夏休みの終わりに・・
                                   一之瀬 けいこ 作
「あーっ!かったるいぜっ!」
 おれは手を思い切り上へとのばした。
「もう、飽きちゃったの?、まだこんなに残っているわよ。」
 あかねはとなりでおれをのぞきこみながら笑った。
「ちぇっ!なんで宿題なんかあるんだよ。夏くらい休ましてくれてもよさそうじゃねえか。」
 おれはうらめしそうに書きかけのノートを見た。
「毎日コツコツやらないからよ。ずっと後回しにしてるから苦労するのよ。」
 あかねはすずしい顔をしておれを見つめた。ひざの上にはP助の野郎がザマアミロと言わんばかりにおれを見上げる。
「写させてくれてもいいじゃんか・・・。」
 おれはぼそぼそ歯切れ悪くつぶやいた。
「ダーメッ!乱馬のためにならないわよ。そんなの。だから私がこうやってつきあってあげてるんだから。さ、さっさとかからないと夏休み終わっちゃうわよ。」
 そう言っておれにハッパをかけた。

 たく・・・。こいつの強情(ごうじょう)さはこういうところにも発揮(はっき)される。ぜったいノートの丸写しなどさせてくれないのだ。

「ちぇっ!」
 おれは舌打ちすると、また机に向かって問題と取り組む。

 数十分が過ぎて、今度こそおれはさじを投げたように鉛筆を投げ出した。
「あーっ!もう、わかんねえっ!」
 頭をくしゃくしゃっとかきあげる。
「辛抱(しんぼう)ないわね・・・。武道家の名前が泣くわよ。だから、ここはこうなって、ルートを解いて・・・。」
 横から根気良くおれに説明し続けるあかね。
 ひざの上ではP助が気持ちよさそうに寝てやがる。
「子ブタはいいよな・・・。おめえは勉強なんかしなくて、そうやってシッポふってりゃいいんだから。」
 おれははき捨てるように言った。
「もう・・・。Pちゃんに当たることないでしょ?ほら、ウダウダ言わないのっ!さっさと考えなさいよっ!」
 あかねは優等生だ。とにかく「真面目(まじめ)」だ。「生真面目(きまじめ)」なのだ。まあ、女っていうのはだいたいがこんな感じなのかもしれねえが。
「へいへい・・・。おうせのままに。」
 おれはあきらめてまた、鉛筆を動かし始める。
「そうそう・・。そこはXの解を引用して・・・。」

 数学、英語とワークは続く。なんだってこんなものが世の中に存在しているのだろう。英語なんて話せなくても日本じゃあ不自由しねえし・・・。むずかしい問題を解けなくても武道やってゆくのに何にも支障(ししょう)なんてねえのに。
 つくづくおれは、勉学とは無縁だなんて思ってしまう。
 『文武両道(ぶんぶりょうどう)』なんておれから言わせればうそっぱちだ。
 実際あかねの辛抱強さにはおれもほとほと感心した。自分の宿題はとっくに終わってる。
「なあ、なんでそんなに一生懸命になれるんだよ?」
 おれはふとあかねに問いかけた。
「一生懸命って?」
「だって・・・。自分のはもう終わっちまってるんだろ?なのに・・・わざわざおれに付き合って・・・。」
「しょうがないじゃない。乱馬ほっておいたらやらないでしょ?」
「まあ、そりゃ、そうだろうけど・・・。」
「留年なんてされたくないもんね・・・。」
 ぼそぼそと歯切れ悪く響く声。
「なんだそりゃ・・・。」
「あのね・・・高校は下手すると留年させられるんだからね・・・。わかってる?」
「お、おう・・・。」
「乱馬が下の学年にいくなんて・・・そんなのいやじゃない・・・。」
「なんで?おれは別にかまわねえぞ。学年下の許婚っていやか?」
「いやだっ!」
 あかねはきっぱりと言い切った。
「だって・・・。始終いっしょにいれなくなっちゃうじゃない・・・。」
 ほとんど聞こえない声で答えてる。
 こういうとこ、ちょっとかわいい。そう思う。
「そうだな・・・。校長はあれだし。何かあったらすぐにでも留年のハンコつきそうだもんなっ、あいつは。わかったよ・・・。」
 はーっと長いため息をついて、おれはまた問題と取り組みはじめた。
 あかねのやつ、少しはおれのこと気にかけてくれてるんだな・・・。

 カリカリ、ゴリゴリと鉛筆が紙の上をすべる。
 あきらめたおれは、早く仕上げようと少し真剣になってみた。

 夕ぐれがせまるころ、ふと目を上げるとあかねは頬杖(ほおづえ)をついて舟をこぎ始めていた。
 つかれたのだろうか。貴重な夏休みの残り時間をおれのために費やしてくれてるんだからな。
 夕焼けが彼女の頬を紅く染める。おれはしばし手を止めて彼女の寝顔に見入った。
 強情で、真っ直ぐで、けがれを知らなくて・・・。
 ふっと入ってきた風にカーテンがゆれた。
「THANK YOU あかね・・・。」
 そっと目を閉じて眠る柔らかい頬へ寄せる唇。

 と、黒い塊(かたまり)がおれの目の前に飛んできてはじけた。

「いってーっ!何しやがんだよっ!」
 にらみつけるP助と目が合った。
 忘れてた。ずっとこの部屋にこいつがいたんだっけ・・・。

 ぶひぶひ、ぶいぶいっ!!(乱馬、てめえっ!何しやがるっ!!)

 歯をむいておれに突っかかろうと身構える。
「ん?なあに?Pちゃん・・・。」
 騒ぎで目が開いたのだろう。あかねが目をこすりながらP助を見た。

 あーっ!夏休みの終わりなんて嫌いだ。
 宿題なんかくそ食らえだっ!!

 おれは心ではき出しながら答えた。
「何でもねえよ・・・。」

 夕日がはるか向こうで笑いながら沈んでゆく。
「さあ。もうひとがんばりよ。」
 あかねはきらめくような笑顔をおれにかえすと、机の電気を点(つ)けた。
 明日から新学期。



娘のよっちゃんのリクエスト・・・
夏休みの終わりの風景。宿題、がんばろう・・・(彼女はもう終わってますが・・・)
小学生のWEBなので、難しい漢字と表記はさけました。
最近、濃いネタばかり仕込んでいたので、たまにはこういう軽い乱×あもいいかな(笑

あ、今、時間ないからイメージ画書かないよ(先に予防線を張る母親・・・

一之瀬けいこ


お母さんに書いてもらいました。
一時間くらいでさっさと作文しながらパソコンに打ち込んでくれたのですごいと思いました。

よっちゃん