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 ダークエンジェル番外編
ジルベスターの夢


『今年もあと数時間で終わります。次の番組、宇宙紅白歌合戦の放映が整うまで、暫し、地球の最新映像をお楽しみくださいませ。』

 食堂の大画面テレビが、地球をバックにした映像を映し出す。
 何度見ても見飽きぬ、白い雲と青い海に包まれた美しい水の惑星。画像を背景に、今は昔の十九世紀に作られたバロックの音源が、静かに流れ始める。バッハかハイドン辺りの小編成の音源だった。


「新年かあ…。また、新しい地球暦の始まりが廻ってくるのね。」
 その画面をぼんやりと眺めながらあかねが、ふっと溜息と共に言葉を吐いた。
 新年の休暇という訳ではないが、やっと、一つの仕事の区切りがついて、遅い夕食を食堂ホールで相棒(パートナー)の乱馬と二人並んで摂っていたところだ。
 目の前のテーブルには、シチューとパン、それからサラダとワイングラスが置かれている。


「けっ!この暗い木星の小惑星群の中じゃあ、新年っつったって、ただの暦(こよみ)の符号に過ぎねーけどな。」
 ぶっきら棒に横から乱馬が受け答えた。

「ロマンの欠片もない奴ねえ…相変わらず。」
 あかねは苦笑いしながらそれに対した。

「だって、そーだろ?新年を祝うっつったって、こんな宇宙の果てじゃ、せいぜいいつもより多めに食材が並ぶ程度のもんだろ?」
「うちのステーションだって、デッキに集まってカウントダウンくらいはしてるわよ。」
「かもしれねーけどよ…。激務の後でよー、そこまで起きてるつもりかあ?ってか、そこまでおめーのおめ目が開いてられるか?」
 フォークを傾けながら乱馬があかねへと声をかけた。
「子供じゃあるまいし…大丈夫よ。」
 と威勢よく言葉を投げたが、正直あかねは年号が改まる深夜まで起きていられる自信は無かった。

 というのも、乱馬もあかねも、ここ数日、ろくに睡眠時間も取れない激務が続いていたからだ。
 民間の運送会社を隠れ蓑としているこの基地で、その隠れ蓑を使った任務が幾つか重なっていたのである。任務は「麻薬の売買」に関わることだった。軍の特務官として、荷物から麻薬シンジケート組織を三つほどブッつぶしてきたところだった。
 今回の任務ではダークエンジェルの超力は使わなかったものの、本来のエージェントとしての腕を余すところなく使って来たので、肉体的に限界を迎えて帰還をしてきたところだった。
 東風のメディカルチェックを受けるや否や、本当はすぐにでもベッドインしたいところだった。 
 が、「寝る前に飯だ!飯!ガッつりと飯食わないと眠ったところで、回復しねーぞ!」と、半ば強引に乱馬に食堂へと引っ張って来られたのである。
 彼によると、栄養補給を摂ってから睡眠へ入らねば、本当の意味での回復できないというのだ。別にサプリメントでも良いのではないかと、あかねは思うのであるが、ちゃんと胃袋にたくさんの食料を詰め込まないと、回復しないと乱馬は言い張るのだ。

 案の定、あかねの瞳はとろんととろけそうに閉じかけている。ちょっと油断すると、そのまま食卓へ伏してしまいそうなくらい疲れていた。

「ほれ、おめーも食えよ!」
 半ば強制的に乱馬が肉が突き刺さったフォークをあかねへと差し出す。
「あ…う、うん。」
 トロンとした瞳で生返事を返しながら、あかねは差しだされた肉を口へと大きく頬張る。
「ちゃんと良く噛んで食えよ。」
 笑いながら乱馬はあかねへと声をかけた。

 肉からは肉汁がじゅわっと溢れ出て来る。眠る前にこんな重たい物は食べたくはないが、放り込まれた肉を吐き出すのも躊躇されて、言われるがままにもぐもぐと噛み砕く。

「ちゃんと動物性たんぱく質も摂っとかなきゃ、血肉にならねーぜ。」
「わかってるわよ。」
 もぐもぐしているあかねの前で乱馬は、フォークとナイフを手に、どんどんと料理を胃袋へとおさめて行く。

「たく、こんな夜ふけに良くがつがつと食べられるわね。」
 なびきが目を丸くしながら、ワインを持って現れた。
 寝る前の酒とでもいきたいのだろう。
「しゃーねーだろ?俺たちはさっきまで宇宙空間で働いてたんだぜ。」
 ムスッとした表情で乱馬はそれに受け答えた。
「そうだったわね。」
「他人事みてーに言うなっつーのっ!てめーがコーディネイトした任務だろ?」
「ま、何にしても任務は何事にも優先だからねー。」
「てめーが言うなっ!だいたい、いつもババ引くのは、俺たち実働部隊なんだぜっ!」
「あたしだって連邦本部から指令があるからあんたたちに任務を振るだけよ。指令も任務のうちなんだから。それに作戦だってちゃんと立てて挙げてんだから。文句言われる筋合いはないわ。」
 と、なびきは涼しい顔を手向ける。
 その冷静な狡猾さが、乱馬の琴線を刺激するのだろう。
「文句の一つだって言いたくなるってーのっ!たまにはおめーも宇宙(そら)へ出てみろってんだっ!」

「ほらほら、喧嘩吹っ掛けないの。乱馬っ!」
 横からあかねが割り込んだ。
「別に喧嘩してえ訳じゃねーよ…。」
「だったら、ぐだぐだ文句言うのは辞めときなさいって…。食事がまずくなるわよ。」
 あかねの言葉に乱馬は言動の矛先を収めた。
 
「ま、今年も一年、御苦労さま。ま、これでも頂きましょうよ。」
 と言いながら、なびきは手にしていたワインをトンとテーブルへと置いて見せた。

「おっ!地球産の高級ワインじゃねーか。」
 目敏い乱馬がラベルを見て、歓喜の声を挙げた。
 別に「飲兵衛」という訳ではないが、乱馬も酒の銘柄にはこだわる方だ。安い酒を浴びるほど飲むよりは、美酒をしっぽりと楽しみたい口だった。

「まさか、てめーのおごりか?なびき…。」

「まさかっ!お父さん…天道司令からよ。年末激務のねぎらいだって…。あたしがこんな上物、あんたたちに飲ませる訳ないじゃない。」
 なびきが笑う。
「へえ…おやっさんからのねぎらいか…。ま、妥当なところだろーな…。てめーは、こんな上物が手に入ったら、独り占めして、絶対、他人に飲ませようなんてしねーよな…。」
「いえ…高値を吹っ掛けて売るわっ!」
 ビシッと指を差しあげて、なびきが笑った。
「たく…。そうはっきり断言することかよ…。業突(ごうつ)く張(ば)りめ…。」
 思わず、たははと苦笑が漏れた。
「ま、せっかくだから三人で頂きましょうよ。」
 なびきは立ち上がって、ワイングラスを三つ、前に並べた。
「なあ…。天道指司令は来ないのか?おやっさん、酒好きだろ?」
「かすみお姉ちゃんも居ないけど…。」
 乱馬とあかねはなびきへと尋ねた。
「お父さんなら、ドックに降りてるわよー。あんたたちが操縦してきたダークホース号のメンテをしてくれている皆をねぎらいに行ってるわ。カウントダウンまであっちで過ごす気じゃないの?」
 なびきが答えた。
「あ…そっか。ま、今回は際立ったエンジントラブルは無かったから、俺はざっとしかチェックしてねーけど…。メンテが残ってっから…まだ、ドックの連中は働いてるんだっけ。」
 乱馬が頷く。
「そうよね…。ちゃんとメンテナンスして貰えるから、あたしたちも安心して宇宙(そら)を飛べるのよね…。」
 あかねもしみじみ答えた。
「日付が変わって新年を迎えるまでにはメンテナンスも終わるでしょうけどね。多分、あっちでドンチャン騒いで、新年を迎える気なんじゃない?」
「じゃ、かすみさんは?」
「かすみお姉ちゃんなら新年の料理の仕込みが終わったらさっさと寝床へ入ったわよ。自室で多分、宇宙紅白歌合戦を見る算段を整えてるんじゃない?」
「宇宙紅白歌合戦ねえ…。」
「かすみお姉ちゃん、何があっても、あの番組だけは、録画じゃなくって、生で観るって主義をずっと貫いてるから…。ねえ、あかね。」
「へえー。案外、ミーハーなんだな、かすみさんって。」
「ミーハーかどうかは知らないけど…。かすみお姉ちゃん、子供の頃からずっと、話かけるなオーラを出してて真剣に見てたわ…。」
「そうそう…。宇宙紅白を見ている間は、お父さんだって、お茶菓子の催促とかの用事を頼むのも遠慮してたわね…。」
「一人、自室で楽しむつもりなのか…。別にここでワイワイ言いながら一緒に見たってよさそうなもんだが…。」
「紅白は静かに鑑賞するものなんだってさ…。」
 あかねがポツンと言葉を投げた。
「下手に誘って、邪魔なんかすると…あれよあれ…。新年早々、機嫌が整わないかもしれないわよ…。」
 なびきも同調した。
「現に、過去に酔っ払った勢いでお父さんが、紅白を鑑賞していたかすみお姉ちゃんに絡んで…。翌朝、ずっと無口でお雑煮を作ってるのを見たこともあるわ…あたし…。」
「そうそう…。お父さんのお雑煮だけ、餅が上手い具合に焼けてなかったわよね…確か…。」
 姉妹の語らいに、思わず乱馬は引きかけた。
「へええ…。紅白鑑賞の邪魔したら、確実、新年の開け方にまで関わってくるのかよ…。笑い話じゃすまねーよな……そりゃ。」
「だから、かすみお姉ちゃんにはあえて声をかけてないわ。平和に新年を迎えるためにね…。」
「そりゃ、懸命な判断だな…。で?なびき…おめーはドックへは行かねえのか?」
「まーね…。カウントダウンのドンチャン騒ぎも嫌いじゃないけど…。せっかくお父さんからこれを拝借したから、お相伴にあずかるわ。」
「高級ワインはともかく…。俺たちの夕食の邪魔しちゃ悪いとか思わないのか?」
 乱馬はフウッと溜息を吐いた。
「あら、ゾンザイな言い方ねえ…。一人でワインをあけるのも気が引けたから、持ってきてあげたんじゃない…。」
「ってか…。そのワインは俺たちへのねぎらいなんだろ?天道司令の…。」
「細かいこと言わないの!…ま、それに、あたしはワインを味わったら、そそくさと退散するつもりだから、お構いなく。」
 ふふっと含み笑いを浮かべながらなびきは笑った。

 なみなみと注がれるワインの赤い色。それを回しながら、香りを楽しむ。

「あたしはちょっとでいいわ。ワインって案外、アルコール度数が高いから。」
 あかねは自分のグラスに注がれる前にくぎを刺した。
「おめーはオコチャマだからな。ワインの旨さがそんなにわかんねーか。」
 笑いながら乱馬はそれに対した。
「そんなにガバガバ飲むお酒でもないでしょ?酒をあおるとあんまり熟睡できないし…。」
「っていうより、あんたの場合、飲んだらそのまんま眠っちゃうんじゃないの?」
 クスクスとなびきが笑った。

「今年も良く働いたぜ。ってことで…乾杯っ!」
 注がれたワイングラスを片手に乱馬がおどけて見せる。

「乾杯っ!」
「イエーイッ!」

 カチンと合わせられるグラスの音。
 そこから、一気に喉へと流し込む。

「うめえーっ!やっぱ、ワインは地球産に勝るもんはねーぜ。」
 ふうっと息を吐きだしながら、乱馬が言った。
「ほんとだ…飲みやすいわ。」
 酒の味があまりわからないあかねも、乱馬の意見には賛成した。

「ま、激務の後だから、余計に胃袋に浸みわたってるんじゃないの?」
 なびきが笑った。


 テレビ画面がふっと変わった。

『木星星域以降でご覧の皆さまには、宇宙電磁波の影響で、宇宙紅白歌合戦の放映開始時間は、予定より、放送開始が、三十分程度遅れますことをお詫びいたします…。』

 えええっというかすみの溜息が奥から聞こえて来そうなアナウンスだった。

「宇宙電磁波かあ…。そういや、昨日から吹き荒れてたな。」
 ワイングラス片手に乱馬が頷く。

『映像が安定するまで、代わりに、昼間撮影された「ジルベスターコンサート」の模様を暫しお楽しみください。』
 アナウンサーの声と共に、パッと映し出されたのは、荘厳なヨーロッパの教会だった。千年ほど前の中世時代に建てられた教会内で催されたクラッシックコンサートの映像だった。
 音楽は世につれ人につれ変わっているが、こういうクラッシックの音楽は二十四世紀にもなお、高級感を漂わせながら続けられていた。
 宇宙時代を迎えても、伝統ある音楽は今なお、人々に愛されているのだ。

「これまた…紅白とは程遠い、崇高な番組を流してきやがるな…。」
「そーよね…。もっと他の選択もあるでしょうに…。例えば、宇宙新喜劇とか…。」
「そいつはそいつで、ちょっと違うような気もするが…。」
「たく…単調な調べに、眠気が回って来ちまうぜ…なあ、あかね…。」

 乱馬があかねへと言葉をかけた。
 が、返答は返って来なかった。
 いぶかしがって、覗きこむと、すやすやと寝息が零れて来た。

「あらら…。眠っちゃってるわ…。この子…。」
 なびきが笑った。
「…ったく…まだ八時を回ったところだってーのに…。お子様か…こいつは…。」
 思わず乱馬も苦笑いが零れた。
「あかねってば、子供の頃から、ずっと、カウントダウンまで起きられた試しがないもんね…。」
 なびきがワインへと舌鼓を打ちながら言った。

「…エンジンが切れるのが早すぎるぞ…。」
「こらこら…。起しちゃ、可哀想よ…。あかねはあんた程、強靭な体力を持ってないんだからさ…。激務が続いてたから疲れがたまってるのよ…。」
「おい…。その激務を回して来たのは、どこのどいつだ…。」
 じろっとなびきへと視線を返した。今回の命令系統は、なびきを通じて流れて来たことを思い出したのだ。
「仕方ないじゃん…それがお仕事なんだからさあ…。命令が飛んで来れば、任務に出るのが、あんたたちのお仕事でしょ?」
「…ってか、てめーも一緒に飛べば良かったんじゃねーのか?そうすりゃ、疲れ方ももうちょっとマシだったぞ…。ったく、俺たち二人に押し付けて、てめーは留守番に回りやがってっ!」
「だって、年の瀬だから、かすみお姉ちゃんも忙しそうだったし…。ドックの大掃除メンテもあったんだから…。留守番だけど、遊んでた訳じゃないわよ。」
 しれっとなびきは答えた。
「去年も一昨年も…大晦日ぎりぎりまで、そうやって、外任務でこき使われてたよな…俺たちコンビは…。」
「そうだったかしら…?」
「ああ…。去年も一昨年も…確か、新年の際まで、木星星域を駆けまわってたぞ…。」
「ま、いいじゃない…。年内に任務が終わったんだしさー。男は細かいことグチグチ言わないのっ!」


 乱馬は徐に、手にしていたワイングラスの液体を、一気に異袋へ流しこんだ。そして、グッとあかねをその逞しい腕で軽々と抱きあげた。

「あら…。もう良いの?極上のワイン…まだたくさん残ってるわよ?それとも、また、明日にでも飲む?」

「ワインは一度開けたら、酸化が始まって味が落ちるからな…。後は、ドックへ持って行けよ…。何なら東風先生とでも飲み明かせば良いんじゃねーの?」
 そう言いながら、乱馬はくるりとなびきから背を向けた。

「ってことは、御馳走様なのかしら?」
「ああ…。正直、俺も疲れてっからな…。極上のワインより…極上の睡眠が欲しくなったぜ…。」
 ふわあっとわざとらしく、大あくびをして見せる。
 いや、正直、乱馬もそろそろ限界が近い。一気に、身体に堆積していた疲労が湧きあがる。

「あかねと一緒に眠るつもりなのかしら?それとも別々?」
 なびきはその背中へと声をかけた。

「野暮なこと、訊くんじゃねーよ…。」
 そう言いながら乱馬は、なびきへと後ろを向いたまま手を振り上げると、ゆっくりと居住区の方へ向けて歩み去る。






 手をかざすと、形状認識され、カチャッと自動解錠されるドアキー。
 フッと灯る、橙色のフットライト。
 そっと、ベッドへあかねを横たえる。疲れ切った天使(エンジェル)は、気配を感じることなく、固く瞳を閉じたまま、流れに身を任せる。

「たく…。少しくらい気配を感じろよな…。エージェントとしたら失格だぜ…。それとも…相手が俺だから安心しきって身をゆだねてやがるのか…。」
 柔らかな頬へと右手を差し延べ、そっと口づける。その気配すら、彼女は気にならないらしい。合わせた口から規則的に聞こえてくる吐息。微笑みすら浮かべている。
 あかねの腰元のスイッチをゆっくりと押すと、着ていたタイトなバトルコスチュームが解体し、小さなカプセルへと吸い込まれていく。あらわになる、眩いばかりの美しい女体。
 己の衣服も同じようにカプセルへと収納すると、乱馬は静かにあかねの真横へと身を投じた。
 それから、あかねの背中へと左手を滑り込ませ、肩ごと己の方へと抱き寄せる。
 柔らかな肌と逞しき肌が、触れ合う。

 このまま貪りたい気持ちもどこかにくすぶっているが、そいつは辞めにした。疲れきっているあかねの気を感じていたからだ。このまま食らいついて、あかねを更に疲労へと追いやるのもためらわれたのだ。

「うん…。」
 少し吐息が零れて、あかねは乱馬の胸を枕にするように、気持ち良さげに身を寄せた。満足そうに口元に笑みがこぼれているように見えた。
 可愛らしい寝顔へ微笑みを返すと、乱馬は手もとのスイッチをひねった。天井に映し出されるテレビジョン。
 地球の画像に柔らかなバロック音楽。まだ、磁気嵐は止む気配がないのか、紅白の放映が遅れているようだ。
「ま、たまにはクラッシック音源を耳にしながら、緩やかな眠りに落ちるのも悪くはねーか…。」
 そう言って、リモコンを宇宙ラジオ番組へと繋ぎかえる。ジルベスターコンサートの録音音源。ビジョンモニターにそう映し出されるのを確認すると、そのまま画像を消し去る。
 再び包まれる闇。その中を、荘厳なオーケストレーションが流れ始める。

「おやすみ…あかね…。」
 泳いでいた右手もあかねへと絡ませ、ゆったりと彼女を抱きすくめる。
「また、新しい年も、二人一緒に漆黒の宇宙(そら)を駆けようぜ…。俺たちは二人で一つの塊だから…。誰にも侵させやしねえ…。」
 あかねの鼓動へ耳を澄ませながら、満足げに瞳を閉じる。


(目覚めたら、極上のくちづけを交わそう…。)


 ジルベスターの音の流れに身を任せて、夢の国へと誘(いざな)われ始める意識。
 今宵は、睡眠誘導装置は不要の長物だろう。文明の利器に頼らずとも、心地よい眠りが広がって行く。
 二人、落ちてゆく眠りの淵。
 その背中には、真っ白な天使の羽が煌めいていた。





 完





 


 イメージはマーラーの第五番の四楽章…弦楽とハープの荘厳なメロディー…。


 実は2012年の年末に書きかけて止まっていた作品…。 
 しっとりとした二人の情景って…原作モードじゃなかなか出せないよなあ…。と、もがいた結果…ダークエンジェルな二人に落ちつきました…。
 この作品も、続きを仕込んでいますがなかなか前に進みません…。書いては消しを何度繰り返していることか…。必要以上に乱馬君が奔放にあかねちゃんに迫ろうとするので、どこまで表現するか、自制するのが大変でして…。(制多迦と金加羅も同じ理由で止まってるんですけど…。)
 いい加減、完結させたいけど…まだまだ、プロットは尽きません。まだまだ、完結までに、時間がかかりそうです…。