◇天高く 第二部


第一話 晩秋の招待状


一、

 そろそろ街並みが、クリスマスの様相をかもし出し始める。
 ショウウインドウに飾られた、クリスマスの小物たち。まだクリスマス節にも入っていない。十一月に入ったばかりだというのに、商魂はたくましい。
 小さな島国に、キリスト教徒がゴロゴロ居るわけでもないのに熱心な事だと、この季節が来る度に思ってしまう。華々しいクリスマス飾りも、元はといえば、長い冬を乗り越えなければならない北欧の民族が、太陽の復活を願った「冬至の祭」に発端があるという。
 冷静に考えると、イエス・キリストが闊歩していたエルサレムに、クリスマスの象徴でもあるモミの木が自生していたわけがない。第一、気候が違い過ぎる。
 暗い冬を乗り切るのに、少しでも暖かみがある祭は欠かせぬものだったのだろう。モミの木の葉の形が十字架に見えたために、聖なる木と、かの寒冷地方の人々は思ったのではあるまいか。

 ふううっと、あかねは溜息を吐き出す。
 鞄の中には、大学校案内書が数冊入っている。
 高校三年生の晩秋。目の前にぶら下がるのは「進路」だ。
 友人たちの中には、AO入試で既に進学を決めた者もチラホラ。指定校推薦、公募制推薦の試験も始まっている。一般入試の方もセンター試験の出願は十月にとっくに終わっている。
 一般入試は年が越えてからとは言え、そろそろ本格的に受験校を絞っていかねばならぬ時期にさしかかっていた。
 大学を決めるということは、己の将来を決める羅針盤になるということでもある。
 風林館高校は中堅の私立高校だ。上位成績者は首都圏のそれなりの国公立大学を目指している。平均的な生徒は、中くらい偏差値の私大へ出願し、現役で合格していく。
 早慶上智、明中法、日東駒専、大東亜帝国。予備校のそんな文言がいやでも目に入るようになった。
「どうしようかなあ…。」
 あかねは重い足取りで家路を急ぐ。
 いくら暖冬気味とは言え、そろそろ朝夕の冷え込みがきつくなる。コートなしの制服では、夕方はもう寒い。
 すっかり暮れなずんだ街を歩きながら、何度も溜息が漏れた。手にした通学鞄の中には、進学のための書類がずっしり。
 進路指導の男性教諭に手渡された大学の案内書が詰まっている。

『先方は是が非にでもと、天道、おまえを欲しがってるぞ。』
 と、先生のありがたい言葉が脳裏を舞う。
 どこでどう見知ったのか、武道家としての才能を見越して、あかねに推薦入学の声をかけてきた大学があったのである。体育系の私立大学だった。
 少子化が進み、猫も杓子も大学へ行くようになったこの時代。首都圏の大学は、生き残りをかけて、あの手この手を使い、自校の利となりそうな学生を青田刈りするのである。こと、スポーツ界はその傾向が顕著だ。
 将来、オリンピック選手やプロ選手となり、刈った学生に価値が出れば、卒業校として学校のブランドが上がる、そんな下心が見え隠れする。
『先方のスポーツ部の部長教授が、この前のほら、何て言ったかな、無差別格闘武道大会を見て、おまえをと指名してきたんだ。ここまで条件が良い大学は、中々ないぞ、この幸せ者め!』
 ガタイの大きい体育会系の進路指導の教諭が、白い歯を見せて笑った。
 傍らで、スチャラカ校長が『これはユーにとって、またとないチャンスデース。ミスあかね。安い学費で学卒資格が取れるなら、俄然お得デース。』とおちゃらけていた。

 あかねは、この先の進路を、まだ決めかねていた。
 いずれ将来、乱馬に嫁ぐという意識だけは持っているものの、高校を出てすぐ結婚とはいかないだろう。父親たちはそれなり盛り上がり、やれ、卒業と同時に祝言だのはやし立てるが、肝心の乱馬には「その気」があるのかないのか、相変わらず、将来に関しては何も口にしない。いや、口にしろと言ったところで困惑するに違いない。
 一度、短大にでも入ろうと思っていたあかねだが、ここへきて、迷い始めていたのだ。
 今の世の中、高卒ではなかなか職も見当たらないし、同級生の殆どが大学や短大、専修学校へと進学するので、とりあえずは己もそれに準じようと、センター試験への出願だけはしてある。
 行きたい学校というより、行ける四年制大学を受けてみようか…。そんな消極的な進学願望が、あかねを支配し始めていた。

 確かに、誘ってきた大学の提示した条件は悪くない。学費は四年間全額免除。親への負担は教科書代と食費、交通費くらいで抑えられる。その代わり、その学校が指し示す「武道系サークル」への参加が義務付けられる。大学のネームを背負って、大会などへ出なければならないのである。
 華やかなメジャースポーツとは違い、女子格闘技は、現況ではあまり持てはやされていない。国技に近い柔道ならまだしも、無差別格闘など、海のものとも山のものとも、将来性はわからない。格闘技ブームが本物になってきたとは言え、女子無差別格闘技はまだ、知名度も低い上、ファン層も厚くない。
 誘われて悪い気はしないのだが、迷うところであった。
『先方は年内を目処に、考えておいて欲しいと言ってくれているから、まだ時間はある。父上と良く相談して、考えて終業式までに返事しなさい。』
 そう言って、進路指導の教諭はあかねに書類を手渡した。
 年内猶予を与えてくれるという時点で、いかにその大学がマイナーかわかるというものだ。知名度の高い大きな大学なら、そこまで時間をくれないだろう。いや、選考はとっくに終わっている。

「特待生推薦枠かあ…。」
 暗くなった空をふと見上げながら、呟く。
 ゆくゆくは「天道道場」を継がねばならぬ身の上。道を究めるという意味で、体育系大学へ進学するのは悪くはない。だが、安易にそういう進学を選んで良いかどうか、正直迷っていた。
 少なくとも、「乱馬」は安易な進学には否定的意見の持ち主だ。
 男子の無差別格闘技は、マスコミが大々的に取り上げてくるようになったことからもわかるように、急に注目を浴び始めている。その若手有望株として、早乙女乱馬を刈ろうとして動いた大学は数多あった。体育系大学から一般有名大学に至るまで、推薦依頼が殺到したらしい。
 彼はあかねの手前、そういうことをおくびにも出さなかったが、噂は耳に入っていた。実際、彼はそれを尽く蹴ってしまい、勿体無いとクラスメイトや先生たちが言い合っていたのを、何度も耳にした。
 恐らく、今の彼の頭に「大学進学」という文字は無いのだろう。安穏とした中では、格闘家としての己の向上は無い。口にはしないが、とうに結論付けている様子だった。

「乱馬はどうするつもりかしら…。」
 進学のことはともかく、気になるのは乱馬の気持ちのこと。
 準決勝戦の前に、いきなり奪われた熱い唇。足の故障を押して、みさきと対しようとしたあかねだったが、強引に口付けされ、気を削がれた瞬間、そのままみぞおちに一発入れられ、棄権を余儀なくされた。
 乱馬が優しかったのは、あの前後だけ。
 以後は再び、ぶっきら棒な許婚に戻っていた。殆ど黙して語らず、距離が広がったようにさえ思える。乱馬はあれから、考え込む事が多くなった。アルバイトに出向く時間も増えたように思う。何より、乱馬だけ遅い夕飯をとることが増えた。仕事がないときは、率先してどこかへ修行に出向く。そのくり返し。
 そう、取り付く島がないのだ。
 あかねだけ、ポツンと取り残されたような寂しさが去来していた。
 彼に相談したい事は山と有る。相談だけではなく、訊きたい事も。
 修行やアルバイトで疲れて帰宅する彼に、何も言い出せない自分が、もどかしかった。
『彼は彼なりに、考えていることがあるのだろうさ。身体を動かしていないと宙ぶらりんになって停滞してしまう。そう危惧しているのかもしれない。若さとは、そういうものだよ。』
 父親の早雲は、あかねにそんな言葉をかけた。暗に今はそっとしておきなさい、そう言いたいのだろう。

 宙ぶらりんになって停滞しているのは、あたしの方よ…。

 と、あかねは心で吐き出した。



二、

「ただいまあ…。」
 重い口を開いて、玄関に立つ。都会では珍しくなったガラスの引き戸を開き、中に入る。
 家に帰りつくと、珍しく、一家が揃っていた。
 父親の早雲と長姉のかすみ、早乙女玄馬、のどか夫妻はもちろんの事、大学生の姉、なびきも珍しく在宅。何より、乱馬まで居たので、驚いた。
 かすみが腕によりをかけて作る夕食の支度もすっかり整い、茶の間で家族全員があかねの帰宅を待ち侘びていたような雰囲気だった。そんな中へ一番遅れて足を踏み入れるのは、ちょっと照れ臭い感じがする。

「随分、遅かったわねえ。乱馬君なんか陽の高いうちに帰ってきたっていうのに。」
 なびきが開口一番、声をかけた。
「ちょっと、進路指導の先生に呼ばれていたから…。」
「あ、帝都大推薦の話かあ。」
「え?」
 そう答えたなびきを、ぎょっとして見上げる。姉が何で推薦話を知っているのか、驚いたからだ。
「あら、あたしが知ってちゃ不味いかしらん?あたしを誰だと思ってるの?」
 あかねの反応を面白がる悪戯な瞳。この地獄耳の姉には、隠し事など不可能なのだろう。
「まさか、推薦話のお祝いに、こんなご馳走が並んでるんじゃあないでしょうね。」
 こそっと姉に耳打ちしてみた。
「まさか。まだ、あんた、そこへ進学するって決めた訳じゃあないでしょうに。それに、まだ、その話はお父さんもかすみお姉ちゃんも未チェックの筈よ。」
 とこそっと返答が返って来た。
「なら、何でこんなにご馳走が?」
 そうなのだ。普段の質素な食卓からは数段かけ離れたご馳走が、目の前にずらりと並べられている。チラシ寿司に天ぷらや揚げ物、ご丁寧に茶碗蒸しまでついている。

「揃ったね。」
 早雲があかねを見やりながら言った。
「乱馬君、あかね、おめでとう。」
 と唐突に祝いを言われた。
「はあ?」
 クエッションマークが点灯するあかねを他所に、玄馬が続けた。
「おめでとう。同門から二人も出場できる権利をもらえるなんて、栄誉の極みじゃ、わっはっは。」
「出場?栄誉?」
 ますますもってわからない言葉の羅列にあかねは困惑するばかり。一体何と横のなびきを突付いてみた。
「ほら、この前の武道大会の結果が良かったんで、あんたたち二人、次の武道大会に招待されたのよ。大会は大阪よ。」
「この前の武道大会って、あたし、準決勝戦で棄権したけど…。」
「ベストフォーまでが招待選手になれるって聞いてるわよ。とにかく、目出度いじゃないの。素直に喜びなさい!」
 となびきがバンバンとあかねの背中を叩いた。
 詳細を聞くと、来月、関西で行われる武道大会に、この前の入賞者が大会を盛り上げるために招待されたというのだ。本来なら予選から勝ち抜かねばならぬところ、いきなり決勝トーナメントへ出られるらしい。
 しかも、ジュニアとして出場したこの前よりも上位の大会になり、若手部門は少し年齢が高めの二十五歳までが一緒に戦えるという。
「良かったわね、あかねちゃん。」
「でも、受験前よ…。センター一ヶ月前に、武道大会に大阪遠征だなんて…。」
 戸惑うあかねに早雲は念を押すように言った。
「受験も大切だが、武道格闘家を目指す以上は、こういう大会出場権利も大切にせねばいかん。あかねは、何よりまず、武道格闘家を目指しているんだろう?」
「え、ええまあ。」
「だったら、出なさい。大学進学など、どうにでもなる。既におまえには、体育系の大学からいくつもの推薦のオファーも来ておろうが。」
「そうじゃよ!この前怪我で活躍できなかったんじゃ。今度は優勝して、ハクをつけるんじゃ、ハクを!そうすれば、進学なんて楽勝じゃあ!」
 玄馬も割り込んできた。
「大手を振って推薦入学を受けられるぞ!わっはっは。」
 酒がまわり始めた早雲と玄馬の二人が、盛り上がる中、断れる雰囲気ではなかった。案外、先にあかねの特待推薦の話を、ちらっと耳にしていたかもしれない。

 もじもじとしていたら、乱馬がすっと後ろに立った。
「乱馬は行くの?」
 問いかけてみる。
「あたりまえのこと、訊くんじゃねえよ。」
 とすぐさま投げ返された。
「そっか…。乱馬は行くんだ。」
「おめえ、足の具合どうだ?」
「痛めた足は東風先生のおかげで、もう治ってるけど…。」
「そっか…処置が早かったから治りも早かったか。」
 とボソッと言った。そうだ、乱馬の気転で試合を棄権させられ、以後は東風先生の腕にかかって早めに完治した。あのまま、試合を続行していたら、とても、この大会には間に合わなかったろう。
「治ってるんだったら、迷う事はねーんじゃねーのか?」
 と耳打ちされる。
「この前棄権した、観月みさきとだって闘えるかもしれねえんだぜ?」
「みさきちゃんと闘える。」
 その言葉が、あかねの武道家魂に火を灯した。
「もっと強い奴だって居るかもしれねえ…。足が完治してんなら、大会出場に問題はねえだろ?」
 乱馬の言うとおりである。

「ってことで、二人、揃って遠征しておいで!」
「ホテルも一緒の部屋で良いよね?」
「おーおー、それが良いよ。二人一室っ!」
 父親二人の暴走が始まる。
「ちょっと!お父さんたち、何てこと言い出すのよ!当然、乱馬とは別の部屋よ!別の部屋っ!」
 案の定、あかねが食って掛かる。
「宿代だってバカにはならんぞー。シングル二部屋よりもツイン一部屋の方が、経費も浮くじゃないか。なあ、かすみや。」
「そうねえ…。家計にはその方がありがたいわ。」
 にこにこと微笑みながらかすみが返答した。
「お姉ちゃんまで、な、何馬鹿なこと言ってるのよ!あたしも乱馬も遊びに行くんじゃないのよ!同じ部屋に泊まってどうするってのよ!」
 真っ赤になって言い返すあかねに、ますます、悪乗りは拍車をかける。
「二人とも自己管理くらいは出来るじゃろう?それとも、何かね?ツインの部屋じゃあ、何かまずい事でも?うりうり…。」
 デバガメのような玄馬の言動に、耐え切れず、乱馬が後ろから拳骨を食らわせた。
「品のねえことを、開けっぴろげに言うんじゃねーっ!このイロボケ親父!」
 ポカリと一発。
「痛いじゃないかあ!イロボケ親父とはどういう意味じゃ!」
「文字通りだよ、こんのっ!それに、宿ならもう決まってんだ。」
 と、これまた予想外のことを言い出した。
「宿が決まってるだあ?おまえ、もうホテルを予約したのか?ツインで。」
「アホも大概にしろよ!夕方、凍也から電話があってよう、試合前にはウオーミングアップも必要だろうから、うちの道場へ来いって誘われたんでいっ。一人増えるも二人増えるも同じだから、あかねも一緒にってさ。」
「な、何と…。」
 玄馬が絶句したごとく、あかねも乱馬の言葉に耳を疑った。観月流の道場に世話になるということは、相手に手の内を見せるということにもなるのではないかと思ったからだ。
「ちょっと…。乱馬。本気?」
 あかねが問い返したくらいである。
「ああ。おめえだって、同じ歳のみさきと親交を深めるのに不都合なんてねーだろ?共に、同じ武道畑を突き進むんだ。相手が誘ってくれたんなら、ご好意を受けるってのも、たまには良いんじゃねえのか?」
 と、飄々としている。
「それに、武道なんてのは、積み上げて強くなるもんだ。敵に少しくれえの手の内を見せたところで、実力が変わるわけじゃねえ。手の内見せるのは、招いてくれた相手も同じリスクを背負う筈だし…。」
 とあかねの危惧を跳ね返してみせる。強気だった。
「おめーだって、他の流派がどんな道場経営をしてるか、興味がねえわけじゃねーだろ?」
 それもそうだ。同じく「無差別格闘流」を名乗っているとは言え、全然別の流派。こういう機会でもなければ、中に入ることすらできないだろう。将来、天道道場を継いで行く上でも、他の道場を見ておいて、損は無い。
「これなら、宿代も土産代くらいで良いから、家計も助かるんじゃねーか?なあ、かすみさん。」
 と乱馬は笑った。
「え、ええ…そうね。助かるわ。」
 にっこりと微笑み返すかすみ。
「じゃあ、決まりだ。ってことで、おめえも、気合入れろよ。怪我のブランク分取り戻さねーといけないから、きついぜ。」
「乱馬、修行に付き合ってくれるの?」
 少し期待を込めた瞳で乱馬を見上げる。
「いや、俺は自分の事で精一杯だしよ…。おめえの相手は別に頼んであるよ。俺なんかよりも、ずっと頼りになるんじゃねえのかな。」
 と言った。
「別に頼んである?」
「ああ。いずれにしても日がねーんだ。時間は有効に使わねーとな。飯食ったら、俺、ロードワークに出てくるわ。」
 正直、がっかりした。
 乱馬が少しは修行相手をしてくれるかと期待したのだが、にべもなく断られた。そんな感じだった。
 もっとも、乱馬からすれば、己の相手などしている余裕はないだろうから、当然といえば当然の結果かもしれなかった。


 だが、彼が他に頼んであると言ったことは本当であった。
「あかねちゃん。」
 翌朝、いつものように通学路を急いでいると、脇から声をかけられた。
「東風先生。」
 声の主は良く知った、接骨医、小乃東風だった。
 彼が接骨医院の看板の陰から呼び止めてきた。
「足…。完治したみたいだね。」
 先生は眼鏡を凝らしながらあかねに言った。
「今日の帰りから、毎日、ここへ立ち寄ってね。治った足に無理がかからないような修行メニューを組み立てておくからね。あ、できれば道着か体操服を持参してね。」
 と、眼鏡の奥で細い目が笑った。
 どうやら、乱馬はあかねの修行相手をと、東風へ頼み込んだらしい。子供の頃からあかねを知る優しい瞳。その上、筋骨に関してはエキスパート。短期間で身体を作るには、絶好の師であろう。
 それに、修行相手は東風だけではなかった。
 なびきあたりから情報が漏れたのだろうが、あかねが乱馬と共に大阪へ遠征すると聴きつけた「ライバル」たちが、俄かに騒々しくなったのだ。
「天道あかね!覚悟!」
「あかねちゃん、ウチらを出し抜いて、ええ根性しとるやないか!」
「あかね、やっつける!」
 口々に雑言を浴びせかけながら、襲い掛かってくる三人娘。九能小太刀に久遠寺右京、それから中国娘のシャンプーだった。
 それぞれ、鋭い格闘センスを持ち合わせた娘ばかり。彼女たちの攻撃を交わすだけでも、充分に修行になろうというもの。
「もー!一体全体、何だって言うのよーっ!」
 本来、乱馬に手向けられる「牙」が、今回ばかりはあかねに向けられている。恋とはげに恐ろしいものだ。

 そんなこんなで、センター試験や進学のことなど脳裏から消え去り、武道大会出場へかけた準備期間の短い日数は、あっという間に過ぎ去って行った。



つづく




一之瀬的戯言

 続きを書き出すのに数年かかってしまいました。
 ぶっ壊れたパソコン内にプロットが沈んだまま消滅し、気が削げたのと、己の力量ではまだまだ書きとおす自信がなかったのが停滞の主たる原因です。
 動きの遅い、乱あとは言い難い重い話になる予定なので、我慢しておつきあいください。
 「凍也とみさき」の結婚話から書き進める筈だったのですが、今回、プロットから練り直しました。結婚試練は武道大会へと変貌を遂げましたが、行き着く先は同じなので…。
 また、乱馬が何を考えているかわからん部分が出まくりそうなので、書き上げるのに悩みまくって、時間がかかりそうです。 実はネット掲載は見切り発車(苦笑)現在、第八話を書いております。
 いつから遅筆になったんだろう…私。ひえええっ!

 昨年、息子の大学入試を傍目から見て経験したので、だいたい、昨今の受験事情に沿った内容になっていると思います。私の場合、安易に系列大学へそのまんま進学した口なので、息子の入試で、その大変さが身にしみました。

 題名の「天高く 第二部」はそれ以外に良いものが浮かばなかったからです。いろんな意味を重ねております。

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