◇天使の涙


 第二話 再会

 宇宙船ダークホース号は漆黒の闇を飛び続けていた。安定飛行に達したのだ。

 乱馬は安眠カプセルからそっと抜け出した。
 あかねは傍らで眠り続けている。彼女の安眠モードはまだオンのまま。
 あかねに気取られないように、慎重にカプセルを閉める。カチッと音がして、再びカプセルは震動を始める。安眠への誘導波を送るのだ。身体が一種の冬眠状態になる。こうやって身体全体のバランスを保ちながら、航海士たちは漆黒の宇宙を飛び続ける。
 パイロットたちの肉体が、実年齢よりも少し若く見えるのは、この安眠カプセルの使用時間が長いせいでもあった。安眠カプセルの中に居る間は時が止まる。そう、身体の新陳代謝が一時的にストップするのだ。だから、飛空年数が高いパイロットほど、実年齢と肉体年齢は差が開く。因果な稼業であった。
 その分、人生が長くなるから良いのではないかと思うのは、実情を知らない素人が口にすることだ。肉体年齢が若いとはいえ、人生の殆どを安眠カプセルで過ごすのである。そう、起きている時間よりも寝ている時間のほうが圧倒的に長いのである。
 起きている時間を人生年数に換算すると、パイロットたちも通常の人間とそう時間的には変わりがないという理屈になる。いや、パイロットは緊張する時間が長いから、返って寿命が短いというデーターもあるほどだ。
 不通の運送会社のパイロットならいざ知らず、連邦軍関係、それもエージェントとなれば、過酷な任務ということが頷けるだろう。

「今回の指令データーか。スクーリングの座礁艇を救助して、立ち往生している生徒クルーを救出して、目的地へ運ぶ、連邦軍お抱えの丸投げ仕事かあ。」
 なびきが集積したデーターをメインコンピューターで見ながら乱馬はふっと溜息を吐いた。
「何で、俺たち一般輸送船にこんなことやらせるんだ。」
 どっかとシートに腰を埋めた。

「あら、相手は年端のいかない子供たちなのよ。皆が皆、軍関係へと進む訳じゃないから、民間輸送船がいいのよ。」

 背後で女性の声がした。
 おっとりと構えた長身の女性が、マグカップを抱えて入って来た。
「かすみさん?」
 乱馬ははっと彼女を振り返った。
「緑茶、入れてみたの。飲むでしょう?」
 かすみはにっこりと微笑み返した。
「あ、ど、どうも…。サポーターが一人つくって乗船前に聞いたけど、かすみさんだったのか。」
 乱馬は湧き立つ湯気を眺めながら口をマグへと持ってゆく。その中に茶柱が浮き沈みしている。
「ふふ、ごめんなさいね。乗船前後は船内食の仕込みに追われていて、出発直前に配置に就いたのよ。」
「船内食?」
 乱馬の声色が上擦った。
「ええそうよ。運送するのは一ダースの子供たちなんですもの。それに、あかねちゃんの回復にも、味気ないサプリメントよりも、ちゃんとした温かい食事って、ね。」
 かすみはにっこりと微笑んだ。
「ありがてえ。食事に勝る回復法はねえもんな。」
「まかないは任せてちょうだい。あかね一人よりは二人の方がいいでしょう?」
「まあ、そうですね。あかね一人じゃあもてあますことは目に見えてる…か。あいつ、料理はてんで駄目だし。いや、まかない業は全くと言ってもいいくらいだしな。」
 乱馬は、はははと笑って見せた。
 そうなのだ。あかねはどうやら「不器用」という部類の女性になるようで、フライパンを握れば奇妙奇天烈なものを並べてしまう。雑巾一つだってまともに持てないのではないかと思う不器用さ。この時代の掃除はそんな手動道具に頼ってはいなかったが、とにかく、彼女の不器用さは天下一品であった。
「そんな訳だから、乱馬君もしっかりと休養を取っておいてちょうだい。お客様が乗り込んでくるとゆっくりなんてことにもいかないでしょうからね。」
 かすみはにっこりと微笑んだ。この天道運送会社の長女は、料理、掃除、まかないが得意中の得意であった。運送会社の専属栄養士としての腕前もたいしたもので、彼女に任せると何事も安心であった。
 それだけに、あまり、乱馬やあかねたち、パイロットクルーとは行動を共にしないのであるが、今回は何故か彼女も一緒に乗り込んできたようだ。

(かすみさんが一緒となると、何かあるな。)
 この時点で乱馬は今度の任務の更なるきな臭さを覚えていた。わざわざかすみが乗り込んできたところを見ると、今受けている任務の他にも、何か特別な裏事情があるのだろう。
 それぞれのミッションはそれぞれ個別に細かく伝達される。乱馬とあかねは一心同体だから別のミッションが伝達されることは稀であったが、かすみとなると、全く違う情報とミッションが与えられても不思議ではない。エージェントといのはそういう世界であった。

「それから、この船の艦長はしばらく私ということで動くように、命令が出てるの。悪いけど、乱馬くん、そのつもりで居てくださいね。」
 かすみはゆっくと息を吐きながら言った。
「いいっすよ。別に、誰が艦長だろうと、やることには変わりはねーんだから。」
 あっさりと答えた。
 このダークホース号での任務の場合は、乱馬が責任者となり、全権限を握っている。それが通常であった。だから艦長は乱馬が遂行することが主なのだが、かすみに命令が出ているならば、それに従うまでだ。
「それから指令もなびきがその都度、直接、あなたに出すということらしいわ。いろいろ調べなきゃならないことがあるらしくって。いつもピアス型情報解析装置を持っていて頂戴って。」
「わかりました。心得ておきます。」
 
 追加の指令がいつ出るのか。
 それは今の時点では何とも言えない。なびきがその都度、直接出すというのだから、あかねに知られては不味いこともでもあるのかもしれない。
 あかねは安眠カプセルに眠ったまま、出発した。まだ、闇の傷が完全に癒えていない様子だった。
 宇宙空間を飛ぶことは、身体にも精神にもかなりの負担がかかる。本来なら、あと二三日は、休養を盗らせてやりたかったが、任務の都合上、そういうわけにもいかないのであろう。
 任務地へ着くまでに五日ほど宇宙空間を飛ぶ予定だ。その間、幾分か、この前のミッションの疲れは癒せるだろう。そう思った乱馬はあかねを安眠カプセルへと収監したまま、基地を飛び立ったのである。
「目覚めたら美味しいご飯を作っておくから、あなたも、休みなさいな。ね。」
 かすみは乱馬を促した。安に、あかねの傍に居てやれと言いたかったのだろう。
「あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。」
 乱馬は礼を述べるとかすみの前を辞した。
 何か腑に落ちない点も残されてはいたが、ここでつべこべ言っていても始まらない。あとは、与えられた任務地に赴き、指令を確実にこなしてゆくのみだ。

(どっちにしたって、一筋縄じゃいかない任務って訳か。それに任務の詳細はまだ秘密って訳か。ちぇっ!なびきの奴めっ!)

 乱馬は再び安眠カプセルにもぐりこみながら天井を見上げた。
 横に横たわるあかねは、身じろぎ一つせず、じっと深い眠りの淵へと漂っているようだった。また再び彼女へと腕を引き伸ばし、胸の中にすっぽりと収める。あかねの身体から安堵の波動が伝わってくるような気がした。彼が離れると、途端、無意識にあかねは緊張するのだろう。
(まだ闇から開放されきった訳じゃねーのか。ちっ!辛い任務になりそうだぜ。)
 睡眠中は自動的にサプリメントが体内へ、口へ宛がわれた吸入マスクを使って投入される。細かい空気に混入されて栄養が直接口から体内へと入り込むのだ。

(起きたらかすみさんの手料理か。ま、このくらいの楽しみもねーと、きな臭い任務なんてやってられねーからな。)

 かすみの料理の腕は天下一品だった。日本人には何故か哀愁を誘う、野菜の煮っ転がしだの、味噌汁だの、温かいご飯だの。五臓六腑に染み渡る旨さだった。
 下りて来た安眠誘導波に身を任せて乱馬は再び目を閉じた。


 どのくらい宇宙空間をゆっくりと飛んだだろうか。
 ダークホース号は一般輸送船を装っているので、あまり派手な飛行はしない。実はこのダークホース号は、地球連邦政府の最新鋭並の装備と機能を備えているのであるが、常日頃は億尾だに出さない。従って、今回の運行も、地味に一般運搬宇宙船と何ら変わらない動きをしていた。
 今回のダークホース号は見てくれはあくまでも普通の一般運搬船だった。大きさも中程度。全長が二百メートルほどの、どこにでもあるような中型運送船の形態をしている。コクピット分離型の宇宙船なので、船体の大きさも任務によって自在に変えられる。優れた船であった。
 船内に張り巡らされているパイプ一本に至るまで、神経配管が使われているのだが、それも良く見ないと見破られないくらいに実に巧みに隠蔽コーディングされている。
 乱馬はまだ知る由もなかったが、この宇宙船の設計から製造に至るまで、彼の実母、プロフェッサー、早乙女のどか博士が関わっていた。それもまた、身内の彼さえにも伏せられているトップシークレットだった。

 漆黒の空間を五日間漂ったところでアラームクロックが鳴り響いた。

「ふわあ、良く寝たぜ。あかね、起きろよ。」
 欠伸しながら傍らを覗き込む。
「乱馬、おはよう。」
 彼女は薄い毛布の縁を掴んで、顔の目の上だけを覗かせてはにかむように答え返した。その仕草が可愛らしくて、思わず、毛布を引き剥がす。それから、強引に桜色の口へ己の唇を押し付けようとした。
「もう、起き抜けにいきなり、何よう!」
 枕がポンっと彼のおさげにあたった。
「何って、朝の挨拶に決まってるだろ?」
 むんずと上からあかねの身体に飛び乗ると、抵抗できないように腕を鷲掴みにする。
「ちょっと、乱馬っ!朝っぱらからいきなり。」
 目を白黒させながらあかねが乱馬を見上げた。
「それだけ元気が回復してたら大丈夫だな。」
 乱馬に手を固定されて、動けずに目だけが彼に抵抗するような光を投げかける。彼女をずっと苛み続けた闇の去ったことを、乱馬は瞬時に悟っていた。
 彼に馬乗りされて、抵抗しようとする力すら削ぎ取れたあかね。元気に乱馬の腹下でジタバタしている。
「乱馬の意地悪っ!ばかあっ!」
「何とでも言えっ!」
 にんまりと笑い返すと、強引に宛がう唇。
「ん…。」
 熱い吐息が重なる口元から零れる。あかねの力がふわりと抜けた。乱馬の強引過ぎる朝の挨拶行為を受け入れる気持ちになったのだろう。ゆっくりと瞳を閉じた。そして甘露のような舌を絡み合わせた。互いの存在を確かめるように熱く重ねた唇。

『おはよう、目が覚めたかしら?』

 ブンッと空中スクリーンが立ち上がる音がした。画面の向こうからかすみがにっこりと話し掛けた。

「!!」
 反射的に二人は身体を離した。
「お、おはよう、お姉ちゃん。」
「おはよう、かすみさん。」
 二人は引き攣り笑いをスクリーン画面に向けた。心臓の音は鳴り止まないくらいに早く鼓動を波打っている。頬も心なしか赤い。

『あら、朝から組み手の修業中だったのかしら?』

「く、組み手、あは、まあ、そんなところです。」
 あかねはそう答えた乱馬の傍で真っ赤になって俯いてしまった。
『いい心がけね。任務を正確に履行する為には、いついかなる状態でも訓練は欠かせないものだからね。』
 かすみは天然ボケをかましながら続けた。このマイペースなあかねの姉は、よもや、二人が「恋人たちの朝の挨拶を交わしていた」とは思わなかったらしい。

『朝食の準備が整ってるわ。一緒に食べましょう。それから食べたら、早速だけど仕事の開始よ。スープが冷めちゃうからすぐにキッチンルームへ来てちょうだいね。』

 通信画面が切れると、やれやれと乱馬は溜息を吐いた。
 折角だったのに思わぬ邪魔が入った、そんなことを言いたげだ。穿ったものの見方をする、直ぐ上の姉、なびきとは違って、かすみは自然体でボケる。だが、本当は計算した上でのボケなのかもしれないという危惧観は残っている。意外と乱馬に牽制を投げ込んだのかもしれない。
 これは「任務」であり、私的な行動は慎むべきだと。
 いずれにしても、直ぐにキッチンへ来いというかすみの言葉を無視するわけにもいかなかった。
「後は任務が終わってからのお楽しみだな。」
 そう言って笑うと、先に立ってカプセルを抜け出した。
「たく。助平なんだから。」
 そう言いながらも少し残念そうなあかねであった。

 三人揃っての朝食が終わると、宇宙船は任務地へと着地態勢へと入る。
 隕石が当って飛行が続行できなくなった教育宇宙船グリーンメイズ号の救出へと向うのだ。

「しっかし、何で俺たちの民間船が救助活動しなきゃならねーんだ。」
 乱馬は周りの空間に注意を払いながら操縦桿を握った。
「そんなこと、知らないわよ。任務なんだから。文句言わないの。」
 レーダーを見ながらあかねが答えた。
「わざわざ俺たちが来なくちゃならない必然性ってーのがあるのかねっ!」
「さあね…。あるからあたしたちを指名したんでしょう。あ、前方に漂流物があるから注意してね。」
「おう…。左舷へ退避。うわあ、結構ざっくりとやられてやがる。あれなら、飛行は無理だよなあ、確かに。」
 目の前のモニターに、座礁した宇宙船が大きく映し出された。赤い救難ランプが点灯し、航行不能ながらも、まだ人の気配があることを知らせている。
「怪我人の状況はどうです?」
 乱馬は無線機を手にしたかすみに問いかけた。
「えっと、奇跡的に怪我人は居ないそうよ。たまたま、皆、宇宙船の後方部に集まってミーティングしていたところで、宇宙漂流物にぶつかったんですって。宇宙船も後方部分でシャッターが働いたから、中の空気も無事だったって訳ね。」
「ふうん…。都合のいい具合に、漂流物がぶつかったって訳か。」
 アゴをしごきながら乱馬は気に喰わないという表情を浮かべた。
「罰当たりなことは言わないの。怪我人が居ない方が良いに決まってるんだからっ!」
「そうね、怪我人が居なかったから、私たちの「運送会社」に直接連絡が入ったのかもよ。この辺りは荒涼とした宇宙空間が続いているだけだから、一番近い運送会社が私たちのところだったってことにもなるでしょう。」
 かすみはにこにこしながらあかねに答えた。
「何年か前にもあったよな。こんな事故。隕石がぶつかって、その後、沈没した学生船がよう…。」
 突然あかねがひっぱ叩く。
「たく、あんたは何が言いたいのようっ!!」
 思いっきり平手打ちが左頬へ入った。
「いってえーっ!!何しやがんでいっ!この凶暴女はっ!!」
 頬を押さえながら乱馬が怒鳴った。
「まあまあ、これから任務が待っているんだから。そんなに仲良く喧嘩しないで。お二人さん。」
 かすみがのほほんと仲裁に入る。
「ちぇっ!ナースシステムだけは乗っけてきたからな。おまえの怪力で怪我人や体調不良者が出たってある程度は平気だろうさ。」
「何ですってえっ!」
 鼻息荒くあかねが腕をたくし上げようとした。
「こらこら、言ってる先にこれなんだから。無人救命船をあっちに向けて発射するわよ。いいわね。」
 かすみが呆れ顔で睨みあった二人を見やった。それから、救命船のスイッチを押した。と、船がごごっと少しだけ揺れて、船底にある無人宇宙船が一台、救難信号を出している船に向って飛び出した。

「こちら天道運送会社所属のダークホース号。運行責任者の天道かすみです。ただいまそちらへ向って救命船を発射させました。そちらへ到着し次第、乗り換えて発進してください。一応、ナースシステムも搭載してありますから、簡単なチェックだけしてから、こちらの宇宙船へ帰還してください。」
 かすみが通信システムを立ち上げて、救難艇に向って送信した。

『こちら、グリーンメイズ号の運行責任者の藤原です。救出活動に感謝致します。現在こちらのモニターカメラはやられてしまって、使い物にならないので音声だけで失礼しています。乗務員、十三名、全員健康状態に問題はありません。そちらの船のシステムで健康チェックを受けてから、指示に従い、乗り換えます。以上、通信終わり。』

 鮮明な声が返って来た。

「聞き覚えのある声だわ。」
 あかねがナースシステムを立ち上げながら、ふっと言葉を過ぎらせた。
「あん?」
 聞き覚えがあるというあかねの言葉に、乱馬は訝しげに顔を向けた。
「お姉ちゃん、依頼者側からの乗組員データーをまわしてみて。」
「わかったわ。」
 あかねに促されてかすみがメインコンピューターからデーターをモニターへと映し出した。

「藤原晃 FUJIWARA KOU」
 データーはそう明記されていた。
「晃。藤原、晃。」
 あかねの顔が一瞬輝いたように見えた。
「あかね?」
 乱馬が訝しげに彼女をちらりと一瞥したとき、コンピューターから音声が聞こえた。

『ナースシステム、チェック、OK。宇宙病原体、怪我人、イズレモ、問題ハナシ。全員、健康状態ハ良好ト判断。』

「わかったわ、宇宙艇をダークホース号まで誘導してちょうだい。」
 かすみがシステムに命令を下した。
 それと当時に、船底がガガガと音をたてて、開いてゆく。
 宇宙艇がゆっくりとその中に導かれてきた。
「迎えに出ましょう。」
 かすみが自動操縦に切り替えると、乱馬とあかねも席を立った。

 宇宙艇から現れたのは、十二人の若い学生たちと、一人の青年だった。学生たちは年端の行かない十代前半の少年と少女たち。そろいの宇宙服に身を固め、整列して乱馬たちの出迎えを受けた。
「アリス、イージア、レイラ、ユンミョン、ミリンダ、リナ…。それから、モーリス、ビリー、マルス、フランクリン、ワン、そして、ナオム。」
 かすみは手にした名簿の顔写真と生徒たちを見比べながら確認作業をする。この時代、姓よりも名の方が呼び名として優先されていた。試験管で子供を作って育てる…そういう世の中になっていたから、家族が希薄になり、姓というものがあまり意味を成さなくなっていたのだ。
「火星の学園都市、ラグロスシティーの連邦ハイスクールの最終学年十二名の訓練生です。」
 ナオムと呼ばれた少年がしっかりと答えた。背が一番低いところを見ると、彼が一番年下かもしれない。この時代のハイスクールは、スキップ制度があったので、最短では十三歳で最終学年に抜擢されることがある。ダークグレイの瞳はアジアンであることを自ずと物語っているように見えた。
「えっと、あなたたちの教官は…。」
「宇宙艇のチェックをしています。」
 ナオムはしっかりと答えた。と、宇宙艇のドアの向こう側から一人の青年が颯爽と現れた。

「最終チェック、異常無し。皆、整列してるな。」
 上背のある眼鏡の青年だった。年の頃は三十前後といったところだろうか。短く借り上げた髪の毛は真っ黒で瞳の色も暗い灰色。目は切れ長で、眼鏡を着用していた。彼もまた、アジアンな顔立ちだ。
 かすみを認めると、彼はさっと敬礼した。
「お出迎えありがとうございます。グリーンメイズ号の指導責任者、ラグロス連邦ハイスクール教官の晃・藤原です。」
 透き通る声で名乗った。
「ご苦労さまです。私はこのダークホース号の運行責任者、天道運送会社のナビゲーター、かすみ・天道です。こちらがパイロットの乱馬・早乙女、そして、こちらが…。」
 かすみがあかねを紹介しようとしたときだった。

「晃っ!」

 あかねが間髪入れずに飛び出していた。生徒たちや乱馬やかすみの目の前で、あかねは彼へと身を投げ出して飛びついていった。
「え?」
 軽く言葉を発したとき、あかねが言った。
「やっぱり、晃っ!あたしよ、あかねよっ!!」

「あかねだって?」
 青年の唇が驚きの声をあげた。ビックリしたような目を差し向ける。
「本当だ。あかね、あかね・天道かっ!!」

「知り合いか?」
 乱馬は面白くないという目を差し向けた。ごく自然に、晃の手があかねをすっぽりと抱きとめていたからだ。
「そう。彼が晃だったの。」
 かすみがゆっくりと二人に向き直った。
「あかね。任務中よ。感動の再会はわかるけれど、生徒さんたちが困ってるわ。続きはプライベートタイムになさいね。」
 そうにっこりと微笑みながらあかねを促した。
 あかねはこくんと頷くとゆっくりと晃から手を離した。
「あかね…。」
 乱馬があかねに何か言おうとしたが、あかねはそれを制した。
「今は任務中だから、また、後で。」
 あかねは晃に微笑を向けると、自分の任務へと戻って行った。懐疑心を抱いた乱馬の視線を受けながら。




つづく




一之瀬的戯言
 藤原晃。フジワラ・コウ。
 オリジナルキャラです。どうやらあかねとは訳ありらしい。何があったかはこの作品のテーマですので略。
 で、キャラ設定のモデルは半官半民さんだったりする。(笑
 ただ、一之瀬は半さんご本人にはお会いしたことはないので、あくまで想像(妄想)で描きこんでいます。
 あ、勿論、妄想の中では、晃は眼鏡の美形キャラです!!(ムース仕様ではない。イメージはテニプリの手塚くんみたいな。もろ自分の趣味に入ってますな…。)

 で、最近、一之瀬は、夢の中で半さんにお会いいたしました(笑
 イメージどおり、男前で切れ長の目が素敵な方でした。(可愛いと夢で思ってしまった私って・・・何なんだ?)
 夢は神戸でRNRメンバーとお茶会しようとしていたのです。
 私はラムクラさんと夢見人君に促されて、半さんと三宮駅へRANAさんと桜月さんを迎えに雨の中相合傘で・・・という(笑
 その話をRANAさんと半さんにしたら苦笑いされてしまいました。なお、一之瀬はラムクラさんと夢君以外はお会いしたことがありません。
 旦那が居るくせに浮気じゃないかと言われそうですが、んなことはどうひっくり返っても、不可能だとここではっきりと申しておきます(謎

 なお、くどいようですが、この作品の乱馬とあかねは原作よりも年齢が高めで設定してあります。


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