お邪魔虫…・・一之瀬けいこ作

 修行から帰って来てホッと一息。
 親父と篭っていた山はまだ寒くて、心身ともに疲れ果てた。
 でも…。誰かが待っててくれる処があるってことは幸せなんだな。
 足取りは思いけれど、心は軽い。
 スチャラカな親父との放浪に明け暮れた俺にとっては夢のような世界。それは居候先の天道家。
 親父たちが勝手に押しつけやがった許婚だけれど…あいつの顔を見たらホッとする。そんな風に思うようになったのはいつのことだろう。
 自惚れかもしれないけれど、俺の顔を見て和むあかねの笑顔。それを見た瞬間、俺も心が和らぐ。顔を突き合わせば喧嘩ばかりしている俺達だけど、本当は…。
 
 今日だってそうだ。
 春先の悪天候に見舞われて、予定より帰りが二日ばかり遅れた。
 夕なずむ道を親父とリュックを背負って歩いていると、あかねの姿が天道家の門先にあった。俺達を見つけると慌てて隠れたけれど。
『別にあんたを待ってた訳じゃないわよ。』
 なんて、口を尖がらせてはいるものの、本当は心配してたんだろ?帰りが遅いから。
『そんなんじゃないっ!』
ってムキになるところも、少しだけ可愛い。
 で、決まって帰った日の食卓では、口喧嘩してしまう俺達。きっと帰宅が遅れた分、お互い心のフラストレーションが溜まるんだろうな。言葉の端くれを掴んでは、挑発を繰り返す天邪鬼。
 あかねと口喧嘩をしていると、ああ、帰って来たって実感が湧く。
 喧嘩をひとしきりやり終えた後、軽く道場で汗を流す。
 古びた道場は、そこここにぼろがきていて、みしみしと音をたてる。本当は疲れた身体を休めたいのだが、ここに入ると落ち着くんだ。
 そう、俺はやっぱり心底から「武道家」なんだろうな。
 ふと身体を止めたとき、あかねの気配を感じた。
 何かを言いたげにこっちを向いている。喧嘩の続きを吹っかけに来たわけじゃないらしい。俺を見詰めるその瞳の奥には『心配してたんだから…。』というような心の響が映し出されているような気がした。
 無言であかねの傍に寄ると、黙って汗拭き用のタオルを差し出す。それを受け取って、流れる玉の汗を拭い去る。
「何か言いたいことがあるんだったら、言えよ…。」
 俺は溜まらずに言葉の堰を切る。
「別にないわよ…。言いたいことなんて。」
 あかねは俯き加減で答える。
「嘘ばっかり…。」
 俺は見透かしたように言葉を繋ぐ。
「…してたんだから…。」
 あかねは聞こえないくらいの声で囁く。
「え?」
「だから…心配してたんだかから…。」
 ほらみろ。言いたいことがあるんじゃねえか。
 俺はそんな彼女が愛しくて、抱きしめてやりたくて、思い切って手を差し伸べた。
 でも、悲しい哉、不器用な俺。そこが限界。差し出しかけた手は途中でぎこちなく固まる。身体中の筋肉が硬直を引き起こしてくる。これじゃあ、まともに彼女に気の利いた台詞一つ聞かせてやれない。
『心配させてごめん。俺だっておまえの元へ早く帰りたかったんだ。』
言葉は空回りして宙を浮く。
 それでも、勇気を降り絞り、俺はあかねの肩にそっと手を置いた。彼女の髪がふわりと置いた手に触れる。
 夢中で抱き寄せようと手を伸ばしたら、轟音と共に、がったたたっと音がした。
 はっと気が付くと、俺は飛び込んできた黒い物体に、思い切り顔を引っかかれた。良牙、もといP助だ。
「くぉらっ!てて…。いてえじゃねえかーっ!」
 俺がひるむと、P助はあかねの胸に飛び込んだ。
「あらら。Pちゃん。あなたも帰ってきたのね。」
 あかねはくすっと笑いながらP助を抱きとめた。
(ああっ!良牙っ!そんなにあかねに密着するなっ!)
 そう、いい場面に差し掛かると、必ず邪魔が入るんだ。これが俺達のパターン。あと少しで、あかねの頼りなげな肩を抱いて、俺の胸にすっぽりと包みこんでやれたのに。
「ちぇっ!いい気なもんだぜ…。P助。」
 俺が呟くと
「あー。乱馬、Pちゃんにヤキモチ妬いてるんだ。」
 と嬉しそうに笑うあかね。
「そんなんじゃあねえやっ!」
 俺は差し出した手を引っ込めて腕を組んだ。

 いつか、きっと。
 そう、いつの日か、俺はちゃんとおまえをこの腕の中にしっかりと抱きしめてやるからな。そのときは誰にも邪魔させねえ。
 P助はそんな俺の心を見透かしたかのように、舌をちょこっと出して嘲笑いやがった。俺が下手に出てればいい気になりやがって。この豚野郎は…。あかねに貴様の正体を明かしてやろうか…。
「ほらほら、乱馬。そんな怖い顔しなでよね。Pちゃんが怖がるでしょ?」
 あかねは幸せそうに笑った。天使のような微笑で。


 完


投稿者のつぶやき
よっちゃんに何か小説を描けと言われて描きました。
「乱馬×あかね」でなおかつPちゃんが出るのとか…わがままな娘ですね…。
ちょっと意地悪して、漢字を使いまくりました〜小学生に読めるのかな?
初代TOPイラストを描いているときに思いついたネタです。
私の実態を知る、よっちゃんの関係者が入ってきたらなんだか恥ずかしいので
ついつい隠してしまいました。
しっかし、我ながら、なんというワンパターンな隠し方だ(笑

もう二度と、ここのページには投稿しねえぞ〜(乱馬くん口調

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