◆天高く
プロローグ〜分岐点の秋


「ねえ、乱馬ったらっ!」

 傍であかねの声がした。
「ん?」
 乱馬は慌てて跳ね起きる。
「もぉ…、珍しく乱馬デートに誘ってくれたと思ったら、そうやって居眠りなんかして…。」
 あかねの顔は、心なしかぷくっと膨れている。
「悪(わり)い、悪(わり)い。つい、陽だまりが気持ちよくって眠っちまったんだな。」
 頭をかきながら乱馬は言い分する。
「疲れてるのわかるんだけどさあ…。久しぶりなんだから…。起きてよね!」
 久しぶりに、二人、同じ時間と空間を共有しているのだ。それを眠ったまま過ごされては、もったいない。そう思って、つい、口が動いてしまった。
 
 同じ屋根の下に住み、同じ高校の同じクラス。常に一緒に居るカップル。でも実際は…。おせっかい焼きの家族や、好奇心の塊のクラスメイトの中に置かれていては、なかなか「素の二人きりな時間」は共有できない。
 家の中は尚更だ。ベタベタと仲良くしていようものなら、やれ祝言だの、やれおめでただのと、家族たちは勝手に盛り上がってくれて、うっとうしい。
 だから、普段は殆ど互いの感情を顕(あらわ)にしない「へそ曲がりカップル」になってしまった。
 今日も、家を出て来るのに、かなり苦労した。父親や姉たちの目を盗むように、バラバラに家を出て、落ち合った。とにかく家人たちには、余計な詮索を入れられたくない。複雑な思いを、互いに持っていた。
 家を出ても、途中、乱馬にはシャンプーや右京、小太刀といった強敵がひしめいている。乱馬争奪戦が、華々しく始まってしまうのも常だった。あかねはあかねで、途中で出会ったゆかやさゆりに、「そんなに洒落して何処へ行くの?」とうがった質問を投げかけられた。「乱馬君とデートでしょ?」と、さんざん詮索されたのだった。
 
 それらを全部クリアして、やっとここまで出てきたのである。

 目の前には超高層ビルが立ち並ぶ。
 二人一緒に電車に乗って、新宿まで出てきたのである。目的地はどこでもよかった。
 九月末の秋晴れの穏やかな休日。ただ、なんとなく、都心へと足が向いただけだった。
 ランチを食べて、街中を一緒に歩いて…そして、新宿公園のベンチに座って休憩。腰を下ろしてしまうと、つい、眠気が乱馬を襲ったのだった。

 最近の彼はアルバイトに忙しい。倉庫のアルバイトをやっている。いわゆる肉体労働。かなりきつい力仕事だが、修行に比べると楽だと本人は笑う。
 学校から帰るとそのまま駆けて行く。日曜日も殆どない状態でアルバイト三昧。
『そんなに無理しなくっても…。』
 あかねは苦笑しながら言うが
『俺にだっていろいろ事情があるんだから…。』
 の一点張り。
『どうしてそんなにお金が要るの?』
 と尋ねても
『どうしてもっ!』
 とあかねにも家人にも明かそうとしない。
『あの子にはあの子なりの考えがあってお金を貯めているんでしょうね。』
 母親ののどかは目を細めて言う。
 十八歳の秋。
 人生の分岐点が近い。

 乱馬は将来をどう考えているのだろうか…。自分とのことはどうするつもりなのか…。

 あかねの不安は日を増すごとに膨らんでゆく。
 こんな中途半端な関係を維持していられるのは、せいぜい高校に在学している間だけ。現に、右京やシャンプー、小太刀は真剣に乱馬を奪回しようと動き始めている。許婚の件も、周りが放っておくまい。
 気の早いかあかねの父などは、「高校が修了したら今度こそ祝言だな…。」とにこにこしている。家族の誰もがそれを疑わない。それが返ってあかねには重荷になっていた。

 乱馬の考えが読めない…。
 その一点に尽きるあかね。

「なあ、おめえ、高校卒業後の進路、どうするんだ?」
 乱馬はふっと青く抜ける空を仰いであかねに切り出した。
 鳩が一斉に、その空高く、舞い上がる。
「うん…。それなんだけどね…。あたし…。」
 あかねはぐっと拳を握って、乱馬を見た。
「短大へ進学しようかって思ってるの…。」
 おそるおそる乱馬を見上げながら答えた。
「そっか…。で、何、勉強するつもりなんだ?」
「家政科…。」
「あん?」
 乱馬は不思議そうにあかねを見る。
「何よ、そのリアクション。あたしが家政科に進学したらいけないの?」
「あ…。いや、別に…そんな訳じゃねえけど…。」
 乱馬は噴出しそうになるのを堪えているらしい。失礼な奴だと思いながらも、あかねは続けた。
「家政科っていってもいろんな専攻があるのよ…。あたしはね、栄養学でも勉強してみようかなって…。」
「栄養学?」
「うん…。保育学なんかもいいかなって思ったんだけど…。いずれ道場継がないといけないでしょ…。食物のこととか栄養学のこととかちゃんと勉強しておいてもいいな…なんて…。」
 乱馬は黙って聞いていた。
 あかねにしては精一杯の気持ちを、乱馬に直接伝えているつもりだった。そう、将来、夫になるであろう彼を、後ろから支えるために勉学しておこうと思ったのがきっかけの進路選択だった。格闘家の妻になるためには、必要であろう栄養学の知識。
 乱馬にはどう聞こえたのだろうか…と、口に出して言ってしまってから不安になった。
「いいんじゃねえか…。それも…。今しか勉強できねえことだってあるんだから…。そっか、あかねは、進学するのか…。」
 感慨深げに乱馬は反芻(はんすう)した。
「乱馬は?」
 あかねは己の疑問をぶつけてみた。丁度いい機会だから、乱馬の考えの一端でも知っておきたいと思ったのである。
「俺か?そうだな…。まだいろいろと迷ってることがたくさんある…ってのが本当のところかな…。」
「たくさんきてるスポーツ推薦はどうするの?なびきお姉ちゃんから聞いたわよ。四年制はじめ有名大学のスポーツ科があんたを誘ってるって…。」
「ああ・・。柔道とか空手とかだろ?体育大系や一般大の部活に熱心なところから、いくつか引き合いあったっけ…。」
「暢気ねえ…。」
「おめえにだって、推薦は山ほど来てるだろうが…。」
「まあね…。でも、不本意だから断わるつもり…。武道するために行く大学なんて…。それに、あたしの流儀は…。」
「「無差別格闘流」だからな…。どんな武道の範疇にも入らない特殊な武道だしな…。そこなんだよな。俺も悩んでるのは…。」
 乱馬はそう言って、大きく息を吐き出した。
「大学行ってどうこうなるようなもんじゃねえし…。それに、まだ落ち着かない身体を引きずってるし・・。」
「で?どうするつもりなの?」
 あかねは核心を聞いてみたかった。乱馬は卒業後の進路を将来をどうするつもりなのかを…。
「俺は、どっちに転んだって武道馬鹿だ。無差別格闘流を極めていくしか己の道はねえと思ってる…。だから、もう少し、真剣に卒業後のことを考えてみようと思ってるんだ。自分の将来…それから多分一緒に背負い込むことになるだろう…もう一人の将来も含めて…な…。」
「もう一人の将来?」
 あかねが聞き返すと、乱馬は、そのまま黙ってしまった。途切れてしまった言葉…。あかねはあかねで鈍いのだ。己のことを言われているとは、小指の先も思い至らないらしい。
 それに、乱馬には重荷だった。今の己にはまだ、「あかねの人生」まで、一緒に背負う力が備わっていない。それは充分すぎるほど承知していた。もっと強くなりたい。力も精神も肉体も。極限まで高めたい。そのために己はどうあるべきなのか。まだぼんやりとしか、見えていなかった。
 だから、懸命にバイトに励んでいた。少しでも蓄えて、それを元手に修行に出ようというところまでは、決心していた。
 ただ、あかねに、それをどう伝えれば良いのか、術を知らなかった。彼女に止められると決意は崩れるかもしれない。それに修行へ出るといっても、どんな形になるのか、どこへ行くのか…具体的なところまで、深く考えを突き詰めているわけではなかったのだ。
 中途半端に物を言うとあかねのことだ、不安になるだろう。
 まだ思い描き始めた将来を、あかねに話すには時期尚早だと、乱馬は考えていた。

 重苦しい空気が二人を流れ始めたとき、ふっと耳に飛び込んできた関西弁。

「あーっ!ほらみてみいっ!!こんなんなってもうたやんけっ!!」
「知らんわよ。あたしのせいやあらへんっ!人のせいに、しんといてっ!!」
「ぐわーっ!ねとねとになっとるやんけっ!!」
「さっさと食べへんからやっ!!」
 前をゆくカップルが騒ぎ出した。声が大きいのは関西人の特徴だろう。道行く人は、何事かと好奇の目をこのカップルに向ける。何やらアイスクリームコーンのことで騒いでいるらしい。
 一人は地黒い色をしたく中背中肉の少年。一人は長い髪をなびかせた少女。出会った頃のあかねに雰囲気が似ていると乱馬は思った。お揃いのカジュアルシャツに濃紺のデニムパンツという井出達(いでたち)から察するに、恋人同士なのだろう。
「畜生っ!腹立つからこっちから食うたろっ!!」
 少年は持っていたコーンの下の部分からもしゃもしゃと食べ出した。
「あほっ!そんなことやってると…。」
 アイスクリームが、べたっと地面に落ちた。
「あーっ!!」
「ほら言わんこっちゃないやん…。」
 賑やかで愉しそうだ。
「おまえ、俺のこと思い切りアホやいう目で見とるやろ…。」
「当然やん。アホやもん。」
「くそ…。おまえには言われたないわいっ!!」
「どういう意味や?それ…。」
「アホにアホ言われたないって言っとんやんけっ!!」
 
 傍目に見ても愉しそうに喧嘩している。関西弁はどう聞いても上方漫才だ。

「なんか楽しそうね…あの二人…。」
「そうだな。」
 あかねと乱馬も思わず釘づけられる。

 と、そこへ、二人乗りのミニバイクが突っ込んできた。人々がくつろぐ都心の公園に迷惑を顧みない不貞の目立ちたがり屋だ。蝿のようにエンジンを吹かしながら園内を暴走する。
「迷惑な連中だぜ…。」
 乱馬は苦虫をかみ殺したような声で答えた。
 その前を幼い子供らが横切った。案の定、その暴走バイクは急に止まることが出来ずに突っ込んでゆく。
 子供らの母親と思われる悲鳴があがった。

「危ねえっ!!」

 乱馬の身体が咄嗟に動いた。
 そして子供を一人抱えると横へ飛んだ。だが一人が精一杯。あかねははからずしも出遅れた。
 あっと思った瞬間、さっきの関西弁の男が目に入った。物凄い勢いで飛んできて、乱馬が逃したもう一人の子供を抱え込むと受身に入った。

 ききーッ!ガシャンっ!!

 破壊音が傍で響く。バイクに乗った二人組は無残にも公園の植え込みへ突っ込んだ。
 乱馬と関西弁の少年の機転で、間一髪で子供たちは難を逃れた。
「くおらっ!てめーら、人の前に飛び出してきて!!危ないじゃねーか。バカ野郎っ!」
 運転していた方の男が起き際にすごんだ。
「そうだっ!この落とし前どうつけやがるっ!」
 もう一人も物凄い剣幕で怒鳴った。

「何やとっ!!くおらっ!何フザケタこと抜かしてけつかるっ!!てめえらの方が悪いに決まっとるやんけっ!!え?」
 関西弁の少年は形相を変えて怒鳴った。
「公の場所でバイク吹かす方が悪いに決まってんだろっ!」
 乱馬も負けじと眼(がん)を飛ばす。
「何をっ!!」
 頭に来たバイク野郎は二人、乱馬と関西弁の少年に飛び掛った。
「ほれ、みさきっこの子頼むぜっ!」
「あかねっ、こっちもだっ!!」
 二人は腕に抱えていた子供をそれぞれのパートナーに預けた。それほど腹に据えかねていた。売られた喧嘩はきっちりと買う。
「任しときっ!」
 関西弁の少女は、飛び出して子供を守る。勿論あかねも、それに従った。
 周りでは誰もが、取っ組み合いの喧嘩が始まると思ったろう。ギャラリーたちが、期待の目をして集まって来た。
 しかし、大方の予想に反して、バイク野郎たちは、乱馬や関西弁の少年、二人の相手ではなかった。一発もバイク野郎たちの拳は、二人には当たらなかった。いや、それどころか、体よく弄ばれているような状態だった。身をかわす乱馬と関西弁の少年の流れるような身体。二人の姿に、あかねは暫し、己を忘れて魅入ってしまった。二人とも引け劣らぬ、美しい動きだった。
 集まってきたギャラリーもその動きに魅了されたようだった。
「兄ちゃんたちっ!凄げえぞっ!」
「よっ!日本一っ!」
 乱馬も関西弁少年も、息一つ乱れないで、バイク野郎たちの拳を避け続けた。
 結果、バイク野郎たちはすぐに音をあげた。恥ずかしいことに、 バイク野郎たちは、一発の拳も当てられず、また、一発の拳も、乱馬達から食らわずに、力尽きて、地面へと倒れこんだのだ。
「けっ!阿呆どもがっ!!」
 息を上げて、地面へ手をついたバイク野郎たちに、関西弁の少年はそう吐き捨てた。

「喧嘩してるのは貴様らか?」

 通報を受けたのだろう。警官たちがぞろぞろと現れた。
「ちゃうちゃうっ!こいつらがバイクで暴走してきたのを咎めたら、勝手に襲い掛かってきたんや、だから俺らは正当防衛権を行使しただけや。喧嘩とちゃうでっ!おまわりさんっ!!なっ?相棒っ!」
 関西弁男は乱馬にウインクした。そうまくし立てる彼は、全く息を切らしていなかった。相当なスタミナの持ち主だ。
「ああ、そうだ。俺らはこの子らを守っただけぜ。」
 乱馬も息を乱さずに、すっと答えた。そして二人はにっと笑いあった。

「相当な使い手だわ…あの人!」

 あかねは乱馬に引けを取らないですっくと立つ関西弁の少年を見て、思わず身体が戦慄するのを感じた。武道家の感がそう教えている。
 
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう…。」
 あかねの腕に居た少年がきっと目を向けると、乱馬たちにペコンと頭を下げた。。
「ありがとうございますっ!!助けていただいて…。」
 彼らの母親らしき女性が頭を垂れて礼を述べた。
「偉いぞ…ボンっ!礼に始まり礼に終わるんやっ!おめえも強くなれるぜっ!!武道せいやっ!なっそう思うやろ?」
 少年は乱馬に同意を求めた。
「ああ…。いい面構えしてるぞ…。きちんと礼を言えるなんて、なかなかできることじゃねえからな…。」
 乱馬もニコニコ笑いながら答えた。

 そんな風だったから、当然、乱馬も少年もお咎めなしに終わった。バイク野郎二人は警官にしょっ引かれて行った。当然といえば当然だった。


「おまえ…。強いやん…。相当な腕やな…。はは。こいつはいいやっ!やっぱ、東京へ出てくるもんやなっ!!ワシは観月凍也(かんげつ・とうや)、無差別格闘観月流六代目や…。よろしゅうな…。」
 そう言って差し出す力強い手。
(無差別格闘流…。)
 その響きに、乱馬もあかねも一瞬たじろいだ。
「俺は、同じく無差別格闘早乙女流二代目、早乙女乱馬。こっちこそよろしくな…。」
 きりっと眉を上げて乱馬が答えた。
「無差別格闘流の他流派か…。おもろいやんけ…。はは。じゃあ、今度開かれる無差別格闘の武道会に、おまはんもエントリーしとんのか?」
「ああ…。一応…。」
「こいつは面白えっ!!なあ、みさきっ!やっぱ、東京まで出てきて正解やったやろっ!高校休学しくさってっておまえ、相当ぶうたれとったけど…。」
「ふんだ。あたしはあんたの成績を思いやって言ってやったんやんかっ!いつもあたしのノート当てにしとるくせに…。」
「あ、申し遅れたな…。こいつはワシの許婚の観月みさきや…。よろしゅうな。」
 みずきはぺこんと頭を垂れた。
「観月…って同じ名前ってことは…。」
 乱馬の口が動きかけたのを察して凍也が慌てて制した。
「あ、ちゃうちゃうっ、ちゃうでっ!俺らまだ籍入れてへんでっ!!」
 相当な焦り方だった。
「あたしと凍也の父親は兄弟やねん…。腹違いの…。だから同じ苗字やねん。生まれた時から…。まだ籍は入ってないんや…。」
 乱馬とあかねは顔を見合わせた。ホッとしたというような表情を手向けた。
「こいつもエントリーしとるで…。そっちのツレ…。乱馬はんの彼女か?」
 さばさば物を言う凍也だった。
(許婚同志…。)
 思わぬ言葉の響き。似た境遇の者がいるものだと、あかねはドキッとした。
「こいつは、無差別格闘天道流の二代目、天道あかねだ…。」
 そう一気にまくし立てた。
(やっぱり、許婚って認めていないのね…。)
 少し寂しい想いがしたあかねだったが、乱馬はぼそっと、語尾に言葉を付け足した。
「そいでもって…こいつは…俺の許婚…でもあるんだ。」
 そう、真っ赤な顔をして吐き出した。

「何やあっ!?俺ら境遇までよう似とるやんけっ!!ごっつう、気に入ったでっ!みさきっ!!なあっ!!」
 からからと、高笑いが公園中に響く…。
「ほんま…。単細胞なんやから、凍也は…。あかねちゃん。でも、嬉しいわ。武道会、始まるん、来週の週末やったね…。是非、手合わせしてみたいわ…。」
 みさきが目を輝かせてあかねを見た。
 強い…。彼女の気は相当強い。
 あかねはごくんと唾を飲み込んだ。
「そうね…。できたら、決勝戦辺りで会いたいわね…。」
 本音だった。あかねもまた武道家。強い者と闘う事に熱い血潮は萌え始める。
「俺らもアベック優勝狙ってるんや…。お互い楽しい取り組みになりそうやなあ…。さて、みさき、ぼちぼち行かんと…お父ちゃんたちが痺れ切らすで…。いらちやさかいなあ…。二人とも。またな、乱馬はん、あかねはん…。」


 乱馬とあかねは、二人を見送った。
「ねえ…。武道会…。面白くなりそうね…。」
 あかねは目を輝かせて、乱馬を振り返った。
「そうだな…。うかうかしてると食われっちまうな…。俺も、武道会までは本腰入れて修行しねえとやばいかもな…。」
 谷間風が二人を追い抜いた。
「なあ…。俺たちもアイス食ってくか?」
「賛成っ!乱馬のおごりね。」
 あかねが悪戯っぽく笑った。
「ちぇっ!…ま、いいか…。たまには…。」
「本当にたまには…だけどね…。」
「うるせえや!そんなこと言うんだったらおごってやらねえぞっ。」
「はいはい、感謝してますよ…。」
 あかねがころころと笑う。
「じゃ、行こうぜ…。」
「うん…。」
 二人はビルの谷間の公園で、肩を並べて歩き出した。公園脇の露天で買ったアイスクリームコーン。
 チョコミントの色が鮮やかに手の中にあった。
「さっさと食わねえと…溶けちまうな…。」
「さっきの凍也くんみたいなことしないでよっ!」
「するかよ、ばーかっ!」
 二人の笑い声は天まで響きそうだった。

 繋いだ手の温もりは確かにここにある。二人で居る証。

 季節は秋。
 分岐点の浅い秋…。
 まだ見ぬ明日へ繋がる青い空。








一之瀬的戯言
大風呂敷を広げたまま、たたんでいない十八歳の二人のシリーズです。
書きたい情景がありすぎて…目下、頓挫している作品の一つです。

「凍也」と「みさき」。作ったキャラクターの中では結構気に入ってます。
関西弁を操る二人。もちろんこれから何度か登場してきます。
何を隠そう私はずぶの関西人なので河内弁、大阪弁、京都弁、大和弁あたりは範疇です(笑
罵声覚悟で広げた新シリーズ…さて続きはいつ書けるかな…これも話が意外な方向へと転がります
…武道会編…
まずはこのあたりから始めます…
テーマは乱馬の分岐点。悩み多き彼の内面を描きながらエピソードを重ねます。
シリーズ名は「分岐点」。いい加減続き書かなきゃ…。
ということで、ちょこちょこ、本編を修正して、こっそりと、アップしていきます。

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