第二話 白亜御殿の招待客たち


一、

 桟橋から館の入口までは、延々と崖にそって石畳の階段が続いていた。
 雨風を避けるための庇もない。上空には青い空が広がっている。

「婆さん、大丈夫か?」
 乱馬はすぐ下を歩く、婆さんに声をかけた。
「え、ええ…。二十歳ですもの。」
 そう言って、婆さんは汗を拭う。
「バカ言ってんじゃねえ!かなり息が切れてるじゃねえか。ほれ。」
 そう言うと、乱馬は、婆さんの荷物を手に持とうとした。
 と、その気配を察して、先導していた若者が執事に目配せする。
「あいすいませんねえ…。気がつかなくて。」
 と、執事が婆さんの荷物を持った。
「あ、いえ…。こちらこそ、持っていただいて…。」
「遠慮するなって。慣れない人間にとっちゃ、階段は辛かろう?甘えたって良いんじゃねえのか。」
 乱馬はにっと笑った。
「船の乗り降りだけですからね…。不便なのは。この先、館に入ってしまえば、快適さは保証します。」
 若者は、そう言い訳した。恐らく、館の改修ばかりが優先して、ここまで手が回らなかったのだろう。
「さて、館の一番下の部分につきましたよ。」
 そういうと、切立った崖の中ほどに、ぽっかりと開いた岩窟の穴のような入口に立った。
「へえ…。洞窟の入口じゃん、これ。」
 一同は目を見張った。
「まだ、建物はここよりもかなり上にありますから。」
「ってこっとは、また階段なのかよ?」
 ここまでも随分上ってきた乱馬は、少し嫌味に吐きつける。
「いえ、ここから先には、エレベーターがついてるんです。」
「エレベーターだってえ?そんな文明の利器がついてるようには見えねえが…。」
「中へ入ればわかりますよ。さあ、どうぞ。」
 そう言いながら、若者は先に洞窟の入口へといざなった。
 外の荒涼とした崖の風景は一変し、洞窟の中は、絢爛豪華だった。
 いや、最早、洞窟とは言えないだろう。何故なら、そこにあるだろうと予想していた岩肌は完全なる建造物に覆い隠されていたからだ。洞窟の入口を抜けると、いきなり、建物の中に入った。そんな感覚であった。

「すっごーい!」
 一歩中へ足を踏み入れたあかねが、感嘆の声を漏らしたほどだ。
 壁はコンクリートではあったが、それでも、人工的に加工された材料で覆っている。しかも、かがり火のような、明るい人口の光が床を照らしつけている。それも、ロウソクや松明といった原始的な直火ではなく、ちゃんと、発電されて作られた電気の発光体のようだ。
 床も平にならされていて、普通の建物の廊下に居るような雰囲気だった。とても、ここが洞窟の中だとは思えない。ただ、やはり、陽の光が届かない分、どことなく湿っぽい臭いが鼻先を突いた。

「驚くのは、まだ、早いですよ。」
 若者は先導して、奥まったホールへと一同を導き入れる。そこには、仰々しいまでの鉄の扉があった。
「へええ…。年代物のエレベーターだこと。昔の銀座辺りのデパートメントストア風情を思わせるに足りるわあ。」
 と、鈴音婆さんを唸らせたほどの、古びたエレベーターがそこに出現したのである。
「僕たちが生れる、ずっと大昔から、ここに架設されていたエレベーターです。」
 そう言いながら、若者がスイッチをひねる。
 と、ガゴンと重い音をたてながら、鉄の扉が観音開きした。ちょっと、乗り込むのを躊躇してしまいそうな、そんな外観に、一同はそのまま立ち尽くす。
「ちゃんと整備してありますから、途中で止まったりはしませんよ。安心して、お乗りください。お嬢様方。」
 笑いながら、若者が先に乗る。そして、エレベーターボーイを務めた。
「よいしょっと…。」
 一番に鈴音婆さんが乗り込む。
 あかねと乱馬、執事が順にそれに続いた。
「エレベーターの箱は昔のものを使っていますが、制御装置は最近のものに取り換えていますからね。」
 確かに、乗り心地も悪くはなかった。大きな揺れもなければ、音も静かだ。すすすっと上昇しているのがわかった。
 どのくらい上がったのか、想像もつかないが、ともかく、次に扉が開いた時は、もっと別世界が一同を待ち構えていたのだ。

 到着したのは、大きなエントランスホールだった。

 深紅のふかふかカーペットが床一面に敷き詰められ、天井からは、豪華絢爛なシャンデリアがぶら下がっている。ガラスの光沢が美しく、それだけでも、かなりの価値がありそうだった。
 ホールから上に続く、開放された階段は上品さを保っている。また、壁には大きな海の風景や人物画などが飾られているし、所々に、ギリシャ神話風の彫刻もさりげなく置かれている。
 ここは日本ではなく、地中海かヨーロッパの王宮にでも迷い込んだのかと思えるような、美しさだった。

「すっごーい…。」
 暫し、呆気に取られて、言葉も出ない。
 そんな、一同に、若者は柔らかく声をかけた。
「先にご到着なさった皆様と、あちらで暫し、飲み物などを飲みながら、ゆっくりとおくつろぎください。」
 そういうと、一礼して、何処かへ去ってしまった。

「何か…物凄い贅沢なところだな…。俺たちには場違いとでも言うか…。」
 さすがの乱馬もたじたじだ。こうやって、立っていると、己がとても貧乏臭く感じる。
「最近改修しただなんて思えないくらい立派な建物よねえ…。工事費だけでも、相当つぎ込んだんじゃないのかしらん…。」
 あかねも、同調しながら頷く。
「海の孤島に立派な白亜御殿…、なかなかロマンチックだわ。」
 鈴音婆さんもすっかりはしゃいでいる。
「何か、西洋風の竜宮城にでも迷い込んだみたいよねえ…。」
 三人三様に、ため息をついていると、すぐ傍の別の部屋から、女性たちの賑やかな声がした。

「あ、ほらほら、別働隊のご到着よ。」
「ホントだあ…。そこで溜まってらっしゃらないで、こっちへいらっしゃいな。」

 ふと顔を上げると、若い女性が手をこまねいている。
 どうやら、クルーザーで先にここへ入った招待客たちのようだ。

 招かれるままに、乱馬とあかね、それから鈴音婆さんがそちらの方向へと足を向けた。
 そこは、ラウンジのようになっていて、円卓が真ん中にドンと置かれていた。その周りには、これ見よがしに装飾された座椅子も置いてある。円卓の上には、飲み物やお菓子が並べられていた。
 目を凝らすと、そこにはうら若き女性たちが数人。どうやら、今回の招待客たちらしい。ゆったりと思い思いにそこでくつろいでいる様子だった。

「何か、今回の招待者って女ばっかだな…。男は全然居ないでやんの。」
 と、乱馬はあかねに耳打ちする。
「そうねえ…。あんた以外は普通の婦女子だわ。」
「あんた以外っつうのは、余計だ!」
 乱馬はプクッと頬を膨らませる。
 乱馬が指摘したとおり、そこに揃っているのは、全員、女性。しかも、鈴音婆さん以外は年齢がグッと若い。せいぜい二十代後半までの、女性ばかりであった。

「あなたたちも、招待客なんでしょ?」
 まず声をかけてきたのは、ロングヘアーの女性だった。化粧の具合や着ているノースリーブのスリットな洋服から、推定、二十代半ばから三十前。少し落ち着いた雰囲気が艶っぽさを感じさせる年頃だった。
「へえ…。君たちは、高校生ってところね。」
 その横から、健康的な小麦色の肌をしたセミロングヘアーの女性が顔を出した。髪の毛は少し茶髪がかっている。
「何で高校生ってわかるのよぉ。」
 甘ったるい声でロングヘアーの女性が尋ねる。
「あら、全然化粧っ気がないじゃないの、この子達。それに、髪の毛だって染めてないし。」
「そお?そっちのおさげの子はちょっと赤みがかった髪の毛色しているけどぉ…。」
「地毛だわよ。染髪剤じゃあこんなきれいな栗色にはなかなか染まらないわ。ねえ。」
 とセミロングが乱馬に問いかけてきた。
「あ、ああ…。地毛だよ。地毛だ。」
 乱馬は苦笑いした。男の乱馬は見事に真っ黒な髪の毛だが、女に変化すると、少し赤みがかった栗色のさらさらヘアーになる。どうしてそうなるのか不思議だったが、呪泉の水の成す呪いだからと、あまり普段、気にしたことはない。
「ねえ、あんたたち、高校生みたいだけど、年幾つ?」
 とロングヘアーが訊いてきた。

「おい、女に年を訊くのって失礼だったんじゃなかったっけ?」
 乱馬がこそっとあかねに耳打ちした。
「バカね…それは、ある一定年齢以上いった方に訊く場合だけよ。あたしたちに対しては別に良いの。」
 そう、答えてから、あかねは問い掛けに答えた。
「高校生です。あたしもこの子も高二の十七歳です。」
 はきはきと答えた。
「十七かあ…。良いわねえ、その響き!くううっ!」
 ロングの女性がぐっと拳を握り締めて羨ましげに言った。
「お姉さんたちは幾つなんだ?」
 今度は乱馬が聴く側に回った。
「こらっ!だから、さっきから、ある一定年齢以上の女性に年を訊くなって言ってるでしょうがっ!」
 あかねが乱馬の袖をグイッと引っ張った。

「あら、別に良いわよ…。尋ねてくれたって。女同士だしぃ。私は二十六でこの子は二十歳の大学生よ。」
 ロングの女性が甘ったるい声で気さくに答えた。
「おい、今度は自分から歳言ったぜ…。歳尋ねるのって、本当に失礼な行為なのかよ…。」
 乱馬があかねにこそっと耳打ちした。
「いいから、あんたは、余計な事言わないで!」
 あかねは、そう制してから尋ねる。
「前からのお知り合いなんですか?随分親しそうですけど…。」
「うううん。全然。今日が初対面よ。ねえ。」
「ええ、クルーザーに乗ってから、知り合ったばかり。」
 と二人とも、あかねの問い掛けに、あっさりと答えた。

「知り合ったばかりで、もう友人口調で話をしているのかよ…。何でだ?」
 乱馬は率直にあかねに小声で尋ねていた。
「知らないわよ!いちいちあたしにそんなことまでわかるわけないじゃない!」
 あかねは、苦笑しながら、乱馬の問い掛けに答える。
「女っつーのは、本当にわからないことだらけだぜ…。」
「いいから、黙って!」

 こそこそと話している乱馬とあかねを横目に、ロングの女性が仕切りながら、向こう側で休んでいる、客人にも声をかけた。
「せっかくだから、各人、自己紹介しときましょうか。これから、ここで三泊四日を一緒に過ごすわけだし…。どう?そちらさんたち。」
 
「異議なーし!」
「右に同じです!」
 とそれぞれ声が返って来る。
「あたしも賛成!」
 一人だけ、ぐっと幼い声がした。ふっとそちらを見返すと、まだ、小学生と思しき少女が、円らな瞳をこちらへ手向けていた。
「え?子供も招かれてるの?」
 あかねにも一目でわかった。最近の小学生は発育も良く、高学年になってくると、大人顔負けのナイスバディーを持つ子もいるが、この子はごく普通のあどけなさが残る少女だった。

「じゃあ、せっかくだから、皆さんこっちに集ってね。」
 恐らく若い中では年長者になるだろう、ロングヘアーの女性が仕切った。
 これから、三泊四日を共に過ごす仲間。それぞれ、言われるままに、大きな円卓に着席した。
 あわせて八名。年齢も服装の好みもバラバラな女性たちだった。

「一番初めに私から。名前は立花橙子(たちばな・とうこ)。横浜から来ました。で、服飾の販売関係のお仕事をしてます。良く、夜の仕事、お水の関係かと間違われるけれど、一応堅気ですから。よろしくね。」
 ロングヘアーの良く似合う、玄人っぽく見えるが、気さくなお姉さんだ。次に、右隣に居合わせた、セミロングの女性へと移る。
「じゃ、次は私ね。私は来島碧(くるしま・みどり)、二十歳の大学生です。都内の大学に通ってます。あんまり賢い大学じゃないから、大学名は一応、内緒ってことで。専攻はメディア情報学部。将来は玉の輿、狙ってます。」
 ペコン、と頭を下げた。

「次は、ウチね。えっと、言葉でわかると思うけど、関西から来ました。今回の旅行、もう、当たった時は、心臓ばくばくもんやったです。名前は川中桃代。
 十九歳の短大生。将来は多分、保母さんです。」
 愛嬌のある眼鏡をかけた女子大生だった。機動的なスタイルが好きなのか、彼女だけスラックスを着用していた。

「藤峰千秋(ふじみね・ちあき)です。私も大学生、二十歳です。関東育ちだけど、今は歴史を勉強するために京都の大学へ下宿して通ってます。夏休みにこんな企画に参加できるのは、学生の特権だと思って応募してみました。よろしくね。」
 千秋は打って変わって、ファッション雑誌から抜け出てきたような、重ね着スタイルの服装。髪の毛も赤めの茶色に染めている、明るいタイプの美人だった。

「ええっと、あたしは、本田凛華(ほんだ・りんか)です。皆にはそのまま「凛華ちゃーん」って呼ばれてます。えっと、小学校四年生でーす。将来の事は、何も決めてませーん。初めて、パパやママから離れてお泊りするの。とっても、楽しみでーす!」
 一際声が大きかった。小学生らしく、声にも張りがある。髪の毛は両側二つに分けた長め。大きな花のピンクのボンボンが、着ているノースリーブのワンピースと良く似合っていた。絵に描いたような、どこにでも居る小学生だった。
「じゃあ、今度はあたしね。天道あかね十七歳、高校二年生です。東京から来ました。あたしとこの子は当たった人のピンチヒッターで来ました。こんな素敵なところに招いてもらえて、ラッキーだったと思ってます。」
 あかねがペコンと頭を下げた。
「俺は、さおと…っとっと、天道乱子。」
 案の定噛み掛けた乱馬だが、あかねに肘で突付かれて、我に返る。
「ええっと、お隣のあかねちゃんのイトコでーす。あかねちゃんのお父さんが、あかねちゃん一人だと危なっかしいからって、俺をお供に付けてくれました。で、男言葉なのは、男ばかりがうざいほど溜まっている「道場育ち」だからでーす。一応、俺は家業である格闘を子供の頃からやっていて、将来は格闘技のプロになりたいでーす!」
 と、はきはき答えた。ここで変に女言葉を隠すと、ボロが出る。今まで、行きの小船の中で、散々婆さん相手に男言葉を使って来た。ここで替えるのも不信感を煽るのではないか、と判断して、男言葉で通す事にしたのである。思春期の少女にはたまにいるではないか。男言葉をわざと使うような少女が。それを演じようと、心に決めた。

「へええ…。道場の跡取り娘なんだ、乱子ちゃんって。」
「すっごーい。平成の御世でも道場はあるんだ。」
「ええ、まあ。」
 本当の道場の跡取り娘、隣のあかねをちらっと見ながら、乱馬はコクンと頷く。
「あんたは何やるんや?柔道?それとも、剣道か合気道か?」
 案の定、女子大生たちが、目を輝かせる。

「えっと、無差別格闘っていう、柔道や空手なんか併せ持った異種徒手格闘でーす。将来は女だてらにもK1なんかにも出たいなあ…なんて、密かに思ってまーす!」
 普段は無愛想な乱馬にしては、珍しく饒舌だった。
「へええ…。その華奢(きゃしゃ)な身体でK1かあ?」
「こう見えても、結構強いんですよ。あたし。」
 隣でボロが出ないかと、ハラハラした瞳で、あかねが見守ったが、ちゃんと怪しまれずに会話している。とりあえず、第一関門突破と、二人ホッと胸を撫で下ろす。

「最後に、一番の長老の私ね。田中鈴音(たなか・すずね)と言います。歳は皆さんのご想像に任せますわ。でも、気持ちはずっと二十歳のままです。豪華な宿泊体験コースだというので、歳を偽って応募したら、受かっちゃいました。」
 と笑った。

「おい、このツアーって年齢制限とか、申し込み時にあったのか?」
 乱馬があかねに問いかけた。
「だからあ、知らないって!あたしもあんたと同じ立場でおば様から言われて参加したんだからあっ!」
 乱馬とあかねの痴話喧嘩のような会話を横に、円卓に座っていた女性たちは、一気に一点へと視線が釘づけられた。人の気配がした方向を流し見たのだが、そのまま、瞳がぱああっと輝きだす。

 さっきの若者が颯爽と奥から現れたからだ。


二、

「皆様、ようこそ、当ホテルのこけら落としにご参加くださり、まことにありがとうございます!」
 若者は、張りのある良く伸びる声で、一同に語りかけた。
「今回は、モニターを兼ねて、皆様をここへご招待させていただきました。三泊四日、今回、皆様をご接待するスタッフはこちらの執事の立浪、それから五名のメイド、そして、私、当ホテル支配人の印南紫苑(いんなみ・しおん)でございます。
 今後は気さくに、紫苑さんとお呼びください。」
 ずらっと並んだスタッフたちが、一斉に、お辞儀をした。
 
「紫苑さんねえ…。馴れ馴れしく呼べってか。」
「こら!黙って!」
 あかねは饒舌な乱馬の膝をちくっとひねった。

「いずれも、当ホテルの中核を担う、優秀なスタッフばかりです。今回、皆様をご招待した上で集めさせていただいたデーターは、来月に予定しております、グランドオープンの布石として、参考にさせていただきますので、お気づきのことがありましたら、何なりと、私やスタッフに申し付けてください。
 では、それぞれのお部屋にご案内いたします。暫く、このままお待ちください。」
 と、にっこりと微笑んだ。
 かなりのイケメン支配人だ。
 居並ぶ、娘たちの瞳が輝きに満ちた。
「すっごーい。きれいな兄ちゃんやなあ…。」
「ほんと、アイドルでもなかなかここまで、格好の良い人は居ないんじゃないの?」
「ねえねえ、歳、幾つかなあ。どう見てもまだ二十代よね。」
 特に、女子大生トリオの声が姦しかった。

「なあ、あいつって格好良いのか?なんだか、女っぽいぜ…。」
 こそっと乱馬があかねを突っついた。
「かなりポイント高いわよ。紫苑さんって。百人中九十九人は、きれいな男の人って言うと思うけど…。」
 と、あかねの目の色も輝いている。
「きれーな顔立ちの男って、もてるのかよ!」
 ちょっと、不機嫌に乱馬が言い放つ。
「あーら、紫苑さんにヤキモチやいてるのぉ?」
「誰がヤキモチやくだって?はっ!あんな、なよっとした弱体筋肉野郎!」
 憎々しげに吐き捨てる。
「格闘家のあんたとは、全然違うタイプね。まあ、格闘技やってるんじゃないから、筋骨隆々じゃなくったって、一向にかまわないんじゃないの?」
 あかねはくすっと笑った。乱馬のヤキモチが少し可愛らしく映ったのだ。
「あーんな、女みてえのが良いだなんて…。ちょっとなあ…。」
「まあ、そう言わないの!男と女の美的感覚はちょっと違うみたいねえ…。」
 そう言いながら、あかねは笑った。

「さあ、お部屋に案内してくれるようよ。喧嘩好きなお二人さん。」
 そう言いながら、婆さんが乱馬とあかねを促す。
 周りの皆は既に、立ち上がっていた。荷物は全て、執事の立浪氏がワゴンに乗せて、移動準備完了といったところだろうか。
「客室は全部で二十部屋あるんですが、勿論、今回はそのうちの地下一階にある部屋を用意してあります。お食事は午後七時。このラウンジの上の階段を上がった大広間にお集まりください。」
 そう言いながら、紫苑が先導する。
 奥まったところに、さっき乗ってきた鋼鉄の古いエレベーターとは違う、こじんまりとしたエレベーターが設えられていた。
「こちらが、客室への移動用のエレベーターになります。」
 そう言いながらエレベーターボタンを押す。
 チン、と音がして、軽やかに扉が開く。新しく設えられたのは一目瞭然だ。さっき乗ってきた、仰々しい戦前のエレベーターとは感じが違う。
 支配人の紫苑は真っ先にエレベーターに乗り、中で待機する。
「お荷物は後で順に届けさせていただきますから。」
 そう言いながら、先に女性たちを乗り込ませた。
 扉が閉まると、エレベーターは上昇ではなく下降し始めた。

「客室は先ほどのラウンジよりも低層階にあります。」
 そう説明をしてくれた。
「へええ…。ラウンジの方が上にあるんや。珍しいパターンやなあ。」
 桃代が感心しながら、反応した。
「ここは断崖絶壁の上に建てられた館らしく、地形に即して作られているんです。元々あった建物の構造をそのまま再利用して、改装致しましたので、客室が低層にあるんですよ。」
 紫苑がにっこりと微笑みながら答えた。
「各部屋、全部、岬の先端部に面していますから、海が美しく見えますよ。もっとも、大海原の他にはそこを行き交う船くらいしか、見えませんけれどね。」
「楽しみだわ。海って癒される感じですもの。」
 そんな他愛のない会話を続ける中、すぐさま下の階に到着する。ゆっくりと扉が開き、一同は全員、エレベーターを降りた。

「客室は地下一階と二階と三階の三層に分かれています。今回、皆様に提供します客室は、管理の都合上、地下一階だけに限定させていただきますので、ご了承ください。地下二階や三階へエレベーターで向かわれても、電源も何もつけずに無人状態でありましょうから、どなた様も近寄らないようにしてくださいね。」
 と、さりげなくエレベーターホールにて注意事項も述べた。
「では、順番にお部屋へご案内します。諸注意事項は、後で各々のお部屋へ荷物をお届けに参りました立浪がさせていただきますので、よろしくお願いします。」
 そう言いながら、101号室から順に、女性たちを招き入れる。
 101号室へはOLの橙子、102号室には鈴音婆さん、103号室には関西から来た桃代、一つ飛んで105号室には京都の大学に通う千秋、106号室にはセミロングの女子大生の碧、107号室には小学生の凛華がそれぞれ通された。
 そして、最後の一部屋、108号室へはあかねと乱馬が一緒に通される。

「ええ?あたしたちは同室なんですかあ?」
 思わず、そう尋ねたくらいだ。
「ちょっと待て…。何で俺たちだけ同室なんだあ?」
 
「生憎、一つの階にはお部屋が七つしか存在していないんです。どなたか、一組が同室になっていただかねば、なりません。あなた方は、東京の大里様の代理のお二方だと伺っております。まことに申し訳ございませんが、今回は同室にてお願いいたします。」
 と、紫苑に念を押される。代理出席なので無理も言えまい。そんな雰囲気が紫苑から漂ってくる。この際、初対面同士ではない組み合わせで、しかも代理出席の乱馬とあかねが同室で丸く収まると、考えたのだろう。

「同室…。」
「何で、俺たちだけ…。」
 乱馬もあかねも明らか、狼狽している。
 が、一向にそんな事はお構い無しで、紫苑は続ける。
「ご安心ください。中に入っていただければわかるように、充分、広さはありますし、快適な宿泊をお約束させていただきます!」
 と。

 結局、断りきれなかった。
 下手に断ると、乱馬の素性が今度こそ、乱馬の母、早乙女のどかに知れ渡ってしまう。そんな危機感が、二人に同室を納得させる、要因にもなってしまった。
 しかも、一歩、中へ足を踏み入れて、これまた仰天した。ベッドはダブルサイズのゆったりとしたでっかいのが、ドンと寝室中央に置かれている。

「ちょっと、待て…。ベッドまで一つ…なのかよ。」

「元々、ここは新婚様用に設えたダブルの特別室なんですよ。各階、それぞれ一つずつ、ロイヤルスイートと銘打って、このような贅沢なダブルベッドのツイン用部屋が誕生したんです。ま、今回は可愛らしい、女性が二人きりですから、ダブルベッドと言っても、これだけゆったりと大きければ問題もないでしょう。」
 と、紫苑は一人で悦に入っている。
 その傍らで、ただただ、目を宙に浮かせたまま蒼白になっている、乱馬とあかね。

 そこへ、執事の立浪がメイドを引き連れて、荷物を届けにやってきた。

「これで、間違いございませんでしょうか?」
 高校生らしい布製のボストンバックが二つ。
「え、ええ…。確かにあたしたちのです。」
 顔を引きつらせながら、あかねが答えた。
「では、こちらに置かせていただきます。それから、暫くいたしましたら、先ほどのエレベータで一階ラウンジに上がってください。そこで皆様のディナータイムとなります。」
 執事の立浪は口頭で説明すると、メイドを一人置いて下がって行った。

「このお部屋を担当させていただきます、メイドのさくらでございます。何か不都合がございましたら、遠慮なく申しつけください。」
 ぺこんとメイドが頭を下げた。
「あ…。お世話になります。」
「よろしくな…。」
 こういう場合のメイドとのやり取りには慣れていない二人。どことなくぎこちない。
「寝巻き用に浴衣がございますから、ご自由にお遣いくださいませ。また、こちらのポットもご自由に。まだ、テレビの手配はしておりませんから、ご退屈かもしれませんが、ご了承ください。」
 堅苦しい言葉遣いで丁寧にメイドは説明してくれた。
「では、わたくしはこれにて…。」
 再び、ペコンと頭を下げると、メイドは部屋を辞して行った。

「さくらさんとか言ったっけ?何か、顔色が悪いメイドだったな…。」
 乱馬がぼそっとあかねに言った。
「光の加減でそう見えたんじゃないの?」
 あかねは素っ気無く答えた。
「いや…そういうんじゃなくって…。おめえ、感じなかったか?」
「何を?」
 きょとんとしている。
「気だよ。あれくらいの若い女性だったら、もっと、こう、むちむちっとしてて、ハツラツとしてると思うんだけど…。」
「ちょっと、あんた、何観察してたのよ!助平!」
 あかねが冷たい視線を乱馬に手向ける。
「アホ!だから、そんなんじゃなくってだ…。こう、生気がないっつうか…その…。体調でも悪いのかなあ。」
「たく、何、メイドさんの体調なんか心配してんだか!」
 あかねは呆れ果てている。
「あははは…。」
 最後には笑って誤魔化しに入る。
 だが、少し気になった。能面のように感情が押し殺されたような顔つき。肌色も若い女性特有の艶っぽさがなく、くすんだ蒼白い感じ。何よりも、身体から発散されてくる気の量が少ないのが一番気になった。
 気が少ないということは、体調でも崩しているか、またはその兆候にもなる。
「ま、女には月の物が存在するから、そっちでだるいのかもしれないわよ。」
 とあかねが答えた。
「そういうもんか?」
「そういうもんよ!あんたには月経なんか、ないわよねえ…。」
 ちらっとあかねが乱馬を見返した。
「あったりめーだ!あるかっ!んなもん!あってたまるかってんだ!」
 真っ赤になって言い返した。その視線の先に大きなダブルベッドが、否が応でも目に入る。まるで、若い二人を誘惑するように、ドンと部屋の中央に置かれているのだ。

「そ、それより。お、おい…。どうするよ…。」
 乱馬があかねに問いかけた。
「どうするって…何をよ…。」
「だからあ…。鈍いなあ、この野郎!」
「野郎呼ばわりしないでよっ!」
 ふんぬっと互いに腕を捲り上げる。
「しゃあないでしょう!部屋がないんだったら、今夜はこの状況で我慢するしか!」
 あかねが喧嘩腰に乱馬にたたきつける。
「良いのかよ…。」
 はにかむように、乱馬が言った。
「仕方ないじゃない!あんたに床に寝ろなんて、あたしは言えないわよ!」
「あ、当たり前だ!誰が床に寝るか!蒲団だって一組しかねーんだぜ!」
「先に言っとくけど、あんたは今、女なの。男じゃないの!わかるわね?」
「ああ、見てくれは女だ。」
「そういうことを言ってるんじゃなくってえっ!」
「だから何なんだよ!」
「鈍いわねえ!」
「てめーに鈍いなんて言われたかねえっ!」
 また、互いににらみ合って、はああっと息を吐いた。
「わかってるさ!女のまま、寝りゃ良いんだろうがっ!」
 溜まらず、乱馬が吐き出した。
「約束だからね!女のまま、ずっと居なさいよ!」
「ああ、シャワー浴びる以外はずっと女で居てやらあっ!あーっ!かったるいぜ!オフクロの言いつけじゃなかったら、誰がこんなところっ!」
 乱馬は真っ赤な顔をぷいっと横へ背けた。
 悪態でも垂れていなければ、平常心を保てない。つくづく、まだまだ、修行が足りないと思った。


三、

 暫くして、二人、一緒に部屋を出た。
 ディナーを楽しみに行くためだ。
 互いに、無口なまま、廊下を歩く。廊下にまで、赤い絨毯が敷き詰められ、足音などしない。部屋のドアも、冷たさはなく、それぞれ、装飾が凝らされた立派なものだった。
「あら、あなたたちも、上に行くのね。」
 ぐっと大人な雰囲気の洋服にお召しかえをした、若い女性がすっとドアから出て来た。藤峰千秋だ。さすがに、大学生ともなると、お洒落の仕方が異なってくるようで、わざわざ、数分の間に着替えをしたようだ。
 エレベーターホールへ行くと、先客が居た。
「一人で上に上がるのは何となく気が引けて…。」
 と愛想笑いを浮かべている。こちらもちゃんと召しかえている。大学生の来島碧だ。

 乱馬とあかねはまだ、着替えをするような、そこまで余裕はない。お子様高校生と思われても仕方がないだろう。来たままのワンピースでそこに立っていた。のどかが選んでくれたペアルックだ。
 乱馬にしてみれば、ペアルックも、女のなりだと、嬉しさが半減する。何で、こんなひらひらワンピースと思いたくなった。すぐに脱ごうとしたが、あかねに止められたのである。
「あんたさあ、一応ディナーなんだから、普段着じゃ不味いわよ。」
 とだ。
 とっとと、ひらひらワンピースなど脱ぎ捨てて、普段のチャイナ仕様のズボンと上着に着替えたかったが、あかねにそう言われて渋々、着替えずに居たのだ。

 あかねと乱馬以外は、その上手を行っているようで、皆、別の服にお召しかえしていた。

「すっげえなあ…。何か、ちびの小学生まで着替えてるぜ…。」
 乱馬があかねに横からちらっと吐き出したくらいだ。
 さっきよりも、香水や化粧の臭いがきつい。部屋中に、いろんな香が湧き立っているような気がした。
「皆、紫苑さんがお目当てなのかもしれないわねえ。」
 乱馬の隣に座った、鈴音婆さんが、こそっとそんな耳打ちをした。
「紫苑、ってあの、支配人かあ?」
 乱馬がちらっと彼の方へ視線を流した。
「ええ、女心って結構、面白いのよ。ほら、特に、女子大生トリオなんか、目の色変わっているでしょう?」
 と、婆さんは一人冷静に分析している。それぞれに、若い支配人の気を引こうという、魂胆が見え隠れしているというのだ。
「じゃあ、あの小学生のガキもそうなのかよ。紫苑っていう男の気を引くのに、着せ替えごっこでもやってるってのか?」
 照れ隠しに、問いかけてみた。
「あの年齢の頃っていうのは、大人の男性に憧れたりするものじゃないかしらねえ。同世代の異性はまだ、お子様でしょ?…だから、気を引きたい気持ちは十二分に持っていると思うわよ。」
 と婆さんは微笑みながら、分析して見せた。
「じゃあ、訊くが、婆さんはどうなんだよ。婆さんも来た時とは打って変わった格好やら、匂いやら身にまとってっけどよお。」
 流し目で婆さんを見る。
「おーっほっほっほ。私も女ですもの。あーんな、色男、間近に見たら、誘惑の一つもしてみたくなるってものよ。」
 シワが刻まれた顔を、乱馬に手向けて、にっと笑った。
 思わず、鳥肌がゾゾゾっとたった。
「や、やめれっ!気持ちの悪い!」
 とのけぞった。

「うふふ、乱子ちゃんには、紫苑さんに対する下心が一切ないみたいね。それぞれに、もう、意中に決めた男性でも、東京に残して参加しているのかしらねえ。」
 と鈴音婆さんは、また、にたりと笑った。
「べ、別に、そんなわけじゃねえよ!」
 何故か心を見透かされたような気になって、わざと乱暴に答えた。乱馬の視線の先に、映る者、それはあかね以外には有り得ない。増してや、男に興味など抱けるはずがないではないか。
「あんたの場合は、がさつ過ぎるのよ!男の子に興味がないだけじゃないの?」
 隣からあかねが声をかけた。
「てめーだって、充分すぎるほどがさつじゃねえか!」
 と、牙をむく。
「あーら、あんたと違って、あたしは紫苑さんのような男性に、憧れを抱けるわよ。」
 意味深に笑う。
「な、何だと?」
 だんだんに、女に変化しているという立場を忘れて、高揚していく乱馬の複雑な心。

「やれやれ…。また、始めちゃったのね。本当、貴女たちを見ていたら、まるで恋人同士だわよね。今のはいささか、紫苑さんに憧れを持つと明言したあかねちゃんに対して、乱子ちゃんがやきもちをやいたような…。」
 と、コロコロと笑った。

 ギクッと乱馬の肩が動く。図星だ!

「おほほほ、んな訳ないでしょう!何で、あたしが、あかねちゃんにヤキモチなんかやかなきゃなんないのかしらん?もう、鈴音お婆さんったら、冗談きついんだから!」
 と、わざと笑い飛ばす。

「ま、そういうことにしておいてあげましょうか。」
 にんまりと笑いながら、婆さんが乱馬を見返した。

(お、落ち着け!まだ、この婆さんが俺の正体に気付いたわけじゃねえ!っつうか、湯を浴びねえ限りは、俺の正体に気付く奴なんかいねー…。)
 ドックンドックンと乱馬の心臓が高鳴る。

「何やってんの?乱子ちゃん。」
 あかねが不思議そうに、乱馬を見た。
「いや、別に…。俺は。」
「ほら、しゃんとなさいな。ディナーが始まるわよ。」
 と促される。
 うやうやしくメイドたちが並び、目の前のテーブルに皿が並べられていく。
「本日は我が、執事兼料理長でもある立浪が腕を振るいましたフランス料理のディナーをご堪能ください。」
 と紫苑が挨拶する。
 幾つも

「へえ、あの立浪って執事さん、料理もできるのか。」
 乱馬の上げた感嘆の声に紫苑が答えた。

「ええ。立浪はあれでも、若いころ料理界で世界中を渡り歩いていたんですよ。オープン致しましたら、別にシェフは呼ぶ予定でございますが、今回のモニター宿泊会では、立浪に腕を振るわせます。」
 立ち並ぶメイドたちが、一つ一つ丁寧に皿を、客人たちへと運ぶ。

「本当だ。これは素人技じゃないわ。」
「おいしいーっ!」
 あちこちで感嘆の声が飛び交う。

「あんたさあ、間違っても、フランス料理だからって、格闘ディナーの真似事はしないでよ。」
「す、するかっ!あんな、お下劣口元格闘技の真似事なんか!」
 ジロリと乱馬があかねを見返した。
 グルメ・デ・フォアグラで辛くも逃げ切った、お莫迦格闘ディナー勝負の一件が脳裏に蘇る。

「何々?その格闘ディナーって。」
 隣から女子大生の碧が声をかけてきた。

「あのねえ、この子ったら物凄い特技があるんだから。」
 あかねが意地悪な瞳を乱馬に手向けた。
「特技って?」
「この前、受けた異種格闘技の種目の一つにね、フランス料理の早食い競争みたいな格闘技があって、その家元の跡取り息子と勝負を挑んだの。」
「余計なこと、言うな!ボケッ!」
 乱馬が真っ赤な顔をして目を吊り上げる。
「早食い競争?面白そう!」
「ねえねえ、見せてよ、その特技。」
 一同の興味が一斉に乱馬に向けられる。
「見せるか!あんな、くっだらねー早食いの技なんかっ!」
「見せて、見せて!」
「やってえや、ええやん、減るもんやなし…。」



「皆さん、とても、和やかな雰囲気でお食事が進んでよろしいですね。」
 紫苑がにこにこと乱馬たちを眺める。
「若い人たちは良いわねえ…。すぐに打ち解けて、楽しく騒げるから…。」
 その横で、ワイングラスを傾けながら、鈴音婆さんが微笑む。
「あなたも、充分お若いではありませんか。マドモアゼル。」
「お世辞が上手ねえ…。ほほほ。真に受けますわよ。」
 そう言いながら、鈴音婆さんは、ふっと顔を上げた。そして、真っ直ぐに紫苑を見ながら言った。
「お食事がすんだら、是非、このホテルの中を一通り見学させていただきたいわ。」
 婆さんはにっこりと微笑みながら、紫苑を見上げる。
 暫く考えた末、
「わかりました。まだ、全部の部屋が整ってはいませんが、お見せできるところだけは、ご案内してさしあげましょう。」
 と、快諾した。





一之瀬的戯言
乱馬とあかねの年齢について
 いつものように、「十七歳高校二年生」という設定の元に書き進めさせていただきます。また、それにも関わらず、この作品では設定の都合上、のどかにまだ、乱馬の正体がばれて居ない頃合の話となっております。
 原作は永遠の十六歳で、その歳を循環しながら季節が移動しております。従って、本来なら、「十六歳、高校一年生」で話を進めるべきなのでしょうが、乱馬とあかねが出会って半年も満たないのに、濃厚な関係は果たして築けているのか、という疑問にぶちあたってしまった末の苦悩の設定であります。ま、一年も付き合えば、この二人の場合は、深い信頼関係というものは築けているでありましょうから…。

エレベーター
 昨今、閉じ込め事件が話題になっているエレベーター。
 この作品のエレベーターは三越北浜店(大阪市)にあった古めかしいエレベーターをイメージしております。バブル崩壊前後、北浜店は閉店してしまい、今は跡形もありませんが、一定年齢以上の大阪人にとって、あそこのエレベーターは鮮明な記憶が残っているのではないでしょうか?
 エレベーターで上がった最上階にちょっとした劇場ホールがあって、そこで、ピアノの発表会やら幼稚園のお遊戯会やらをやっていた記憶があります。いろいろな思い出と共に、あのエレベーターの鉄の扉が、子供心に焼きついております。エレベーターガールも乗っていて、ちょっとしたハイソな気分を味わった古き良き昭和時代が懐かしいです。百貨店は子供心にも特別な場所だったもんなあ…。


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