相当な決意を込めて、ベッドへ向かってきたのだ。これから戦場に赴くような緊張感を持って。
 だが、乱馬は既に眠っていた。
 タヌキ寝入りかと最初は思って、そっと伺ったが、それにしては、気持ちよさげな規則的な寝息が聞こえてくる。

(乱馬…。眠っちゃってる…。)
 ホッと胸を撫で下ろすと同時に拍子抜けした。彼女とて女。乱馬がその気になれば、抵抗する術も持ち合わせては居ないだろう。姿は女とて、元は健康な大和男児の乱馬だ。そのまま、言い寄られたら…。
(やだ、あたしったら…。これじゃあ、何か期待していたみたいじゃないの!)
 あかねはブンブンと頭を横に振る。
 乱馬はお構い無しに、眠っている。寝首をかこうと言うのではないから、殺気など感じられないのだろう。あかねが覗き込んでも、深い眠りの淵に落ちたまま、起き上がる気配もない。
(ま…いっか。何事もないのなら、それに越した事はないんだし…。)
 あかねはそっと、ベッドの上に乗った。
 クッションが軽く、あかねの重みに反応して沈んだが、乱馬は目を覚ますことなく、コンコンと眠り続けている。
「ホント、憎まれ口たたいてても、眠っていたら天使よねえ…。」
 くすっと微笑がこぼれる。格闘家のクセに、無防備に眠るのは、あかねに対し気を許している証拠なのだろう。
「あたしも寝よう…。」
 安堵と共に訪れた眠気には勝てず、あかねもそのまま、すぐに眠りの淵へと吸い込まれるように落ちていった。





「で?立浪はどう思う?」
 闇に包まれた礼拝堂で、そっと、背後から近寄ってくる影に向かって紫苑が話し掛けた。
 彼は背後に四人のメイドたちを従えていた。いずれも、血色無く、無言で立浪の後ろ側に控えている。瞳も虚ろだ。
「どの娘も、心身ともに健康だと思いますが…。」
 立浪は声を落としながら、それに答えた。
「でも、まさか、婆さんが紛れ込んでこようとは…。」
「こちらのチェックが甘うございました。」
 立浪がコクンと頭を垂れる。
「いや、仕方が無いよ…。ただ、気になるのは、意識的に紛れ込んできたのか、それとも、ただの偶然か…。」
「気になりますかな?」
「ああ…。今宵の水晶玉お披露目式にも同席しなかったしな…。」
 紫苑の声が落ちる。わざわざ、「お披露目式」という言葉を使った辺りに、何か含みがありそうだ。
「一応、用心しておくに越した事はありますまいな…。紫苑様。」
 コクンと頷きあう。
「いずれにしても、婆さんには用が無い。あの方の言われるままに、念のため、保険をかけて、余計にもう一人、娘を招いておいて良かったかもしれないよ…。」
「前と同じ鉄は踏みたくありませぬから、当然の計らいでありましょうや…。」
「そういうことだ。で、明日の天候の調整具合は?」
「大丈夫、魔水晶の妖力を用いれば、自在に作用できまする。で、確認いたしますが、次郎太とかいう漁師がここへ着岸してから、結界を封鎖してしまえばよろしいのですね?」
 確認するように立浪は紫苑に話し掛けた。
「ああ。それで良い。」
「では、その次郎太を…。」
「勿論だ、次郎太を利用しない手はないからな…。ふふふ。」
「で?「胡瑠姫(うるき)様の傀儡人形」は決まったのですか?」
「いや、まだ結論は出て居ない。でも、こればかりはあの方直々に様子をみて、お決めになることだ。いかなる娘が選ばれようと、私たちはそれに従うまでのこと。」
「御意。」
「滞りなく儀式を終える…。それが、我らの勤めだからな…。」
 紫苑は淡いルームライトに照らし出される水晶玉へ目を転じながら、そう、呟くように言い聞かせた。水晶玉の中には、乱馬が見た、おどろおどろしい瞼が微かに浮かび上がっている。半開きのままなのが、いっそう、不気味さを募らせている。
「この魔水晶が次の満月で光り輝いた時、全ては終わる…。あと少しの辛抱だ…。なあ…。立浪。」
 だが、紫苑のその言葉に、立浪の返答はなかった。ただ、紫苑の方へ、冷たい無表情の瞳を差し向けて佇んでいるだけであった。





一之瀬的戯言
 陰謀の始まり…。
 「胡瑠姫」は勝手につけた当て字です。感の良い方は命名の出典がわかるかもしれません…。出典がわかったら、物語の筋も見えるから、これ以上は…まだ、内緒ぉ。

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