◇天使の涙


 第四話 宣戦布告


 あかねは不機嫌そのものだった。
 
 交代の時間になって目覚めてみると、少年たちがナースシステムの中で治療を受けている。
 何かあったのは一目瞭然だ。
 クルーの一人として、かすみから報告は受けたものの、肝心な乱馬からは何の伝達もない。

「俺に責任はねーからな。絡んできたのは奴らの方だ。」
 あかねが何を問いただしてもその一点張り。
「責任がないわけないでしょう?あんたが怪我させたって言うじゃない。それで言い逃れして通るとでも。」
「なら、この仕事が終わってから文句言ってくれ。俺だって疲れてるんだから。」

 あかねの罵声を後ろに彼はそそくさと休眠室へと歩き出す。
「交代の時間だからな。俺は睡眠を取るぜ。」
 そう吐き捨てるとくるりと背を向けた。
「ちょっと待ちなさいよっ!話はまだ全部終わってないわっ!」
 あかねが乱馬を引き止めにかかると、横から少女たちが盾になった。そして、あかねの行く手を遮って言った。
「乱馬さんには非はありませんっ!」
「悪いのはモーリスたちの方なんだから。」
「あのまま放っておいたら、あたしたちにまで危害が及びそうだったのを、乱馬さんは気転を利かせて助けてくださったんですからっ!」
「そうよ、寝ていたあなたにつべこべいう資格はないわっ!」
 少女たちはそれぞれ真剣にあかねを嗜めてかかってきた。
「あなたたち…。」
 そうまで言われては、引き下がるしかなかった。

「あ、乱馬さん。待って。少しお話しません?」
「宇宙での体験談聞かせてくださいよ。」
「ほんの数分だけで良いですから、ね?」
 きゃぴきゃぴと少女たちが、休憩時間へと入った乱馬目掛けて群がってくる。

「ちょっと、あれは何なのよっ!」
 少女たちと乱馬の背中を見送りながら、あかねはぎゅっと拳を握りこめた。

「ふふ、乱馬君、人気が出てきたわね。まあ、あれだけの強さを目の当たりにしたら、年頃の女の子たちはイチコロで、まいっちゃうんでしょうけれど。」
 横から一部始終を垣間見ていたのだろう。乱馬たちが立ち去ると、かすみがひょっこりと声を出した。
「お姉ちゃんまでっ!」
 あかねがぎろっと視線を流すと、かすみはトンと言葉を継いだ。
「あ、藤原さんが呼んでたわよ。ちょっとだけ話があるから時間をくれって。操舵室へ招いてあるわ。私は、ちょっとの間だけ席を外すから、終わったら通信オペレートで呼び返してちょうだい。」
 かすみがそう言うとウインクしてみせた。
 
「何だろう、話って。事件のことかな。」
 あかねは小首を傾げながらも、操舵室へと入って行った。

「やあ、待ってたよ。」
 晃はあかねを見るなりにっこりと笑った。
「あのう、話って、やっぱり、乱馬の、少年たちの怪我…のことでしょうか?本当にごめんなさい。要らないゴタゴタまで船内に持ち込んでしまって。あいつ、頭に血が上ると、つい手が出る性質なものだから。」
 あかねはぺこんと頭を下げた。
「まあ、彼の言うように、こちらの生徒たちのもめごとに巻き込まれて、止めようとして、この事態になったことには変わりがないからね。直接原因を作ったナオムも、取り巻いていた少女たちも彼らの傍若無人な行為をしっかり見ていたんだから。」
 晃は気にしないでいいよと続けた。
「事故みたいなもんだよ。それに、一応、加減はしてくれたようだ。あの荒くれ者のモーリスを一発、それも急所を外して鎮めてしまうんだから、相当な使い手だな。彼は。」
 晃は落ち着いたものだった。
「教官みたいな仕事をしてるとね、こういうイザコザは日常茶飯事だからな。多感な時期は、たとえ文明が進歩しても、心まで制御するのはなかなか難しいものだからね。ま、少年たちにもいいお灸になったろうよ。」
「でも、晃。」
「君が責任感が強いのはわかってるが、こういうことは良くあることだ。自分の任務に戻って、そっちを優先させたまえ。それが君の今なすべきことだ。違うかい?」
 涼やかな瞳があかねに指示を出した。
「確かにそうね。これ以上は越権行為ね。」
「ふふふ。昔と君は何も変わっていないな。」
 眼鏡を外した晃はすっとあかねに向き直った。
 誰も居なくなった操舵室は、時折航海レーダーが反応するだけで静かだ。この部屋の床は金属製でも樹脂製でもない。エンペラールームにでも敷かれるような特別製の絨毯が敷き詰めてある。それもホコリが立たないようにしっかりと加工された一級品。音も吸収してしまう。
 あかねの鼓動が微かに鳴り始める。
 乱馬と同じダークグレイの瞳が、晃の眼鏡の奥で揺れた。
「あの頃…。」
 あかねの口がゆっくりと反芻する。
「君と飛んでいた頃だよ。あれから七年。まだ十四歳の少女だった。丁度、今の教え子たちの年頃だったね。」
 あかねの中で一気に七年前へと時間は遡る。あの頃。ラグロスのハイスクールを出て直ぐに晃とクルーを組んだ。まだ訓練生という肩書きのまま、宇宙(そら)へと出たのだ。十四歳。怖いものなど知らぬ年代。彼から宇宙での、パイロットとしての、そしてエージェントとしての「いろは」を叩き込まれた。乱馬という今の相棒に出会う前から、晃と飛んでいた。
 勿論、恋愛感情など、当時は持ち合わせるほどの余裕はなかった。あかねにとって、晃は先輩であったし、それ以上でも以下でもなかった。
「もし、あの時、君が宇宙船(ふね)を降りなければ。僕たちは今も一緒に飛んでいたかもしれないな。」
 晃がすっと言葉を吐いた。

「宇宙船を降りなければ…。」
 あかねの目が一瞬曇った。
 己の意思で降りたのではないということを、思い出したからだ。
「病気は不可抗力だから仕方がないさ。何も珍しいことではないさ。エージェントは必要以上に体力と気力、を要求される激務だからね。早めに故障が見つかって良かったのかもしれない。」
「そうね…。あたし、あなたと任務中に飛んでいて体調を崩して、意識を失ったんだものね。気がついたらラグロスの集中治療室に寝そべっていたわ。」
「あのときはさすがにびっくりしたけどね。治療が成功したんだね。また、こうやって君と宇宙で出会えるなんて思ってもいなかったから、正直、驚いた。」
「宇宙の深い闇があたしを呼んだのよ。」
 輝く晃の瞳を前に、あかねはぽそっと言葉を継いだ。
「え?」
「いえ、何でもないわ。でも、びっくりしたのはあたしも同じ。あなたがまさか、教官なんて仕事やってるなんて思いも寄らなかったから。」
「だろうな。…。君と別れてから、連邦政府に要請したんだ。暫くエージェントは休ませてくれって。」
「どうして?」
「エージェントを組むときの最良の相棒にはなかなか出会えなかったからさ。」
 宇宙船のエンジンがガゴンと遠くで唸った。方向を自動調整しているのだろう。わずかな衝撃があかねの足元から伝わってくる。
「君を育てて、ずっとエージェントの相棒として、宇宙を飛びたかったよ。いや、今からでもそれは可能だな。」
「晃?」
「本題に入ろうか。」
 晃はゆっくりとあかねを見詰めた。
「本題?」
 今までのは本題ではなかったのか。とあかねはきょとんと視線を上に投げた。
「実は、悪いとは思ったんだが、連邦のメインコンピューターから君の、天道あかねのデーターを取り寄せてもらったよ。勿論、合法的にね。それで知ったんだ。君の病気は完治しているってね。」
 晃は眼鏡を外すと布で拭きながら続けた。
「僕なりに取り寄せたデーターを解析させてもらったんだ。パイロットとしての腕もナビゲーターとしての腕も一級だとそのデーターは教えてくれた。勿論エージェントの素質も超弩級だとね。」
 心音が一気に跳ね上がる。晃はもしかすると、データーの奥まで解析したのかもしれない。晃はエージェントとしてもAAA(トリプルアー)のお墨付きを貰っていた超エリートだった。データーの完全解析くらいはお茶の子さいさいだろう。多分、連邦データーの表面だけではなく、奥に隠れ情報も飲み干したかもしれない。イーストエデンの特種エージェントである己の今の姿を。連邦の最高機密情報である己のデーターを。
(知られた?でも、まさか。)
 あかねは言葉を返す余裕もなく、黙り込んだ。
 再び眼鏡をかけた晃。その瞳は妖しく光った。
「君の資質、このまま一般の運送会社に眠らせておくのは勿体無いよ。」
 晃の問いかけにあかねはほっと胸を撫で下ろした。今、晃は「一般の運送会社に眠らせておくのは」と断言した。ということは、イーストエデンのエージェントということは漏れていない。そう判断した。だが、晃の次の言葉にあかねは凍りつくこととなる。

「話とは…。君ともう一度、コンビネーションを組みたいんだ。」

「え?」
 意外な申し入れに、あかねは立ち尽くした。
「だから、もう一度、君と宇宙を飛びたいんだ。連邦のエージェントとしてね。それもウエストエデンのエージェントとして。」
 ウエストエデン。イーストエデンと同じく、秘密裏に行動している連邦軍のエージェント組織である。その名前が晃から零れた。
「今度、僕はウエストエデンのエージェントシップに選出されたんだ。そのためにはパートナーが要る。優秀で柔軟な対応ができる、相棒がね。あかね。考えておいてくれないか?再び、僕とコンビネーションを組むことを。ここで出合ったのも何かの縁だ。案外、神様のお導きって奴かもしれないし。返事は君の今の任務が終わった時点でいいよ。そう、目的地へ着いて降りるとき、改めて訊こう。」

 それだけを言い含めると、晃は何もなかったように、瞳の輝きを収めた。
「任務に戻るよ。私的な会話はこれで終わりだ。じゃあ、良い返事を期待して待っているよ。あかね。」
 くるりと背を向けると晃はすっとあかねの傍を離れた。
 あかねは視点定まらぬと云わんばかりに、放心した目を操舵室のレーダーへと差し向けていた。
 唐突だった。これは「スカウト」ではないか。それも、エージェントの。
 足元がガクガクと震え始める。
 かつて一緒に飛んだときの記憶が、脳裏へと巡り始めた。何も知らなかった己に、宇宙の広大さとエージェント任務の大切さと、そして、何より温かい思いやりをくれた晃。彼の期待に必死で応えようと頑張った半年間の記憶がどっどっと巡り出す。もう過去へとやっていたあの「青春の日々」を。

 ドクン。

 彼が立ち去った後、心音が唸りの鼓動を一つ上げた。それに呼応するように、心の闇が反応する。

『ダメ…。ソレ以上思イ出シテハ…。彼ト関ワッテハイケナイッ!』

 警鐘するように闇があかねの心を覆い始める。
「何、この感覚は。」
 今まで感じたこともない、大きな闇が己の中にうずくまっている。あかねはそこで思考を止めた。

「終わったかしら?」
 かすみは笑いかけながら持っていたプレートをあかねの前にトンと置いた。
「お姉ちゃん。」
 あかねは今受けた衝動と、晃の衝撃発言を隠すように作り笑いを浮かべた。
「ちょっと顔色が悪そうね。」
「そ、そう?」
 心の動揺を隠すようにあかねは取り繕う。
「疲れを溜めてると支障をきたすわ。そう思って、ご飯作ってきてあげたから、食べなさい。」
 この姉の細やかな配慮にあかねは感謝せずにはいられなかった。
「今のお話、悪いけど、聴いちゃったわ。」
 姉は何の前触れも無く、すらっと言ってのけた。
「お姉ちゃん…。」
 スープを口に含みながらあかねははっとして顔を上げた。
「しっかり考えなさい。答えを出すのはあなたよ。そう、人生は自分で切り開いてゆくもの。決めるのはあなた。悩むことも大切よ。あなたがどの道を選んでも、誰も何とも言えないわ。あなた自身の人生なんですもの。」
「お姉ちゃん、このこと、乱馬には…。」
「わかってるわよ。」
 姉はそれだけを言い置くと、にっこりと微笑んで見せた。
 乱馬には言うなとあかねは続けたかったのだろう。彼の性分からすると、一悶着起こしかねない。そう思ったのである。

 だが、あかねが思うほど、事態は甘くは無かった。



 操舵室を出た晃は、コツコツと自分の執務室へと向っていた。
 ダークホース号の前頭部へと設えた客室に、器材の一切を持ち込んで、教官としての仕事もこなしていた。その部屋へと引き上げる傍ら、彼は足を止めた。

「何の用だい?」

 彼は立ち止まると、刺すような視線を投げかけてくる若者へと言葉を継いだ。

「それはこっちの台詞でいっ!てめえ、どういうつもりであかねにあんなこと。」

 晃の眼鏡が船の灯を反射して妖しく光った。
「忍び訊きかい?いけないなあ。」
 晃はすっと振り返った。腕組みをして立っている乱馬の姿がすぐ傍で浮き上がる。
「けっ!俺に訊かせるつもりで、隠しスピーカー仕込んでたんだろ?人の安眠カプセルによ。」
 鋭い視線が晃を見返していた。
「貴様の狙いは何だ?」
 乱馬は間髪入れずに言葉を投げた。
「狙いも何も、あかねを再びこの手に取り戻したいと思っただけだよ。」
 くくっと笑いながら晃が答えた。
「ウエストエデンの連中のやりそうなことだな。育った人材を平気でかっさらって行きやがる。」
「それは心外だなあ。元々あかねはウエストエデンのエージェント候補生だったんだぜ。それを取り戻しに来ただけだ。君につべこべ言われる筋合いはない。それに、突然、はいさようならじゃあ、君にも気の毒だからね。コンビネーションを解消するにしても、心の準備っていうのが必要だろう?だから、先に聞かせてあげたんだ。お礼を言われても良さそうなものじゃないか。」
「始めからあかねが狙いでこの船を選びやがったのか。」
 乱馬は気炎を上げながら晃を見た。
「さあね。エージェントの任務は秘密裏に進行する。それが鉄則だろ?たとえ同じ連邦のエージェントだとしても。イーストエデン所属の、早乙女乱馬君。」
 乱馬の眉間が動いた。
 二人の間に見えない闘気が渦巻きはじめた。気と気の激しいぶつかりあいだ。
「やっぱり、俺たちがイーストエデンの関係者だって知ってやがったのか。」
「ふふ。当然さ。あかねは僕のパートナーになるんだからね。イーストエデンのデーター解析なんてちょろいものさ。君たちが特務官だってことも知ってるさ。」
「それを知っていて、俺からあかねを引き剥がしにかかてやがるのか。」
 激しい気が乱馬から流れ出た。
「君にはあかねは過ぎたパートナーだよ。呪泉郷の水に溺れた間抜けなイーストエデンのエージェントにはね!」
 晃は声を落として吐き出した。
「てめえ、そこまで知ってて。」
「そんなことデーターを解析するまでもないさ。君のその右手のリング。呪泉郷の呪いを緩和させる耐水リングだろ?水を浴びても変身しないように、瞬時に降り注ぐ水を湯に変化させる特種リングだ。違うかい?」
「さすがに洞察力はあるんだな。」
 乱馬は左手の指輪をさすった。晃の言っていることが正しかったからだ。呪泉郷の泉の呪いで、水をかぶると女に変身する不都合をなくすために、開発されたリング。そこまで知っているエージェントはそんなには居まい。
(こいつ、侮れねえ。)
 乱馬は震撼した。得体の知れないものを晃の背後に嗅ぎ取っていた。
「君が何に変身するかは知らないが、少なくとも、そんな欠陥人間に、手塩をかけたあかねを盗られたくはないんでね。気の毒だが…。」
「けっ!あかねはてめえなんぞとは組まねえさ。あいつは俺から離れることはできないんだ。」
「ほう、たいした自信だな。」
「てめえのような姑息な奴に簡単に切れるような絆ではないからな。」
「それはどうかな…。ふふ。まあいい。彼女が僕を選んでも恨みっこはなしだぜ。」

 晃はそれだけを言い含めると、さっと乱馬の前を通り過ぎた。あかねを奪還する自信に満ちた態度であった。

(何か裏があるな。)
 その後姿を見送りながら、乱馬は呟いた。

『乱馬君。』
 晃が行ってしまうと、壁際のモニターからかすみがひょっこりと顔を出した。この船内には、ところどころに通信システムが組み込まれている。その一つが不意に作動したのだ。
「かすみさん…。」
 驚いて乱馬は小さな画像システムを見返した。
『あの晃っていう男、あなたにもあかねへの告白を聞かせていたのね。』
 モニターからかすみが語りかけてくる。
「え…ってことは、かすみさんも。」
 かすみはこくんと頷いた。
『注意しておいた方がいいわよ。何か企んでいる。そう見たほうがいいわ。あ、それから、これ。』
 かすみは乱馬にチップを見せた。
『そっちへ転送するから受け取って。』
 ジジジと機械音がして、モニターの傍から小さな粒が転送されてきた。転送と言っても、中に詰め込まれたデーターをディスクチップに転送をかけただけで、物が直接送られるわけではない。
「なびきからあなたにって。この就寝時間中に確認しておいて。多分、重要な情報が入っていると思うわ。藤原晃に関する情報も含まれているかもしれない。」
 乱馬はそれを受け取ると、ピアスにして耳に装着した。ぱっと見ただけではアクセサリーにしか見えない特種加工がしてあるデーターチップだ。
『それから、さっき、連邦宇宙局から連絡があったわ。もうすぐ連邦教務官の乗った船がダークホース号へ横付けされる。』
「え…?教務官の宇宙船が?何でまた。」
 乱馬ははっとしてかすみを見返した。
『遭難救助にあたって、藤原晃に直接司令を持ってくるんですって。それから、子供たちへの食料などの補給も兼ねるっていう話よ。』
「わざわざ、連邦宇宙局の上官が一般宇宙船に乗船かよ。普通なら、連邦軍の救難宇宙艇が救出活動を行うところを、こっちへ仕事を振っておいて。」
『多分、ウエストエデンの差し金だと思うの。』
「あ…。なるほど。」
『いずれにしても、何か起るわ。そう思っておいた方が良いと思うの。』
 かすみの洞察力も侮れない部分がある。彼女がそう言うのなら、十中八九は的中する。
『なびきが後ろでごそごそと解析してたみたいだから…。多分、そのチップにあなた向けへの情報が詰め込まれているでしょうね。』
「わかりました。安眠カプセル内でも、情報システムをオンにして、なびきのデーターを俺なりに分析しておきます。」
『そうしてちょうだい。私の分析した予想だと、二十四時間以内にきっと「事態」が動くわ。』 
 乱馬は黙って頷いた。
「じゃあ、くれぐれも、用心してね。」

 プツンと画面が途切れた。

「連邦宇宙局の上官が来るのか。どんな奴が来るんだろうな…。ふん。いずれにしても、ただの運送任務じゃねえことは明らかってわけか。奴め、俺に動揺を与えて揺さぶろうとしたみてえだが…。その手には乗らねえ。」


 連邦宇宙局の船がダークホース号へ横付けされたのは、そこから約五時間後のことだった。



つづく




一之瀬的戯言
 予め敷いていたストーリーからどんどんと展開が離れたり、膨らんだりすることは多々あるものです。
 プロットが猫の目のように変わっていっても、骨格となる部分は、確かに一本ではあるのです。
 これの章を書いていた時は、続くパソコン禍。意識を持続させるのが精一杯でした。だって、何度、全クラッシュの恐怖を味わいかけたことか。
 で、結局くだんのパソコンは妄想データが大量に眠ったまま、取り出せず永眠なさいました。はあ(溜息



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