◆蒼い月と紅い太陽

第十六話 闇の中の光

一、
 
 薄暗い穴の中。
 湿気た生臭い風が鼻先を渡っていく。
 その嫌な空気に、フッとあかねの瞳が見開いた。

「ここは…どこ…。」
 額に手をあてながら、ゆっくりと身体を起こす。
 頭はすっきりしない。ここが暗闇で隠微な雰囲気の場所だから、余計にそう思えるのだろう。
 星の光も月明かりも無い。
 天井も壁も、うろこのような岩肌が連なる狭い場所だった。
 灯火も無いのに、薄らとほのかに明るい。壁の岩肌が、かすかに蒼白い光を帯びて輝いていた。

 あかねは、冷たく堅い平らな一枚岩の上に寝かされていた。もちろん、布団などという気の利いたものは一切見当たらない。道着を身に付けたままだ。
 回らない頭で、我を振り返る。

 そうだ。太平洋の孤島で乱馬と早雲の闘いを見る中で、魔龍に捕らわれたのだ。
 檻が自分を取り囲み、脱しようとして、手を触れた途端、電撃が身体を走り抜け、そのまま気を失ったことを、ぼんやりと思い出した。
 

「やっと、お目覚めかい…あかね。」
 傍らで声がした。聞き慣れた、父、早雲の声だった。
 ハッとして振り返ると、穏やかな口調とは裏腹に、どこか他人行儀な冷たい瞳が、こちらを見詰めていた。
 鮮明に蘇る、記憶。あかねは、キッと早雲へと勝気な瞳を巡らせた。
「あたしをこんなところに連れて来て、一体全体、どうするつもり?」
 と食ってかかった。

「そんな怖い顔をしなくても良いよ…。何も、おまえを取って食らおうとか、殺そうなどとは微塵も思っちゃいないからね…あかね。」
 早雲はニッと笑いながら言った。
「お前は私のかわいい娘…なのだから。」
 と、にこやかに語りかけてくる。

「にしては、とても、丁寧とは言えない扱いじゃないの?」
 あかねははっしと早雲を睨み返した。

「ふふ…相変わらず、勝気な娘だね。もっとも、私はそんなあかねがお気に入りだよ…。」
 早雲はあかねへと隠微な瞳を巡らせた。

「で?…どうしてあたしをここまで連れて来たの?」
 あかねは物怖じせず、早雲へと問いかけた。
「それは、あかねに大切な用があるからに決まっているだろう?」
 にやりと笑い返してくる。

 邪天慟哭破を打った刹那、乱馬は男と女に分裂した。
 それが意味するものは何のか…。あかねは、おぼろげながらに理解していた。
 状況からみて、男乱馬は魔龍の味方、つまりあかねたちの敵。対して、倒れた女乱馬は本物の乱馬だろう。

「あの時……何故、乱馬が男と女の二人に分身したの?あたしには知る権利があると思うけど…。」

「ふふふ…。簡単なことだよ。邪天慟哭破で乱馬君が自らが墓穴を掘った…ということだ。あかね。」
 早雲が言った。
「邪天慟哭破の影響で、乱馬が二人に分かれたとでもいうの?」
「ああ、邪天慟哭破の波動が、陰の躯体と陽の躯体の二つに分割したんだ。…彼は呪泉の呪いを穿たれていた経験から、陰陽分離し易い体質だったからね…。こちらの意図したとおり、きれいに分裂してくれたよ…ふふふ…。」
「で…邪気を孕んだ陰の気が、男乱馬になって抜け出たってことよね…。」
 あかねはさらに問い詰める。
「ふふ…。感が良いね…そのとおりだよ。あかね…。残ったわずかな正気だけが、女体として本体に残ったんだ。後は全て、この乱馬君に移したよ。
 ということで、改めて紹介しよう…。新生した乱馬君だよ、あかね。」
 早雲は背後に立った乱馬へと視線を流す。

 背後にある気配に、あかねも気が付いていた。
 確かに、見てくれは「早乙女乱馬」だが、発する気の流れが違い過ぎた。懐かしい乱馬とは一線を画する、違う気配。それを身体中に張り巡らせて、そいつは、じっとあかねを見詰めてほほ笑んでいた。

「たった今から、彼がお前の許婚だ。有無は言わせないよ…あかね。」
 グイッと早雲が身を乗り出してきた。
「そんな勝手なこと、承諾するつもりはないわ。」
 はねつける、勝気な口元。
「父親の言うことがきけないのかい?」
 早雲は笑った。
「きくもんですかっ!第一、あんたも、お父さんじゃないわっ!」
 ふいっと横を向いて、顔を背ける。

「困った子だねえ…。でも、わがままは許さないよ…あかね。」

 早雲はそう言い放つと、左の人差し指を立てて、口元にあてた。そして、ふっと口元から息を吹き付ける。
 人差し指に息が当たると、真っ黒な煙に変化して、幾重にも分化しながら、あかね目がけて漂い始める。そして、ゆっくりと辺りをめぐりながら、あかねの口元や鼻元へとまとわりつくように、流れ始めた。

 吸い込まないように、左手で口を押さえ、右手を扇いで煙を追いやったが、煙は散ることなくゆっくりとあかねを包み込む。
 ツンと、痺れるような刺激臭が喉を刺した。
 喉を焼かれるような刺激だ。制しても、そいつはあかねへと襲いかかる。
 あかねは、そのまま、冷たい岩のベッドへとドオッと倒れこんだ。

「な……。か…身体に…力が入らない…。」
 ベッドに張り付くように倒れると、手も足も動かすことだにできない。吸い込んだ臭気で、体がマヒしたのだろう。
「だめ…。」
 崩れるように平らな岩の上に横たわった。起き上がろうにも、全く、力が入らない。

「さて…一応、七日後に本物の乱馬君と再戦する約束は出来てはいるが…。」
 早雲は、とつとつと言葉をつぐ。
「このまま、無駄に時を過ごすのも面白くないからね…。」
 クスッと早雲は笑った。意味深な笑いだ。

「何を…するつもりなの?」
 力無い声を早雲へと手向けながら、あかねはベッドから険しい瞳で仰ぎ見た。早雲が、何かを企んでいることは明らかだったからだ。

「決まっている…あかねを手懐けるんだよ…。」
 にやっと早雲は笑った。

「手懐ける…ですって?」
 苦しげにあかねは踵を返した。

「ああ、手懐けて、魔龍の子を孕ませてあげるのさ…。」
 
 その言葉に、あかねはゴクンと生唾を飲み込んだ。

「でもさすがに、父親がおまえに手を出すのは、さすがに不味かろう……そこでだ…。」
 ずっと黙ったままだったそいつが、早雲の流す瞳につられて、前に進み出て来た。
 早雲の後から、満面の笑みを浮かべてあかねを凝視してくるその男。そいつは、乱馬の姿形でありながら、全く異質の邪気を解き放っている。あかねに手向けてくる笑みも、いけ好かない邪気に塗(まみ)れている。
「彼なら、相手に不足はなかろう?」
 あかねを見下ろしながら、早雲は言った。

「な…何ですって?」
 焦り始めたあかねを、面白がるように、そいつは言った。

「彼は、乱馬君から解き放たれた分身だ。それも、我が黒竜の瘴気をたっぷりと含んだ分身…。」
「くくく…俺なら、あかねとて本望だろう?…だって、おめーの想い人、早乙女乱馬から分離したんだからな…。」
 早雲の横で、クスッとそいつは笑った。

「い…嫌よ、そんなの…。」
 動かぬ身体をくゆらせながら、あかねが吐き出した。
 あかねには、男乱馬が何をしようとしているのか、即座に解したからだ。

「おまえの意志など、割り込む余地はない…あかね。」
 早雲が嘲るように見下してきた。
「…それに、むしろ、この私に感謝して欲しいくらいだね。お前の相手を、乱馬君から分離した彼に決めてやったのだからね…。それとも何かい?良牙君の方が良かったかね?」

「ど…どっちも嫌に決まってるわ。」
 あかねは矢継ぎ早にたたみかけた。

「随分な物言いだな…あかね。俺は早乙女乱馬と同じ血肉を分けてるんだぞ。この俺じゃあ、不足だって言いたいのか?」
 男乱馬がずいっと身を乗り出して来た。

「そこに居るあんたは、乱馬の顔こそしているけれど、彼じゃないっ!だまされるもんですかっ!あんたは、乱馬とは全く異質の別の人格…いえ、邪気にまみれた魔物よっ!近寄らないでっ!」
 拒否の言葉を精一杯投げつける。

「良くさえずる奴だな…。たく…。もっとも、抗っても、無駄だぜ…。」
 乱馬はゆっくりと上半身の衣服を脱ぎ去った。
 逞しい男の肉体が、あかねの目の前に顕わになる。
「今しがた、夕陽が落ちて、夜は始まったばかりだ。夜は長い…存分に楽しもうぜ…あかね。」
 
 乙女の貞操の大ピンチだ。
 こんなところで、乱馬の形をした魔物に、貪られるなど、耐えられるはずがない。

「いやっ!やめてっ!来ないでーっ!」
 あかねの絶叫が、闇へとこだまする。

「覚悟を決めなっ!」
 情け容赦なく、あかねへと伸びた、男乱馬の手。

 そいつが、あかねの衣類を剥ぎ取ろうと、肢体に触れた刹那だった。


 ビシッ!バチッ!


 激しい閃光が目の前で弾け飛んだ。

「わっ!」
 その反動で、男乱馬が後へと吹っ飛ばされた。かなりの衝撃だった。
 あかねに触れようとした手は、微かに痺れている。

「そ…そいつは…。」
 
 少し肌蹴たあかねの道着の下から、それは、覗いていた。
 玄馬が闘いの刹那にあかねの懐に忍ばせた、「魔除けの宝玉」であった。勾玉が麻紐で等間隔に結ばれ、結わえつけられてあった。
 そいつは、しっかりとあかねを護るように、懐におさまっていた。

「ちっ!パンダ親父め…。やりやがったな…。」
 憎々しげに、男乱馬が吐き出した。
「どうしたね?乱馬君…。」
 早雲が覗きこむ。
「勾玉だよ…多分、破魔の力を持った奴だ…。この俺を思いっきり拒みやがった…。」
 憎々しげに、あかねの肌から覗いている、勾玉を見詰める。

「ほう…。早乙女君も味なまねを…。破魔の宝珠をあかねに仕込んだのか…。」
 早雲がじっと勾玉を見入った。あかねの道着を透かすように、見詰める。
「ふむ…玉は七つか…。ということは七日間は、あかねの身体に直接触れられぬ…ということか…。」
 そんな言葉を吐き出した。
「えええーっ!七日間も、こいつに手が出せねーのか?」
 残念そうに男乱馬が叫んだ。
「まあ、仕方無かろう…。まだ我らは完全に力を取り戻した訳ではないし…。」
 スッと、早雲はあかねから離れた。
「ちぇっ!あかねに一指も触れられねーのか?これじゃあ、蛇の生殺しだぜ…。」
 思いっきりつまらなさそうに、男乱馬が吐き出した。
「確かに…あかねの貞操を奪って、再戦の日に現れた乱馬君を精神的に追い詰めるつもりが、思い切り的が外れた訳だ…。」
 残念そうに早雲が吐き出した。

 どうやら、貞操の危機は、一旦、遠のいたらしい。
 玄馬があの戦いの刹那に、あかねの懐に忍ばせてくれた物…そいつが、魔龍たちにあかねを寄せ付けないアイテムになっているようだ。

 ほおおっとあかねはため息を吐き出した。


 だが、目の前に居る早雲は、そんなあかねを、見ながら吐き出した。
「でも、早乙女君に裏をかかれたまま、済ませるのは面白く無いね…。」
「あん?」
 男乱馬が不思議そうに早雲を見返した。
「このまま、何もしないで、七日あかねを預かるのも癪に触ろう?」
 何かを思い当ったらしく、ニッと早雲が男乱馬を振り返る。
「まーな…。七日間も手を出せずにここに閉じ込めておくだけってーのも、確かに面白くねーな…。」
「ならば、黒龍の卵へ投じるのはどうかね?」
 えっというような表情を男乱馬は早雲へと手向けた。
「黒龍の卵だって?無限の闇の中へ閉じ込める気か?」
「ああ…そうだ…。深淵なる闇の中へこの娘を投じて、真っ黒に染める…。」
「正気か?」
 驚いた表情を男乱馬が早雲へと手向ける。
「そんなことしたら…。」
「十中八九は、耐えられないだろうね…。」
 表情一つ変えることなく、早雲があかねを見つめながら言った。
「闇に放てば、確実、心が壊れちまうぜ…。いいのか?」
「心が壊れた娘を抱くのは嫌かね?」
 早雲と男乱馬の会話に少し間合いが流れた。

 と、間を開けて、顎に右手をかけながら、にやりと男乱馬が笑った。
「いいぜ…俺は別に、それでも…。」

「ほう、なかなか寛容だな…。」
 早雲が笑う。

「絶望と恐怖に苛まれながら俺に犯されて泣き喚くあかね(こいつ)の表情が見れないのは残念だが…。闇に覆い尽くされて、心が壊れたら、それはそれで、一から俺好みの情婦を作っていけるって楽しみもできるしな…。」
 男乱馬は、ペロッと赤い舌を出した。
「もっとも、壊れなければ、それはそれで、愉しめるってもんだ…。元々あるのを調教していくか、新しく創造するかの違いはあるが、こいつを情婦にして、しこたま魔龍の子を孕ませることには変わりがねえ…。だろ?」
 早雲と男乱馬の会話を聞きながら、あかねは底知れぬ恐怖心に襲われ始めた。
 このまま、ただの捕らわれ人で、七日間を過ごせる訳ではなさそうだ。

「なら、決まりだな…。あかねを黒龍の卵へ投じよう…。ククク…後でそれを知ったら、おまえの本体(女乱馬)はどう思うかな…。」
「さーな…。あいつがどう思おうと、俺が斃しちまったら関係ねーだろ?」
 クスッと男乱馬が笑った。

 早雲は、スッと左手を高く身構えた。
「黒龍卵(こくりゅうらん)よ…わが手に降臨せよ!」
 と、蒼白い光が左手に降りてくる。そいつが、みるみるうちに黒い玉へと転じて行く。いや、良く見ると、そいつは、卵型をしていた。
 鶏よりも少し大き目の卵が手の先に現れる。
 そいつを、胸元までおろして来る。
 早雲の左の掌上で、不気味な黒い卵。

「そいつが、黒龍の卵か…。本当に卵の形をしてるんだな…。」
 男乱馬が後ろから覗き込んだ。
「ああ…。この中に、無限の闇が広がっている。」
「ふーん…。こんなに小さな物なのか…。」
「次元を超えた闇の世界が広がる…。何、七日くらいでは死にはしない…。時の流れも止まってしまうからね…。それに、あかねを殺してしまっては元も子も無いだろう?」
 早雲は、一度あかねへと視線を流すと、フウッと長い吐息を吐きつけた。

 ドクン…。

 黒い卵が、大きく躍動した。

 ドクン……ドクン……ドクン……。

 まるで、心臓のように、ゆっくりと脈を打ち始めたのだ。

「ふふふ…おまえの獲物はあそこにいる…。黒龍の闇よ…。」
 にやりと笑みを浮かべながら、あかねへと卵を差し出した。
「そこに横たわる、憎き天道の娘、あかねを呑み込め…。そして、白き心を闇色へと染めるのだ…。」
 卵へと静かに話しかける。

 トクン…トクン…。

 心なしか、卵の脈動が早くなり始めた。

「さて…その闇の中で、どのくらい君は耐えられるかね?」
 早雲は、あかねへと瞳を投じた。
 ゾッとするような冷たい瞳だった。さっきまで赤く光っていた瞳は、蒼くその色を変えていた。

「いつまでも耐えてみせるわ…。乱馬が助けてくれるまで…。」
 あかねはキッと睨み据えた。

「助けか…。もっとも、それは殆ど不可能に近いだろうね…。」
「ああ…。七日後の戦いで、俺がきっちりと奴を倒してやるぜ…。」
 男乱馬がこぶしを作って粋がって見せた。

「いいえ…乱馬はしぶといわよ…。勝利にかける執念は並みじゃない。勝つまで闘い抜くわ…。」
 あかねは視線を逸らすことなく、言い放った。

「次にここから抜け出でたときは、見せてやるよ…。おまえが愛した早乙女乱馬の…女のままの死体をな…。ただし、おまえが心を壊さず、正気でいられたら…の話だがな…あかね。」
 挑発するように、男乱馬が吐きつける。

「乱馬は負けないわ…。絶対にっ!」
 壮絶なあかねの決意の言葉と同時に、卵がぴきっとひび割れた。
 バクッと、途端、真っ二つに開くように割れた。

 間を置かず、ぶわっと中から瘴気が噴き上がった。


 ノオオオオォォォォ…。


 まるで生きているかのごとく、黒い霧が触手状に伸びあがり、あかねの肢体目がけてまっしぐらに飛んだ。

 にゅるにゅるとそいつはあかねへと巻きつき、みるみる覆い尽くしていく。顔も手も足も姿態も全て真黒に染め上げていく。
「乱馬ーっ!」
 一度空へ向かって吐きつけた絶叫と共に、あかねの身体は卵の中へと引きずり込まれて行った。


 ゴゴゴゴゴォォォォ…。

 卵はあかねの体を取り込むと、ゆっくりと殻を復元していく。

 ピッ…。

 最後に小さな音がして、何事もなかったかのように、黒い卵へと立ち戻っていた。


 トクン…トクン……トク………トク………ト…………。

 しばらく、躍動していたが、やがて、その音も小さくなり。消えてしまった。


「さてと…。あとは、七日後…。この娘がどこまで正気を保っていられるかに尽きるな…。」
 早雲は目の前に転がった黒い卵を、ゆっくりと掴みあげた。
「それでも、彼女の父親かい?」
 男乱馬がクスッと笑った。
「ああ…。父親だからこそ、娘には見せたくはないんだよ…。この闘いをね…。」
 そう言いながら、卵を懐へと大切そうに入れた。
「黒龍の闇にもまれて、きれいさっぱり、忘れた方が、彼女にとって、幸せだとでも言いたいのか?」
「それは、想像に任せるよ…。さてと…後は奴らを迎え撃つだけだ…。少し力を遣いすぎた…。」
「だな…俺も、まだ分離したばかりで、万全じゃねえしな…。」
「暫く、まどろむとしよう…。」
「ああ…。まだ、たっぷりと時間があるからな…。」


 彼らは洞窟の奥へと消えて行った。



二、


「乱馬ーっ!」




 夜の闇の中で、あかねの叫び声を聞いたような気がする。




「あかねーっ!」
 はっとして、ベッドから飛び起きる。
 寝汗がぐっしょりとシーツを濡らしていた。

 夕刻、なびきたちが去った後、かすみが作ったご飯を、食べて食べて食べまくった。
 足らないだろうと、かすみは何度も台所と病室を往復して、膳を運びこんで来てくれた。
 久し振りのかすみの料理。天道家に居候していた高校生の頃、馴染んだ味だ。そいつは、身だけではなく、心にも栄養を分け与えてくれるような気がした。

 良く食べてよく寝ること…。

 傷ついた身体に必要な回復方法だと、東風も傍らで笑っていた。
 突きつけられた決闘の時間まで、残された時間は少ない。とにかく、明日の朝にはここを出なければならないのだ。
 食べたら、そのまま、床へと潜り込んだ。くさくさ考えていてもラチが明かない。まとまった休養も、おそらくこれが最後になるだろう。玄馬の言葉の端から、そんな雰囲気が読み取れた。
 男に戻る目処も、今のところ全く立っていない。
 呪泉の呪いなら湯を浴びれば、男に戻れた。だが、今回は違う。湯を浴びても、元の姿に戻れないのだ。
 きっと、分身した奴が、男の気をすべて根こそぎ持って行ったからに他ならない。かといって、闘いを投げ出すわけにもいかなかった。

 ぎゅっと握りしめる左手。その親指に、指輪が光っていた。

 本来なら薬指にあるはずのそれは、女に変化して、已(や)む無くそこへはまっている。情けないが、それが現状であった。

「あかね…。絶対におまえを取り戻す…。」
 ベッドの上で、ぎゅっと握りしめる親指の指輪。
 
 と、握った指輪が、ぽうっと光を放っていることに気がついた。

 病室の灯火は消えている。窓もカーテンもしっかりと閉ざされている。廊下からドア越しに漏れるかすかな街灯の光以外に、光源はない。
 ハッとして指輪を見つめる。
 そいつは、頼りなげだが、確かに、薄い光を放っていた。

「いったい何故…。」
 訝しげに思って、そっと右手で触れてみた。

「こ…これは…。」
 幽(かす)かだが、懐かしい気が流れ込んで来るのを感じた。
 無我夢中で瞳を閉じ、耳を澄まし、五感を研ぎ澄ませた。
 指輪から流れてくる気へ心を集中させる。その気の正体を確かめるために…。

「これは…やっぱり……あかね…の気…。」
 
 おおよそ、感じる筈のないあかねの気が、僅かだが指輪から染み出しているではないか。

「あかねっ!」
 思わず、親指ごと指輪を握りしめた。

 三年という修業期間中も、この指輪を片時も手放すことなく、ペンダントトップにして肌身離さず首からかけていたが、こんな現象に見舞われたことはなかった。激しい修行の合間に、指輪にそっと触れて、彼女を思い出し、気持に発破をかけることはあっても、あかねの気などは微塵も感じなかった。
 なのに…。かすかだが流れてくる、あかねの気。

「こいつはあかねの気だ…。確かに…あいつの…。」
 愛しむように、右手を添えて指輪に触る。
「あかね…。」
 目を閉じると、そこから柔らかな気が流れてくるように思えた。何故だろう、指先から体中に熱い気が巡り始める。瞬く間に体中が熱く火照っていく。
 どこかで感じたことがある感覚だった。
 めぐらせていく記憶の中。

『九能とやりあった後、まどろんだベッドの中で感じたあの穢れ無き気と同じだ…。いや、孤島で修業する中で、抱いたあかねから発っしていた気とも同じだ…。間違いねえ…。』

 指輪に触れていると、不思議と意識の深層部から力が湧き上がってくるような感触に捕らわれていく。身体の深き場所に灯る力の種火が、ポウッと大きく輝き始める。
 指輪から広がる柔らかな気は確かにあかねの気だった。
 ホテルや孤島の時と同じように、指輪から発する気は、乱馬の全身へと巡り、傷ついた身体を浄化するように力を与えてくれている。

 敵の姦計によって、引き裂かれた二人だが、目を閉じると、傍に寄り添っているようにも思えた。


『指輪を通して流れてくるあかねの気…。ならば、俺の気もきっと…。指輪を通してあいつのところに流れているに違いねえ…。あかね…。感じてくれ…いや、感じろ…俺の気を…。
 二人離れてはいるけど…ここに繋がってるんだ…あかね…。』
 柔らかな微笑みが、乱馬の頬へと浮き上がった。女に変化しているが、そんなことは関係なかった。
 目を閉じてじっとしていると、二人、抱き合ったまま空へと浮かんでいるようなビジョンが広がる。もちろん、己は男に戻っている。

『そう…俺たちは繋がっているんだ…。強く、惹き合っている…。あかね…。だから…離れていても俺たちの心は一つだ……。』
 その柔らかい気に、全てを預けた。そのまま深い眠りへと落ちて行く。

 何も憂うことなどない、二人だけの光の世界へ…。

『絶対におまえを取り戻す…。もちろん、俺自身もだ…。闘いに勝ちに行く…。だから…待ってろっ!俺を信じて…。』
 指輪から流れてくる気を身体へ巡らせながら、降りて行く深い眠りの淵。そこには光が輝いていた。





 乱馬が柔らかな気を指輪越しに感じ始めていた頃、あかねは闇の中へと飲み込まれていた。




 
 しゅるしゅると巻きついて来た闇の触手は容赦なくあかねを、闇へと引き入れる。否を唱える術も無かった。
 ふと気がつくと、上下左右前後もわからぬ闇に、ぽつねんと放り出された自分が居た。
 暗い闇の中。音も無い、匂いも無い、広がるのは果てしない漆黒の闇。
 浮いているのか、横たわっているのかもわからない。己の体さえ見えない闇の中へと、一人放り出されたのだった。

 目を見開いていても、閉じていても、ただ、延々と果てなく広がるのは、漆黒の闇。
 己の息遣いや心臓の音さえも聞こえない。
 静かすぎて、かえって不気味だった。

『闇に放てば、確実、心が壊れちまうぜ…。いいのか?』
 そう評した、男乱馬の声が魔物のように響いてくる。
 
…確かに…心が壊れても不思議じゃないわね…。

 ぼんやりと、闇に浮かびながらそんなことを考えてみる。
 いったい、ここへ投げ込まれてどのくらいの時間が経過したというのだろう。
 ほんの二三十分…。それとも丸一日…。
 時の長ささえ遮断された空間へ、投げ出されたのだ。
 初めはそれでも、良かった。
 身も心も疲れ果てていたあかねには、この闇は一種の安らぎとも取れた。
 しばし我を忘れてまどろんだ。
 安寧な眠りが彼女を誘う。

 だが、それも束の間のことだった。

 それは唐突にやってくる。
 夢かうつつか…それすらわからぬ世界だ。
 漆黒の空間でまどろむうちに、唐突に悪夢が降りて来たのだ。
 この闇に魅入られて、自分が自分ではなくなるような恐怖が、ぽつんと芽生えた。

 手足をばたばたさせても、どこにも捕まる場所は無い。歩いてみても、駈けてみても、一向に闇は晴れない。そればかりか、差し迫るように闇が己に襲いかかってくる錯覚さえ覚えた。
 一度、恐怖心が沸き立つと、とどまるところを知らない。
「あたし…闇の中で…一人きり…。」
 涙をこぼしてみても、誰も何も応えてはくれない。

 孤独の闇…。

『ふふふ、怖いのか…?』
 そいつは、どこからともなく囁きかけてきた。
『何もかも忘れて、闇にすべてを委ねれば、もう、恐れることもなくなる…。どうだ?記憶を手放せ…。そして、闇に染まれ…。』
 どこからともなく、流れ聞こえる魔物の声は、あかねを惑わせるに十分だった。

 魔物は、時に優しく、時に脅すように、声色をかえ、あかねへと迫りくる。

『漆黒に心を染めてしまえよ…あかね…。』
『いつまで、頑なに拒むんだ?』
『おまえを苦しめるのはくだらない過去へのこだわり…。そんなもの、捨てちまえ…。』
 闇は、せり上がり、あかねへと襲い来る。

「いやっ!やめてっ!」
 耳を閉じても、声は止まない。

 襲い来る闇の恐怖に、強気もことごとく萎えて行く。

『助けなど来ないよ…。』
『ここは外部からも閉ざされた世界だ…。』
『脱する方法はただ一つ…。』
『闇にその身を差し出すのだ。』
『そうすれば、楽になる…。』


 漆黒の闇に押しつぶされそうになった時、その囁きは、幾重にも重なって聞こえてきた。

「あかね…。」

 そこから確かに聞こえてきた声。決して大きくはなかったが、己の名前をはっきりとかたどっていた。

「乱馬?」
 ハッとしてあたりを見回した。もちろん、彼の姿はない。
 空耳かと、残念そうに視線を落とした時、そいつを見つけた。

 己の姿さえ映し出さない闇の中…頼りなさげとはいえ、仄かに鈍い光を解き放っている。
「指輪…?」
 そうだった。乱馬がくれた指輪が、乳発色にきらめいていたのを見つけたのだった。

 恐る恐る右手を出して、それに触って見た。
 と、かすかに流れてくる気を感じ取った。懐かしい気。いつも自分を守ってくれる、逞しい気。
 強くはなかったが、あかねの心を落ち着かせるには充分だった。

「これは…確かに…乱馬の気…。魔物ではない、本物の彼から流れてくる気…。」
 かすかに微笑みが彼女へと戻った。
「乱馬…乱馬があたしを…守ってくれているの?…そうよ…そうよね?」
 指輪をさすると、そこから力が湧きあがってくるような気がした。
 不安も猜疑心も浄化するように、流れてくる懐かしい気。

『小癪な…。あと少しで、闇にまみれさせてやれたものを…。』
 どこかで魔物の声がした。
『まあ、良かろう…。どのみち、おまえは闇からは逃れられぬ…。逃しはせぬ…。決して…な…。』
 あかねを襲い来た闇は、指輪の光に触れて、いつしか聞こえなくなった。 

 闇の中の小さな光へ、あかねはそっと手を触れた。

「乱馬…。あたし…信じてる…。きっと、あなたが助け出してくれるって…。」
 そう言いながら、静かに瞳を閉じた。
 指輪の光に守られながら、浅い眠りへと落ちて行く…。

『眠れ…眠ってしまえ…。闇に抱かれて…。どんな光もここから彼女を連れ戻すことは不可能に近い…。たとえ、本物が贋物に勝ったとしても、もう…手遅れだ…。』
 クスッと闇が笑ったような気がしたが、あかねにはその気配さえ、感じ取ることはなかった。




三、

 朝の光は、ゆっくりと病室の窓からさしこめてきた。
 ちゅんちゅんと雀たちのさえずりがうるさい。
 
「朝…か…。」

 ゆっくりと乱馬はベッドから起き上がった。
 昨夜はあれだけ痛んだ、関節も筋肉も何ともなかった。いたるところにあった蒼痣や赤痣も消えている。擦り傷、切り傷も皮膚に同化したかのごとく、消え去っていた。

「おはよう…乱馬君。」
 にっこりとほほ笑みながら、朝食を乗せたお膳を両手に、東風が病室へと入って来た。

「おはようございます。東風先生。」
 乱馬は軽く伸びあがりながら、声をかけた。

「その分だと、すっきりしたようだね…。」
 そう言いながら、女乱馬の細腕を、手に取って、眼鏡越しに観察する。
「傷も嘘みたいに、消えてなくなっているね…。」
 そう言いながら、ニッコリ笑った。
「ええ…まあ…。」
 はにかみながら、乱馬は答えた。
 
「やっぱり、君たちの絆はそこまで進んでいたか…。」
 左手を入念に見ながら、ポツンと東風が言葉を投げてきた。

「え?」
 乱馬はきょとんとして東風を見上げた。

「この指輪…。あかねちゃんと繋がっているみたいだね…。」
 ハッとして乱馬は東風を見上げた。

「どうして…それを…。」
 乱馬が言いかけたのを、東風が制した。

「君は魔龍にこっぴどくやられてここへ担ぎ込まれんだよ?僕が処置したところで、一晩で治るような傷じゃなかった…。でも、今の君はどうだい?蒼痣ひとつ、君の身体に、見いだせないよ。」
 東風は真剣な面持ちを乱馬へと手向けてきた。
「それに…ご覧…。気の流れがここから駆け廻った痕跡がある…。この親指辺りが妙に艶っぽい。ここから癒しの気が溢れていた証拠だよ…。」
 そう言いながら、指輪の辺りを指差した。
「この指輪…あかねちゃんとお揃いなんだろ?乱馬君。」
 そう言いながら、東風はにっこりとほほ笑んだ。
 乱馬の顔がカアッと真っ赤に熟れた。そのとおりだったからだ。

「なるほどねえ…。離れた所にいても、お互いの気を指輪を通じて交流させることができるなんて…。そこまで絆が深い夫婦だったなんて…、僕も驚いたよ…。」

「あ…でも、俺とあかねは、まだ夫婦じゃないぜ…東風先生。」
 乱馬は焦って説明した。
 そう、契りを交わしたわけではないから、厳密には夫婦になったわけではない。

「ふふふ。そんなに声を荒げなくても…。まだ体の交わりがなくて、ここまで繋がってるんだから…。君たちは武道家として、最高の男と女…いや、夫婦だよ。」
 東風は笑った。
「だからなおさら…あかねちゃんを取り戻さなきゃね…。恐らく、黒龍は君たちのそんな無垢な繋がりが怖いんだろう…。だから、君に陰の気を与えて、男の部分を引き剥がしたんだろうね。」
 東風は丸い眼鏡を光らせて、女乱馬の肢体を見た。

「ま、それはさておき…。朝ごはん…。しっかり食べて、修行して、あかねちゃんを救い出す手段を身につけておいで…。多少は無理をしても、あかねちゃんと気の交流ができれば、傷なんて一晩で癒えるだろうから…。」
 東風は窓を開けながら、言った。開いた窓から、さああっと初夏の風が入り込んで来る。
 窓の向こう側では、風林館高校の生徒たちが、歩いて行くのが見えた。数年前、あかねも乱馬もあの集団の中に居た。フェンスの上を駆け抜けながら、あかねと通学した懐かしい光景がそこにはある。

 思えば、出会った時、既に、恋に落ちていた…。
 少なくとも自分には、運命の恋だと最初から解していた。
 あかねの笑顔が見たいくせに…かわいくねーを連発して…それでも本心はドキドキさせられっぱなしで…。
 攻めだけが格闘技の真骨頂だと思い込んでいた己が、初めて守ることの重要さを思い知ったのも、彼女に出会ったからだ。
 守りたい者ができたとき、己の格闘技が変化した。守りたい者がある故に、更に強くならねばならない…。力だけではなく、精神も一緒に…。

 彼女は己の宝だ。だから……絶対に取り戻さねばならない…。


「なびきちゃんが言ってたように、乱馬君も自分を取り戻すんだよ。僕が思うに、魔龍の邪気をはらんだ男乱馬君を倒せば、きっと君は元に戻れると思うんだ…。
 ま、玄馬さんにも何か考えがあるみたいだし…。」

「確かに…親父の奴…何か隠していると思う。わざと俺とあいつ(男乱馬)を引きはがしたようでもあるし…。」
 ぐっと左手を握りしめた。
 あえて、玄馬は魔龍との闘いに、割って入っては来なかった。しかも、結界で護っていたにも関わらず、あかねを軽々と敵の手に渡してしまった。早乙女家の当主としての働きを放棄したのも同然だった。
 その辺りの理由も、まだ、何一つ、聞かされてはいない。
 当の玄馬は、意味深な言葉を投げて、どこかへ行ってしまっている。

「とにかく、頑張るんだよ…。君自身のためにも…。そのためには、まずは食事だ。足りなかったらまだ持ってくるからね。」
 ポンと東風は乱馬の細い肩を叩くと、病室を出て行ってしまった。

 お膳に盛られた、かすみお手製の朝餉が湯気をたてている。

「腹が減っては戦はできねーか…。」
 ベッドから起き上がると、箸を持ち上げ、もくもくと食し始めた。





 乱馬が食事を終えるころ、玄馬がすっと現れた。

 どこか修行へでも連れ出すつもりなのだろう。見慣れた修行用のリュックを背負っている。むろん、道着に身を包んでいる。

「ほれ、乱馬。」
 乱馬にも道着を手渡す。
「かすみさんがわざわざ洗ってくれていたぞ…。感謝するんじゃな。」
 とすっとぼけている。
 にこにこと笑いながら、東風とかすみが、二人を送りだそうと、病室に現れた。
「乱馬君…おじさま…これ。」
 と言って、かすみは紙包みを手渡した。
「特に何もないんですけど、一食分のお弁当です。」

「これはこれは…いつもありがとうございます。かすみさん。ほれ、貴様も礼を言えっ!」
 がっしと頭を抱え込まれて、礼を強要される。
「わかってるよ!俺だって、もうガキじゃねーんだから…。そんくらい。」
 乱暴に扱われて、つい、文句が口を滑り落ちる。

「とにかく、頑張ってね…乱馬君。約束を果してね。」
 にっこりと微笑むかすみは、どことなく、迫力があった。あかねを取り戻さなければ、墓に踏み込んで骨まで砕くわよと乱馬に凄んで見せたかすみである。菩薩の厳しい側面が見え隠れしているようにも見える。

「わかってますよ…。かすみさん…。」
 その迫力に押されながら、乱馬は、洗いたての道着に身を包む。女体には少し大きめだった。が、贅沢は言っていられない。

「それから、なびきちゃんから伝言…。はい。」
 そう言ってメモ用紙を渡された。

『ウエディングドレスはばっちりよ。だから、あんたも気合入れて、あかねともども生還しないと、天道道場はあたしがいただくからね!』
 となびきの文字が書かれていた。

「たく…どこまでも欲どおしい奴だな…。」
 ふと漏れる悪態。
 思えば、あかねに吐く悪態も相当だが、このすぐ上の義姉にも、存分に吐き続けてきた。そう思って、ふっと笑みがこぼれた。


 と、メモの下にはさんであった一枚の写真に気がついた。ハッとして手に取ると、数年前、高校生の頃に庭で撮った、天道家の集合写真だった。
 中央に早雲がいる。その横にはおちゃらけたパンダ親父とエロ師匠八宝斎。背後の右側にはかすみとあかね、そして、のどかが。左側にはPちゃんを抱いたあかねと乱馬が写っている。
 天道家に足を踏み入れた十六歳の時から、みんな、家族なのである。
 なびきもかすみも、早雲おじさんも…そして、あかねも。
 その写真をそっと懐に入れた。気合いと共に…。

「親父…行くぜ。」
 玄馬が持ち込んだ、リュックを背負うと、乱馬は立ちあがった。


 東風とかすみに見送られながら、乱馬は朝の光の中へと一歩を踏み出した。

「必ず…この手にあかねを取り戻してやる…。もちろん、俺の身体も…。」
 ぎゅっと握った左手の親指には、婚約指輪が光り輝いていた。



つづく


早雲対乱馬を描くはずが…結局、男乱馬対女乱馬へと流れていくプロットなのでありました(汗
まあ、最初から予定していたんですけどね…。


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