◇闇の狩人 覚醒編


第六話  エンジェルボーイ



一、

「お客さん何を…。」

 はっしと睨み据える乱馬の瞳から目を逸らしながらウサギが言った。

「ふふ、こういうことだっ!!」

 バンッと掌を翳して、乱馬はウサギが持っていた帳面を弾き飛ばした。帳面は乱馬の気を受けて、粉々に砕け落ちた。さまざまな機械の残骸と共に。

「これ…。」

「そういうことだ…。これに己のサインをすると、そのまま、魂ごと身体をゼナの連中の元へ持って行かれちまうということ…だ。精神誘導転送装置の網にかかってな…。書かれた人間の波動がこの帳面からこの装置本体に伝わって、ここから亜空間へ向けて弾き飛ばされるって仕組みさ。証拠も何も残さねえ、上手い神隠しの方法って訳だ。」

 乱馬はにっと笑った。
 
「お客さんっ、絶対逃さない!!」

 さっと攻撃に転じようと手を上げたウサギを乱馬はすかさず、拳で打った。
 バンと大きな音がして、ウサギの耳が壊れる。

「ロボット?」

 あかねははっとして見返した。

『オキャクサン、オキャクサン、オキャク…サン…、オキャ…ク……。…。』
 プスンと音がしてウサギの声は止まった。

「こいつ自身も精神誘導転送装置の一部だったか…。あぶねえ、あぶねえ。」
「精神誘導転送装置って?」
「そいつの中に眠るミューの超力を一時的に増幅させて一種の精神波に変える装置のことだよ。その超力を操って本人の潜在力で異空間へ飛ばしちまうんだ。まだ、地球連邦じゃあ試作段階の筈だが…。ゼナでは一足早く使ってるって訳か。ま、実験なんか実地でやればいいから、柵(しがらみ)にかられる連邦局よりは楽に試せるんだろうがな…。」

 そう言って乱馬はすっくと立った。

「なあ、いい加減でこっちへ下りて来いよ!そこに居るのはわかってんだぜ…。オバサン。」

 乱馬は後ろ上方へ向かって語りかけた。

「あーら、私の存在にちゃんと気がついていたのかい?坊や。」

 甲高い声が響き渡る。

「わからいでかっ!てめえの気配はここへ来た時からずっと感じてたぜ…。何が目的かはしらねえが…。てめえも、俺たちをずっとマーキングしてたんだろ?アンナ・バレル。」
 言葉と共に鋭い視線が女に投げられた。

「お利巧な坊やね。さすがに連邦政府のエージェントってところかしら。それにあたしはオバサンじゃないわよ。」
 美しい肢体が直ぐ上からこちらを覗いている。

「それはどうかな?どう見繕っても俺にはオバサンにしか見えねえんだけどよ…。」

「ふふ…。口も悪そうな坊やだこと…。女を年寄り呼ばわりすると、後が怖くてよ。」

「そんなことが怖くてエージェントはやれねえよ。」
 あかねは乱馬の傍にすっと立った。
「乱馬…。もしかして、さっきの装置、ここだけじゃなくて。」
「ああ、おそらく、この星中で作動させてるだろうな…。何台導入したかはわからねえが。俺たちに使った「精神誘導転送装置」だけじゃなくって、色んなタイプの転送装置が働いてるって考えた方が自然だぜ。」
「ってことは…。」
「何人かのカップルは会場から消えてるはずだ…。でも、まあ粗方は大丈夫だぜ。俺たち以外にもあの装置に気がついてるエージェントは居るだろうからな…。おめえの姉貴みてえな奴が…。」
「だったらいいけど。」
「心配するな。どっちにしたって、まだ星間移送できる装置を開発するには数十年かかるって理論的に言われてるんだ。せいぜい、拉致された奴等もこの星のどこか一箇所に集められてるに過ぎないさ。運送しやすいように、貨物か何かにカムフラージュさせられてどさくさに紛れて運び出される…なんてな。」

「ほお…。そこまで読んでいるのかい、坊や。まさかとは思うが、坊やエンジェルボーイじゃないのかい?」

「伊達にゼナの使い魔をやってるわけじゃねえようだな。ふふ、そうさ、確かに俺は、そんなコードネームで呼ばれていたことがあったな…。」

「おまえがエンジェルボーイかい…。だったら納得もいくよ。この判断力そして力。噂じゃあまだミルクの匂いも抜けていない悪ガキってことだったけど…。そうかい、坊やがエンジェルボーイなの…。」
 アンナはじっと乱馬を睨んだ。



「乱馬…ちょっと、今の…。」
 傍であかねが覗き込んだ。
「そんなこと、あたし、初めて訊いたわよっ!!エンジェルボーイって地球連邦じゃあ一、二を争う敏腕の若手エージェントよっ!!それがあんただったなんてっ!」
「別に隠すつもりはなかったけどよ、言う必要もなかったしな…。」
「ひっどい!ずっと黙ってたなんてっ!」
「こら、もめてる場合じゃねえぜっ!その話は後だ。それより拉致された奴らを救うことが先だ。」

「そう簡単にはいかなくてよっ!坊やっ!」

 はっと手を上げると、空間が捩れた。
「けっ!小癪なっ!」
 予め予想していた彼は、あかねを抱えると、たっと脇へと飛んだ。
「おめえはここに居ろっ!」
「でも…。」
「今のおまえとあいつじゃあ、格が違いすぎてる。黙ってそこで俺と、あのばばあの戦い、見守ってろっ!」

 そう言い置くと、乱馬はさっと上に飛んだ。
 あかねとコンビネーションを組むようになって一年間。殆どこの本来の能力は使わずに来た。
 「エンジェルボーイ」とは、正確には父親と宇宙を渡りあって活動していた頃に付けられたコードネームだった。まだ、年端もいかない少年であるに関わらず、大人顔負けの腕。狙ったターゲットは必ず仕留めたし、任務も正確に完了させてきた。
 まだ、幼いのに…という揶揄的な意識もこめられて、いつしか彼のことを「天使的少年」(エンジェルボーイ)と呼ぶようになったのである。
 父親とコンビネーションを解消して一年。エンジェルボーイもまた、その姿を消した。もう「ボーイ」と称される年齢でもなくなってきたことも消滅の一因ではある。
 父親と別れた後、半ば強制的に天道運送会社に就職という形で入社させられ、そこで組まされたのが「天道あかね」という同じ年の少女。
 新たな任地を貰い、あかねとコンビを組み始めた。エージェントとしては駆け出しの彼女をサポートしながら今日まで来たのだ。自分が「エンジェルボーイ」と呼ばれて恐れられていたことすら忘れていた。


「今度はばばあ呼ばわりとは…癇に障る子だねえ。」

 ひゅっと飛んでくる気弾。乱馬はさっとそれをかわした。

「けっ!どこ狙ってやがるっ!」
 そう言いながらあかねの傍を離れた。
「ふん!おまえみたいな小僧っ子にやられるような私ではないわ。せいぜい楽しませてごらんっ!」
「望むところでいっ!」

 そこから先は、気弾の応酬になった。

「す、凄い…。」

 乱馬が気弾を撃てるのを知っていたが、正直ここまで激しくやりあえるとは思ってもいなかった。
『気の技は集中力と瞬発力。その二つがポイントだ。』
 訓練中にその見事な技の片鱗を見せてもらったことはあるが、実戦でじかに見るのは、この時が初めてだった。

 体内に、筋肉増強装置でも埋め込んでいるのではないかと思うくらい、彼の攻撃は精悍を極めた。体内からあれだけエネルギーを噴出させているのに、息すら上がらないのだ。

「さすがに、超級M因子を持つと言われているだけあるわね…。」

 アンナ・バレルが攻撃を仕掛けながら乱馬へと話しかけた。
「どう?ゼナに手を貸す気はないかしら…。あんたなら、直ぐにでも幹部になれるわよ…。」

「けっ!俺は御免だねっ!」

「どうして?どうせ連邦政府はあんたみたいな能力者も、ミュー因子を持つだけで優遇すらしないんじゃないの?それなら、そこの彼女と共に寝返ればいいわ。何ならハル様直々に取り計らってあげても良いわ。」

「丁重にお断り申し上げるぜ。俺は、誰の指図も受けねえ。自分の心のままに行動していくだけだ…。」

「そう、残念ねっ!」

 一際眩い光がすぐ傍を突き抜ける。

「くっ!」

 最大級の気技をアンナは乱馬目掛けて解き放ったのだ。身体の前に両腕を十文字に身構え、咄嗟にその攻撃を避けた。突風が轟音を立てながら身体を通り抜ける。
 白光した光が元の静まりを見せたとき、乱馬ははっと周りを見渡した。さっきまで居た空間と様子が違う。

「返答次第では幹部候補として迎えてあげようと思ったけれど、やめておくわ。坊や。」

 遥か上方から声が響く。

「逃げるのか?」

 乱馬はきっとそちらを見据えた。

「逃げる?何故?私が…。ふふふ、生憎、私の狙いはこの小娘なんでね。」

 すっと手を差し出した。

「しまったっ!!」
 乱馬はあかねの方を見やった。
 その方向に向かって、アンナの気が糸状に飛んでいくのが見えた。

「えっ?」
 あかねの身体へアンナの放った気の糸が幾重にも絡みつく。まるで蜘蛛の糸に絡めとられたように手や脚、胴体に絡みつく黄色い光の糸だった。
 
「そうらっ!」
 アンナがその糸の袂をぐいっと引っ張った。

 と、あかねの身体がふわりと浮き上がった。
「きゃあっ!」
 そのまま絡まった糸に引っ張られるように空へとはじき出された。

「乱馬っ!!」
 あかねが叫んだ。己の意思とは逆らうように、身体がぐいぐいと引っ張っていかれる。
「させるかっ!」
 乱馬はあかねの方へ向かって飛び上がろうと身を屈めた。

「無駄よっ!私の糸からは逃れられないの。ほうら。」
 アンナの目が妖しく光った。それに呼応するようにあかねのペンダントがふわっと空へ浮き上がった。
 蒼い光が輝き始め、あかねの身体を一瞬にして包み込む。まるで発光する繭のように光はあかねを包んだ。

「あかねーっ!!」
 乱馬の絶唱虚しく、あかねの身体は遠ざかる。
「くっ!」
 すぐに上空へ飛ぼうとしたが、なぜか足が動かなかった。何か強い力が乱馬の足を動かぬように引っ張っていたのだ。そればかりではない、足元がゆさゆさと揺れ始めた。

 すいっとアンナがあかねの傍に立った。
 そして、返す手で至近距離からあかねを撃った。赤い光が発光し、あかねの身体が女の手の中に崩れ落ちる。
「ふふ…。この娘、貰ったわ。この瑞々しい力溢れる体。ハル様が望まれた身体。」
 アンナは不気味な笑みをあかねに向けた。それから、あかねの首筋に手を当て、何か気を送り込むように見えた。
「いやああーっ!!」
 壮絶な叫びがドームの中を響き渡った。
 そして、ビクンとあかねの身体が大きく痙攣し、ふっと糸が切れたようにアンナの腕へと倒れこんだ。


「畜生っ!てめーっ!」
 怒りが最高潮に達した乱馬は、動かない足を固定したまま、渾身の力を込めてアンナのほうへ気を打ち上げた。
 伸び上がっていく気砲。

「ひっかかったわね。」
 打ち込んだ方向とは反対側からアンナの声が響いてきた。

 バリンッ!!

 硝子が砕け散る音。バラバラと破片が落ちてくる。
 乱馬が撃ったのは実体ではなく、大きな鏡面に映し出されたアンナとあかねの姿だったのだ。
 そう、乱馬は鏡に映し出された幻影へと気を打ち込んでしまったのだ。
 鏡が飛び散ると同時に、踏みしめていた床が、ゴゴゴゴと音をたてながら崩れ始めた。
「なっ!」
 足を固定されたまま、床が抜け落ちる。動かぬ足ではバランスを整えて気で飛ぶこともできない。

「わあああああああっ!」

 そのまま乱馬はまッ逆さまに、バックリと開いた床穴へと吸い込まれていく。


「ふふふ…。グッバイ、エンジェルボーイ。奈落の底へ落ちてしまうがいいわ。二度と這い上がれないアンナケの暗闇へ…。彼女は私が貰った。ハル様への捧げ物として、丁重に扱ってあげるわ、うふふ、ほほほほほ…。」


 その笑い声と共に、闇が鼓動し始める。


「さて、そろそろ、ここへ集ってきたカップルたちの捕捉も、たけなわになってきた頃ね…。ふふふ、後は奴らを集めてこの星を中性子爆弾で破壊して消えるだけ…。」
 アンナはにやっと笑った。腕にはあかねを抱いたまま。



二、

 一方、他の会場。

 なびきが九能と共に居た空間。

「ふう…。危ないところだったわね。」
 なびきが銃口を手向けながら汗を拭った。硝煙の匂いが鼻をつく。
 目の前にはエジプト王国風の神官が分厚い帳面を抱えたまま倒れこんでいた。あたりにはバラバラとネジや機械の残骸が散らばっている。勿論、神官は作り物、ロボットで、なびきがその銃で壊したところであった。
 古代エジプトの王族を思わせる装束。ファラオとクレオパトラが同時に存在しているような格好の二人が居た。

「まさか、精神誘導転送装置で、拉致を敢行しようとしていたなんて…。何て連中なの。」
 そう言いながら後ろを見た。そこには九能が苦笑いしながらじっとなびきを見据えていた。
「相変わらず、空恐ろしい女だな。天道なびき。」
 彼はまだ、銃口を目の前にぶちまけられた神官ロボットへと手向けていた。それから、念を押すように一発ぶっ放す。ロボットは一度上方向へバウンドすると、原型を留めないくらいにバラバラになった。
「あんたも人のこと言えないわよ。いくら作り物って言ったって、こんなにバラバラに解体するまで銃を打ち込むなんて。
「ふん!用心深いと言って欲しいものだな。機械とて、完全に破壊せねば油断はならぬ。常識であろう?」
 少し偉そうにふんぞり返って言った。
「まあ、それはそうだけれど…。」
「でも、良く、見破ったな。これが精神誘導転送装置だと。」
 足で神官の持っていた分厚い本を潰しながら、九能が言った。
「まあね…。機密情報で、もしかしたらゼナが転送装置の類を使うかもしれないって、予めつかんでいたからね…。」
「さすがだな、その洞察力は。幼年学校時から変わらぬ分析力だ。天道なびき。」
 九能はそう言うとなびきの手をすくい上げた。彼の手に捕まってとりあえず、歪んだ空間へと立ち尽くす。今の銃撃戦でどうやら空間制御装置も一緒に壊れたようで、真っ直ぐ立っていることもままならない。
「何人くらいのエージェントたちがこの装置のことに気がついてぶっ壊せたかしらね…。」
「さあ、余り期待はできぬだろうな。エージェントはせいぜいもぐりこんで十組も居ないだろうから、全部を壊すことは無理だろう…。それに、殆どは一般の参加者たちばかりだ。」
「ということは、殆どは奴らに拉致されていると踏むべきね。」
「そういうことだ。」

 なびきはすっと彼から離れると、平らになれる場所を探し出した。
「何をするつもりだ?」
 九能がなびきを見た。
「手をこまねいているのも何だから…。えっと、キーワードは「タナからぼた餅、時は金なり、左団扇っと…。」
「何だそれは…。」
「パスワードよ。こいつのね。」

 ブンっと音がしなって、小さな画面がなびきの左掌で開いた。

「ほお、小型パソコンか。面妖な。」

「ふふ、情報分析官として、これくらいは身体に仕込んでおかなきゃね…。」
 そう言いながらなびきは右手の人差し指を空間でカタカタと揺らす動作をした。と、画面が立ち上がり、様々なデーターが転送され始める。
「何のデーターを取り出しておるのだ?」
「熱の移動よ。」
「熱の移動?」
「そうよ。人間には体温があるからね。いくら奴らだって、人間の体温を室温と同じ温度にして搬送することまで準備してないでしょう。だから…。」
「熱の移動状況を見れば。」
「奴らの巣がわかるって仕組み。ほら、見てご覧なさいな。」

 なびきは目の前に浮かんだ画面を九能へと差し向けた。九能は目を細めてそれに見入る。
「ほお…。なるほど、複数の熱量が数箇所にまとめられていく様がわかるな。」
「でしょう?これを見る限りでは転送先はいくつかに分けられているみたいね…。カップルだけでも千組、ニ千人だものね…。これを見る限りでは五箇所か…。」
 なびきが言うように画面からはポツンポツンと光が集積し、とある方向へと流れているのがわかる。
「だいたい振り分けてそれぞれのポイントから近いところへと集められてるわね。きっと、そこに宇宙船か何かが横付けされていて、一気に飛び立つ手筈になってるのね…。」
「で、これからどうするのだ?」
「決まってるでしょ…。一つでもいいから奪取するの。」
 そう言いながらなびきは右手で再び機械をいじくり始めた。
「ここから一番誓いポイントは…。右後方ね。」
 ピピピッと音がして画面が切り替わる。

「九能ちゃん、急ぐわよ。…それから、ダークホース号のスイッチもONにしておいたわ…。何が起こるかわからないしいつでも動かせる状態にしておかないとね。他のポイントは他の利口なエージェントに任せるとして、あたしたちは、とにかくこっちへ急ぐわよっ!」

 そう言うとなびきは壁面へと張り付いた。いつの間に着込んだのか、バトルスーツへと身を転じていた。蜘蛛女のように、スーツの機能で壁面から上へとよじ登り始めた。

「あんまり視覚的に美しいポーズとは思えぬがな…。ま、この場合仕方あるまいか。」
 躊躇していた九能も、しぶしぶ蜘蛛歩きしながら、同行し始めた。
「妙に似合ってるわよ、その動き、九能ちゃん。」
「おまえほどではないぞ、天道なびき。」

 二人で目標に向かってすすみ始める。
 上はどん詰まりだった。天井しか見当たらない。

「えいっ!」
 持っていた小型爆弾を仕掛けて強行突破する。

「誰だっ!」
 いきなり入り込んできた侵入者に向けて、有無も言わずに煙幕を投げつける。
「わっ!」
 敵たちが怯んだ隙にさらに周りをかく乱させにかかる。数を知られるのがこういう場合一番不利だ。九能もその辺はわかっているようで、慌てふためく敵を、一人、また一人と倒していった。
 周りには転送されてきたカップルたちが詰められたカプセルがひつぎのように整然と並べられている。一つ、また一つ。通路を通って行儀良く下りてきて並べられていく。さながら工場内を動くオートシステムの玩具人形ようだ。あちこちの会場から転送されてくる彼らは、皆、結婚式の晴れの衣装だ。そのミスマッチな衣装が返って不気味さをかもし出している。

「げえ、こうやって見ると悪趣味な眺めね…。」

「天道なびき、あれはっ!!」

 九能が先を指差した。

「あれは、転送装置のオペレータールームっ!行くわよっ、九能ちゃんっ!」

 なびきが声を上げた。
 侵入者に気がついて襲い掛かってくるガードロボットや人間たちを蹴散らして、ひたすら目的物へ向かって突き進む。

「えいっ!」
 なびきは次々と小型爆弾を炸裂させて敵を薙ぎ倒していく。この場合、動いているのは「敵」だけだったから、攻撃はやりやすかった。

 扉を爆破させてこじあけると、中に居た兵士たちに思いっきり浴びせかける銃火器。次々と床に倒れていく。

「これねっ!本体はっ!」
 なびきは男を足蹴にして操作席から引き摺り下ろすと、自分が座ってキーボードをたたき始めた。
「これくらいのシステムなら、あたしでもばらせるわっ!」
 目にも留まらぬ速さで、キーボードを打ち込み始める。さすがにこういう機械の扱いには慣れている。

「させるかっ!」
飛び出てきた黒い陰に向かって、九能は傍にあったパイプを思い切り振り下ろした。
 カコンと軽い音がして、男が一人倒れた。
「早くしろっ!天道なびきっ!」
「わかってるわっ!」

 グインとスイッチが入ると、転送装置がうなり始めた。
「こいつにのっかっていけば…。黒幕のところへ辿り着ける。」
 にっと笑ったときだった。
 ゆらっと画面が一瞬揺れた。ちらちらと何かノイズが入っているのを確認したのだ。

「これ…。障害電波?」

 この手の転送装置はまだ未発達ゆえに、障害電波に弱い。なびきはそれを利用して、他の転送装置の働きを止めようと躍起になっていだのだ。ところが、自分が発生させる前に、誰かが違う電波を出している。それに気がついたのだ。
「ここの連中じゃないわ。これ…。」

「どうした?天道なびき。」

「ちょっとね、アクシデント…。」
 なびきはふっと幾つか並ぶモニターへと目を移した。こういう電波が乱れ飛ぶ時は、何かとてつもない飛行物体を疑え。それが機械を操るものの常識となっている。時代が進んでもそれは同じだ。

「あっ。」
 過ぎったデーターにに目を落とした。そして、そこに映し出される船影を確認したのだ。

「地球連邦軍の船影?」

 なびきは自分の左掌のミニ画面を立ち上げると、データーを追った。自分で立ち上げた画面を見て愕然とする。

「こ。これは…。連邦第五艦隊の誘導波…。何で彼らが…。まさかっ!」
 なびきは慌しく、ガタンと席を立ち上がった。



つづく




一之瀬的戯言
 エンジェルボーイ。
 乱馬の旧コードネームです。 
 その辺りの話はまたどこかで書くつもりではあります。(彼は凄腕の少年エージェントでした。)
 なびき姉さんと九能ちゃんの活躍も少しばかり取り入れてみました。原作と違った風味で味付けしたこのカップルは、以後も根幹部に深く絡ませるつもりであります。九能ちゃん、かっこよすぎかも(笑

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