魔界の二人のハロウィンを覗いてみますか・・・。





幸せのパンプキンパイ
(マジカル★まじかるの二人の場合)
   


「何やってんだ?」
 乱馬がひょいっとあかねの袂を覗き込んだ。
 さっきから、何かごそごそとやっているのが見えたからだ。


「ちょっと…。ね。」


 その気が有るんだか無いんだか、かったるい返事。
 乱馬は乱馬であかねのことが気になるものだから、好奇心の目をたたえて覗き込む。


「何だ…。魔法郵便を取り出そうとしてるのか。でもよう、おめえ、相変わらず不器用だなあ…。」


 あかねが何をしているのか納得した彼はくすっと笑った。


 魔法郵便。
 亜空間を使って、物品のやり取りをするシステムで、何某の料金を払えば、郵便魔女と呼ばれる転送魔法のプロがその魔法力で依頼主から送り主に飛ばしてくれるというシステムだ。
 旅の途中の物にとって、それはとても便利なシステムだった。


「で、誰からの郵便なんだ?」


 相変わらず好奇心覚めやらぬ目であかねを覗く。

「かすみお姉ちゃんっ!頼んでおいたんだ…。」
 あかねは悪戦苦闘しながら、郵便受けになっている真っ赤な魔法の巾着からブツを取り出そうとごそごそやっていた。
「頼む?」


「あん!もう、話しかけないでよ。なかなか取り出せなくって困ってるんだから。」


 魔法郵便と言うくらいなので、取り出すにもある程度の魔法力が必要なわけだ。亜空間を飛んできた品物は、その受け取り主の魔法巾着の中にまでは辿れるが、それ以上は受け取り主の力量にかかっているというわけ。


「ふうん…。」
 乱馬はにやっと笑うと、さっと魔法を袋へと飛ばした。


 ボムッと音がして袋が大きくなった。
 その勢いに押されてあかねは思わず尻餅。
 乱馬は最初からわかっていたらしく、目敏く彼女の背後に回って、背中から受け止める。


「ほれ、これで中のものが取り出しやすくなったろう?」
 そう言いながらにっと笑った。


「もうっ!余計なことしないでよっ!!」
 目を白黒させながらあかねはジタバタと手足を動かしていた。乱馬にぎゅっと後ろから抱っこされているので、動けない。
「たく…素直じゃねえんだから、あかねちゃんは。」
 達観した口が耳元で囁きかける。
「もおっ!怒るわよっ!!」


 と、大きくなった巾着袋から何やら包みがにょこっと覗いているのが見えた。


「わあ、やった。取り出せた。」
 あかねはそれを見ると、ぎゅうっとほお擦り。


「なあ、何なんだそれ?」
 乱馬はますますもって好奇心をたぎらせている。


「パンプキンパイを作る道具一式。」
「パンプキンパイだあ?」
 あかねは今しがた乱馬あげた素っ頓狂な声など聞こえないかのようだ。姉のかすみからの荷物にすっかりとご満悦。
「えへへ。今日はハロウィンだからね。魔女国のしきたりどおり、パンプキンパイを焼こうと思ったのよ。」
「で、その道具やら材料を国元から…。」
「そう、お姉ちゃんに送ってもらったのー。」


 あかねは可愛いピンクのエプロンをつけると、早速、クッキングブックを取り出して、パイの生地を練り始める。
 彼らが住む魔界では、万聖節をそれは盛大にお祝いする慣習があった。勿論、その前の晩のハロウィンから続けてのドンちゃん騒ぎだ。「大魔女」という称号を持つカボチャ女王という古い魔女に敬意を払って、魔女たちはお手製のパンプキンパイを焼くのだ。魔法力がもっと上がりますようにという願いを込めて。


「旅先でよくそんなことやる気になるよな…。」
 乱馬は好奇の目であかねを眺めた。
「だからお姉ちゃんに無理言って材料と道具一式を魔法郵便で送ってもらったのよ。」
 鼻歌交じりでふんふんと言いながらごそごそと始めた。
 小麦粉、卵、砂糖にミネラルウォーター。手や顔中にいっぱい粉をつけながら遁走する。


「なあ…あかね。」


 乱馬が語りかけても、無我夢中で返事もしない。


「あかね、あかねってばよう!!」


「何よ!」
 手を止めてじろっと乱馬を見る。うるさいと言わんばかりだ。


「なあ、おめえさあ…。その…。」
 乱馬は苦笑いしながらもごもごと口ごもる。
「何よっ!はっきり言いなさいよっ!!」


「じゃあ訊くけど…。道具と材料は揃ってるみてえだけど…。そのパイ、どうやって焼くんだ?かまどあんのか?」




 ……。




 あかねの手が止まった。


 暫し沈黙。
 顔を見合わせると、じわりと涙目。




「かまどのこと考えるの忘れてたあっ!!」


 そうなのだ。材料や道具なら魔法郵便で片が付くが、かまどを送ってもらうには大きすぎてまずもって無理だ。送ってもらうとなると、相当な料金が必要になってくるはず。


「あーん!これじゃあ焼けないよう…。」


 それを見て乱馬が笑い出す。
「たくぅ…。おめえのやることはどっか抜けてるんだからよう…。」


「何ようっ!乱馬の意地悪ぅ…。」


 しくしくやり始めたあかねを見て、溜息を一つ。


「はあ…。しゃあねえ…。一肌脱いでやらあ。」
 乱馬はきょろきょろっと辺りを見回した。
「あそこがいいかな…。」
 少し先にあったおっきな岩の前にすっくと立つ。
「チェンジッ!」
 そう言って魔法をかけると、岩がぱっとかまどになった。


「わあ…。凄い…。乱馬って変換魔法できるんだ…。」
 あかねが目を輝かせた。
「まあな…。このくらいの物なら変換できるさ。」
 変換魔法は高等魔法だ。まだ、あかねには使いこなす技量がない。


「ちゃんと俺にも食わせろよ…。あかねの手料理…。」


「うん!」


 おぼつかない手であかねはパイ生地を再びこね始めると、数時間かかってパンプキンパイを焼き上げた。
 見てくれはとってもパイには見えない、不細工な形をしていたが、子供の頃から姉を手伝っていただけあって、味の方はそこそこだった。
 他の料理はともかく、パンプキンパイは何とか食べられる代物。


 焼きあがったパイ。まずは。カボチャ女王様へかまどから戻した岩の上にお供え。
 それから二人並んで頬張る。


「へえ…。シナモンの香がきいてて、結構いけるな…。火加減が悪いのとおめえの形成が悪いのとで形はお世辞にも上手とは言えねえけどよ…。」
「いいのっ!ようは心がこもっているかどうかなのよ。」


 ぺろりと平らげた後で乱馬が言った。
「なあ、俺がかまど出してなきゃ、焼けなかったろう?」
「ええ、まあね…。」
「なら…。お礼くらい貰っていいよな?」
 目が笑っていた。
「お礼って言われても…。あたし何も持ってないわよ…。」
「いいから、いいから…。」


 すっと伸びてきた右手。


「えっ?」


 身構える暇もなかった。


 ふわっと触れる甘い唇。
 暫し止まる時。


「ごっそさん!」
 乱馬がぺロッと舌を出した。
 あかねの顔は真っ赤に熟れている。


「乱馬あっ!!」


「えっへっへ…。あかねちゃんの可愛い唇貰い〜っ!!」
 そう言いながらタタタと駆け出す。
「あ、あたしのファーストキッスだったのにっ!!」
「だから貰ったんでいっ!」
「乱馬のバカーッ!!」







 赤く茂った紅葉が二人の追いかけっこを見下ろして、木陰の中を揺れていた。





 完












すいません!
何、阿呆な作品を・・・
(所要時間約30分というバカ短編その1)


   

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