◇闇の狩人 覚醒編


第九話  覚醒



一、

「おまえ…。この星の奈落へと突き落としてやったのに…。何故っ!何故ここへ現われたっ!!」

 乱馬を捕らえたアンナ・バレルの視線が厳しくなった。

「ほら言わんこっちゃない。ちゃんと最後まで確認しないから、こんな小僧っ子をよみがえらせてしまうんだよ。アンナや。」
 ジョージが子供をなじるように言葉を吐いた。

「宇宙船のエンジンは止まったみてえだな…。アンナ・バレルさんよ。」
 乱馬はふてぶてしく言い放つ。
 それからなびきへと駆け寄り、彼女の上体を起こした。
「大丈夫か、なびきっ!」
「ええ、何とかね…。神経ガスを浴びたから、まだふらついていて、真っ直ぐに立てないけど…。」
「おめえは、隅っこで退避してろっ!あとは俺に任せて。」
「たく…。何格好つけてんのよ。」
「いいから。」
 なびきを部屋の隅っこへと誘導すると、乱馬は再びバレル父娘を見据えた。

「やってくれたわねっ!エンジェルボーイ。この代償は高くつくわよ。」
 わなわなと震え始めるアンナ・バレル。
「アンナよ、こういうこともあろうかと、代わりの宇宙艇を準備しておいた…。」
 ジョージ・バレルが落ち着いていった。
「それに乗り込む前に、おまえは自分の失態をちゃんと拭いなさい。それが我々の掟だ。」
 ジョージの問い掛けにアンナは答えた。
「わかってますわ。お父様…。」

 アンナの瞳が怪しく赤く光った。
 びしびしと周りの空気が微動し始める。

「バカな連中だ。アンナを覚醒させてしまったんだからな。」
 ジョージはふんっと鼻息を吐き出す。

「覚醒?」
 
 乱馬がそう口にしたときだ。

「そうよっ!エンジェルボーイ。今度こそ息の根止めてやるわ!」

「なっ!!」

 ビシビシと揺れる什器。あかねの入れられたカプセルも揺れている。
 アンナの身体がメリメリと音をたててヒビが四方へと入る。
 ピシッっと音がして、競りあがった赤い肉片。人間とは思えない異様な姿だった。髪が逆立ち、一塊になって蛇のように数十匹が蠢きだす。まるで昔話のサロメのように。
 アンナの顔も蛇のように耳元まで裂ける。

「化け物っ!?」

 思わずそう吐き出さずにはいられなかった。


『ゼナの精霊の血を飲んだのね…。彼女は。』
 掌で玉が語りかけてきた。
「ゼナの精霊の血?」
『ええ、そうよ。彼らは血を飲むことで主従関係を結ぶ。血の契約を交わし、忌まわしいミューの能力を開花させているの。おそらく、あの女も、ゼナの精霊の血を飲んでいる。』
「ということは…。」
『最早、人類とは呼べないかもしれない…。』

「何をごちゃごちゃと独り言を言っているのだっ!」
 アンナの身体が動いた。足先はとうに潰えて、蛇の尻尾のように長く伸び上がり乱馬を強襲した。

「うへっ!伸縮自在かようっ!」
 乱馬は何とかその攻撃から逃れた。尻尾に当たった床や什器がバリンと音をたてて割れる。
「ほうらほら。ぼやぼやしていたら砕かれるわよっ!」
 蛇頭のたくさんついた髪の毛を振りかざし、乱馬を追い立てた。

『早く、私をあかねさんの方へ翳しなさいっ!』
 玉が乱馬へと怒鳴った。
「そんなこと言われてもようっ!」
 思ったよりもアンナの攻撃は激しかった。おたおたしていると、その尻尾や蛇たちに捕まってしまう。蛇の一匹が乱馬のすぐ傍を通り抜けた。
 びっと音がして乱馬の着ていた戦闘服が破けた。そこから溢れる赤い血。
「ほらほら、もうおしまいかい。ここまで私をたぎらせてしまったんだ。もっともっと楽しませておくれっ!!」
 だんだんといたぶるようにアンナの髪の蛇は乱馬の周りを巡り始めた。

「畜生っ!これじゃあ、あかねに近づくこともできねえっ!」
 乱馬は苦戦していた。

「エージェントと言っても普通の人間。ミューの超力を持っているわけではない。そんなただの小僧が我々ゼナの幹部に勝てるわけはなかろう…。とんだ茶番だったな…。」
 ジョージもそう言うと余裕で微笑んだ。

 アンナの放った一撃が乱馬の身体に一発、まともに入った。
「うっ!」
 乱馬はそのまま床へと倒れこむ。
「乱馬君っ!」
 なびきが叫んだ。
 
 と、その時だった。
 ドッカンと轟音がして再びその場が激しく雷同した。

「爆撃?連邦軍の連中か?」
 ジョージがはっと天上へと目を転じた。
 と、直ぐ目の前を玉が貫通したか、ぽっかりと穴が開く。新鮮な空気がさあっと入ってきた。

「アンナッ!急げっ!いたぶっている暇はない。とっととそんな小僧にはとどめをさして、ここを飛び立つんだっ!」
 ジョージに促されると、アンナは言った。
「残念ね。エンジェルボーイ…。あたしたちには時間がないの。もっと遊んでいたかったけれど…。」
 ゆっくりとアンナは倒れかけた乱馬へと歩み寄る。そして、がっと乱馬の頭を手でつかんだ。ウロコが不気味に光るおどろおどろしい手でだ。
「これで終わりね…。」
 上体を起こされた乱馬は、この時を待っていたかのように、にっとアンナを見据えて吐き出す。
「そういうわけにもいかねえんだっ!」
 と、乱馬は左手に溜めていた気を至近距離から一気にアンナにぶっ放した。

 ドオーンッ!

 アンナの身体の脇を、乱馬の放った蒼い気が突き抜けていく。
 それだけではない。返すその手で、乱馬はあかねに向かって右手を掲げた。

「これでいいんだろ?赤い玉ーっ!!」
 叫び声と共に、乱馬の掌から一気に飛ぶ赤い閃光。
 目の前のカプセルに固定され浮き沈みしているあかねの方を一気に貫いた。

 パリン!

 あかねを囲っていたカプセルが光と共に飛び散った。一緒に噴出す培養液。
 なおも、赤い光線はあかねを包み込み、激しく光る。パイプにつながれたあかねの身体が激しく痙攣をした。


『目覚めなさいっ、あかねっ!!あなたの潜在意識の下に潜む、闇の遺伝子の超力(ちから)と共に!』

 光はあかねにそう語りかけた。

 ドクンっとあかねの身体が一瞬戦慄いたように見えた。

「な、何っ!!」

 余裕で闘いを見守っていたジョージ・バレルの顔。そいつが驚きの表情を手向けた。

「やったぜ…。」 
 そう言うと乱馬はどっと倒れ伏した。玉を翳し、その超力を解き放って力を使い果たしたのだ。そのまま床へと崩れ落ちる。

「小僧っ!」
 身体を貫かれ穴が開いた胴体を巡らせて、アンナは乱馬を睨み付けた。
「このままですむと思うなよ…。殺してやるっ!血まみれにして殺してや…。」
 言葉がそこでふつっと途切れた。
 アンナの背後から大きな気の塊が解き放たれたからだ。乱馬へ伸びていた彼女の毒牙は突き立てられることなく、そのまま沈んだ。
 ドサッ!
 赤黒い血を流して斃れるアンナ。斃れ場所が悪かった。
「うわああああああっ!」
 乱馬が開けた床穴から、アンナはそのまま、下方へと落下していく。奈落が口を開いていたのだ。おそらく、彼女は助かるまい。

「あかね?今の気弾を放ったのは、あかねなのか?」
 乱馬ははっとして、気の塊が飛んできた方向へと視線を手向けた。
 カプセルから身を起こしたあかねが、目を半開きにしてこちらを見据えて立っていた。
 ゆっくりとその目が見開かれていく。乱馬はその場に凍りついた。
 その目は赤い玉の光に呼応したような真っ赤な瞳だった。
 視線は定まらず、藪にらみしている眼光。思わずごくんと唾を飲み込んだ。
 冷たい瞳だった。血の通った人間の目ではない。それは、闇に魅入られた魔物の目。血を求める魔性の輝きに満ちていた。



二、

 階下の異変に気が付いた兵士たちがバタバタと周りに集り始めた。手にはそれぞれ銃火器を持っている。一斉にあかねに向かって弾を撃ちかけ攻撃する。
 ダダダダダ、ドドドドド。その弾数も半端ではなかったはずだ。
 だが、あかねに弾は一発も当たらない。それどころか、あかねの周りを玉がひょいっと避けて飛んでいく。
「ば、化け物っ!」
 兵士の一人が言葉を投げつける。そいつに向かってあかねはすっと手を上げた。向けられた人差し指から赤い光が飛び出す。
「わあああっ!」
 狙い撃ちされた兵士はどっともんどりを打って倒れた。血が床をみるみる満たす。血だけを残して兵士は消えた。そう、空間へ飲み込まれるように、すっと消えてしまったのだ。
 その有様を見て、兵士たちはその場を後ずさり始めた。
 だが、あかねは微笑みすら浮かべて、怯え始めた兵士を次々と打ち始める。辺りに怒号が響き始めた。
 その声と共に、血が飛び、撃たれた肉体は空気へと溶け込む。後に血のりだけがべっとりと残る。
 尋常の沙汰ではなかった。

「あかねっ!」
 最早乱馬の叫び声も、彼女の耳には届いていないようだった。
 このままではいけない、やめさせなければ。そう思った。

「貴様っよくもアンナや兵士たちをっ!」
 ジョージ・バレルがはっしとあかねを睨み据えた。
「はあああああっ。」
 ジョージ・バレルもまた変身を促し始める。彼もまた、ゼナの精霊に身をやつしていたのだ。身体はどす黒く盛り上がる。アンナよりも一回り大きな大蛇(うわばみ)となって体現する。
 さすがにアンナよりも歳が長けている分、強い気を持っているようで、あかね目掛けて攻撃を繰り出した。
 対するあかねは。物怖じすることなく、ただ、じろっと一目だけジョージを見詰めた。
 無機質で冷たい瞳。
 ジョージは大口を開けると、その舌先であかねの身体を絡め取った。
「ふぁっふぁっふぁっ!どうだ…。ワシの腹の中で消化してやるわっ!」

「あかねーっ!!」

 乱馬の目の前であかねの身体がジョージが変化した大蛇に飲み込まれて行く。その細くくねった身体はあかねを飲み込んだ証に、もっこりと膨らみを湛えている。
 だが、あかねが飲み込まれている以上、乱馬も下手に気砲を撃つことができない。あかねごと破壊してしまう可能性があったからだ。
「くっ!どうする。」
 判断が出来ずに迷っていた。
「この筋肉でおまえを腹の中で骨ごと砕いてやるわっ!!」
 勝ち誇ったように、ジョージがそう雄叫びを上げた時、眩いばかりの蒼い光があかねの身体あたりから発せられた。

「うぎゃああああーっ!」

 体液が噴出し、それと共に、あかねがすっと浮き上がってくる。彼女の胸に揺れていた勾玉が怪しく戦慄いて光った。
 勾玉の放った蒼白い光に包まれてあかねの身体が蒼く光りだす。
 そればかりではない。あかねの胸で光っていた勾玉は、軽く浮き上がるとそのまま、すうっとあかねの胸の中に消えて行った。 まるであかねの身体に飲み込まれるように。

『あの娘っ!』
 乱馬の掌で玉がその有様を見て何かを叫んだ。
『闇の勾玉をその身体に飲み込んだのかっ!』
 と同時に、船内の明かりがふっと消えた。

「な…。」
 急に真っ暗になった辺り。
 乱馬は目を凝らした。

 ぼわっと浮き立つように淡い光。それはあかねだった。
 あかねは無機質な視線を、腹を打ち砕かれて、のた打ち回る大蛇に向かって差しかける。と、再び指をすっと出した。
 その先から迸る蒼白い気。その気は瞬く間に大蛇を包み込む。
「うぎゃあああああっ!」
 のた打ち回っていた大蛇の身体がだんだんに縮んでいくではないか。叫び声がなくなり、果てた頃、大蛇は小さな掌大の玉に凝縮されていた。
 あかねはそうなるのを待ち受けていたように、静かにそれを両脇からぐっと内側に押し込めて行く。
 光る玉は抵抗するのか、なかなか押し潰れようとはしない。だが、それも無駄な抵抗なのだろう。容赦なく超力をこめたあかねの掌に押しつぶされて、潰えた。
 掌はあかねの胸の前でぴたりとくっつき、玉は消滅していった。
 後には何も残らない。ただ、あかねが半開きした目を、怪しいほどに光らせてそこへ佇んでいるだけだった。

 乱馬は自分の目の前で起きている光景にすっかり肝を抜かれていた。

「あかね…。おまえ…。」

 やがて、あかねは音もなく立ち上がり、目の前を震えている雑魚たちへ、ゆっくりと視線を転じた。
 薄っすらと口元が笑っている。
「うわああっ!」
「来るなーっ!!」
「化け物ーっ!!」
 ボスをやられた兵士たちはすっかり肝を抜かれてしまったようで、パニックになって暗闇を走り始める。
 あかねは彼らの前にすっくと立つと、にやっと笑いながら手を翳す。次々に穿たれる気。それを浴びると兵士たちは血を流して倒れていく。そらだけでも物足りないのか、倒れた兵士へ向かって、まだ気を打ち続けるあかね。絶命した彼らはあかねの気を受けて、闇へと溶けるように消えていく。その繰り返し。
 あかねはその異様な殺戮を楽しむように、微笑みながら兵士たちを打ち続ける。
 思わずぞくっとして、あかねの異常な行動を見ることしかできない乱馬。

 バンっと音がして壁が剥がれた。遂には建物が破壊され、空が見えた。漆黒の闇に包まれた宇宙空間がそこに見える。
 向こう側には整列した地球連邦の第五艦隊。豆粒くらいの光の玉となって、一直線に浮かんでいた。
 その合間から飛んでくる攻撃砲。このアンナケの星々の建物を尽く破壊している。
 あかねの瞳はその光景を捉えた。そして、すっと闇に向かって手をかざす。
 と、飛んできたミサイル砲をその手で打ち砕く。いや、闇に返すという表現の方がいい。あかねの光線に当たったミサイルは爆裂することなくふっと空間へと消えうせるのだ。

「こらっ!てめえっ!あかねに何が起こったんだ?どういうことなんだっ!あのザマはようっ!!」
 乱馬はやっとの思いで、掌の玉に向かって吐き付けた。とうてい尋常の沙汰とは思えなかったからだ。玉の超力の作用で、人心地を失ってしまったとしか言いようがなかった。

『やはり…。あの娘に、私の超力は制御できなかったか…。』
 玉は吐き出すように言った。
「制御できなかったって…。てめえっ!じゃああかねはっ!」
 玉は静かに言った。
『あの娘の未発達な身体と精神には、私が与えたの超力は強すぎた。精神が超力によって破壊されたのだ…。それに、あの子は闇の勾玉を身体に飲み込んでいる。さっきのゼナの者が彼女に与えたのであろう。残念ながら、あの娘は…。最早人間の心を失ってしまった。闇に魅入られた魔物だ。』
「てめえっ!そんな副作用のことは、こと俺は一切訊いてねえぞっ!隠してやがったのかっ!魔物になったあかねはどうなるんだっ!答えろっ!!赤い玉っ!!」
 かすれた叫び声があたりいっぱいにこだまする。
 玉は乱馬を諭すように、静かに答えた。
『これは賭けだった…。あの娘が私の超力をどういうふうに受け入れるか…。だが、このままでは闇の勾玉を飲み込んで、それに支配されてしまったあの娘はこの星を闇へと消し去ってしまう。』

 乱馬の掌で光っていた玉は、そのままポンっと上空へと吐き出されるように浮き上がった。乱馬の掌に赤い血が滴り落ちる。

「てめえっ、逃げるのかっ!」

 乱馬は抜け出た玉に向かって絶唱した。

『あの娘、闇の禍玉(まがたま)までもを、身体に取り込んでしまっている…。このまま捨て置くわけにはいかぬっ!勾玉共々滅ぼすしか、道はない!』

 宙へ浮き上がった玉は強い光を発し始めた。物凄いエネルギーだ。
 と、みるみる玉の上に、赤い翼を持った髪の長い女が現われた。遥か昔の古代ローマ人のような透けた絹衣をまとった美しい女性。
 彼女は翼を広げると、静かにあかねに対峙した。
 あかねはその女性に向かって、人差し指を差し向けた。本能的に、危険を回避するために、女性を撃とうと身構えたのだ。
 だが、それよりも一瞬早く、玉から発した女性は、あかねに向かって光を解き放っていた。
 
 一瞬の出来事だった。
 女性から発せられた白色の気の光。
 あかねの身体がみるみるその光に捕らわれて、青く輝き始める。

「あうああああ…。」
 光に包まれて、あかねが足掻くように見えた。両手で頭を抱え込み、苦しみはじめる。
 彼女の放つ呻き声には、最早、人の言葉はなかった。
「うぎゃあああああっ!」
 気に揉まれながらのたうつあかね。

 玉がふわっとあかねの前に浮かび上がると、言った。
『淘汰します…。』
 それは静かだが凄みのある言の葉だった。
 そして、玉は容赦なく苦しむあかねに向かって呪文を唱え始めた。


「淘汰…。」
 その言葉に乱馬の表情が変わった。
「やめろーっ!!」
 思わず叫んでいた。

『汝、我の超力で闇に帰せ…。』
 静かな呪文が女性の口を吐いて流れ始めた。
 あかねは全身をくゆらせて、もがき続ける。
『我が解き放つ光に抱かれ、静かに眠りにつけ…。暗き闇の中で…永遠の眠りに…。』

 呪文が終わると同時にくわっと見開かれた目と共に、女の掌から発せられた赤い光線。

「駄目だーっ!」
 あかねに向かって光線が突き進んだその時だった。
 夢中で彼は飛び出していた。あかねをかばうように抱きついて盾になる。

『なっ!』
 一瞬怯んだ玉の女性。
 だが、撃ち放たれた赤い光は、抱きついた乱馬もろともあかねを包んでいった。彼女は構わず手を二人に向かって翳し、気を放出させ続けた。
 凄まじい気の流れだった。その激しい気を全身で受けながら、乱馬は言った。

「あかねっ!おまえが心を失ったのなら、それは俺のせいだっ!俺が不用意に赤い玉の超力をおまえに与えちまったばっかりに…。だから、俺も共に、闇に帰るっ!一人にはさせねえっ無に帰る時は…俺と…俺と一緒だーっ!あかねーっ!」

 ゴオゴオと音をたてながら光が二人を包み込んだ。乱馬はあかねに抱きついたまま、身じろきもしないで光へと身体を曝け出した。
「ら…ん…ま…。」
 あかねの口から乱馬の名がこぼれた。
 やがて、あかねに纏っていた蒼い気が乱馬に向かって流れ始めた。そして、まるで浄化されるように、乱馬の身体へと消えていく。
「乱馬…。」
 真っ直ぐに微笑を返しながら放たれた言葉。
「あかねっ!正気に戻ったんだなっ!あかねーっ!!」
 そのまま絶唱してあかねを抱きしめた。



つづく



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