◆天高く 第三部
第六話 鬼修行



一、

 あの後、まっすぐに、寒太郎と共に、宿の隠居家と帰って来た。
 寒太郎は、じっと何かを考え込んでいるようだった。
 そして、家に帰りつくと、乱馬へと向き直って、改めて、こんなことを言い出した。

「すまんのう…乱馬君。結局、おぬしに、氷也と闘わせることになってしまったようじゃ。」
 と、とってつけたような、しおらしいことを言う。
「おいおい、じーさんは、氷也と俺が闘うことを見越して、わざわざ東京から呼び寄せたんじゃねーのか?」
 乱馬は、何を今更…という顔を、寒太郎へと傾けた。
「ふむ…。そーれはそーやが…。」
「何か、不服そうだな。」
 乱馬は爺さんを顧みた。
「まー、こちらが意図していた闘いと、ぐらっと、変わってしもうたさかいにのう…。」
 腕組みしながら、はああっと深いため息を吐き出した。
「何か問題でもあんのかよ?」
 乱馬はむすっとした表情を浮かべて、寒太郎を見返した。
「ああ、あるわ、あるで、おおありや!」
 吐き捨てるように寒太郎爺さんが言った。
「だから、具体的に何が問題なのか、説明したらどうだ?俺は観月流の部外者だから、さっぱり事態を飲み込めてねーんだから!それでも、わざわざ東京から出てきてやったんだから、聞かせてもらってもいいと思うぜ…。」
 少し、いら立った様子で、グッと寒太郎の襟元をひっつかみ、詰め寄る乱馬。
「わかったわかった…わかったから、手荒な真似はやめいっ!」
 力では若い乱馬にはかなわない。寒太郎は両手をばたつかせて、乱馬へと促(うなが)した。
「ちゃんと説明しろよ!じゃねーと、締め上げるぞ、こら!」
 そう言いながら、じいさんを放した。

「たく…。おぬし、案外、短気やな。」
「うるせー!」
「まあ、ええわ。確かに、ちゃんと説明しとかなな…。これから表観月流のために、命、張ってもらわなあかんし。」

 爺さんは、乱馬へと改めて向き直った。
 そして、襟元をただす。
 乱馬も、それにつられて、ドンと腰を下ろした。じっくり聞いてやろうかという態度を示したのだ。

「で?てめーらが慌ててる訳を一切合切話してもらおうか。その、戦いの目的が変わっちまったことから、詳しく聞きてえな。」
 どんと座ったまま、乱馬は寒太郎へと疑問を投げた。

「ああ。わしらは、氷三郎の奴が、裏と表を統一するために、みさきを嫁にするために、おぬしと闘わせようとしとるとばかり思とったが…そーや無いみたいやったわ。」
「あん?」
「つまり、表と裏を統一したいと最初は言いだしよったが…、表と裏の交代を要求してきおった。」
「かみ砕いて言えば、統一を諦めて、入替交代…そいつを望んでるってわけだよな?」
「そういうことや。」
「それが、どうして、そんなに困った事態だて言うんだ?統一でも入替でも、俺が命を賭して闘わねーといけねーのは、一緒じゃねーのか?」
「いや…。一緒…という訳にもいかんのやな、それが…。」
 喉に引っかかったようなことを、爺さんは言う。
「何故だ?」
「この闘いに、「鬼の力」ぶつけるつもりやからや。」
「鬼の力…。そう言えば、鬼修行がどーのこーのとか、言ってやがったな。あの氷三郎とかいう裏のじいさんは。」

「そいつも、説明せんとあかんなあ…。」
 チラッと寒太郎は、乱馬を見やった。そして、再び、はああっと息を吐き出す。

「何か…説明したくなさげだな…。そいつは、流派の根源にかかわることだからなんだろ?俺みてーな、余所者には、関わって欲しくねえーみたいな。」

 寒太郎は、即座に黙り込んでしまった。ということは、乱馬の言ったことが的を射ていたのだろう。

「この際、仕方がないやろな。流派的には部外者のおぬしに言わねばならん…か…。正直言うて、これまでわしらは凍也に頼りすぎておったし、凍也ほどの豪傑を流派の中に育てられへんかったことに、全て原因があるんやから…。」


「ああ、そーだな。悪いが、今日、俺に挑んできた奴らは、凍也の足元にも及ばねえ奴らばかりだったぜ。まあ、俺と同世代の、若い奴らばっかだったから、当然か…。もう少し年上の強い相手を当てたかったが、道場を壊すわけにもいかなかったんだろ?」
「そこまで、わかっとったか…。あれ以上の相手を、おまえさんに当てたら、道場はぶっ壊れておったろうなあ…。あれでも、相当、手加減したんやろ?」
「当然だ。道場を壊しても良かったんなら、一瞬で決まったろーぜ。」
 乱馬は拳をギュッと握りしめた。
 ああいう団体で来られたら、飛竜昇天破を一発ぶちかますだけで事足りたはずだ。が、昇天破などぶちかませば、天井に穴が開くのは必定だったろう。
「道場壊されたら、修繕するにも、費用がかかって、大変やしな。」
「けっ!見くびられたもんだぜ。」
「一人くらいは、おぬしに向かって行ける奴がおるかと思っておったが…。」
「甘いぜ!悪いが、俺の相手になれる奴は、あん中には一人も居なかったぜ。」
 ポンと言葉を投げつけた。
「それを見極めて、力をセーブして戦ったおぬしの実力はよくわかったわ。凍也を負かしたというのも、頷けたしの…。」
「まあ、あの頃の凍也は既に、病のせいで、全力が出せなくなってたんだろーけどよ…。」
 握った拳を見つめながら、乱馬は言葉を続ける。
「で?鬼の力とか鬼修行とか、俺には意味不明な言葉が間で飛び交ってたが、それについての説明もしてもらえるんだよな?」

「ああ。氷也が鬼修行に入ったのならば、おぬしにもそれを受けてもらわねば、話にならへんからな。」
「ってことは、鬼修行が完了した氷也とじゃあ、今の俺は、勝てねえってことか…。」
「然り。」

 乱馬ははっしと寒太郎を睨みつけた。こうも容易く、否定されると、反発してみたくなるものだ。
 ふううっと深い息を一つすると、乱馬は、腹から湧き上がってきた、怒りを鎮めた。

「まーあいい。じーさんがそう言うんだったら、今のままじゃダメなんだろうぜ…。で、俺にもその鬼修行ってーのを、受けさせてもらえるんだろうな?」

 ギラギラとした瞳を、寒太郎へと差し向ける。寒太郎も、その光に負けずとも劣らない、眼光で、睨み返してきた。
 しばし沈黙が二人の上を流れた後、寒太郎がふっと、表情を緩めた。

「本来は、観月流に身を置いた者以外に、この修行を受けさせるんは、掟破りやし、不本意なんやが、この場合は、致し方なかろう。」
 それを聞いて、乱馬の顔に、やったという笑顔が浮かぶ。
「へへっ!そうこなくっちゃ!一応、俺は、凍也の名代を引き受けたんだからな。」

「じゃが…。」
 寒太郎爺さんの顔は、決して、緩やかにはならなかった。厳しいまま、言葉を吐き出した。
「たとえ、凍也の名代やといっておぬしに、鬼の力が宿るとは限らんぞ。それに、修行で命を落とすことも大いに考えれられるで。命懸ても、結果、何一つ、力を得られぬかもしれへん。部外者のおぬしなら、その確率の方が高いんやでそれでもええんか?」
 と、念を押してくる、
「ああ、そんなことは、百も承知だ。だって、表観月流の中で、その力を得た者は居ねーんだろ?」
 つい、みさきの母から言われた言葉が滑った。
「おぬし、そのことを、誰から聞いた?」
 険しい顔が寒太郎に浮かんだ。

(いっけねー。おばさんから聞いたなんて、言えねーよな…。「月の石」のこともあるし…。)

 咄嗟に、乱馬は口から出まかせを吐き出した。
「凍也だよ。凍也の奴が、俺が名代を受けたら、もしかすると、爺さんから特別な修行を受けるかもしんねーみたいなことを言ってたからよ。」
 気取られぬよう、視線は寒太郎を見据えたまま、言い切った。
「別にわしが修行する訳ではないのやけど…。本当に凍也がそんなことを言っとったんか?」
 疑いの瞳が乱馬を捉える。
「いちいち細かけーこと、覚えてねーっつーのっ!それより、鬼修行を受けさせる気があるのか、ねーのか、どっちだよ!」
 ドキドキしながら、言葉を投げつけた。
「まあええわ。氷也が鬼修行を開始したのであれば、おぬしにも受けんと話にならん。それに、勝負の日まで、まだ、時間もある…。良かろう、明日、早速、修行場へ連れて行ってやろう。」


 そして、乱馬は、「鬼修行」へと臨むことになったのである。




「なんか、納得、行かねーんだよな…。」
 白い息と共に、そんなことをつぶやいた。
 手には、洗面道具。タオルを首にかけ、セーターを着こんで、夜空を見上げる。
 内風呂のない、隠居家を離れて、銭湯でひとっ風呂浴びようと、出てきたのだ。
 風呂上がりとはいえ、北風に吹かれると、さすがに寒い。
 身をかがめながら、歩いていると、ふと、公衆電話が目に入った。

 携帯が普及し始めた昨今、公衆電話の数が減ってしまった。赤電話も黒電話同様、過去の遺物になりはじめていた。
 ポケットの中の財布を見ると、百円玉と十円玉が十枚ほど混じっている。
「そーいや、まだ、無事着いたって、天道家へ連絡一つ、してなかったっけ…。」
 寒太郎爺さんのところにも、固定電話はあったが、長距離になるので、遠慮していた…。というより、電話をするという、意識すら、今の今まで持ち合わせていなかった。
 が、公衆電話を目にしてしまったために、急にあかねの声が聞きたくなった。
 このまま我慢すべきかとも思ったが、同時に、一声だけでも聞かせて、安心させてやりたいと思った。
 明日から、寒太郎と共に、山に修行に入るという。そして、そのまま、勝負になだれ込むだろう。
 電話をかけるなら、今しかない。


「確か…明日は、本命の大学の入試だったよな…。何の足しにもなんねーかもしれねーけど…それで、あいつが頑張れるなら…。いや、励ましが欲しいのは、俺の方か…。」

 生死を賭けねばならない修行と闘いの生活が、明日から始まる。
 賽は投げられてしまった。もう、後へは戻れない。勝たなければ、あかねのところにも、帰れないだろう。

 小銭を握りしめると、電話ボックスの中へと入った。
 諳(そら)んじている天道家の番号をプッシュする。少し間があって、呼び出し音が鳴り始めた。

『はい、天道です。』
 最初に出たのは、かすみであった。

「あの…乱馬です。」
 そう告げると、かすみのトーンが高くなった。のほほんとした雰囲気はそのままであったが。
『あら、まあ、乱馬君。公衆電話かしら?』
「ええ…。」
『じゃあ、一回、電話を切ってくださいな。』
「は?」
『そーね、五分ほどしたらかけなおしてちょうだい。そしたら節約できるでしょう?その間に、あかねちゃんを電話のところまで連れて来るからね。』
 かすみの割には早口で、そう言いきると、先に切られた。
 長距離電話はお金がかかる。所持していているコインが豊富なわけでもなかろうと、かすみなりに機転をきかせてくれたようだ。さすがに主婦は目の付け所が違う。
 乱馬にはかすみの気づかいが嬉しかった。硬貨をそうたくさん持っているわけではなかったからだ。
(あらかじめ、両替しておいても良かったな…。)
 そう思えたほどだ。
 大阪東京間はどのくらいで硬貨が落ちていくのか。多分、あっという間だろう。
 何を話そうか、色々、頭の中でシミュレーションしてみるが、急に思い立ったので、何も思い浮かばずに、時間だけがどんどん過ぎていく。
(とにかく…。明日、がんばれよ…その一言だけは伝えねーと…。)

 今の時代の遠距離恋愛の恋人たちは、携帯で毎日話せるのだろうが、あいにく乱馬はその利器を持ち合わせていない。居候の実の上だ。そんな贅沢はできないというのが実情だった。
 まだ、東京を立って、二日だというのに、会えない日が、ずっと続いているような気すらする。
 そばに居るのが当たり前のような存在だったことに、離れてみて、改めて、気づかされた。
 あかねが居ないと、ダメになるのは自分の方なのではないかと、思えて来たほどだ。

「さてと…あいつを待たせてもいけねーよな。」
 天道家の電話は、玄関に一台きりだ。あの広い家なら、親機と子機、二つ以上あっても良さそうなものだが、玄関に電話が一台が鎮座しているだけだ。暖房器具がある訳ではないので、この電話ボックスまでとは言わないが、相当、冷えるだろう。
 もっても、五分も話せないだろう。
 本当に、一言、二言しか話せまい。
 でも…それでもいいと思った。なんでもいい、あかねの声が聴きたい。

 もう一度、天道家の番号をプッシュする、丁寧に、間違えないように、一つ一つ、心の中で番号を復唱しながら。

 コールが鳴り始めると、途端、受話器が上がった。

「あかねか?」
 と声をかける。
「うん!」
 と、いつもより、高めの声が跳ね返って来た。
 受話器を通したあかねの声は、少し高いとも思えたが、そんなことはどうでもよかった。
「明日…入試だったよな。」
「覚えててくれたの?」
 少しはにかんだ様子だが、声が踊っていた。嬉しさが伝わってくるような気がした。
「あたりめーだろ?とにかく…落ち着いて、頑張れよ…それだけが伝えたくて…。」
 そう言いながら、嘘つきだと思った。
 己は明日から、どうなるかもわからない修行へと出る。そして、そのまま、氷也との勝負に臨むのだ。いくら、乱馬がナルシストで自信家だったとしても、一筋縄ではいくまい。ただ、あかねの声が聞きたかっただけなのだ。
 ギュッと受話器を握りしめると、受話器から柔らかな声がした。

「ありがとう…。あたしは大丈夫。それより、大阪のことはさっぱり、あたしにはわからないけど…乱馬も頑張ってね。」
「ああ…。そーだな。俺も頑張らねーとな…。」
「お互い、次のステップに向かって、努力あるのみだからね。」
 あかねは作ったように明るく言い放ってくる。こういうときの彼女は、虚勢を張っているに違いない。本当は、寂しいのだ。それを、微塵とも乱馬に感じさせまいとしているのが、声色からありありとわかった。

「あかね…とにかく、最善を尽くせよな。」
「うん…あたし…絶対、合格するから…。だから、乱馬も…頑張ってね。」

 非情にも、ここで、時間切れとなった。最後のコインが落ちて、ブーッと警報音が鳴って、そのまま、途切れてしまったのだ。もう、コインは残っていない。

 ツーツーと、切れたことを告げる音だけが、耳元にこだまする。

「あかね…。ありがとう。」
 もう切れてしまった受話器に、そう、一言語りかけると、そっと、受話器を下ろした。
 ほんの、数分のやりとりだったが、心がすっと透き通って行く。

 電話ボックスを出た時、空で一斉に、冬の星たちが瞬いたように思った。

 東京は遥かに遠い。けど…同じ空の下で俺たちは繋がっている…。

(あかねが恋しくなれば、空を見上げよう。そしたら、俺も元気になれる。)

 そんなことを思いながら、再び、歩き始める。

(そう…俺は、絶対に会得してやる…。おばさんが言っていた、鬼の波動と言う奴を。無差別格闘早乙女流二代目の誇りをかけて。)
 そう思いながら、ぎゅうっと拳を握りしめた。



二、
 
 翌日も、大阪は青空が広がっていた。
 が、寒いには変わりがない。

「さてと…。準備は整ったかいな?」
 寒太郎が乱馬へと声をかけた。
「ああ、整ってるぜ。」
 リュックをしょいながら、それに答えた。
 中には道着や着替え、洗面道具が入っている。
「じゃあ、行くかの…。」
 玄関に鍵をかけると、寒太郎は先導して歩き始めた。

「で…?どこまで行く気だ?じーさん。」
 当然の問いかけを、乱馬がした。
「吉野の山奥じゃよ。」
「吉野?」
 地理には疎(うと)い乱馬が、きびすを返した。
「奈良県の南の方じゃよ。」
「奈良県ねえ…。」
 奈良と言われても、ピンとはこなかった。奈良と言われて思い浮かぶのは、京都より古い都があったことと、東大寺や奈良公園を鹿がかっ歩しているくらいの知識しかない。
 奈良県は海なし県で、大和朝廷の最初の都が営まれた場所で、人口のほとんどが北部に集中していて、日本一雨が多い大台ケ原がある…などの一般常識も頭に浮かばない。

「で?こっから遠いのか?」
「夕方までには、行けるかのー。」
「それじゃあ、東京より時間がかかるぜ。そんなに遠いのか吉野ってところは。」
「まーな…。交通機関が無いところでもあるさかいに…。」
「おい…まさか、歩いて行く…なんてこと…。」
「あほ、そんな訳あるかいな。全部歩いとったら、勝負に間に合わんわ。ちゃんと、行きつけるところまでは公共交通機関で行くわい。」
 にいっと爺さんが笑った。

 「大阪阿倍野橋」という駅から近鉄電車に乗った。「天王寺」と「大阪阿倍野橋」は同じステーションの呼び名だ。「大阪」と「梅田」が同じなのと理屈は一緒。
 近鉄南大阪線。吉野まで乗り換えなしの直通で行ける。吉野に行くのだから、終点の吉野で降りるのかと思いきや、「下市口(しもいちぐち)」という途中の駅で降りた。
 これがまた、郊外の果ての果てと思える、閑散とした駅だった。冬空が広がっているから、余計にそう見えたのかもしれない。

「急がんと、バスに間に合わんぞ、一日に数本しかないんやから。遅れたら歩かせるで。」
 ホームに降り立つや否や、ぐんぐん先に行くじいさんに、慌てて、ついていく。駅内の踏切を渡り、改札を出ると、バス乗り場があった。と言っても、立派なバスターミナルがある訳ではなく。少し広くなったところに、ポツンとバスが留まっているだけだった。バス停には屋根もない。
「ほれ、乗るぞ。」
 寒太郎に促されて、前の入口からバスに乗った。
 座席は右側が二人掛け、左側が一人掛けと、少し小ぶりだった。というのも、出発してからわかったが、割と狭い道を走って行く。大型バスだと、すれ違うのも困難な道幅のところもあった。
 乗客も、地元の人と、物好きな観光客がちょぼちょぼと、半分も座席が埋まっていない。いや、ガラガラだった。

 最初は田舎の街中を通り、少し行くと、山道へと差し掛かって行く。しかも、二車線道路がすぐ側にあるのに、そちらをわざわざ迂回して、細い日へと入って行く。
 何故、わざわざ狭い凸凹舗装道を行くのかと、いぶかしがった乱馬だが、その理由はすぐに知れた。
 そう。山をわざわざ削って作られた大きな道路脇にはあまり人家は無い。が、この幅の狭い道路の両脇には、集落が見え隠れしている。乗り合いバスだ。人が住んでいる道を行かねば、意味がない。
 バス停も地名ではなく、「○○宅前」と、個人名がついているところもあるという、ローカル度の高さ。
 そのうえ、自由乗降路線。ということで、「そこの赤い屋根の家の前で下ろしてなー。」などと言いながら、地元の乗客がバス停でがないところで、乗客が運転手に声をかけて下ろして貰っている。
 東京の街中では、まず、見られない光景だった。
 いや、まだ、バスが定期的に走っているだけ、ましなのかもしれない。
 駅でさっと見た時刻表は、確かにまばらで多くて一時間に一本、昼間だと三時間来ないような感じだった。しかも、十二月から三月までは、バスの本数が間引きされている。

「どのくらい乗ってるんだ?」
「一時間半くらいは乗るから、ゆったりとしなされ。バス停からかなり山道を歩かんとあかんからのう。」
 なるほどと思った。さっきから、切り立った山道を、唸り音をあげながら、バスが上って行く。けっこうな山が延々と続いている。かと思えば、切り立った崖下には、川も流れているようだった。後で聞けば、「黒滝川」というのだそうだ。

 吉野だから吉野川ではないのかと思ったが、「吉野川」は奈良ではなく、四国に流れているというから、不思議だった。

 切り立ったがけ下を流れているかと思えば、柔らかなせせらぎが、道のすぐ側に流れている個所もある。水は美しく、清流をたたえている。が、道を行くと、だんだんに山に雪が見え隠れし始めた。
 途中、丹生という地名もあったから、古くは水銀や朱でも取れたのだろうか。川が流れているため、水神様を祀っただろう社も点在していた。
 その水のそばまで、雪が見え隠れしている。
 道路までまだ凍り付いていなかったが、このまま、進んで行けば、根雪になっているところもあるかもしれない。雪はちらついていなかったが、充分、外は寒そうだった。

 がたがたとバスに揺られながら、つい、途中で眠気に襲われて、こっくりこっくりと舟をこぎ始める。
 それはそれで仕方のないことだろう。
 目が覚めたのは、長いトンネルに差し掛かったところ。
 トンネルと出れば雪国だった…というのを地でいくように、長いトンネルを抜けると、雪の嵩が一気に増した。
 道路はそこそこ交通量があるために、雪は溶けていた。が、周りの景色は雪でちらほらとおおわれていた。

 そこから数十分ほどで、目的地に着いた。どうやら、バスにとっても、終着駅だったようで、乗客はお行儀よく、運賃を払って、降りて行く。

「へええ…。こんなところに、温泉郷があるんだ。」
 バス停に降り立った乱馬が目を見張った。
 そこには、温泉街が広がっていたからだ。

「ここは、洞川(どろがわ)という温泉郷じゃ。」
 川沿いに、ずらっと旅館が立ち並んでいる。ほとんどが、二階ないし三階建ての木造旅館だった。軒先には提灯が吊り下げられている。日暮れにもなると、ひなびた旅館街を彩るに違いない。

「さてと…。わしらの目的地は、ここから更に奥に行かねばならんしのう…。その前に、腹を満たしておくかな。」
 そう言いながら、爺さんは、旅館街へと、歩き始めた。
 冬の平日の日中だ。あまり観光客は居ない。軒先を閉めているところも多かった。
 その中の一軒に入って、温かいうどんをすする。
「明日以降は、こんな贅沢もできんからのー。味わっときや。」
 爺さんがポツンと言った。

「さてと、行くか。」
 一服ついたところで、爺さんが立ち上がった。
 ガラガラっと引き戸を開いて、表に出る。
「この旅館街には泊まらねえんだよな?」
 物珍し気に辺りを見回しながら、問いかけると、
「当たり前じゃ。湯治に来た観光客じゃないからな…。それに。」
 そう言いながら、たっと、真正面に見える、ひときわ高い雪山を、寒太郎は指さして言った。
「あれが、高名な「大峰山の山上ヶ岳」や。」
「大峰山?何か、どっかで聞いたことがあるよーな、ないよーな。」
 東京住まいの乱馬には、ピンと来なかった。首をかしげていると、
「呆れたやっちゃのう…。役行者が開いた日本の山岳信仰の原点とも言える修行場やぞ。かの、弘法大師も、高野山を開く前、ここで修行したと言われておるくらいやのに…。」
 と爺さんに言われた。
「役行者?」
「奈良時代の怪僧や。修験道の開祖とも言われとる、役小角のや。そんくらい、知っとかんと、あかんで、乱馬君。」
 やれやれという表情で見返された。
「仕方ねーだろ?会ったこともねーし。」
 ブスッとしながら、それに答えた。

「役小角は山岳修行で様々な術式を得たとも言われておる。中でも、鬼を式神として使役していたのは有名な話でなあ。」
「鬼?」
「前鬼と後鬼という夫婦の鬼や。聞いたことないか?」
「ああ、聞いたこともねえ。」
「そーか…。男鬼を前鬼、女鬼を後鬼とそう呼んでおる暴れ鬼で、そやつらを調伏(ちょうぶく)し術式で縛って使役したと伝えられておる。」
「もしかして…今回の鬼修行って…。」
「ああ、そうや。その鬼たちがからんでるんや。」
 道すがら、寒太郎は、知識が乏しい乱馬へと、様々なことを教えてくれた。

 奈良県の南部から和歌山県に至る大峰山脈、熊野一体は、人が住むには険しい難所で、古来、修行の地として名を馳せた。弘法大師(空海)が開いた高野山も、広義にはこの山々に連なる霊山であるし、世界遺産に名を連ねた熊野古道も含まれている。
 険しい山や気候は、現在も変わらずだ。
 大峰山と一般に呼ばれるのは、「山上ヶ岳」と呼ばれる高峰のことで、女人禁制の修行場として名高い。
 今も、女人禁制は解かれておらず、周辺には、縦走者や修行者のため、新旧たくさんの無人山小屋が点在している。
 また、その入り口でもある「洞川温泉郷」。この洞川は、小角の使役鬼、後鬼の子孫が作った温泉郷だとも言われている。

 寒太郎は、この洞川温泉郷から連なる、大峰霊山で乱馬に修行させる気、満々のようだった。


 ずんずん、歩いて行くと、「従是女人結界」と太字で彫られた場所へと来た。「女人結界門」そう書かれた板木もある。

「これは…。」
 思わず、足を止めた乱馬に、寒太郎が淡々と言った。
「この先は、女人禁制の地ということを指し締めした結界や。女はこの先へは行けん。」
 その言葉に、乱馬は立ち止まった。
 「女性禁制」その言葉に、引っ掛かりを感じたからだ。
 呪泉の呪いによって、水と湯で女と男を行ったり来たりするようになった、己の体質のことを思い浮かべたからだ。
(この山は、俺が女に変化したとき、どうなるんだろーか。本来は男だから問題ないのかな…。)
 複雑な思いが交差する。
(ま、女に変身しねーように、注意すりゃあいいだけのことだが…。)

「ほれ、早く来んかい!何をぐすぐすしてるんや!」
 
 先に結界をくぐった寒太郎が、乱馬目がけて叫んだ。

「っと…。いけねー!」
 見失ったら大変だと、乱馬も結界をくぐって走り出す。

 数メートルも行ったところで、ゴオオッと風が前方から吹き抜けて来た。
 山から下りて来たのだろう。一瞬、身をかがめて、やり過ごした。
 と、吹き抜け際に、何か冷たいものが、乱馬の胴体を貫いていったように思った。
 
(今の…何だ?)
 一瞬、その場に立ち止まった。
 と同時に、ぞくぞくっと悪寒が乱馬を襲った。

『へええ…、おまえ、その身体で、この先に行く気か?』
 誰かが、頭の中で囁きかけた。野太い男の声だった。
 ハッとして、辺りを伺ったが、寒太郎爺さんの以外、誰の姿もない。
 止まって全身を研ぎ澄ませたが、殺気は感じなかった。
 空耳だと思って、再び、駆け出そうとした。
 と、今度は、地面から風が天上へ向かって、吹き上げたように感じた。
 彼のおさげ髪が、ブワッと上へたなびいた。

「誰だ?」
 思わず、乱馬は身構えた。と、
 背中の方に、大きな暗い気配を感じた。
 前のめりに、足元を見やると、大きな一本角を持った巨人のような影が、先に見えた。
「鬼?」
 そう思った途端、一瞬、何かの気配が乱馬へとのしかかってきた。
 咄嗟に反撃を加えようとしたが、かなわなかった。気を溜めて発散させようとしたが、無駄だった。
 いつもは、体内から湧いてくる気が、一切感じられない。それどころか、振り返ろうとしても、そいつに抑えられているようで、身体が動かない。まるで、金縛りにあったようだった。
 が、そいつは、攻撃する意思は無かったようだ。殺気は全く感じられなかった。
 ただ、乱馬の身体を、舐めるように見つめている。そんな感じがした。
 
『へえ…なかなか面白い奴だな…おまえ…。』
 そいつは、直接脳内に語りかけてきた。
『生き抜けよ…。もっとも、あいつとやり合って勝つのは、並大抵じゃねーがな…。』
 乱馬の耳元で、声を響かせると、その、暗い気配は、すっと居なくなった。
 と、途端に、身体の拘束も消えた。

「今の…何だったんだ?」

 辺りを、伺っても、既に何の気配も感じない。夢幻の中に、一瞬、身を置いたのかとさえ思えた。
 呆然と立ち尽くしていると、
「おい!こりゃ!いい加減にせんと!修行できんぞ!」
 寒太郎爺さんから、檄が飛んだ。

 えっと思って、寒太郎の方を見た。
 爺さんは、道から外れた、山の斜面で、手を振って乱馬を呼んでいた。
 どうやら、彼が連れて行こうとしているのは、登山道とは違う方向のようだった。

(もしかして、道なき道を行くってか…。)
 慌てて乱馬は、じいさんの後を追って、道を外れる。
 根雪が樹の間に残っている上、秋に落ちた落ち葉が地面を覆っている。足元は最悪で、滑りやすい。
 一応、靴は履いていたが、重装備ではない。
「ま…いっか…。気のせいだったかもしんねーし。」
 乱馬はダッと駆けだした。

 幼少期より、父親と共に、原野を走り回って来た。天道家に身を寄せるようになって、その回数は減ったが、元来の野生児だ。スイッチが入ると、足元の悪さも、傾斜も、お手の物だ。易々と、寒太郎爺さんに追いついた。

「何をぐずぐずしておったんや?」
 追いついた乱馬に寒太郎が問いかけて来た。
(もしかして、爺さんは、さっきの気配に気づいてねーのか…。)
 そう思った。
 寒太郎くらいの使い手なら、乱馬が感じた気配に、気づかない訳がない。
 ということは、さっきのは、己が見た一瞬の幻か、それとも、物の怪の仕業か。
(ま、わざわざ言うまでのこともねーか…。)
 という結論に、すぐさま達した。
「いや、女人禁制の場所なんて、初めて聞いたしよー。」
 と、咄嗟に言い訳する。
「ほーか?結構、身の回りにあるもんやで?例えば、大相撲の土俵は、女性禁制やど。」
「なるほど…。」
「それに、男子トイレとかはどーや?」
「いや、時々、男子トイレを女子に解放することもあるんじゃねーのか?女ばっかのコンサートとか、催し物なんかに…。」
「まーええわ。この山も、古来から女性禁制の山として有名でのう。未だ、女性には解放されとらん世界なんや。」
「ふーん…。そりゃまた何故だ?」
「ま、仏道にしても修験道にしても、女に惑わされては修行にならへん…というのが、考えの根底にあるみたいやからのー。不浄の者として女を忌んでおったんやろーな。」
「女が不浄ねえ…。その考え方、俺は嫌だな…。」
「ま、理由はどうあれ、ここは女性禁制の世界や。それにしても…。」
 寒太郎は乱馬をじろっと見た。
「おぬし、思ったより、野山を駆けることには慣れておるようやな。東京者はひ弱やと思っとったが…。そーでもないみたいやな。」
「あったりめーだ!東京育ちっつーより、俺の場合は野山駆けてる方が多かったしよー。浮浪者同様の、格闘バカ親父にガキの頃から引きずりまわされてたしな。」
 息も切らさず、乱馬は寒太郎を見下ろした。
「なるほどのー。山ん中の修行は欠かさんかった口か?」
「ああ…つーか、平地に居たことの方が、数えるほどしかねーかもな。早乙女流は道場は持たねえ。己が今あるところ、それが修行場だ…つーのがモットーみてーな在野の流派だからな。」
「それは、単に、道場を持つだけの銭(ぜに)が無かっただけやないのか?」
「ああ、そーだよ。でも、だからこそ、しぶといんだぜ。親父なんか、俺の数倍、しぶとくて執念深いし、しつけーぞ。」
「わっはっは、そら、結構!安心したわ。」
 寒太郎爺さんは笑った。
「あん?」
「この野山を駆けること…それが、前三日の修行やさかい。山に慣れてる方が、ええに決まっとるからな。」
「山を駆けるだあ?」
「ああ。文字通りや。けど、ただの山道を駆けるだけやない…。昼間の山ではなく、夜の山を駆けてもらう…。それが、この修行の内容や。けど、侮ったらあかんで。この山は修験道の山。夜には物の怪も跋扈する。くろうて、道も見えんからなあ…。しかも、今は冬山。命が何個あっても、足らんかもわからんで。」
 ニッと爺さんが笑った。

「物の怪…か。確かに、いろんなものが棲んでいそうだな…。この山は。」
 さっきの怪異を思い浮かべながら、正直な感想を述べた。
「怖いか?」
「別に怖かねーが…。フンドシしめてかからねーと…山は危険がいっぱいだからな。」
 フウッと息を吐く。
「さすがに、山駆けに慣れているだけあって、よーわかってるやんか。乱馬君。さてと…。ここらへんやったかな。」
 爺さんは、半時ほど山道を行くと、爺さんは辺りを見回し始めた。
「っと…。あったわい。」
 真正面を見ると、おんぼろな山小屋が一つ、ぽつんと立っているのが見えた。
「あれが、観月流の先祖が建てた「修行小屋」じゃ。」
「修行小屋?」
「この大峰山中にはな、たくさんの小さな小屋が、道行く修験者のために建てられてるんや。その多くは登山道沿いにある。修行者や登山者が寝泊りできる小屋もある。で、我が一族が修行のために建てたのが、あの小屋や。あそこを起点に、この辺りを三日三晩、駆け巡ってもらう。それが前三日の修行や。」
「前三日?」
「せや。前三日の修行が完ぺきにこなせてこその、後三日の修行や。」
「っつーことは、六日間の修行なのか?」
「実質的には、中一日、休みがある。」
「ってことは、どっちの修行もきついってことか。」
「そーゆーわけや…。夜が来るまでには、もうしばらくある。日が暮れてしまうまで、しばらく、あの小屋で休んでおればよかろう。日が沈めば、ここを出て、山を駆ける。」
 そう言いながら、小屋をごそごそやり始めた。
「これを使うとええわ。」
 取り出したのは、鉄製のランタンと何本かのろうそく、それから古い地図だった。
「これは…?」
「駆け抜ける道が書いてある地図や。一本道やしのう、迷うことは無い。昼間なら小一時間で巡れるルートやが、夜やと危険がいっぱいやさかいにな…。」
「様々な理由で、戻って来られんこともあるそうや。天候の悪化も一つやで。これも、運の一言に尽きる。運が良ければ天候も荒れぬし、運が悪ければ荒れる。」
「天候…か。確かに、それで明暗を分けるな…山は。」
「で。基本は、夜かけて昼は寝る…。」
「夜かけて、昼は寝る?普通、逆じゃねーのか?」
「ああ。普通の修行はな…。これは鬼の力を得るための修行。通常の山修業とは違うんや。」
「鬼の力…?」
「ああ、鬼が力を貸すということは、鬼以上の存在やないとあかんやろ?」
「なるほど、一理あるな。で?鬼は夜しか活動しねーってことか?」
「そういうことや。鬼が現れるのは夜のみ。従って、日が昇れば、身体を休める。それが基本や。で、三日間、この小屋を使うとええ。保存食は持っておろう?」
「ああ…言われた通り、持って来たぜ。ここを起点に、三日三晩、夜駆けの修行をすればいいんだな?」「ああ、今夜、明日、そして明後日の夜明けまでな…。」
「で、爺さんは?」
「ここには一人で籠って貰うのが基本やしな。ワシは…ここから温泉郷へと引き返す。温泉に入ってのんびりして、三日後の昼までに、迎えに来てやるわい。」
「なるほど、じーさんは温、泉三昧ってか…。」
「ほほほ、羨ましいかの?」
「まーいい。とにかく、じーさんが迎えに来るまでにここへ戻ればいいんだな?」
「ズルはできんぞ。例えば、三日三晩動かずこの小屋に居るのはダメやからな。」
「そんな、せこいことするかっ!前修行をさぼって終わらせたら、後修行を乗り切る力がつかねーってことなんだろ?手を抜く訳、ねーだろがっ!」
「ほーっほっほ、さすがに、わかっとるみたいやな。」
「当たりめーだ!俺をあんまり見くびるなよ!怒るぜ!」
「ずるいことも時には格闘家には必要じゃが、この修行に手抜きは無い。とにかく、その地図のとおり、山を駆けろ。多少の逸脱はええぞ。基本は、夜動き、朝になったら小屋に戻って身体を休める…。それに尽きるわい。」
「わかった…。言われた通りやってやらあ。じじいは、とっとと温泉郷にでも行ってな。」

「ああ、もとい、そのつもりや。…とにかく、死ぬなよ…。乱馬君。」

 腸から響く声で、寒太郎が言った。瞳は真剣そのものだった。

「ああ、やり遂せてみせるぜ。」
 コクンと縦に揺れる乱馬の頭(こうべ)。

「では三日後に…。」

 そう言って、爺さんは来た道を戻って行ってしまった。後に取り残されたのは乱馬一人。
 日が少しずつ傾き始めたのか、少し冷えてきた。
 
「夜道を駆けなきゃなんねーから…。夜が更けるまで、横になっとくか。」
 乱馬は、ふわああっと伸び上がると、古ぼけた小屋へと入って行った。


つづく




一之瀬的戯言
 この章を書きだした時に、大ピンチに見舞われた一之瀬家でありました。
 本腰入れて書き始めると、途中で何やかんや起こって筆が止まる…というわ曰く付きなだけあって…今回もやっぱり泊まりました。
 義母が「心肺停止」に…。運よく蘇生はしたものの、結局意識は戻らず、二月半ばに他界しましたとさ…。

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