◆あとがき◆

 「蒼い秋」を書いたとき、ふっと「同世代のカップルと対比させながら、乱馬とあかねが成長していく姿を書き下ろしたい。」という思いが浮かび、それが、礎となって構成したシリーズが「分岐点」です。
 「凍也とみさき」は、名探偵コナンの「平次と和葉」をちょこっと意識しています。脳内では堀川さんと宮村さんの声で、響いていたりして(笑…平次と和葉のカップルも大好きです♪
 で、物語を脳内で組んだ当初から「凍也の死」が一つのテーマになっておりました。これがネックになって、一筋縄ではいかないくらいに、激しく物語が変遷しました。
 特に、第三部は、最初、凍也の死から入る、めちゃくちゃ暗くスタートした訳でして…。(読まれた方もいらっしゃると思いますが)こりゃ、あかんわ…と思って、書いては消し、書いては消しを繰り返しておりました。
 結局、凍也の死の描写はきれいさっぱり抜き去って、今回の作品となりました。メモリアルダイアモンドも、最初に構想したときから使う予定にしておりました。凍也が浮き上がってくるシーンがシリアスではなく、ギャグに流れてしまったのも、暗くしたくなかったのがまともに反映されてしまいました。まあ、底抜けに明るい性格の凍也でありましたから、乱馬を叱咤するときも、きっと、ああやってけたたましくなるのではないかという風に、勝手にキーボードがそういう描写を叩きだしていました。
 何故か書き進めようとすると、私の周りで様々な不幸事が起こるという曰くつきの作品になってしまいまして…それが原因で、数年放り投げていたのであります。で、今度こそと思って、キーボードを叩きだした途端、2012年の春先、己がぶっ倒れて緊急搬送されるという事態に…。
 あれから、四年。今度こそ仕上げるべ…と思って書きだしたら、義母が壮絶な闘病生活の末、他界しました。で、その喪に服していたブランクを経て、今度こその今度こそ!…と思ったら、あの地震です…。もう、勘弁して〜と思った次第。
 また、後半部は、義母の死の影響をまともに食らって、迷走に迷走を続けました。
 このシリーズは、全く、プロットを組まずに、行き当たりばったりに転がして書いてこうと決意していたため、迷走し始めると、書いている本人も訳がわからんことになる訳でして…。こんな話をプロットなしで書こうとした己はただのアホだったと反省しきりです。が、多分、プロットを組んだとしても、これは迷走したろうなあ…と結論付けております。
 ノープロットで転がし続けた作品に「蒼い月と紅い太陽」という、これまた超級の長編作品がありますが、これと対比しても、かなり迷走したのがわかると思います。

 寒太郎を黒幕に据えようと、決めてあったのを、一旦覆して、第二部を書き綴ったため、第二部と第三部では、かなり、寒太郎の性格が変わってしまったというのが、迷走の第一段階。
 本当は黒幕に戻すつもりはみじんも無かったのですが、ノープロットで書き進めるうちに、やっぱり、こいつが黒幕だよなあ…と思い直し、そこから物語が、留まることなく迷走していって突っ走ってしまった感があります。寒太郎を黒幕に戻したことで、「氷三郎」と「氷也」が宙に浮いちゃったよ…みたいな。そのあたりは、まあ、ええか的に処理してしまいました。
 が、書き終わって推敲しながら読み返してみて、寒太郎を黒幕へ流して正解だったと、一応、私は納得しております。
 乱馬を修行する鬼も、当初は、オリジナルで考えていたのですが、昨秋、洞川温泉に遊びに行ったことを思い出し、洞川といえば、後鬼の里という連想から、「前鬼と後鬼」を再び引っ張り出してきました。
 実は、大学生のころ、説話文学を専門に据えて勉強しておりましたので、鬼についての本を読み漁ったことがありまして…。その時、この二人の鬼たちの存在を知り、いつか、この鬼を使って物語的なものを書いてみたいという、野望があったため、何の躊躇もなく、また、引っ張ってしまいました。
 「地獄先生ぬーべ」の原作者、黒岩よしひろさん作の「鬼神童子ZENKI」に出会ったときも、かなり舞い上がって、妄想をふくらかせていた阿呆です。実際にキーボードは叩いていませんが、書かせたら多分、千明ちゃんと前鬼でも何本か書けるかと…(書きませんけどね…)
 アニメにて、ちび前鬼を乱馬役の山口勝平さんが演じていらっしゃることを後付けで知って、それが元になって「東雲の鬼」を書いたという前歴があります…。
 なもんで、やっぱり乱馬とあかねの姿を引っ張って、前鬼と後鬼を書いてしまいました。但し、この作品の前鬼と後鬼は、触れてくる人間と同じ姿で出現する「穏の精霊」という設定を意識しています。故に、前鬼は乱馬の口調なのに対して、後鬼はあかねではない、言い回しをさせているのであります。

 みさきに対して、あかねに嫉妬を持たせる方向の展開も考えていたのですが、複雑な話がもっとこんがらがりそうだったので、あっさりと諦めました。
 その、あおりで、みさきのキャラが結構砕けてしまうという、現象が生じてしまい、ギャグっぽい最終話になりました。
 病院でかいがいしく乱馬を看護するあかねの描写も考えてはあったのですが、これはこれで、別の作品で切り離して展開させるつもりであります。(同人誌展開予定)
 最終話は特に悩みどころが多く発生するのが、私の悪いところでありまして…。
 「スローラブ」なんか、半年以上止まりましたからね…ラストでつまずいて。神がかり的にすんなり最終話が書けた長編は、「蜜月浪漫」くらいしかありません。
 「蒼い月と紅い太陽」「スローラブ」「飛鳥幻想」「晦冥の館」…この辺りは、終わり方を苦しんで苦しみぬいた記憶しか残っておりません。今回も、最後の最後で結末をどう引っ張るか、考えに考え倒しました。一で闘いの決着を、二でみさきとの結論的なものを、三でシリーズ全体の結論を…という、バラバラの構成になってしまいました。これはもう、書き手の力量不足以外の何物でもなく。
 エピローグを別に取ろうかとも思ったのですが、それも、ベタになりそうだったので、辞めました。

 第三部は苦しみぬいた作品だったので、正直、書きあがって、ホッとしております。
 
 十五年かかった訳ですから、文体も雰囲気も、変わりに変わりまくっていますが、作品に歴史あり…みたいなことで、読み流していっていただければ、嬉しいです。
 あの頃、高校生だった息子なんか、もうじき三十路ですからね…。小学生だった娘もアラサーと呼ばれる年齢に突入しました。私はというと…アラ還さああ!

 連載当初から、続きが読みたいと応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。


2016年5月12日


PIXIV表紙用などに描き下ろしたイメージ絵



2001年ごろのアナログ絵




PIXIV表紙に描き下ろした絵のカラー原画



第一部中編イメージ絵
実は、今まで己が文字描写した中でも、屈指に入ると勝手に思っている「乱馬の壁ドンキスシーン」


時間があったら、ラストの学ラン乱あを描きたいなあ…。

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